05 立ち往生しているクラスメイト、その時ボクは…!
「ウサギ、そろそろ行こうか。せっかくだから、いっしょに行こうよ」
ボクはウサギを誘ってみた。
すると彼女はなぜか大慌てで、わたわたとスケッチブックになにかを書きはじめる。
絵のときとは違い、何度も書いては消し、書いては消しをしたあと、
『わたしでよかったら』
と返事があった。
その一文を書くのに、なにをそんなに手間取ってたんだろう……?
と不思議に思ったけど、まぁいいか、と思ってウサギといっしょに行くことにした。
まるでカルガモの子供みたいに、ボクの後をトコトコついてくるウサギ。
ふたりして灰色の通路を歩いていると、遠くからかすかな歓声が聞こえてきた。
「……きっと、みんなの声だ……! 行ってみよう、ウサギ!」
ボクとウサギは先を急ぐ。
すると、廊下みたいな通路から広い場所に出た。
部屋に足を踏み入れたとたん、足元をじゃりっとした感触に襲われる。
床が急に砂利になったので、不意を突かれたボクとウサギはふたりしてドキッとなってしまった。
長方形で、体育館みたいにだだっ広い場所。
真ん中には幅の広い溝が横たわっていて、先行していたクラスメイトたちはそこで立ち往生しているようだった。
行く手を阻む溝は深く、底が見えない。
向こう岸までかなり距離があるので、飛び越えて渡るのも無理そうだ。
対岸には跳ね橋。
たもとにはトロッコが走るレールの分岐器みたいな、大きなレバーがある。
レバーは手前側を向いていて、どうやらアレを奥に倒せば跳ね橋がおりるようだ。
クラスメイトたちはこぞってワーワーと叫びながら、レバーに向かって足元の石を投げつけている。
石がレバーに命中するたび、少しずつ奥のほうに動いているようだが……微々たるものだ。
ボクとウサギはその様子を、遠巻きにしばらく見ていたんだけど……しばらくしてみんなへばってしまった。
いちばんいい場所に陣取って石を投げていたゴンとレツも、肩で息をしている。
「はぁ、はぁ、はぁ……こんなの、無理じゃねぇか……! ずっと石を投げてるのに、ちょびっとしかレバーが進んでねぇぞ……!」
「こんなの、日が暮れちまうよ……! おい、サル! お前『盗賊』なんだろ? 壁を伝って向こう側に渡れよ!」
レツがクラスメイトいち身軽な『サル』に向かって言う。
しかしサルは、「とんでもない」とばかりに首を振る。
「無理ッスよ! 天井と壁には針があって、渡れないようになっているッス!」
よく見ると確かに、溝のまわりにある天井と壁には、ツララみたいなのがびっしりと突き出ていた。
「くそっ! 役立たずめ! いったいどうすりゃいいんだよ……!?」
クラスメイトたちを、絶望が支配する。
「これ以上、進むのは無理なのかなぁ?」
「そんな……! せっかくここまで来たのに……!」
「成人して、やっと太陽の塔に入れたと思ったのに……こんなところで終わっちゃうの?」
「こんな所で帰るのなんて、やだよー!」
「3階までは観光階だって聞いたのに、こんなにガチだなんて……!」
「チョー最悪! マジありえないんですけどー!」
ボクはへたりこんでいるみんなの間をぬって、溝のそばまで移動する。
みんなはボクに気づいて見上げると、苦い顔をした。
「なんだよ……アンノウンかよ……」
「ウゼェ、あっち行けよ……」
「チッ、邪魔なんだよ……」
「何もできねぇクセして、しゃしゃり出てくるんじゃねぇよ……」
「見て見て、アイツ、スイッチに向かって手をかざしてるよ……?」
「なにアレ、超ウケるー!」
「ごっこ遊びをしている場合じゃないのに……なんでアイツ、あんなに空気読めないの……」
「アタマおかしいんじゃね? マジキモいんですけど……!」
……ガコォォンッ……!
クラスメイトたちに「黙れ」といわんばかりに……スイッチの倒れる音が、室内に響きわたった。
続けざまに、
……ガラガラガラッ……ドッシャァァァァーーーンッ!!
一喝するような轟音とともに跳ね橋が降りてきて、目の前に叩きつけられる。
クラスメイトたちは一様に、落雷を受けたかのように肩をビクッとわななかせていた。
ウサギに至っては、いちばん離れた場所にいるにもかかわらず、飛び跳ねるほどに仰天していた。
ボクは、まだ何が起きているか飲み込めていないような、唖然としているクラスメイトたちを見下ろしながら教えてやる。
「……これが、『テレキネシス』……! 『第7世界』の……わあっ!?」
しかし途中で体当たりをくらい、遮られてしまった。
「どけっ! アンノウン!」
「いちばん乗りは俺だっ!」
「邪魔だっ、アンノウン! あっち行けよっ!」
「ボーッと突っ立ってんじゃねぇっ!」
「遅れるなっ、みんな行こうっ!」
「やったー! これで冒険が続けられるー!」
「でもさ、なんでレバーが倒れたんだろう!?」
「偶然じゃね?」
「いや、ウチらの日頃の行いが良いからっしょ!」
「いやあ、マジで超ラッキーじゃん!」
クラスメイトたちは我先にと跳ね橋を渡り、部屋から出ていった。
壁際まで押しのけられたボクを助け起こしてくれたのは、他ならぬウサギ。
『大丈夫?』
「うん、なんとかね。まったく……ボクのテレキネシスを偶然だなんて……」
『てれきねしす?』
「うん、『第7世界』にある超能力のひとつなんだ。手を使わずに物を動かせるんだよ」
ボクは床に向かって手のひらをかざし、手近な石を浮かせてみせた。
ただの石なのに、未知なるものに遭遇したかのように後ずさるウサギ。
かざした手を溝に向かって振ると、浮いていた石は勢いよく飛んで穴へと吸い込まれていく。
「まぁ、こんな感じで自由自在なんだ、なにか手の届かなそうなモノを見つけたら教えてね」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
クラスメイトたちに少し遅れをとったものの、ボクとウサギは跳ね橋を渡り、先へと進む。
部屋を出ると……初めての分かれ道が現れた。
それも、二本道や三本道どころじゃない。
両手の指みたいに、いくつもの通路が広がっている。
これまでずっと一本道だったので、ちょっとは分かれ道が欲しいと思っていた。
でも、ここまで一気に分かれなくても……とボクは面食らう。
「ウサギ……どの道を行く?」
振り向くとすでにウサギはスケッチブックを構えていて、それには『おまかせします』と書かれていた。
「わかった。じゃあ、いちばん左端から行こっか。たとえ途中が行き止まりで、引き返したとしてもわかりやすいし」
こくり、とセミロングの髪を揺らすウサギ。
「だけど、用心してね。先行したみんなと違う道だった場合、モンスターがいる可能性があるから……ってウサギ、武器は持ってないの?」
そこでボクは気づいた。
ウサギは鎧にリュックサックを背負っているだけで、武器らしいものを携えていないことを。
『鎧でぜんぶおこづかいを使っちゃって……』
申し訳なさそうに肩身を狭くしているウサギ。
「そうなんだ。じゃあボクが作ってあげるよ」
ボクは『錬金術』を使って、手際よく鉄を抽出する。
その時なにげなくステータスウインドウを見てみたんだけど、MPがかなり減っていた。
「あ……これじゃ、剣と盾を作るのは無理かなぁ……じゃあ、ボクの剣と盾をあげるよ」
すると、ウサギはアセアセしだした。
両手をパタパタさせて断ってくる。
「気にしなくていいよ。ボクは別の武器を作るから」
遠慮するウサギに剣と盾を握らせると、ボクは鉄をナックルダスターに変えた。
大きな剣や盾に比べ、小さなナックルダスターなら少ないMPで作れるんだ。
【鉄のナックル】(戦闘力+6)
よし……! できた……!
さっそく手にはめてみる。
試しにシャドーボクシングをやってみたんだけど、普段からごっこで振り回していた剣と違い、いまいちパンチにキレがない。
もしやと思い、『潜在能力』の『波動弾』に1ポイント振ってみた。
すると……見違えるようにパンチが鋭くなる。
やっぱりそうだ……!
スキルにポイントを振ると、その関連した技能が向上するんだ……!
まるで、手足に羽根が生えたみたいだ……!
拳のスピードは増し、脚がいつもよりずっと高くあがる……!
「シュッ! シュッシュッ! えいっ! やっ! ……せえぇいっ!」
ボクは自分の身体を確かめるように、ひとしきり突きや蹴りを繰り出したあと……自然と残心のポーズを取っていた。
「よし、オッケー……! じゃあ行こうか……!」
ポカンとしているウサギに向かって、ボクは言った。
■□■□パラメーター□■□■(現在の階数:1階)
□■□■スキルツリー■□■□
今回は『波動弾』に1ポイントを割り振りました。
未使用ポイントが1あります。
括弧内の数値は、すでに割り振っているポイントです。
●潜在能力
必殺技
(1) LV1 … 波動弾
(0) LV2 … 烈蹴斬
(0) LV3 … 龍昇撃
●錬金術
風錬
(1) LV1 … 抽出
(0) LV2 … 風薬
(0) LV3 … 旋風
火錬
(1) LV1 … 変形
(0) LV2 … 火薬
(0) LV3 … 噴火
地錬
(0) LV1 … 隆起
(0) LV2 … 地薬
(0) LV3 … 地震
水錬
(0) LV1 … 陥没
(0) LV2 … 水薬
(0) LV3 … 奔流
●サイキック
ニュートラル
(1) LV1 … テレキネシス
(0) LV2 … クロスレイ
(0) LV3 … テレパシー
●彩魔法
灰
(0) LV1 … フリントストーン
(0) LV2 … プラシーボ
(0) LV3 … ウイッシュ