77 コボルトの巣
新連載、はじめました!
『チートゴーレムに引きこもった俺は、急に美少女たちから懐かれはじめました。キスしながら一緒に風呂やベッドに入るって聞かないんです!』
本作と同じ、スキルチートものです!
https://ncode.syosetu.com/n0930eq/
※本作のあとがき(スキル一覧)の下に、小説へのリンクがあります。
全方位から浴びせられる数え切れないほどの視線に、ボクはようやく気づいた。
『ゴンギルド』に所属するクラスメイトたちが、全員ボクを見つめていたんだ。
戦いの真っ最中だというのに、武器を降ろして。
完全に無防備になっている彼らに、新手のコボルトが襲いかかろうとする。
それをボクは棒手裏剣で串刺しにし、『ダークチョーカー』で首をへし折って阻止した。
彼らが見とれてしまうのも、無理はない……!
だってボクが全部やっつけちゃってるから……!
もはやクラスメイトたちは、遠巻きに見ている大人たちと変わらない。
距離が違うというだけで、どちらも観客同然だった。
「……な、なんだ……アイツ……!」
「ま、回りながら、戦ってる……!」
「な、なんであんなんで、モンスターが倒せるんだ……!?」
「み、見て! また桜が……!」
「つむじ風みたいに、アンノウンのまわりで、舞い上がってる……!」
「き、キレイ……!」
大人たちも、酸素が足りない金魚みたいに口をパクパクさせている。
ボクはまだ余裕があったので『ドルフィン』のスキルで聞き耳を立ててみた。
「……す、すげ……!」
「な、なにが、どうなってやがんだ……!?」
「なんなんだあの技……! どれも、見たことがねぇ技ばっかりだ……!」
「切り裂く回し蹴りに、真っ二つにする刃物、それになんか棒みたいなのを投げてる……!」
「あの白い剣はなんだ!? なんの石でできてるんだ!? あんなに斬れる石が、この世にあんのかよ……!?」
「バカ、剣よりも、蹴りだろ! 蹴りで斬れるなんて、デタラメ過ぎねぇか!?」
「いや、それよりもあの棒みたいなヤツだ! コボルトを一撃で殺すなんざ、どんな棒だよ!?」
「それに、適当にバラ撒いているのに百発百中だなんて……! 俺なんて、石ひとつ当てるのにどれだけ苦労してるか……!」
「そう、そこだ! 軽くやってるようにしか見えねぇのに、モンスターをどんどんブッ殺してる……!」
「3階のヤツらが言ってたことは、ウソじゃなかった……! マジだったんだ……!
「あ、アレが……アンノウン……! 3階のヤツらがバケモノ呼ばわりしたガキ……!」
「やべぇ、やべえよ……! 『コボルトの巣』でひとりで戦えるヤツなんて、いるわけがねぇ……!」
「ああ、たしかギルドの決まりでも、『コボルトの巣』は60人以上揃えてからじゃないと、手出しできねぇんだ……!」
「なにっ!? 俺たち60人と、あのガキが同じくらいの強さだってのかよ!?」
「『コボルトの巣』は、壁にある巣穴からどんどんコボルトが出て来るんだ。いくつかある巣穴を塞ぐのに30人、出てきたコボルトを始末するのに30人……! あわせて60人いないと、やられちまうんだ……!」
……そうなのか、とボクは思った。
回りながら部屋の隅に視線を巡らせてみると、たしかに小さな穴がいくつか開いている。
コボルトが出てくるにしては小さい穴なんだけど、ヤツらは身体をよじってムリムリと穴から出てきている。
アレを塞げばいいのか……!
ボクは烈蹴斬で飛び上がったついでに、錬金術の隆起陣を描く。
回りながら陣を描くのは初めてだったけど、なんとかできた。
穴に向かって印を投げると、床がわずかに盛り上がって穴を塞いだ。
まず、ひとつ……!
ボクは押し寄せるコボルトたちを蹴散らしながら、隆起陣で次々と穴を塞いでいった。
大人たちのざわめきが、ひときわ大きくなる。
「お、おい、見ろよ……!」
「コボルトの巣穴が、どんどん塞がっていってるぞ……!?」
「なんでだ……!? いったい、なにが起こってるんだ……!?」
「あっ! 思い出した! 3階のヤツらが言ってた……! あのガキ……アンノウンは、床石を盛り上げたり、へこませたりすることができるって……!」
「な、なんだよそりゃ!? 地形を操るなんて、そんな神様みたいなことできるわけねぇだろ!」
「俺も3階のヤツらから聞いたときは、同じことを思ったよ! だけど見てみろよ! 現に穴がどんどん塞がっていってるじゃねぇーか!」
「いったい、どうやってんだ……? 俺たちの場合だと、大きな岩を持ってきて、ようやく塞げるってのに……!」
「コボルトの巣をやるとなったら、大変な作業だよなぁ!? あっ、またひとつ塞がった!」
「そうこう言ってるうちに……とうとう全部塞がっちまったぞ!? いったいどうなってんだよ!?」
「俺たちが一日がかりでやる作業を……! それをあのガキ、たったひとりで、ものの数分で……!?」
「こりゃ、ヤベェ……! ヤベえよ……! バケモンだ……! ホントにバケモンだ……!!」
……いつの間にかウサギとマニーとキャルルも参戦してくれたおかげで、コボルトの残党狩りはあっさりと終わった。
気がつくと、部屋の中は異様な雰囲気に包まれている。
呆然とする血まみれのクラスメイトと、床はコボルトのドロップアイテムで足の踏み場もない。
まわりはまわりで、いろんなギルドの大人たちが大勢集まっていたんだ。
いつになく注目されて、ボクはどうしていいのかわからずにいた。
でもケガしているクラスメイトをほっとくわけにはいかなかったので、キャルルに向かって言う。
「ねぇキャルル、白魔法でみんなを治してあげてくれない?」
しかしキャルルはダン! と足を踏みしめながら、そっぽを向いてしまった。
「ヤダ! ウチの白魔法はアンノウン専用だもん! ウサギっちやマニーならともかく、なんでこんなヤツらなんかに! アンノウンをいじめてたコイツらを助けるなんて、ウチはぜってーヤダ!」
それにすかさず異を唱えたのは、キャルルの取り巻きだったクラスの女の子たちだった。
「……ねぇ、キャルル、それヒドくね? ズッ友だったウチらまで、コイツら呼ばわり?」
「白魔法がなんなのか知んないけど、どうしちゃったのさ? アンノウンにそんなに入れ込んじゃって……」
「だいたいキャルル、アンタがいちばんアンノウンのこといじめてたじゃん」
「そーそー。いつもキモいキモい言ってて……ウチの寿命を一年短くしてもいいから、死んでほしいって」
「だよねぇ、視界に入れるだけで目が腐るし、同じ空気を吸うだけでも肺が腐るって言ってたじゃん」
……キャルルと同じクラスだったとき、たしかにボクはそんなことを言われた気がする。
しかしキャルルは狂ったように髪を振り乱し、苦悩するようにバリバリと頭をかきむしったかと思うと、
「う……うるっせぇーよっ! 昔はたしかにウザがってたけど、今は違うんだ! 今は好き……大好きっ! 好きで好きで好きで……大好きで大好きでたまらないんだ……! ウチはもう、アンノウンなしじゃ生きてけないっ!!」
突然、張り裂けるような声で絶叫した。
「アンノウンの寿命が一年のびるんだったら、ウチの寿命をぜんぶあげてもいい! 一生……死ぬまでウチの視界にいてほしい! 同じ空気をずっと吸っていたい! むしろ、アンノウンの吐いた息を、直接口から吸いたい! アンノウンのそばにいられるんだったら、ウチ、なんでもする!! も、もちろん、えっちなことだって……! アンノウンのそばにいられるんだったら、恋人じゃなくてもいい……! 都合のいい女とか、友達でも……ううん、手下とか信者でも……ううん! ペットとか奴隷でもいい!! ねぇアンノウン!? アンノウンはどう思ってるの!? ウチのこと、好き!? 愛してる!? 飼いたい!?」
何の前触れもなくはじまったキャルルからの公開告白に、ボクは石像のように固まってしまった。




