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78 今こそ料理

関連小説の紹介 ※本作の最後に、小説へのリンクがあります。


★『…マジで消すよ? 俺の愧術がチートすぎて、クラスのヤツらを一方的に縛ったり消したりします!』


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女の子を緊縛して奴隷にする、嫌なヤツを消す、お金を出す…これ全て、異世界最強の、愧術…!



★『チートゴーレムに引きこもった俺は、急に美少女たちから懐かれはじめました。キスしながら一緒に風呂やベッドに入るって聞かないんです!』


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引きこもれば引きこもるほど、チヤホヤされる…チートゴーレムのお話!

 ボクらは4階の大広間に併設されたキャンプスペースにいた。


 お昼ゴハンを食べようと、ここに戻ってきたんだ。


 12時の鐘が鳴り終えたばかりなので、この階にいる冒険者たちのほとんどが集まっている。

 食堂スペースは満席で、あぶれた大人たちがこのキャンプスペースでゴハンを食べていた。


 ゴハンといっても、干からびたようなパンに切ってもいない丸ごと野菜を挟んだものだったり、ただの塩おにぎりだったりする。


 せめて、あったかいスープくらい作ればいいのに……と思うんだけど、みんな料理はできないらしい。


 少し離れたところにいるゴンギルドのメンバーも、ボソボソとパンをかじっていた。

 けっきょく白魔法はかけてあげられなかったので、みんな包帯まみれで痛々しい。


 ゴボルトの巣での戦いが終わったあと、いきなりキャルルから告白を受けた。

 初めての女の子からの告白に、ボクはカチコチになっていると……マニーが割って入ってきたんだ。


 キャルルとマニーが言い争いになって、あとはいつもの通り。


 ゴンギルドのメンバーはあきれて立ち去ったんだけど、去り際にゴンがボクのところにやってきた。

 ゴンはボクの襟首を掴んで、高く持ち上げてこう言ったんだ。


 「余計なこと、してんじゃねぇよ……! 次に邪魔したら、ブッ殺すかんな……!」と。


 そして、今に至る。


 ……ボクは別に、邪魔するつもりはなかったんだけどなぁ……。


 あのままじゃどう見ても全滅しそうだったから、助けてあげただけなのに……。

 それにコボルトのドロップアイテムも、ぜんぶゴンたちにあげたのに……。


 キャルルの言うとおり、みんなは感謝してくれるどころか、逆に恨んでくる始末だった。

 クラスメイトの女子はそうでもなかったんだけど、男子からの視線がいつも以上に厳しかった気がする。


 ……なんでだろう……?


 でも、ま、いっか。

 キャルルがわかってくれたように、いつかみんなもわかってくれる日が来るよね。


 ボクは気を取り直して、お昼ゴハンの準備をはじめる。


 早くしないと、マニーとキャルルの仲がますます険悪になっちゃいそうだったから。


 ふたりは掴み合いのケンカをしたあと、とうとう口もきかなくなってしまった。

 今も、お互いツーンと背中を向けている。


 ウサギはふたりを仲直りさせようと、スケッチブックを持って行ったり来たりしているけど、効果は芳しくないようだ。


 だったら……おいしいものだ……!

 おいしいものを食べれば、また仲良くなれるはず……!


 いまの手持ちの材料で、そんなものが作れるかというと……そう、作れる……!

 こんな今だからこそ、ピッタリの料理があるんだ……!


 ボクはまず、ふたつの鉄鍋を火にかけた。

 片方は油たっぷりで、片方は油を少しだけ入れ、温まるまで待つ。


 その間に、アリマ……聖堂主様が持たせてくれたオニギリをどんぶりに移し、ほぐす。

 さらに露店で買ったタマネギを油少しのほうの鍋で炒め、タレを絡めたあと煮る。


 さらにさらに、『レイジングボア』のドロップアイテムである豚肉を切り分け、小麦粉をまぶす。

 それを『レイジングチキン』の卵を使った溶き卵に漬けておく。


 ひとまずは、これでよし……!


 でも、まだまだやることがいっぱいだ。忙しい忙しい。

 なんてことを思いながら、露店で買ったパンを挽いて粉状にしていると……視線に気づいた。


 マニー、キャルル……そして間にいるウサギまでもが、ボクをじーっと見つめていたんだ。



「……パンを粉々にして、一体なにをやっているんだ?」



「パンだったら、『キャルルルン』から持ってきたヤツを食べればいいのに」



 マニーもキャルルも、同じ疑問を抱いているようだ。

 しかし視線が合うなり、フン! とそっぽを向く。


 ボクは苦笑しながら言った。



「これはね、『パン粉』を作ってるんだよ。キャルルルンのパンはしっとりしてるから、パン粉にするには向かないんだ。こういうパサパサのパンのほうが、いいパン粉ができるんだよ」



 『ぱんこ……?』とウサギ。

 その文字の隣には、白黒のクマみたいな動物が描かれている。それはパンダだ。



「見てて、こうやって使うんだよ」



 ボクは溶き卵に漬けた豚肉に、できたてのパン粉をまとわせると、熱した油の鍋にそっと入れた。



 ……ジュワワワワワワワワ……!



 激しい音とともに、泡立つ豚肉。

 揚物特有の香ばしい香りが、あたりに広がった。



「おおお……!」



 吸い寄せられるように、鍋に近づいてくる仲間たち。


 こんがりとキツネ色にあがったところで、取り出す。

 まな板の上に置いて、包丁を入れると、



 ……サクッ!



 なんともクリスピーな音とともに、ふたつに分かれた。

 ぱっくり割れたトンカツから、ふわりとした湯気があがる。


 うっすらとした、ピンク色の断面……!

 よぉし、バッチリだ……! これならあとは予熱だけで、おいしく仕上がるぞ……!


 ボクはうん、と頷いて、さらに包丁を入れる。



 ……サク! サク! サク! サク!



 食べやすいサイズにトンカツを切っていると、違和感に気づいた。


 やけにハッキリとサクサク音が聞こえるなぁ、なんて思ってたんだけど……さっきまでのまわりの喧騒が、ウソのようになくなっていたんだ。


 ふと顔をあげて、ギョッとなる。


 キャンプスペースにいたすべての人たちが、ボクのことを凝視していたんだ……!

 それどころじゃない。隣にあるレストランスペースの客まで、食べる手を止めてじっとこっちを見ている……!


 みんな、口の端からヨダレのようなスジを垂らして……!


 ボクはなんだか気まずくなって、サッと顔を伏せた。

 さっさと仕上げちゃおう。


 切り分けたトンカツを、タマネギを煮ている鍋に入れ、そこに溶き卵をまわし入れる。

 卵が半熟ちょいくらいになったところで、準備しておいたどんぶりに移した。


 ……よしっ、できた……!

 これぞ、『カツ丼』……!


 ほこほこした湯気の中にある、黄金の卵に包まれたカツ。

 衣は上のほうはサクサクで、下のほうはタレが染みこんでいる。


 何もかもが、バッチリ……!

 完璧なできあがりだ……!


 異世界ではこの『カツ丼』を縁起を担ぐときによく食べるんだ。

 『カツ』だけに、『勝つ』から……!


 だったらトンカツでもいいような気もするんだけど、なぜか『カツ丼』のほうが一般的なんだよね。

 まあカツ丼のほうが卵もタマネギも入ってるから、栄養価も高いんだ……!



 【カツ丼】

  HP回復100%

  MP回復100%

  疲労回復100%


  ★Buff(継続時間4時間)

    運200%

    アイテムドロップ率200%

    リラックス効果レベル5



 運とアイテムドロップ率、2倍……!?

 これは、すごい……! 今のボクらにピッタリの効果じゃないか……!



「よぉーし、みんな、食べよう!」



 口をポカンと開けたままの仲間たちに、カツ丼を手渡す。

 まるで王様から直々に王冠を手渡されたかのように、信じられない様子だ。



「す……すごい……キラキラしている……! 何……これ……! やばいやばい、マジやばいんですけど! チョーやばいんですけどぉーっ! こんなやばい食べ物、初めて見たぁ……!」



 卵の輝きに負けないくらい、瞳をキラキラさせているキャルル。



「ほ、本当にこれを、食べてもいいのか……?」



 豪華な料理を食べ慣れているはずのマニー。

 いつもはどんな食べ物を前にしても、鼻で笑うようだったのに、今は恐れをなしている。



『食べるのが、もったいない……! でも食べないと、もったいない……!』



 大事に大事に、ぎゅうっとどんぶりを抱きしめるウサギ。


 ボクはというと、もう、カツ丼のいい匂いにお腹が鳴りっぱなし。

 我慢の限界なんて、とっくの昔に振り切れていた。



「……いただきまーすっ!」



 仲間の感激も、まわりの注目も、すべてを忘れてどんぶりに箸を突っ込んでいたんだ……!

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