43 剣の道
マニーの膝枕から抜け出したボクは、ベンチに腰かけなおした。
隣のウサギとマニーは、まだお休み中。
マニーはうつむいたまま、水飲み鳥みたいにこっくりこっくりしている。
そのたびに、膝で寝ているウサギの顔面にキスの雨を降らせていた。
ああっ!? う、うらやま……! あ、いや、違う……危ないところだった……!
抜け出すのがあとちょっと遅かったら、あのキスの雨の恵みを……あ、いや……餌食になっていたところだった……!
ボクは複雑な気持ちで胸をなでおろす。
ウサギが悪夢を見ているみたいにうなされはじめたけど、途中で起こすのも何だと思い、そのままにしておく。
ふたりが目覚めるのを待つあいだ、ステータスウインドウを開いてみた。
ヒマつぶしがわりに、ステータスを確認してみることにしたんだ。
ボクのレベルはいま13。
3階のボスフロアでモンスター軍団と戦う前はレベル10だったのに、一気に3もあがってしまった。
ボクはなにもしてないのに……。
どうやら『降臨術』で召喚した妖精や英霊がモンスターを倒した場合、何分の一かの経験値が召喚主にも入るようだ。
それにしても……ムサシの一撃はスゴかったなぁ……。
斬馬刀をひと振りしただけで、あんな簡単にカマイタチを出すなんて……。
しかも、そのサイズも規格外。
野球場みたいな広い場所の、端から端まで埋め尽くすほどの超巨大なヤツだった……。
あ、ちなみに野球場ってのは、『野球』っていうスポーツをするためのグラウンドのこと。
こっちの世界にはないスポーツなんだけど、他の世界では盛んなんだ。
国家間の紛争を、戦争のかわりに『野球』で決着をつける世界もあるほど。
野球をするチームには熱狂的なファンがついていて、まるで信者みたいに……。
……あ、そんなことは今どうでもいいんだった。
それよりも気になるのは、あんなカマイタチを出したムサシがボクのことを、『師匠』って呼んでいたことだ。
ムサシは生涯を通して、どんな権力者に対しても頭を垂れなかったという。
ただひとり、彼を負かした人間を除いて……。
それをボクにあてはめた妄想なら、イヤっていうくらいしてきたけど……まさか本当にムサシに会えて、しかも師匠って呼んでもらえるなんて……まだ夢のなかにいるみたいだ……。
まぁ、人違いだとは思うけど……もしかしたらボクって、剣術の才能を秘めているのかもしれない。
ひとりチャンバラごっこなら、木の枝にぶらさげた薪を相手に、それこそ毎日のようにしてたし。
今までは『必殺技』のスキルを活かすために、敢えてナックルを使ってたけど……これからは剣の道を進むのもアリかもしれない。
……よし、決めた! これからは剣術だ……!
レベルアップで獲得したスキルポイントを、剣術よりの割り振りにしてみよう……!
ボクは30あるスキルポイントを、『強靭』に10、『敏捷』に4、『器用』に14、『精神』に2を振ってみた。
これでよし、っと……!
ムサシは著書である『五輪書』で、こう記している。
『武士道とは死ぬ事と見つけたり、と云われるが、剣士道は生きる事を見出すものである。そして感情にくみしない強靭な肉体があってこそ、生きるための剣が振れる。これは我が師に教わった言葉で、私が生涯にわたって守ってきたことである』
ムサシは『強靭』さこそが、活きた剣……すなわち強力な剣を振るうために必要なものだと言ってるんだ……!
しかしボクはふと、違和感を抱いた。
いまボクは、ムサシの言葉に習っている。
仮にボクがムサシの師匠だったとして、『強靭』さの大事さをムサシに説いたんだとしたら……ボクが教えたことを、ムサシを通してまたボクが習ってるってことになるよね……。
なんだか頭がこんがらがってきたので、それ以上考えるのはやめにした。
よし、ステータスはこれでいいとして……次はスキルポイントだ。
3レベルあがったおかげで、残しておいたポイントとあわせて7ポイントもある。
なにか剣術に役立ちそうなスキルでも……と思っていたら、『英霊召喚』の項目がグレーアウトしていることに気づいた。
あっ……!
これは『クールダウン』だ……!
スキルはそれぞれに決められたMPを消費して使うんだけど、それとは別に、再使用するための休み時間のようなものも設けられている。
強いスキルほど多くのMPを消費し、さらには長い休み時間を必要とするんだ。
強力なスキルになると、1日に1回とかしか使えない。
超強力なスキルになると、次の満月の夜を経るまで使えない、なんてのもある。
『英霊召喚』はたしかに強力だった。
なんたって、戦闘能力1万相当のモンスター軍団を軽々とやっつけちゃったんだから。
ボクは軽く落ち込む。
ああ……次の戦いでもまたムサシを召喚しようと思ってたのに……。
再び使えるようになるのは、いつになるんだろうなぁ……。
またしても悩みそうになっちゃったので、それ以上考えるのはやめにした。
スキルツリーに注意を戻す。
なにか、いいスキルはないかなぁ……と眺めていると、新たなるスキルが目に入った。
『ミュータント』の『アニマル』……!
これはたしか、第81世界のやつだ……!
第81世界では普通の人間が、あるきっかけによって突然変異を起こし、ミュータント化することがある世界。
きっかけというのは遺伝だったり、科学の実験だったり、放射能だったり……理由は様々なんだけど、ミュータント化した人間は、常人にはありえない身体能力を得るんだ。
スキルツリーには、『エレファント』『ドルフィン』『イーグル』の3つがある。
おそらくそれぞれ、嗅覚の強化、聴覚の強化、視覚の強化だと思う。
こうして見ると、『超感覚』スキルの『味覚』『音感』『声帯』似てるんだけど、微妙に違う。
『ミュータント』は感じとる能力を強化する。
たとえば『ドルフィン』だと耳がよく聞こえるようになり、遠くのヒソヒソ話とかでもハッキリ聴きとれるようになるんだ。
『超感覚』は感じ取ったあとの能力を強化する。
たとえば『音感』だと、耳で聞いた音をすべて音階で感じとれるようになるんだ。
なんにしても、『ミュータント』スキルはぜんぶこれからの冒険に役立ちそうだったので、さっそく1ポイントずつ振ってみた。
これでよし……!
さぁて、他にもいいスキルはないかなぁ……とスキルツリーを流していると、さらなる新スキルを発見する。
その名も『五輪書』……!
ムサシの著書と同名の、このスキル……!
間違いない……『第5世界』の剣術スキルだ……!
『五輪書』は5つの巻から構成されている。
『地の巻』『水の巻』『火の巻』『風の巻』『空の巻』。
でも今回追加されたのは、剣術の基礎である『地の巻』だ。
きっとボクの剣術がまだまだだから、コレひとつだけなんだろう。
ボクは剣に興味を持ちはじめていたんだけど、その気持ちがさらに膨らんでいくのを感じていた。
……よぉし!
こうなったら、剣の道を極めて……ムサシみたいになってやるぞっ!
『地の巻』にある項目は、『大地の型』『不動峰巒剣』『x刀流』のみっつ。
さっそくそれぞれにポイントを振ってみる。
なかでも憧れだったのは『x刀流』……!
これは剣聖となったムサシが創った八刀流剣術である、『八天一流』の基礎となるスキルだ。
かけたスキルポイントの数だけ、使いこなせる剣の数が増えていく。
たとえば2ポイントなら二刀流、3ポイントなら三刀流といったふうに。
ボクは1ポイントだけを残し、『地の巻』のスキルをすべて取得した。
よし、これでまた一歩、ムサシに近づいたぞ……!
この調子でいつかきっと、モンスター軍団をひと太刀で倒せるほど強くなってやるんだ……!
静かな大広間で、ボクはひとり熱い思いを燃え上がらせる。
すると水をさすように横から、「うにゃぁぁぁ」と緊張感のない悲鳴が聞こえてきた。
目覚めたウサギが、顔をキスマークだらけにさせられながら……じたばたともがいていたんだ。
■□■□パラメーター□■□■(現在の階数:4階)
□■□■スキルツリー■□■□
今回は『エレファント』と『ドルフィン』と『イーグル』と『大地の型』と『不動峰巒剣』と『x刀流』に1ポイントずつ割り振りました。
未使用ポイントが1あります。
括弧内の数値は、すでに割り振っているポイントです。
●五輪書
地の巻
(1) LV1 … 大地の型
(1) LV2 … 不動峰巒剣
(1) LV3 … x刀流
●ミュータント
アニマル
(1) LV1 … エレファント
(1) LV2 … ドルフィン
(1) LV3 … イーグル
●サイキック
ニュートラル
(4) LV1 … テレキネシス
(1) LV2 … クロスレイ
(1) LV3 … テレパシー
ダークサイド
(1) LV1 … ダークチョーカー
(0) LV2 … エナジードレイン
(0) LV3 … マインドコントロール
●潜在能力
必殺技
(1) LV1 … 波動弾
(1) LV2 … 烈蹴斬
(1) LV3 … 龍昇撃
打撃必殺技
(1) LV1 … xカウンター
(1) LV2 … 爆裂拳
(0) LV3 … 点穴
●超感覚
モーメント
(1) LV1 … 思考
(0) LV2 … 記憶
(0) LV3 … 直感
パーフェクト
(0) LV1 … 味覚
(0) LV2 … 音感
(0) LV3 … 声帯
●降臨術
妖精降臨
(1) LV1 … 戦闘妖精
(1) LV2 … 補助妖精
(1) LV3 … 生産妖精
英霊降臨
(1) LV1 … 戦闘英霊
(0) LV2 … 補助英霊
(0) LV3 … 生産英霊
●リバイバー
カオツルテクト
(0) LV1 … 蝸
(0) LV2 … 蛞
(0) LV3 … 蛭
●料理
見習い
(1) LV1 … 下ごしらえ
(1) LV2 … 焼く・炒める
(1) LV3 … 茹でる・煮る
コック
(1) LV1 … 盛り付け
(1) LV2 … 揚げる・漬ける
(0) LV3 … 燻す・焙煎
●錬金術
風錬
(1) LV1 … 抽出
(0) LV2 … 風薬
(0) LV3 … 旋風
火錬
(1) LV1 … 変形
(0) LV2 … 火薬
(0) LV3 … 噴火
地錬
(1) LV1 … 隆起
(0) LV2 … 地薬
(0) LV3 … 地震
水錬
(1) LV1 … 陥没
(0) LV2 … 水薬
(0) LV3 … 奔流
●彩魔法
灰
(0) LV1 … フリントストーン
(0) LV2 … プラシーボ
(0) LV3 … ウイッシュ




