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42/152

42 4階へ

 ボスフロアのモンスターが一掃されると、最深部にある壁がせりあがりはじめた。

 ただでさえ広い部屋が、またさらに広大になっていく。


 あまりのスケールの大きさに、もうスポーツでもなんでもできそう……なんてどうでもいいことを考えていると、隣から咳払いが聞こえた。


 ボクを抱きしめていたマニーが、引き剥がすように両手で突っぱねてきたんだ。



「……尋ねたいことは、いろいろあるが……ともかく、ボスは倒せた。見ろ、4階への階段が出てきているぞ。今は4階に行くことだけを考えよう」



 いろいろ尋ねられても、ボクも何も答えられないけど……と思いつつも、先に進むのは賛成だった。



「うん。じゃあ行こっか。ウサギもいいよね?」



 ウサギはいつも以上にぽややんとしながら、虚ろな感じで頷いていた。

 目まぐるしい出来事の連続に、思考が置き去りになっているようだ。


 実をいうと、ボクもそう。


 ボスのモンスター軍団に肝を冷やし、錬金術でみんなを助けたはいいけど、突き落とされて……イチかバチでやった英霊召喚で、伝説の剣豪が出てきて、一瞬で殲滅しちゃって……しかもその剣豪は、ボクの弟子で……。


 時間にしたら三十分も経ってないと思うんだけど、信じられないことばかりが起こり、興奮しっぱなし。

 瞳孔は開いたままで、熱もぜんぜん覚めなくて……身体がずっと火照っているんだ。


 ボクら3人は風呂あがりのように顔を紅潮させたまま、階段に向かって歩きはじめる。

 足元にドロップアイテムが大量に転がっているので、邪魔でしょうがない。



「……せっかくだから、拾っていくか。全部は無理だから、高そうなものだけを選ぶんだ」



 マニーに言われて、ボクらは道すがらに落ちているアイテムのうち、良さげなヤツだけを選んで拾っていく。

 それがまた宝の山だったので、ボクらの体温はまた跳ね上がってしまった。


 財宝の部屋に入ったみたいに、夢中になってかき集めていると……石柱の上にいるクラスメイトたちが大声で呼びかけてきた。



「お……おーいっ! アンノウン! ちょっと待てよっ!」



「お前らだけ、ずるいぞっ!」



「俺たちにもよこせよぉっ!」



「ちょっと、これ、なんとかしてよぉ! 降りられないじゃない!」



「どうやったコレ、引っ込むんだよっ!?」



 ボクはひと休みするついでに立ち上がって、やまびこのようにみんなに向かって叫んだ。



「もうちょっとしたら引っ込むはずだから、それまで待っててー!」



 本当は任意で引っ込めることもできるんだけど……このくらいの意地悪ならいいよね。


 ボクらはクラスメイトたちのヤジを聞きながら、4階への階段を登った。



  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 ……ゴォォォォォーーーーーンッ……!



「……はっ!?」



 頭の中に鳴り響いた音に、ボクはパッチリと目を見開く。

 寝転がったまま、何事かと瞳をキョロキョロさせると……そこは4階の大広間だった。



 ……ゴォォォォォーーーーーンッ……!



「あ……な、なんだ……鐘の音かぁ……」



 音の正体に気づき、胸をなでおろす。


 4階に辿り着いたボクらは、真っ先に係のオジサンに到達スタンプを押してもらった。


 観光階と呼ばれる3階を、ついに抜けたんだ……!

 3階までは強いモンスターが出なくて楽だって聞いてたけど、とんでもない……!


 たぶん、普通に進んでいればそうだったんだろうけど、冒険者ギルドの人たちに目をつけられたせいで、何度も死にそうな目にあった……!


 でも、なんとか4階までやって来た……!

 これでボクらもようやく、観光客から冒険者になったんだ……!


 今までいろいろあったせいか、身体を満たす達成感と疲労感がものすごい。

 ずっと張り詰めていた緊張の糸が、すっかり切れてしまったようだ。


 ボクらは急にフラフラになってしまう。

 休むならキャンプスペースに行くべきなんだけど……手近なベンチに腰掛けると、そのままストンと眠ってしまったんだ。


 どのくらい寝ちゃったんだろう。いつの間にか頭には枕がある。

 この枕がまた具合がよかったせいで、すっかり熟睡してしまった……なんて思いながら上を向くと、端正な顔のどアップがあった。



「うおっ!?」



 驚きのあまり、ボクの身体に電気ショックが走る。

 思わず飛び起きそうになったんだけど、ここで動いたら大変なことになると思い、ギリギリでこらえた。


 鼻どうしがチョンと付くくらい、近くにあったのは……マニーの顔だったんだ……!


 そして上質の枕の正体に気づく。

 ぼ、ボクが今、頭に敷いているのは……マニーの太もも!?


 女の子に膝枕してもらうなんて、生まれて初めてのこと……!

 しかもこんなに顔が近くにあるだなんて……!


 マニーは長いまつ毛を閉じたまま、安らかな寝息をたてている。

 どうやら寝ているうちに、前にうなだれてしまったようだ。


 鼻息が顔にかかって、くすぐったい……!

 思わず身体をよじっちゃいそうになったけど、それすらもできないことに気づく。


 マニーの唇が、ちょうどボクの唇の真上にあって……数ミリしか離れていなかったんだ……!



「んっ……んんっ……」



 血色のいい唇が動き、色っぽい寝言が漏れる。

 あたたかい吐息を感じ、ボクは彫像のように固まってしまった。


 どっ……どうしよう……!?

 こっ、このままじゃ……くっ、唇どうしが触れ合っちゃうよ……!?


 ボクの心臓は、かつてないほどの早鐘を打つ。

 石柱から突き落とされた時よりも、モンスター軍団に迫られた時よりも、ムサシに出会ったときよりも……ずっとずっと、バクバクいってる……!


 このままじゃ心臓が胸を突き破って、どこかに飛び出していっちゃいそうだ……!


 ただただ震えることしかできないボク。

 脳内では、天使と悪魔が言い争う声が響いていた。



「おい、アンノウン……! 絶好のチャンスじゃねぇか! お前、ともに冒険した女の子と、焚き火の明かりに照らされながらキスをするのが夢だったんだろ!? シチュエーションはちょっと違うけど、いいじゃねぇか! ヤッちまえよ、ブチューって!」



「そそのかしちゃダメだよ悪魔くんっ! 女の子が寝ているスキに、唇を奪うだなんて……最低の男がすることだ!」



「なんだよ……天使の野郎、邪魔すんじゃねぇよ! じゃあなにか!? お姫様をキスで目覚めさせた王子様は、みんな最低の男だっていうのか!?」



「それとこれとは別だろ!? マニーさんは呪いで眠ってるんじゃない! 疲れて眠っているだけだ! いずれ自然と目が覚める! なのにキスをするだなんて……寝込みを襲うのも同然じゃないか!」



「いーや、別じゃないね! ようは、俺が言いたいのは……お姫様に望まれてるか、そうじゃないかってことだ!」



「……!? マニーさんは、アンノウンくんからのキスを望んでるっていうのかい!?」



「そうだ! 夜這いも女が嫌がれば強姦になるけど、望まれれば愛の営みになる……それと同じだ!」



「マニーさんが望んでいるっていう証拠はあるのか!? どこにもないだろ!?」



「……バカだなぁ、そんなだからお前はいつまでたっても三流天使なんだよ。アンノウンの状態をよく見てみろ!」



「アンノウンくんの状態……ああっ!?」



「そう……膝枕だ! アンノウンの野郎は、マニーに膝枕をされているんだ! 好意のない男相手に、そんなことするか!?」



「ううっ……! た、確かにっ……!」



「そうだろう? だからキスのひとつやふたつしたところで、マニーは怒らない……! むしろ、王子様のキスを受けたお姫様のように……ベタ惚れになるに違いないんだ……! わかったらもう邪魔すんな! あっちにいって……」



 ふと、ボクの頭にコツンと何かが当たり、論争が中断される。



「うぅん……」



 頭上から聞こえてくる寝言。

 それは、マニーの色っぽいものとは違い、子供らしさであふれている。


 も、もしかして……ボクのすぐ上に、ウサギの頭がある……?


 ……と、いうことは……!


 「ちょっと待ったぁ!」と天使が息を吹き返した。



「ウサギさんも膝枕されているということは……悪魔くん! キミの説は完全に覆ることになる!」



「な……なんでだよっ!?」



「まず、アンノウンくんとウサギさん、ふたりに膝枕をしているということは……純粋にアンノウンくんだけに好意を抱いているわけではないということになる! 迷っている可能性が大ということだ! そんな複雑な心境にいる、乙女の唇を奪うのは……マニーさんだけじゃない、ひいてはウサギさんをも傷付けることになってしまうんだぞ!」



「ぐっ……!」



「それに、ウサギさんも膝枕されているという事実は……新たなる説が浮上することを意味している……!」



「新たなる説だとぉ!? なっ……なんだ、それは!?」



「それは……マニーさんは、膝枕をしたくてしたわけじゃない……! 寝返りをうった拍子に、アンノウンくんとウサギさんが、マニーさんの膝にぐうぜん横になっただけという可能性だっ……!」



「なっ……!? なにぃぃぃぃっ!?」



「マニーさんは、したくもない膝枕をさせられていると考えてみるんだ……! その上、キスまでさせられたら……どうなるっ!? 彼女は海溝のように深く、傷つくことになってしまうんだぞっ……!」



「そっ、それは……やべぇぇぇぇぇぇっ! 悪魔ですら恐れる、鬼畜の所業だぁぁぁぁぁっ……!」



 殺菌されるバイキンのように、悪魔は消滅する。



「…………」



 冷静になったボクは、まるでレーザーの張り巡らされた部屋を抜けるスパイのように……慎重に慎重を重ねて、マニーの膝枕から抜け出した。

■□■□パラメーター□■□■(現在の階数:4階)

挿絵(By みてみん)


□■□■スキルツリー■□■□


今回は割り振ったポイントはありません。

未使用ポイントが7あります。


括弧内の数値は、すでに割り振っているポイントです。


●サイキック

 ニュートラル

  (4) LV1  … テレキネシス

  (1) LV2  … クロスレイ

  (1) LV3  … テレパシー

 ダークサイド

  (1) LV1  … ダークチョーカー

  (0) LV2  … エナジードレイン

  (0) LV3  … マインドコントロール


●潜在能力

 必殺技

  (1) LV1  … 波動弾

  (1) LV2  … 烈蹴斬

  (1) LV3  … 龍昇撃

 打撃必殺技

  (1) LV1  … xカウンター

  (1) LV2  … 爆裂拳

  (0) LV3  … 点穴


●超感覚

 モーメント

  (1) LV1  … 思考

  (0) LV2  … 記憶

  (0) LV3  … 直感

 パーフェクト

  (0) LV1  … 味覚

  (0) LV2  … 音感

  (0) LV3  … 声帯


●降臨術

 妖精降臨

  (1) LV1  … 戦闘妖精

  (1) LV2  … 補助妖精

  (1) LV3  … 生産妖精

 英霊降臨

  (1) LV1  … 戦闘英霊

  (0) LV2  … 補助英霊

  (0) LV3  … 生産英霊


●リバイバー

 カオツルテクト

  (0) LV1  … 蝸

  (0) LV2  … 蛞

  (0) LV3  … 蛭


●料理

 見習い

  (1) LV1  … 下ごしらえ

  (1) LV2  … 焼く・炒める

  (1) LV3  … 茹でる・煮る

 コック

  (1) LV1  … 盛り付け

  (1) LV2  … 揚げる・漬ける

  (0) LV3  … 燻す・焙煎


●錬金術

 風錬

  (1) LV1  … 抽出

  (0) LV2  … 風薬

  (0) LV3  … 旋風

 火錬

  (1) LV1  … 変形

  (0) LV2  … 火薬

  (0) LV3  … 噴火

 地錬

  (1) LV1  … 隆起

  (0) LV2  … 地薬

  (0) LV3  … 地震

 水錬

  (1) LV1  … 陥没

  (0) LV2  … 水薬

  (0) LV3  … 奔流


●彩魔法

 灰

  (0) LV1  … フリントストーン

  (0) LV2  … プラシーボ

  (0) LV3  … ウイッシュ

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