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72 桜の踊り子

 できあがったばかりの刀を前にして、ボクの心の奥底から湧き上がってきたのは、『キレイ』でも『カッコイイ』でもなかった。


 う……美しい……!


 『名刀・桜花』は、切っ先が尖っておらず、刀身はセラミックのようなまばゆい白さ。

 それが角度によっては薄いピンク色に見えるので、武器というよりも満開の桜の枝のようだった。


 ボクの感動に呼応するかのように、スキルウインドウが反応する。

 『五輪書(ごりんのしょ)』に、『水の巻』のツリーが追加された……!


 『水の巻』は「居合い」についての技法がまとめられたスキルだ。

 「居合い」というのは、刀は鞘から抜かれた瞬間が一番強い、という考えをもとに作られた剣術のこと。


 普通、敵と戦うときは刀を鞘から抜くものだけど「居合い」では納めたまま敵と対峙する。

 そして目にも止まぬ速さで抜刀。鞘から抜いた瞬間の、最強の一撃で勝負を決めるんだ。


 静かな水面のような構えから、激流のようなひと太刀を放つ……まさに水のように『静』と『動』が隣り合わせになっている剣術……それが、『居合い』……!


 そんな想像するだけでワクワクするスキルに、ボクがポイントを振らないわけがないよね。

 スキルポイントはちょうど3ポイント残ってるし、これを『水の巻』に全部……と思ったんだけど、別のスキルにも振りたかったので、2ポイントだけにしておく。


 レベル1の『静水の型』と、レベル2の『明鏡止水剣(めいきょうしすいけん)』にそれぞれ1ポイントを振った。

 レベル3の『居合い殺法』は今はガマンだ。


 そして残った1ポイントは……『忍術』スキルに回すことにした。


 いまボクが持っている『忍術』のツリーは『遁走術』と『暗器術』と『房中術』。


 『遁走術』というのは前にも説明したとおり、潜入と逃走のためのスキル。


 『暗器術』というのは、暗器……つまり隠し武器についてのスキルだ。

 手裏剣とか仕込み刀がそれにあたる。


 昨日、塔の中で襲ってきたアイツも、棒型の手裏剣を『テレキネシス』で浮かせて操っていた。


 それを見て思ったんだ……ボクにも飛び道具があったほうがいいんじゃないか、って。


 ボクが持っている遠距離攻撃の手段といえば、『波動弾』しかない。

 とても強力なんだけど、気を練らないといけないので手軽に使えず、連発もできないんだ。


 しかしその点、手裏剣であればあらかじめ作って忍ばせておけば、あとは投げるだけでオッケー。

 威力は『波動弾』よりはずっと劣るけど、いざという時に素早く攻撃できるという大きなメリットがあるんだ。


 というわけでさっそく、ボクは『暗器術』のレベル1スキルである『操具』に1ポイントを振ってみた。

 これは、暗器をうまく扱うためのスキルだ。


 そして錬金術を使って、鉄筆のような手裏剣をたくさん作る。


 【鉄の棒手裏剣】(戦闘力+3)



「……これでよしっ……!」



 ボクはさっそく服の袖に、できたての手裏剣を忍ばせる。

 少し離れた所にある木の葉っぱが、ヒラヒラと舞い落ちていたので、



「えいっ!」



 バッ! と片手で払うようにして手裏剣を投げてみた。


 ……ストンッ!


 小気味よい音をたてて、木に突き刺さる手裏剣。

 幹に埋まった切っ先には、舞い落ちていた葉っぱが突き刺さっている。



「おおーっ!!」



 歓声に振り返ると、体育座りをしていたウサギとマニー、そしてその頭や肩に乗っていた小人たちが、パチパチと拍手を送ってくれていた。



「あっ……みんな……み、見てたんだ……」



 ボクはちょっと照れくさくなってしまう。


 自分でもわかるくらい、顔が熱くなるのがわかったんだけど……しかし、そんなのは序の口だった。


 だって……頭が爆発しそうになるほどの出来事が、続けざまに起こったから……!



「じゃーん! どお!?」



 手裏剣が刺さった木の陰から、キャルルが飛び出してくる。

 『桜のローブ』をまとう彼女を目の当たりにした瞬間、ボクは……いや、ボクだけじゃない、ウサギもマニーもひっくり返ってしまった。


 だって……だってだって……キャルルの格好は、ほとんど裸に近かったんだ……!


 ピンクの下着みたいなやつに、マントみたいなのを羽織っているだけ……!

 鎖骨も、胸元も、おへそも、腰のラインも、股の付け根も、太ももも……ぜんぶ丸出し……!


 歩くだけで、大きな胸がこぼれそうなくらいにゆっさゆっさ揺れている。

 そんな女の子が迫ってくるものだから、ボクは目をそらすしかなかった。



「どーよ、アンノウン? ……ねぇ、ちゃんと見て!」



 ボクに目線を合わせようと、しゃがみこんでくるキャルル。


 ぜ……絶対に見ちゃダメだ……!


 だって、あんな格好で前かがみになってるってことは……胸がたわわに実った果実みたいに垂れているに違いないから……!


 それがさらに、ボクシングのパンチングボールみたいに揺れてたりしてたら、もう……!


 想像しているうちに脳が焼き切れそうになったので、ボクはとめどなく湧き上がってくるプリンの映像を頭の中から消し去ろうとする。


 しかし……焼き付いているかのように、ぜんぜん消えてくれない……!



「ねー! アンノウンってばぁー! ウチのことちゃんと見て! 見ろって!」



 ボクの肩を掴んで、ガクガク揺さぶってくるキャルル。

 重さのあまり垂れた果実が、ぷるん、ぷるん、ぷるんと揺れる幻聴まで聞こえてくる始末。


 ボクはとっさにごまかした。



「ね、ねぇ、キャルル……! その格好、一体どうしちゃったっていうのさ!?」



「へへへー! どんなローブにするか小人に聞かれたから、こんな風にしてもらっちった! ウチ、憧れてたんだよねー! こういうカッコで冒険するの!」



「そ、そうなんだ……」



 いったいどんな憧れなんだろう? とサッパリ理解できずにいると、



「おいっ!? キャルル! なんだそのふしだらな格好は!? 痴女か!?」



 マニーが厳格な父親のように怒鳴りながら、ボクとキャルルの間に割って入ってきた。



「痴女じゃねーし! だいたいウチがどんなカッコしようと、マニーには関係ないじゃん!」



「そう主張するのであれば、ひとりで冒険しろ! 我々のパーティに入りたいのであれば、節度を守った格好を……!」



「ハァ? オマエに指図されるいわれはねーよ! 決めるのはアンノウンだもん! ねー、アンノウン!」



「おい、アンノウン! こんな秩序を乱すような淫乱は即刻パーティから外すべきだ!」



「誰が淫乱だよっ!? ウチはまだバ……! オホンッ……っていうか、バッカじゃねぇーの!? フツーに考えて逆だよねぇ、アンノウン! パーティから外れるのは、あの男女(おとこおんな)のほうだよねー!」



「誰が男女(おとこおんな)だっ!? それに馴れ馴れしくくっつくんじゃないっ! その手をアンノウンから離せっ!」



「そっちこそアンノウンから離れろよっ! キモいんだよっ!」



 ボクの腕を取って、とうとう引っ張り合いをはじめるキャルルとマニー。

 ウサギに助けを求めたんだけど、



『ああいうお胸になりたい……』



 というスケッチブックを向けたまま、彼女は羨むばかりだった。

 しょうがないので、ムリヤリ話題に引き込むことにする。



「……わ、わかった! わかったから! ふたりとも落ち着いて! じゃあ、こうしよう! 第三者のウサギに決めてもらうんだ! ウサギ、キャルルのローブをデザインしなおして! キャルルの案をベースに、もうちょっとだけ身体を隠すようなカンジで……!」



 この提案には、キャルルもマニーも不服そうだった。

 しかしウサギが『実をいうと、もう考えてあるの』とスケッチブックをめくった途端、



「おおーっ! これ、超カワイイじゃんっ! 出すとこはちゃんと出してるし! さっすがウサギっち!」



「ううむ……まぁ、これならば……肌が露出していながらも、下品なカンジでは……ない……かな」



 ウサギ考案の『桜のローブ改』は両者を納得させるほどに見事なデザインだった。


 それは、異世界で例えるなら……そう『踊り子』……!

 風で舞い散る桜吹雪とともに踊っているような、素敵な踊り子の衣装だったんだ……!


 ボクはさっそく小人たちにお願いして、キャルルのローブを繕い直してもらう。

 その間にボクは、『名刀・桜花』用の鞘を作って、腰からぶら下げた。


 新生『桜のローブ』に身を包んだキャルルは、桜の精みたいに美しくて……ボクらだけじゃなく、広場にいるまわりの人たちも見とれるほどだった。

■□■□パラメーター□■□■(現在の階数:4階)

挿絵(By みてみん)


□■□■スキルツリー■□■□


今回は『静水の型』と『明鏡止水剣』と『操具』に1ポイントずつ割り振りました。

未使用ポイントはありません。


括弧内の数値は、すでに割り振っているポイントです。


●忍術

 遁走術

  (1) LV1  … 音無し

  (1) LV2  … 地降り傘

  (0) LV3  … 隔世走り

 暗器術

  (1) LV1  … 操具

  (0) LV2  … 埋伏

  (0) LV3  … 誂達

 房中術

  (0) LV1  … 口印

  (0) LV2  … 綺弄

  (0) LV3  … 淫紋


●五輪書

 地の巻

  (1) LV1  … 大地の型

  (1) LV2  … 不動峰巒剣

  (1) LV3  … x刀流

 水の巻

  (1) LV1  … 静水の型

  (1) LV2  … 明鏡止水剣

  (0) LV3  … 居合い殺法


●錬金術

 風錬

  (1) LV1  … 抽出

  (1) LV2  … 風薬

  (0) LV3  … 旋風

 火錬

  (1) LV1  … 変形

  (1) LV2  … 火薬

  (1) LV3  … 噴火

 地錬

  (1) LV1  … 隆起

  (0) LV2  … 地薬

  (0) LV3  … 地震

 水錬

  (1) LV1  … 陥没

  (1) LV2  … 水薬

  (0) LV3  … 奔流


●リバイバー

 カオツルテクト

  (1) LV1  … 蝸

  (2) LV2  … 蛞

  (1) LV3  … 蛭


●彩魔法

 灰

  (0) LV1  … フリントストーン

  (0) LV2  … プラシーボ

  (0) LV3  … ウイッシュ

 白

  (1) LV1  … キュア

  (0) LV2  … リムーブ

  (0) LV3  … エクステンション


●サイキック

 ニュートラル

  (4) LV1  … テレキネシス

  (3) LV2  … クロスレイ

  (1) LV3  … テレパシー

 ダークサイド

  (1) LV1  … ダークチョーカー

  (0) LV2  … エナジードレイン

  (0) LV3  … マインドコントロール


●降臨術

 妖精降臨

  (1) LV1  … 戦闘妖精

  (1) LV2  … 補助妖精

  (4) LV3  … 生産妖精

 英霊降臨

  (1) LV1  … 戦闘英霊

  (0) LV2  … 補助英霊

  (0) LV3  … 生産英霊


●ミュータント

 アニマル

  (1) LV1  … エレファント

  (1) LV2  … ドルフィン

  (1) LV3  … イーグル


●潜在能力

 必殺技

  (1) LV1  … 波動弾

  (1) LV2  … 烈蹴斬

  (1) LV3  … 龍昇撃

 打撃必殺技

  (1) LV1  … xカウンター

  (1) LV2  … 爆裂拳

  (0) LV3  … 点穴


●超感覚

 モーメント

  (1) LV1  … 思考

  (0) LV2  … 記憶

  (0) LV3  … 直感

 パーフェクト

  (0) LV1  … 味覚

  (0) LV2  … 音感

  (0) LV3  … 声帯


●料理

 見習い

  (1) LV1  … 下ごしらえ

  (1) LV2  … 焼く・炒める

  (1) LV3  … 茹でる・煮る

 コック

  (1) LV1  … 盛り付け

  (1) LV2  … 揚げる・漬ける

  (0) LV3  … 燻す・焙煎

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