74 居合いの威力
ボクらはゴンとクラスメイトの集まりを横目に、大広間を横断する。
大広間では多くのギルドが集会を開いていたんだけど、どこのリーダーもメンバーに向かって、『駿馬節』でのクエストを多くこなせと激を飛ばしていた。
あちこちで飛び交う怒号のアーチをくぐりながら、ボクは思った。
プロの冒険者ってのも大変なんだなぁ、と。
プロの冒険者というと、自由に塔を冒険してモンスターと戦い、お宝を手に入れて大儲け、あとは酒場で飲めや歌えの大騒ぎ……みたいなイメージがあった。
そしてお金がなくなる頃に、再び塔へ行ってのうのうと稼ぐ……という気ままな暮らしを想像してたんだけど、全然違っていた。
朝早くからこうして集められて、リーダーにどやされてるだなんて……。
現実を知ってちょっとショックではあるけど、うかうかしてられない。
だって同じ階にいるボクも、プロの冒険者なんだから……!
ボクは歩きながら、両手で頬をパチンと叩いて気合を入れなおす。
よぉし、やるぞ……! と新たな気持ちで広場を抜けると、これまた賑やかな場所に出た。
塔の外にある市場のように、ひしめきあうようにして露店が出ている。
2階や3階にも観光客用の露店があった。
でもここは観光客がほとんど来ない4階なので、プロの冒険者が使うような装備や道具を売る店ばかりが目につく。
「塔の市場で売られているものは、外に比べて値段が高めに設定されている。4階では大体1割ほど割高のようだな。それも階が上に行くほどあがっていくんだ」
と、マニーが教えてくれた。
「すげー、塔の中なのに、なんか酒場とか宿屋まであんじゃん。でもなんかクサそう」
桜の香りを振りまきながらシャルルが言う。
簡素な木のテーブルが並んだ酒場では朝食をがっつく男たちがいて、野戦病院のように吹きさらしのベッドが並ぶ宿屋にはまだ寝ている男たちがいる。
その面々の肌は薄汚れており、なんとなく汗臭そうだった。
「『駿馬節』を控えている今は、冒険者にとってはかき入れ時。外に出る時間を惜しんで、ああやって塔で暮らす連中も多いんだ。……あっ、そんなことよりも、お待ちかねのクエストカウンターが見えてきたぞ」
市場を抜けた先を指差すマニー。
そこにはいくつかの掲示板と、石造りのカウンターがあった。
掲示板を見る人はまばらだったけど、カウンターは人でごったがえし、行列ができている。
その光景を観光ガイドのように手で示しながら、マニーが教えてくれた。
「掲示板にはクエストが貼り出してある。クエストに書かれた依頼の品を集め、クエストカウンターに納品すれば¥がもらえるという寸法だ」
「ふぅん」
ボクはマニーに生返事を返しながら、遠巻きに掲示板を眺める。
『イーグル』のスキルで貼られた羊皮紙を拡大してみると、
『駿馬節の飾り用に、レイジングホースのたてがみ10セット求む。謝礼250,000¥』
と書かれていた。
「えっ、レイジングホースのたてがみ10個で、25万¥ももらえるの!?」
「なんだアンノウン。こんな遠くからクエストの依頼書が見えるのか? だがそれはハズレの依頼だな。レイジングホースはプロの冒険者であったとして、5人はいないと安定して狩ることはできん。しかも倒したところで必ずドロップするとも限らんから、10個も集めるとなると1日ではすまんだろうな。さらにギルドへの納める分が引かれ、5人で割るとなると……たいした稼ぎにはならん」
「そうなんだ……。5人がかりってことは、レイジングホースってそんなに強いのか……」
「クエストの張り紙は誰かが完了すると剥がされるから、いまクエストボードに残ってるのは不人気依頼ばかりだな。新しい依頼は毎日に昼頃に貼り出されるから、その時は人でごったがえすそうだ」
「フーン。なんかよくわかんねーけど、マニーってなんでそんなに詳しいの?」
キャルルが尋ねると、マニーは自嘲気味にフッと笑った。
「……貴族というのは庶民の無知を利用して私腹を肥やす生き物だからな。世の中の仕組みには詳しいんだ。経済の中心ともいる『太陽の塔』については幼い頃から嫌というほど叩き込まれたよ」
キャルルは呆けた表情で「ゼンゼン意味わかんね」と言っていたけど、ボクにはなんとなくわかった。
たぶんこのクエストの仕組みには貴族が絡んでいて、どこかで貴族も儲かるようになっているんだろう。
マニーは気を取り直すように続けた。
「でも、悪いことばかりではないぞ。このクエストの仕組み自体は王国の管轄だから、『冒険者ギルド』の権限は及ばない。不当な嫌がらせを受けることもないんだ」
「えっ、そうなの?」
これはボクにとっては嬉しいニュースだった。
ボクらは『冒険者ギルド』に嫌われていて、市場ではマトモに取引できなかった。
だからてっきり、クエストカウンターでも足元を見られるかと思ってたのに……。
だからクエストに対してはあまり前のめりではなかったんだけど、嫌がらせをされないとなれば話は別だ。
……実をいうと、ちょっと憧れてたんだよね。『クエスト』って……!
だって、ボクが集めたもので見知らぬ誰かを喜ばせることができるんだから……!
ちなみに有名なギルドともなると、名指しでクエストが与えられることもあるらしい。
それって、頼られてるみたいでなんか嬉しいよね。
ああっ、そう考えると、なんだかワクワクしてきた……!
「よぉし、じゃあボクらもクエストやろうよ! さぁ、早く早く!」
ボクはクエストボードの前まで駆けていくと、仲間たちに手招きした。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ボクらの作戦はこうだ。
塔の4階を探索しながら、見つけたモンスターを狩る。
相手の優先順位としては、
1 レイジングブルとレイジングチキン
2 レイジングホース
3 その他のモンスター
ということにした。
1はパン作りの材料を落とすモンスター、2はクエストのアイテムを落とすモンスターというわけだ。
4階はいままで通ってきたフロアと見た目は同じだったんだけど、ときおり他の冒険者とすれ違うことがあった。
そうなると、当然モンスターの奪い合いも起こる。
これはマニーが教えてくれたんだけど、奪い合いになった場合は『モンスターに先に攻撃したほうに権利がある』という暗黙のルールに則って解決されるらしい。
権利が決まったあとは一緒になって戦ってもいいそうなんだけど、ドロップアイテムも先に攻撃したほうに取得権利があるので、取り合いに負けたパーティはさっさと立ち去ってしまうらしい。
探索中、たまーに言い合いをしているグループを見かけた。
『ドルフィン』スキルで聞き耳を立ててみたら、どっちの攻撃が先に当たったかということでモメていて、なんだか子供みたいだなと思ってしまった。
その点、ボクらが狙うのはクエスト対象ではないレイジングブルとレイジングチキンだったので、モメることはないだろうと思う。
「アイツらなんであんなモンスター狩ってんだ?」みたいな顔はされるかもしれないけど。
「……コケェェェェェェーーーーーーーーーーーッ!!」
なんてことを考えながら歩いていたら、お待ちかねの敵の登場……!
「……レイジングチキン3匹か! いくぞっ!」
翼を広げて威嚇する3匹の巨大ニワトリに向かって、まるで白馬に乗っているかのように颯爽と駆けていくマニー。
優雅になびく金髪の後に、ボクは続く。
ボクの背後からは、「やぁぁ~」とのんびりしたかけ声が追いかけてくる。
自然と3対3の構図になった。
マニーが1体、ボクが1体受け持ち、ウサギとキャルルはふたりがかりで1体と戦う。
マニーの刺突剣による最初の一撃が決まるより早く、
……キンッ!
ボクの刀は鞘におさまっていた。
「……コケ?」
自分がまっぷたつになったことも気づかず、目をパチクリさせているレイジングチキン。
しばらくして、ばふーん! と霧散していく。
これが、居合斬り……!
やるのは初めてだけど、すさまじい威力だ……!
驚いているのはボクだけじゃなかった。
マニーも、ウサギも、キャルルも……そしてレイジングチキンまでもが、ボクを呆然と見ていた。
敵も味方もなくなったかのように、顔を見合わせるボクたち。
「あ……アンノウン……な……なんだ今の攻撃は……?」
「い、今のは『居合斬り』っていって……刀は鞘から抜いたときが一番威力があるらしいんだけど、それを利用した攻撃で……」
説明に聞き入る仲間たちとレイジングチキンに、ボクはふと我に返る。
「……って、それは後! 説明は戦いが終わってからにしよう!」
そして再び動きだす、戦いの時。
そこでボクは気づいたんだ。
新たなる『リバイバー』のスキルの効果に……!




