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58 世界最大のパン作り

 ハムスターのようにちょこまかちょこまか動き回って、パン作りをする小人たち。

 ひとりでは非力で、小さな子供が料理しているみたいに危なっかしいんだけど、いつの間にか力をあわせて工程をこなしている。


 小人とはいえ、さすがに40人近くの数ともなるとみるみるうちにパンの種ができあがっていく。

 仕事は早いけど丁寧で、ちゃんと仕上げにツヤ出しの卵液まで塗るのを忘れていない。


 彼らと同じくらいの大きさの、ちんまりしたロールパン。

 部屋の床に整然と、そして所狭しと並べられている。


 ボクは壁にもたれたまま、『超感覚』の『思考』スキルを使って数を数えてみた。

 ……ちょうど1万2千個か、これだけあればじゅうぶんだろう。



「みんな、ありがとう。せっかくキレイに並べてくれたんだけど、部屋の真ん中だけちょっとスペースを開けてくれるかな?」



 ボクが呼びかけると、



「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーいっ!!!」



 小人たちはイヤな顔ひとつせず、手分けしてパン種を運んで部屋の中央に空間を作ってくれた。


 ボクはよっこらしょ、と床に手をついて身体を起こす。


 少し休んでマシにはなったけど、まだ疲れが残っている。

 足が痺れて生まれたての子羊みたいに震えていたけど、壁によりかかるようにしてなんとか立ち上がった。


 ひんやりした石に身体を預けたまま、錬金術の陣を描く。

 手をグルングルン振り回すようにして、空中に大きく描いたのは……『風薬』の陣。


 完成した陣はいったん天井近くまであがると、部屋を埋め尽くすほどに広がって、床のパン全体を覆うように降り注ぐ。


 ……そして、足元からすさまじい発酵臭をたちのぼらせた。

 これだけ数のパンが発酵すると、ニオイもすごくて……むせかえりそうだ。


 でも、これでいいんだ……!

 完成まで、あとひと息……!


 ボクは小人たちを引き連れ、部屋を出た。

 隣の部屋から、さっきまでいたパン部屋を見渡してみる。


 びっしりと並べられた1万個以上ものパンは、なかなか壮観だ。

 小人たちもトーテムポールみたいに積み重なって、同じようにワクワクと室内を覗き込んでいる。


 ボクはスキルウインドウを開き、『錬金術』の『火錬』ツリーに注目する。

 『火薬』と『噴火』に1ポイントずつ割り振った。


 よぉし、これで最後の準備が整った……!

 あとは、仕上げをするだけだ……!


 パン部屋に向かって指を突きつけ、再び空中に錬金術の陣を描く。


 描いたのは、『噴火』の陣……!

 その名のとおり、噴火を起こすことができるんだ……!


 赤く燃えるような陣が、部屋の中央……小人たちが空けてくれた床に吸い込まれていく。

 少しして、


 ……ゴゴゴゴゴゴゴ……!


 微振動とともに、卵の殻にヒビが入るように床に亀裂が走る。

 そして、新たな生命が生まれ()でるかのように、


 ……ドッ……ゴォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!


 床を突き破って、天を衝く火柱が吹き上がったんだ……!



「きゃあーーーーーーーーっ!?!?」



 舐めるような熱気と音が部屋の外まで届き、びっくりして倒壊する小人タワー。

 ボクは彼らを抱きかかえて、パン部屋の入口から避難する。


 振り返りざま、パン部屋の入口の床に向かって三度(みたび)錬金術の陣を描く。

 トドメは、『隆起』の陣……!


 メリメリと音をたてて、石床が盛り上がる。

 コンクリートで塗りつぶすかのように、パン部屋の入口が塞がれていく。


 ……ゴォォォォォーーーッ……。


 完全に封印された瞬間、熱気が途絶え、火炎放射のような噴火音もくぐもった。


 これで、よしっ……!

 あとは、焼けるのを待つだけだ……!


 ……『キャルルルン』に今なお並んでいるであろうお客さんをなんとかするために、ボクが考えたのは……新たにパンを焼くことだった。


 でも材料は足りないし、『キャルルルン』の厨房にある窯で焼いていたらとても間に合わない……そう思って一計を案じた。


 材料不足と設備不足、ふたつを一気に解決してくれたのが、『太陽の塔』……!


 いちどにモンスターが多く出現する、3階のボスフロアでモンスターを大量に倒し、パン作りに必要な材料をドロップさせた。


 そこでは危うく死にかけたけど、モンスターたちが途中で逃げてくれて助かった。


 材料を手に入れたあとは、行き止まりの部屋でパン作りをした。


 なぜ塔のなかでパン作りをしたかというと、それは、フラットな石に囲まれたこの塔内こそが『天然の焼き窯』になると思ったからだ……!


 ただ、問題なのは火力だった。

 1万個以上ものパンを並べられる部屋を焼き窯に変えるためには、相当な火力が必要だった。


 そこで目をつけたのが、『錬金術』……!

 『噴火』のスキルを使えば、一気に強力火力が得られると考えたんだ……!


 部屋の入口を『隆起』のスキルで塞げば、巨大なパン焼き窯のできあがり……!


 ……ただ、このやり方にはかなりのリスクが伴う。

 こんな巨大な焼き窯なんて、ボクが妄想していた異世界にも存在しなかったし……だいいち噴火でパンを焼くだなんて、見たことも聞いたこともないからだ。


 1万個以上ものパン種を、一瞬でダメにしてしまうかもしれない危険な調理法……!

 普通であれば、失敗することを恐れてやらないだろう。


 しかし……ボクならうまくやれる……!

 だってボクには、人並み外れた『スキル』があるから……!


 ボクは隆起で作った壁まで歩いていき、コツンと額を当てた。

 染み出すような熱気と音を感じながら、こめかみに指を押し当てる。


 ……キィィィンッ……!


 『サイキック』のスキルを使ったとき特有の、脳を冷たい手で触られたような感覚。

 だいぶ慣れてきた違和感とともに、世界がモノクロームへと変わった。


 色を失った変わりに得たのは、人ならざる能力……!

 壁の向こうが透けて見えるという、機械さながらの視界……!


 『サイキック』のスキルのひとつ、『クロスレイ』。

 この透視スキルがあれば、パンの焼き具合が調べられる。


 普通の焼き窯みたいにフタがあれば、ちょっと開ければ中を確認できるんだけど……この巨大焼き窯は密閉してるから、壁を崩さないとパンの状態がわからない。

 いちいち崩したりしていると焼けムラができるから、超能力で中を確認しようと思ったんだ。


 ……ボクの妄想には、いろんな超能力者が出てくるけど……さすがにパンを焼くのに超能力を使う人はない。

 たぶん異世界初の超能力の使い方なんじゃないだろうか。


 しかし……壁が分厚いせいか、透視してもパンがよく見えない。

 しかもモノクロだから……焼き具合もよくわからない。


 いまいち気が進まなかったけど、スキルウインドウを開いて『クロスレイ』のスキルに2ポイントを追加する。

 パン焼きの用途に強化するのはためらわれたけど、失敗したら終わりだからしょうがない。


 しかし、世界が急に色を取り戻した。

 目の前にある壁は、まるで消え失せたかのように透け……火柱でオレンジ色に染まる巨大焼き窯の中身が、ハッキリとわかるようになったんだ……!


 ふっくらしてつやつやのパンが、キツネ色に染まっていくのも手に取るようにわかる。


 よし、いいぞ……!

 これなら、ベストなタイミングで火が止められる……!


 ボクは壁の向こうに意識を集中する。


 いつのまにか、足元に擦り寄る感覚が消えていた。

 きっと、時間切れで小人たちが帰っていったんだろう。


 やがて、パンがテカりを帯びはじめる。

 表面に塗っておいた卵液が、燃え盛る炎に照らされ反射しているんだ……!


 ……いまだ! と思ったボクは、『テレキネシス』のスキルを使って隆起させた壁を手前に引き倒した。


 ……ズズ……ンッ!!


 倒壊すると同時に、サウナのような熱気がぶわあっとあふれ出す。

 ボクは肌がヒリつく痛みにもかまわず、パン部屋の中を覗き込んだ。


 するとそこには……まるで小さな太陽のように、キラキラと輝く焼きたてのパンたちがあったんだ……!

□■□■スキルツリー■□■□


今回は『火薬』と『噴火』に1ポイントずつ、『クロスレイ』に2ポイントを割り振りました。

未使用ポイントが7あります。


括弧内の数値は、すでに割り振っているポイントです。


●サイキック

 ニュートラル

  (4) LV1  … テレキネシス

  (3) LV2  … クロスレイ

  (1) LV3  … テレパシー

 ダークサイド

  (1) LV1  … ダークチョーカー

  (0) LV2  … エナジードレイン

  (0) LV3  … マインドコントロール


●錬金術

 風錬

  (1) LV1  … 抽出

  (1) LV2  … 風薬

  (0) LV3  … 旋風

 火錬

  (1) LV1  … 変形

  (1) LV2  … 火薬

  (1) LV3  … 噴火

 地錬

  (1) LV1  … 隆起

  (0) LV2  … 地薬

  (0) LV3  … 地震

 水錬

  (1) LV1  … 陥没

  (0) LV2  … 水薬

  (0) LV3  … 奔流

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