06 必殺技、放ちます!
分かれ道のひとつを進んでいく、ボクとウサギ。
通路は団子状に部屋が連なっていて、中にはモンスターがいた。
【ゴブリンロワー】(戦闘力:30)
【ゴブリンロワー】(戦闘力:30)
ゴブリンロワーが2匹……!
ボクらに気づくと、ギャアギャア喚きながら四つ足で迫ってきた。
「ウサギ、左のヤツを頼む! ボクは右のヤツをやるから!」
ウサギはアタフタしながら腰の剣を抜く。
しかし手を滑らせて、床に取り落としていた。
ああっ……しょうがない……!
ボクはいちかばちか、走って右のゴブリンロワーに飛び蹴りをくらわす。
「ギャアッ!?」
骨がくだけるような感触とともに、吹っ飛んでいくゴブリンロワー。
勢いよく壁に叩きつけられて、煙玉みたいにパアンと霧化する。
無防備にしゃがみこんで、剣を拾い上げようとしているウサギ。
そこに襲いかかろうとするゴブリンロワー。
ボクはその背後からさらに襲いかかり、鉄拳で砕いた。
「ギャアアーーーッ!?」
バシュウウゥ……! と散っていく2匹めの敵。
ウサギはようやく剣を拾い上げ、さあこい、とばかりに構えたんだけど……敵がいなくなっていたので、キツネにつままれたような表情になっていた。
……それからもボクらはモンスターたちと何度か戦ったんだけど、ウサギの不器用さはこのボクですら閉口するほどだった。
ステータスはボクより高いはずなのに、ぜんぜん攻撃を当てられないんだ。
ボクがゴブリンロワーをパンチで牽制して、注意を引いてるスキに背後から斬りかかってもらったんだけど、
「ひえぁあ~」
と大声を出して、のたのたと斬りかかるものだからあっさり避けられてしまう。
しかも目を閉じて突っ込んでいるのか、危うくボクが斬られそうになることが何度かあった。
『ごめんなさい……わたし、不器用で……』
とうとうふさぎこんでしまうウサギ。
彼女はボクより器用さが9も高いのに、剣もマトモに扱えないなんて……もしかして器用さとひと口にいってもいろいろあって、彼女の場合は絵のうまさに反映されてるのかなぁ……?
『足手まといになるから、このまま置いていって……わたし、別の道を行くから……』
寂しげにスケッチブックを向けてくるウサギ。
ボクはその文章に対しては何も言わない。
膝を抱えてうつむいている彼女の隣に、よっこらしょと腰を降ろす。
そして、しばらくひと休みしてから……ボクは話しかけてみた。
「……ボクさ、『太陽の塔』のてっぺんに行きたいんだ」
するとウサギはうつむいたまま、スケッチブックに鉛筆を走らせる。
こういうところは実に器用だ。
『わたしも』
「そうなんだ。ボクはホンモノの太陽を見たくて、てっぺんまで行きたいんだけど……ウサギはなんでてっぺんまで行きたいの?」
『塔のいちばん上には、いろんな色があるんじゃないかと思って……』
ボクはすぐにウサギの気持ちを理解する。
この灰色だらけの世界に、彼女も嫌気がさしているんだろう。
絵が好きなんだったら、色を求めるのは当然の欲求だ。
「ねぇウサギ、『虹』って知ってる?」
『にじ?』
「空気がキレイな異世界にある、自然現象なんだ。大空に、七つの色が入った橋がかかるんだよ」
『こんなの?』
言うが早いがウサギはさっそく虹をイラスト化していた。
太陽の塔が遠くに見える街並みの空に、ボクのイメージそっくりな天空の橋がかかっている。
「……そう、それそれ! 虹の絵をあっさり書くだなんて……やっぱりウサギはすごいなぁ……!」
ボクが目を見張っていると、ウサギは反応が気になったのか……ちらりとボクのほうを見た。
『絵は、何度も練習したから』
「いや、それでもスゴイよ……! ウサギがホンモノの虹を見たら、きっともっとスゴイ絵を描くんだろうなぁ……!」
『……にじも塔のてっぺんにあるの?』
「うん、多分……塔のてっぺんにホンモノの太陽があるんだったら、虹もあると思うよ」
『にじ、見てみたい……!』
ウサギはすでに顔をあげていて、ボクのほうをじっと見つめていた。
厚いすだれのような前髪の向こうから、キラキラ輝く瞳が見えたような気がした。
その光に、ボクはなんだか元気をもらったような気がして……天を掴むように勢いよく立ち上がる。
「……よぉし、じゃあ一緒に行こう! こんな灰色の壁に囲まれてる場合じゃないよ!
ウサギの手をガッと掴んで、「さあさあ、立って立って!」と引っ張り起こす。
『でも、足手まといに……』
でも、ウサギはまだ迷っているようだった。
「何言ってるの! 絵は何度も練習したんでしょ? だったら戦いも練習すればうまくなるって!」
『そ……そうかな……?』
「もちろん! ボクが練習に付き合ってあげるよ! さっ、行こう! 練習しに!」
ボクはウサギの背中をぐいぐい押して、いじけムードの残る部屋をあとにした。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ボクはまず、ウサギに自信をつけさせなきゃダメだと考えた。
そのためには、かするだけでもいいからモンスターに攻撃を当てさせるんだ。
そう考えたボクは、次に遭遇したゴブリンロワーを『テレキネシス』で持ち上げた。
浮かされたゴブリンロワーは、パニックになって空中で暴れだす。
「ギャーッ!? ギャアアーッ!?」
ボクはゴブリンに手をかざしたまま、隣りにいるウサギに向かって声をかけた。
「……さあ、ウサギ! ヤツは動けないから、いまのうちに攻撃するんだ!」
ウサギは緊張しているのか、カチコチになりながら剣を抜こうとする。
「あっ、慌てないで! 慌てると剣を落としちゃうから、ゆっくりでいいよ……! 深呼吸して……そう……!」
溺れているようなゴブリンロワーをよそに、はぁ、ふぅ……と深く息をするウサギ。
まるで暗殺者のようにそーっと剣を抜く。
「よし、構えて……! ゆっくり息をしながら……そう……!」
高ぶる気持ちを抑えるように、肩を上下させながら……両手で柄を持つウサギ。
小さな手をぎゅっとさせて、片手用の柄をいっしょうけんめいに握りしめている。
構えは妙だったけど、この際それは気にしない。
「いいぞ……! そのまままっすぐ、敵に突っ込むんだ!」
ウサギはごくりっ、と喉を鳴らしたあと、
「いぃ~やあぁぁ~っ」
独特なかけ声とともに走り出す。ボクもいっしょになって走った。
途中で何度か転びそうなっていたので、手で抱きとめて支えてあげる。
そしてついに、刃の先端が空中のゴブリンロワーに触れた。
「よし……そのまま突っ込めぇっ!」
「やあぁあぁあぁぁぁ~」
……ドスッ……!
鉄の剣が、ゴブリンロワーを貫く。
……シュバアアアア……!
祝福するように散る黒い霧。
ウサギはゴールテープを切るように、その中を突っ切っていく。
「や……やった! やったやった! やったね、ウサギ!」
ボクは我が事のように、ガッツポーズをして喜んだ。
そして、初勝利をかざったウサギはというと……敵はもう倒したというのに止まらず、そのまま部屋の隅までとたとたと走っていき、壁に激突して倒れた。
やっぱり目を閉じて走っていたらしい。
ボクはウサギの元に走り寄って、勝利の喜びを分かち合おうとしたんだけど……それよりも早く、
「コケーッ、コケーッ、コケケケーッ!」
耳障りな鳴き声とともに、新手のモンスターが部屋に乱入してきたんだ……!
【レイジングチキン】(戦闘力:60)
初めて見る、ニワトリみたいなモンスター……!
だけど大きさはダチョウ並み……!
戦闘能力にいたっては、ゴブリンロワーの倍……!
羽根をめいっぱい広げて威嚇しながら、倒れているウサギに襲いかかろうとしている。
このまま助けに向かっても、間に合わないかもしれない……!
よぉし、こうなったら……!
ボクはいちかばちかをやってみることにした。
精神統一しながら両手を鉤状にして、腹の前で組む。
息を勢いよく吸い込みながら、全身の気を腹に集中させる。
腹に集めた気を、組んだ手に移すつもりで……腰を深く落とす。
身体をひねりながら、組んだ手を腰に回して……。
……発声とともに息を吐き出しながら、力いっぱい両手を突き出す……!
「 波 動 弾 ッッッ……!!」
ボクの両手から、青白い光の玉が放たれた。
シュバァァァァーーーンッ!!
光の玉は瞬くほどの間に、レイジングチキンの胴体を捉える。
インパクトの瞬間、羽根がぶわっと舞い散った。
「グエッ……!? グエエエエェッ……!?」
腹にめりこんでいく光の玉。
重いボディーブローをくらったかのように、身体をくの字に曲げるお化けニワトリ。
勢いよくのけぞり返したかと思うと、断末魔の悲鳴をあげながら爆散する。
「コッ……コケエェェェェェェェェェェーーーーーーーーーッ!?!?」
……ばふぅぅぅぅーーーーーんっ!!
ボクは黒い突風に煽られながら、目を飛び出させんばかりに剥いていた。
で……出た!
まさか、本当に手から光弾が出るだなんて……!
格闘術が発達し、人間の域を超える体技を使えるようになった『第95世界』の『必殺技』……!
そのカッコよさに憧れ、ボクも何度も練習した。
見ていたクラスメイトの口からは、これでもかと嘲笑が飛び出していたんだけど……ボクの手からは、ホタルの光ほども出なかった。
でも……でも……ついに出せるようになったんだ……!
さんざんバカにされたけど、練習しておいてよかった……!
ボクは興奮をもう一度、とばかりに二発目を撃ってみようかと思ったんだけど……途中で、ノビているウサギのことを思い出した。
彼女は床に大の字に寝っ転がったまま、「うにゅぅ……」と鳴いている。
なんだか心配になってきたので、介抱してあげることにした。
■□■□パラメーター□■□■(現在の階数:1階)
□■□■スキルツリー■□■□
今回は割り振ったポイントはありません。
未使用ポイントが1あります。
括弧内の数値は、すでに割り振っているポイントです。
●潜在能力
必殺技
(1) LV1 … 波動弾
(0) LV2 … 烈蹴斬
(0) LV3 … 龍昇撃
●錬金術
風錬
(1) LV1 … 抽出
(0) LV2 … 風薬
(0) LV3 … 旋風
火錬
(1) LV1 … 変形
(0) LV2 … 火薬
(0) LV3 … 噴火
地錬
(0) LV1 … 隆起
(0) LV2 … 地薬
(0) LV3 … 地震
水錬
(0) LV1 … 陥没
(0) LV2 … 水薬
(0) LV3 … 奔流
●サイキック
ニュートラル
(1) LV1 … テレキネシス
(0) LV2 … クロスレイ
(0) LV3 … テレパシー
●彩魔法
灰
(0) LV1 … フリントストーン
(0) LV2 … プラシーボ
(0) LV3 … ウイッシュ