50 女の子だらけの入浴!?
ボクの入浴中、いきなり入ってきたキャルルとルルン……!
身につけているのは、タオル一枚……!
それもバスタオルみたいな大きいのじゃなくて、フェイスタオルみたいに小さいやつ……!
正面の、本当に必要最低限なところを隠しているだけで……身体のラインとかは丸出し……!
キャルルはクラスでいちばん胸が大きくて、大人顔負けの巨乳……!
タオルを押さえている腕の間から、こぼれ落ちてはみ出しそうになるほどなんだ……!
お姉さんのルルンも、まったくひけをとらない……!
だからふたり並んでいると、まるで山脈……!
歩くたびにぷるん、たわんと波打つ……やわらか山脈なんだ……!
「見て、ルルンお姉ちゃん。アンノウンのヤツ、めっちゃ見てる……!」
片手を腰に当てて仁王立ちになり、洗い場からボクを見下ろしているキャルル。
その腰のくびれ具合に、ボクの目は打ち付けられたように釘付けになる。
「ふふっ、一生懸命見ちゃって……ボーヤ、そんなに気になる……?」
小悪魔のような笑みとともに、キャルルのタオルに手を伸ばすルルン。
スカートめくりをするみたいに、タオルの裾をめくりあげ……!
「特別サービス……ぴらっ!」
ぷっくりした何がが見えそうになった瞬間、ボクはひっこ抜くように頭を振って、慌てて視線をそらした。
「きゃ!? もう! ルルンお姉ちゃん! いきなりめくらないでよぉ!?」
「いーじゃん、どーせ見せちゃうんだし」
「そ……そうだけど……でも、ウチにも心の準備ってもんが……」
姉妹は視界の隅でとんでもない会話をはじめたので、ボクはぎょっとなる。
「ちょ……!? ふたりとも、見せるって、なにを……!? それに、ボクが入ってるんだよ!? なんで入ってくるの!?」
すると……返事のかわりのように、ちゃぷん、と湯船に片足を浸ける音がした。
身体を強張らせるボクの間近に、気配が迫ってきたかと思うと……ひたすら柔らかい物体が、頭の上に乗せられる。
「なんで入ってくるのか、って……決まってんじゃん。ね、ルルンお姉ちゃん?」
「そう。この家ではね、従業員は一緒にお風呂に入る決まりなの」
「ぼっ……ボクは……従業員じゃ……ない……よ……?」
自然と荒くなる息に、声も絶え絶えになる。
頭上にあった水風船みたいな物体が、にゅるん、と滑り落ち……ボクの肩の上に乗った。
「もう従業員みたいなもんじゃん。ウチの厨房でパンを作ったんだし」
「そーそー、だからこうやって、疲れを労ってあげなきゃね。でもさぁ、キャルル、こんないー男を捕まえてくるなんて、マジグッジョブ!」
ボクは別に、キャルルに連れてこられたわけじゃないけど……と思ったけど、訂正はしなかった。
もう言葉も出そうになかったし……それに、それに……。
肩に乗ったスライムみたいなのが、懐くみたいにむにむにとボクの頬にめり込んできて……それどころじゃなかったんだ……!
「でっしょぉ~? でもね、アンノウンってば前はこんなにイケてなかったんだよ」
「ああ、そういえばそんなこと言ってたね」
「なんにもできないクセに、意味わかんなことばっか言ってて……マジウザかったんだよね。意味わかんないことばっか言うのは今も変わらないんだけど……でも、なーんか違うんだよね」
「そうなんだ、ウチからしたら、なんかちっこいのにヤル男ってカンジがして、超イケてね? ってカンジなんだけど」
「う~ん……悔しいんだけど、マジそうなんだよねー。今日、塔にいるときにウチがウサギっちにチョッカイ出したんだけど……アンノウンにマジギレされちゃってさぁ。どかーん! って壁をブッ壊したんだよ?」
「ええっ? それ、マジヤバくね?」
「うん。コイツやべぇ、マジ殺される、って思ったもん。でも同時に、なんかイイな……って思っちゃったんだよね」
ボクの肩を胸置きにしながら、ボクの噂話をする姉妹。
でも、そうなんだ……キャルルって、良くも悪くも裏表がない性格。
陰でも言うことは、本人にも面と向かって言うタイプなんだ。
ボクはしょっちゅう、これみよがしに罵られてきたけど……まさか褒められる日が来るだなんて、思ってもみなかった……!
それも……胸を顔に押し当てられながら……!
ブラウスごしのキャルルの胸をチラ見するだけで……いや、想像するだけでもボクはドキドキしてしまう。
でも、いまは実物が……むき出しの実物が、間近にあるんだ……!
もうドキドキどころじゃない……ボクの心臓はガンガンと、早鐘を打ちっぱなし……!
お風呂は適温なのに、身体は煮こまれているみたいに熱くなっていたんだ……!
ボクが茹でられるロブスターみたいになっていると、不意にアゴに手が当てられる。
そのままクイッ、と上を向かされると……吐息がかかりそうな距離に、姉妹の顔があった。
お色気で落とそうとする美人婦警みたいに、囁きかけてくるキャルル。
「……アンノウン……実はウチ、アンタを利用してやろうと思ってたんだよね……アンタの強さで金を稼いで、この店の借金を返そう、って……でもまさか、ウチの憧れのパンまで作っちゃうだなんて……マジ意外。いったい急にどうしちゃったの? 何かスゴイ秘密でもあんじゃないの?」
湯気なのか、のぼせているのか、ボクの視界は白く霞んでいた。
意識も自白剤を受けたようにボンヤリしていて……知っていることだったら何でも白状しちゃいそうになっていた。
「わ……わかんない……ずっと妄想してたスキルが使えるようになってて……それで、いろいろできるようになったんだ……」
「ふぅん……」と動く、桃色の唇。
赤いナメクジのような舌が這い、濡れ光った。
「……じゃあさ、そのスキル……ウチらのためにもっと使ってよ。ウサギやマニーにしてあげてるみたいに……」
「いいっしょ? ……ね? そしたら、毎日こうしてあげる」
むにゅぅぅぅ……と顔に押し当てられる、ふたつのおもち。
ボクはついに、溺れてしまった。
塔でキャルルに抱きしめられたときは、ブラウスごしだったけど……今は違う……!
タオルすらない、ぴちぴちで、すべすべしたものが……ボクの顔を埋め尽くす……!
顔の型取りをするみたいに、ぴったりと吸い付いてくる柔肉。
またしても、ボクはキャルルによって五感を支配されてしまった。
目も鼻も口も耳も塞がれる。
クリーム色の視界の中……とくん、とくん……という音だけがやさしく響く。
やわらかくて、あたたかくて、落ち着く………まるで、お母さんのおなかの中にいるみたい……。
ボクは息もできなくなっていたけど、そんなことすら気にならなくなっていた。
このまま……死ぬのも……いい……かも……と思いかけた瞬間、
スパァァァァァーーーーーーーーーーンッ!!
勢いよく、浴室の戸が開かれる音がした。
ズカズカ、じゃぼんと音が続いたあと、腕をガッと掴まれる。
乱暴な産婆さんに取り上げられる赤ちゃんみたいに、ボクは現実に引き戻された。
しかし、それも一瞬、
……ぽよんっ!
また柔らかい感触が、エアバックのように衝突してきた。
「……お前ら、なにをやっているんだ! ちょっと目を離したスキに、アンノウンと一緒に入浴だなんて……ふしだらにも程があるぞ!」
「マニーっち、そういうアンタも一緒に入ってんじゃん」
「俺はふしだらを正しに来ただけだ!」
「その割には、全部脱いでんじゃん。……それにアンタ、男のくせになに全身にバスタオル巻いてんの? 男ならフツー腰だけだろ」
「そっ……それは……ええっと……き、貴族は本来、湯浴みを着て入浴するんだ! それがないから、仕方なくバスタオルを巻いて……!」
マニーがバスタオルを巻いている理由を、ボクは知っている。
いまは知っているというよりも……顔面でひしひしと感じていた。
ふと、その中に平らな感触があるのに気づく。
何だろう、コレ……? と思っていると、
「マニーっちも、ウサギっちも、ウチらのマネすんじゃねぇーよ! アンノウンを抱きしめたのは、ウチらが最初だったんだからね!」
それで気づく。ウサギもボクにバスタオルごしの胸を押し当てていることを……。
姉妹からボクを取り戻したウサギとマニーが、守るようにひしっと抱きしめてくれているんだ……。
「そんなことに、先も後もあるか! アンノウンは俺たちの仲間だ! 誘惑するんじゃない! このサキュバスどもめ!」
「おい、いまなんつった!? おめーみたいな男女に言われたくねぇーんだよっ! 男どうしで抱き合うなんてキモいんだよ! アンノウンをこっちに渡せ!」
「だっ……誰が男女だっ!? それに、アンノウンは渡さんっ!」
「まーまー、ケンカすんなって。要はみんなアンノウンが好きだってコトっしょ? だったらさ、みんなで抱きしめりゃいいだけじゃん」
そして、ボクは後頭部に懐かしい柔らかさを感じる。
……って、気づいたときにはもう手遅れ。
ボクはもう、逃げ場のない肉の檻に、完全に閉じ込められてしまった。
右も左も、上も下も、ど、どこもかしこもぷるんぷるん……!
助けを求めて伸ばした手にすら、弾力に包まれて……!
も、もう……何がなんだか、どこがどうなっているのか……さっぱりわからないっ……!!
心音はすでに早鐘を通り越し、ビーッとひとつに繋がっていた。
まるで、フラットになってしまった心電図のように……!
……プツン、とボクの中で、何かが切れる。
「あれ? アンノウン、なんかグッタリしてね?」
「わあっ!? 血だ! 出血してるぞ!?」
「あっはっはっはっはっ! なにこれ、チョー鼻血ブーじゃん! 蛇口みたい! チョーウケる! あっはっはっはっはっ!」
ピンク一色に染めあげられた頭のなかで、ボクは甲高い笑い声だけを聞いていた。




