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71 マジックアイテム、できました!

 キャルルのための装備作りは続く。


 次は防具だ。彼女は『白魔法使い』だから、鎧じゃなくてローブだよね。

 ボクはキャルルにローブを作ることを伝え、布を市場で買ってくるよう頼んだ。


 その間に、鍋でお湯を沸かす。



「なんだ? 料理でも作るつもりなのか?」『朝ゴハンは、もう食べたのに……』



 マニーとウサギは鍋を覗き込み、水面に不思議そうな顔を映している。



「へへ……これからやるのは、『料理』じゃないよ……『染色』!」




 ……この世界はとにかく灰色一色だ。


 服や建物は灰色が標準。

 自然界にはいろんな色があるというのに、街中はモノクローム。


 ボクの焼いたパンのほうが、よっぽどカラフルなくらいだ。


 キャルルのメイクはこの世界では派手なほうだけど、それでも紫色どまり。

 もっといろんな色を使えばもっともっとおしゃれになるのに……とボクは思っていたんだ。


 キャルルが「買ってきたよー」と渡してきた布も灰色だった。

 ボクはそれを受け取ると、鍋の中に沈める。



「ちょ!? 何やってんのアンノウン!? まさか布まで食うつもりなの!?」



 キャルルもやっぱり、ボクが食事を作ろうとしていると誤解したようだ。



「まぁまぁ、黙って見てて」



 ボクは仲間たちをなだめながら、あらかじめ用意しておいた桜の木の枝を鍋に加える。

 さっき杖を作るついでに、一緒に集めておいたんだ。


 さらに、ちょうどいい棒きれが近くに落ちていたので、それを使って鍋をかき混ぜる。

 しばらくすると……グツグツと煮立ってきた。


 そのタイミングで錬金術の抽出陣を描く。

 鍋めがけて投げ込むと、


 ……じわぁ……。


 って音がしそうなくらい、透明だった水が赤く染まっていく。


 すると、ゲテモノ料理を見るようだった仲間たちが、



「「「ええええっ!?!?」」」



 まるでごちそうにでも変わったかのように、前のめりになった。

 そのまま突っ込んでいきそうなくらいの勢いで、赤い水面に顔を映している。



「み、みんな、あぶないよ……あぶないから、ちょっと離れて」



 しかし、みんなは離れようとしない。



「アンノウン……これは一体、なんなんだ?」「なんなの?」『なに?』



 息のあった動きで顔をあげ、ボクを見る仲間たち。



「これはね『草木染め』っていって、草や木の色を布に移してるんだよ」



「なんだと……? ということは、この赤い色は……さっき鍋に入れた木の枝から出ているということなのか……?」



 マニーはすぐに理解してくれたようだ。

 ウサギのスケッチブックにはみんなの気持ちを代弁するかのように、『ふしぎ……!』と仰天するみんなの似顔絵が書いてある。



「ええっ? なんで赤くない木の枝から赤い色が出んの? フツーに考えてありえないじゃん! なんで? なんでなんで!?」



 好奇心旺盛な子供のように尋ねてくるキャルル。



「入れたのは桜の木の枝なんだけど、桜の花びらを色づかせるための色素が枝にも含まれてるんじゃないかなぁ……と思うんだけど」



 ボクの予想に、キャルルは青天の霹靂に打たれたようにブルッと身体を震わせていた。



「す……すっげぇ……! アンノウン……! マジであったまイイ……! い、今……チョー鳥肌たっちゃった……!」



 そんな大げさな……と思ったんだけど、キャルルの羨望は止まらない。

 桜の花びらのように頬を染め、卒業式みたいに感動で瞳を潤ませはじめた。


 彼女がボクに向ける視線は、ずっと道端のゴミを見るかのようだったので……なんだか違和感がすごい。

 なんだか背筋がこそばゆくなってしまった。



「そ、そんな目で見ないでよ、キャルル……。あっ、もうそろそろいいかな」



 枝を使って鍋から布を取り出す。

 つまらない灰色だった布は、華やかなピンク色に代わっていた。



「「「おお……っ!」」」



 シンデレラを初めて見た王子様のように、感嘆のため息を漏らす仲間たち。



「すっげぇ……! マジで桜みたいな色になってんじゃん! 超イケてるんですけどぉーっ!? やばいやばい、マジやばぁーいっ! あちちちちっ!?」



「あっ、まだ熱いから、触ると危ないよ」



 しかしキャルルは気になってしょうがないのか、湯気のたつ布を触るのをやめない。

 猫みたいにぺしぺししている。



「あちっ! こんなキレイなの見せられてガマンできるわけないじゃん! あちちち! これがマジでウチの装備になんの!? マジ信じらないんですけど!? 次はどうすんの!? ナニすんの!?」



「ローブの形に縫わなきゃいけないんだけど、乾かしてからだね。じゃあキャルル、乾かしてくれるかい?」



「オッケー!」



 熱い雫がしたたる布を受け取ると、キャルルはアチアチいいながら格闘をはじめた。


 あれが乾くまではもう少し時間が掛かりそうだから……その間に、ボク自身の装備を作ろう。


 昨日のボスフロアでボロボロになった刀を捨ててからというもの、ずっと素手だったんだよね。


 さっそく抽出陣を描き、地面から鉄を取り出す。

 いつものように変形陣で刀を作ろうとしたんだけど、ふと思い立った。


 そうだ……この鉄に、木の枝を混ぜてみたら、どうなるんだろう……?


 鉄は物理攻撃の象徴みたいなところがある。

 そこに魔力を高める木の枝を入れてみたら……面白いことが起こるかもしれない。


 混ぜ合わせるには、錬金術の『水薬』のスキルが必要だ。

 性質の違う物質を、水のように自然に溶け合わせることができるんだ。


 『水薬』を使わないと物理的にふたつを混ぜただけのものになってしまい、不純物が入った鉄の刀は簡単に折れちゃうだろう。


 ボクは抽出した鉄のカタマリの上に、桜の木の枝を置く。

 そしてスキルウインドウを開き、『水錬』の『水薬』に1ポイントを振った。


 覚えたての『水薬』陣を描くと、


 ……すううっ……!


 桜の木の枝が、まるでスポンジに吸い込まれる水のように、鉄のカタマリに吸収されていったんだ……!


 そしてくすんだカタマリは、一目惚れしたかのようにうっすらとピンク色に染まる。


 鉄と桜……ふたりが恋して出来上がったのは、【桜鉄】……!

 魔力を秘めた鉄のできあがり……!


 仲間たちは「おおー!」と驚いていたけど、ボクはもうそれどころじゃなかった。

 はやる気持ちで変形陣を投げかけ……ようとしたんだけど、ちょっと待て、と思った。


 そうだ……せっかくだから、カッコイイ刀にしよう……!


 ボクは鍋をかき混ぜていた棒を拾い上げると、広場の地面に召喚陣を描く。

 「妖精を呼ぶんだな」『またあの子たちに会えるね!』と仲間たちは嬉しそうだ。


 ……ポポポポポーーーン!!


 陣から間欠泉のようにあふれ出る小人たち。

 それが想像以上の数だったので、マニーもウサギも嬉しい悲鳴をあげていた。


 そういえば塔でパンを焼いたとき、『生産妖精』に4ポイント振ったんだった。

 30人オーバーともなると、さすがに多いな……と思ったボクは、小人たちに分担作業を指示する。



「よぉし、みんな! 3つのグループに分かれて! グループ1はボクの刀作りの手伝い、グループ2はキャルルのローブを縫って! グループ3はウサギとマニーと遊んで!」



「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーいっ!!!」」」



 運動会のように一斉に散っていく小人たち。


 キャルルが乾かしていた布をよじ登り、木の針でちくちくやりはじめるグループ2。

 迎え入れるようにしゃがみこんだウサギとマニーによじ登っていくグループ3。


 そして変形陣の中に飛び込んで、刀作りの手伝いをしてくれるグループ1。


 広場は、わーわー! きゃーきゃー! と、幼稚園児が遠足に訪れたかのように一気に賑やかになる。


 そして、できあがったのは……。



 【名刀・桜花】

  真の力を発揮するとき、桜の花びらが舞い散る。


  戦闘力+24

  精神+5

  抜刀直後の切れ味+200%



 【桜のローブ】

  戦闘力+5

  精神+5

  魅力+4

□■□■スキルツリー■□■□


今回は『水薬』に1ポイントを割り振りました。

未使用ポイントが3あります。


括弧内の数値は、すでに割り振っているポイントです。


●錬金術

 風錬

  (1) LV1  … 抽出

  (1) LV2  … 風薬

  (0) LV3  … 旋風

 火錬

  (1) LV1  … 変形

  (1) LV2  … 火薬

  (1) LV3  … 噴火

 地錬

  (1) LV1  … 隆起

  (0) LV2  … 地薬

  (0) LV3  … 地震

 水錬

  (1) LV1  … 陥没

  (1) LV2  … 水薬

  (0) LV3  … 奔流

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