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08 超Buff料理、作ります!

「ウサギ! そのおにぎり食べるの、ちょっと待ってて!」



 ボクはウサギから差し出してきたおにぎりを、一旦断ってから立ち上がる。

 ウサギは素直に頷くと、女の子座りしている膝の上で、おにぎりを再び包んだ。


 その横でボクは、錬金術の抽出陣を描き、床から鉄をいくつか抽出。

 変形陣を使って、次々と形を変形させる。


 鉄の包丁、鉄のまな板、鉄のフライパン、鉄のどんぶり、鉄の箸……!


 最初は、待てをする犬みたいに大人しくしていたウサギも、できあがっていく鉄器たちに不安を覚えたのか……『何をするの?』とスケッチブックで尋ねてきた。



「へへ……『料理』をするんだ!」



 答えながら、ボクはできたてのまな板の上に、鶏肉を置く。


 前の階でレイジングチキンを倒して、ゲットした鶏モモ肉。

 それを包丁で食べやすいサイズに切り分けていく。


 鶏肉の下ごしらえを始めた瞬間、ウサギは青い顔をしてボクの手にすがりついてきた。



『鶏肉を食べるの!? ダメだよっ! 毒が入ってるから死んじゃうよ!?』



 毒と言われても、ボクは動じない。



「肉には猛毒が含まれてる……こっちの世界じゃ当たり前のように言われてるけど、それは単なる迷信なんだ。鶏肉は『毒抜き』をしなくても食べられるんだよ」



 ……この『第108世界』では、ニワトリやブタやウシ、そして魚がいて、畜産や漁業が普通に営まれている。


 だが、それら動物からとれる肉や魚には猛毒が含まれていて、食べると即死すると信じられているんだ。


 食べられるようにするためには『太陽の塔』にあるクエストカウンターで『奉納』

しなくちゃならない。

 『奉納』された肉や魚はエレベーターで運ばれ、女神様の元に行き、『毒抜き』をされたあと戻ってくるらしい。


 しかし……預けた肉と同じモノが戻ってくるわけじゃない。明らかに別モノとなって返ってくるんだ。


 何の肉かもわからず、いつの肉かもわからないような干からびたモノ。

 しかも食べ残しみたいになった、見るも無残なわずかなカケラが……エレベーターによって、うやうやしく降ろされてくる。


 こっちの世界の人間たちは、その残飯同然のモノを有難がって『肉』や『魚』と呼ぶ。


 他の世界では犬も食わないようなモノなのに、わずかな量しかないので貴重品扱い。

 王様とか貴族でもたまにしか食べることができず、庶民は味を想像するしかないほどに手の届かないモノとなっているんだ。


 こっちの世界で『毒抜き』をせずに食べられるものといえば、穀物か、一部の野菜か果物しかない。

 野菜や果物も、松茸やメロンみたいな他の世界では高級なものは、軒並み猛毒入りとされているんだ。


 それは「あまりにも理不尽な迷信」としか言いようがない。

 でも……人々はそれを盲目的に信じている。


 ボクは、何者かの意図を感じずにはいられなかった。


 「毒なんて入ってない!」って大人たちの前で訴えたこともある。

 でも……ボクみたいな子供の言うことは、誰も信じちゃくれなかった。


 ボクは毒が入ってないことを証明してみせるために、ある日、果物農園に忍び込んだ。

 でも、猛毒が入っている果物は、厳重に管理しなきゃいけない法律があって、果物にたどり着く前にボクは捕まっちゃったんだ。


 衛兵に取りさえられながら、ボクは叫んだ。



「おかしいよっ! 自分たちが食べられないものを、がんばって育てて、厳重に守って……そのうえ屠殺までやらされてるんだよっ!? そうやって苦労して作ったものを神様に捧げても、その見返りにあるのが爪の先ほどの腐った肉なんて……絶対におかしいよっ!」



 すると……ボクを取り押さえていた衛兵のひとりが言ったんだ。



「……お前は何もわかっちゃいない。猛毒の入った肉や魚、そして野菜や果物は毒抜きのためだけに女神様に奉納しているわけじゃないんだ。抽出された毒には、神のみが扱える多大なるエネルギーが含まれている。それは太陽の光や雨を降らせる原動力となって、我々に恵みとなって返ってくるんだ」



「そ……そんなの……ウソだっ! ボクらに汚れ仕事だけやらせて、おいしいものだけもっていこうとするヤツらが流したデマだっ! 奉納をやめれば、すぐにわかるよっ!」



「奉納をしなかった地域には、太陽が照らされず、雨が降らなくなるといわれている。たとえデマだったとしても、そんなリスクを背負って試してみる農家はないだろうな。地域全体から村八分にされ、二度と農業ができなくなる」



「じゃ、じゃあ……ボクが食べてみる! 猛毒の果物を食べても死なないって、ボクが証明できれば……!」



「いい加減にしろっ! お前みたいなのがいるから、農家は作物を厳重に管理しなきゃならん法律があるんだ! そんなに毒を食って死にたきゃ、冒険者にでもなって……管理責任のない野生のブタやウシの肉を食うんだな! さあっ、おしゃべりは終わりだ! こっちに来いっ!」



「くっ……! い……いつか証明してみせる! 肉や魚をみんなの前で食べて……毒なんて入ってないってことを……!」



 ボクの、冒険者になりたいという思いは……その日を堺にますます強くなった。

 そしてボクと、まわりのみんなの溝も……ますます深くなっていったんだ。


 ……なんて昔のことを思い出しているうちに、鶏肉を切り終えた。

 ボクはハラハラしているウサギを横目に、フライパンを焚き火にかけて温める。


 熱したフライパンに鶏肉を入れると、じゅうじゅうという音と、香ばしい香りがたちこめた。

 まわりにいるクラスメイトたちは、何事かとボクらのほうに注目している。



「おい……アンノウンのヤツ、なにやってんだ?」



「切った鶏肉を、火にかけてるみたいだぞ?」



「えっ、マジ!? もしかして、毒抜きしてない鶏肉を食べるつもり!?」



「やばくない!? アンノウン、とうとうマジで頭おかしくなったんじゃね!?」



「食べるフリをするだけだろ。ああやってみんなの気を引こうとしてんだよ」



「あ、そっちの方か! アンノウンにそんな度胸、あるわけねぇよな!」



「でも……鶏肉を焼くのって、初めて見たけど……なんだかおいし……いや、キモいよね……」



「ごくっ……アレって、どんな味がするんだろ……?」



 周囲から漏れ聞こえる、ひそひそ話。

 その中に味の言及があったので、ボクは大事なことを思い出した。


 そういえば……味つけしてなかった……!


 ボクはフライパンを振りながら、片手で抽出陣を描く。

 地面からサラサラと白い粒が浮いてきて、あっというまに小さな山になった。



『これ、なあに?』



 その山を、おそるおそる覗き込んでいるウサギ。



「塩だよ。床から塩分を抽出したんだ。キレイな塩だから、食べても大丈夫そうだね」



 ボクは盛り塩のようになっている所からひとつまみ拝借し、パラパラと鶏肉にふりかけた。


 鶏肉にいい焼き色がついたところで、いったんフライパンを離す。


 どんぶりに鶏卵を割り入れ、箸でかきまぜる。


 溶き卵ができたところで、ボクはウサギに手伝いを頼んだ。



「ウサギ、もう少しでできるから、どんぶりにおにぎりを移しておいてくれるかい? 箸でおにぎりをほぐして、2人分のどんぶりごはんを作っておいてほしいんだ」



『ほ、本当に、食べるの……?』



 ウサギはアワワワワと震えている。



「大丈夫だから、言われたとおりにして。まずボクが食べて、毒がないってことを証明してみせるから」



 ウサギはまだオロオロしていたので、「お願い!」と強めに言う。

 するとおかっぱの髪をぶわっと広げるようにびっくりして、ごはんの準備をしてくれた。


 ボクは料理の仕上げに入る。

 フライパンの中の鶏肉に、溶き卵かけ、箸でかきまぜた。


 いい具合に卵がとろりとしてきたところで、ふたつのどんぶりに盛り付ける。



「……できたっ! 特製『鶏肉だけ塩親子丼』……!」



 たちのぼる、ほっかほかの湯気。

 その向こうには、黄金郷のような親子丼がキラキラと輝いている。


 香ばしそうな焼き色のついた、ぱりっとした鶏皮……!

 ジューシーさを想像させる、ぷりっとした鶏肉……!

 まばゆいばかりに輝く、とろとろの卵……!


 これにはウサギも「うわぁ……!」と感嘆の溜息を漏らす。

 さっきまで胃痛のような表情をしていたのに、今や金銀財宝の詰まった宝箱を開けたかのようだ。


 ふたりして見つめていると、親子丼のステータスウインドウが開いた。


 【鶏肉だけ塩親子丼】

  疲労回復100%


  ★Buff(継続時間4時間)

    HP、MP自動回復1秒につき2%

    戦闘能力+10

    補助能力+10

    生産能力+10


 疲労回復100%なんて、疲れているウサギにピッタリじゃないか……!

 しかもBuff(バフ)までついてるなんて……!


 『Buff(バフ)』というのはステータスを一時的にあげてくれる効果のことだ。

 効果がどのくらい続くかというのは料理によってまちまちなんだけど、普通は長くても1時間がいいところで、4時間というのは驚異的な長さだ。


 そして……ボクのステータスウインドウが反応する。

 初めての料理をしたおかげで、『見習い』の上級スキルが増えていたんだ……!

■□■□パラメーター□■□■(現在の階数:2階)

挿絵(By みてみん)


□■□■スキルツリー■□■□


今回は割り振ったポイントはありません。

未使用ポイントはありません。


括弧内の数値は、すでに割り振っているポイントです。


●料理

 見習い

  (1) LV1  … 下ごしらえ

  (1) LV2  … 焼く・炒める

  (1) LV3  … 茹でる・煮る

 コック

  (0) LV1  … 盛り付け

  (0) LV2  … 揚げる・漬ける

  (0) LV3  … 燻す・焙煎


●潜在能力

 必殺技

  (1) LV1  … 波動弾

  (0) LV2  … 烈蹴斬

  (0) LV3  … 龍昇撃


●錬金術

 風錬

  (1) LV1  … 抽出

  (0) LV2  … 風薬

  (0) LV3  … 旋風

 火錬

  (1) LV1  … 変形

  (0) LV2  … 火薬

  (0) LV3  … 噴火

 地錬

  (0) LV1  … 隆起

  (0) LV2  … 地薬

  (0) LV3  … 地震

 水錬

  (0) LV1  … 陥没

  (0) LV2  … 水薬

  (0) LV3  … 奔流


●サイキック

 ニュートラル

  (1) LV1  … テレキネシス

  (0) LV2  … クロスレイ

  (0) LV3  … テレパシー


●彩魔法

 灰

  (0) LV1  … フリントストーン

  (0) LV2  … プラシーボ

  (0) LV3  … ウイッシュ

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