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41 ムサシの一撃

 膝を、腰を、首を……そしてプードルのしっぽみたいなチョンマゲ頭を、深く深く下げるムサシ。


 『第5世界』では無敵と呼ばれた剣豪が、なぜボクの前でそんなことを……!?


 もしかして貴族のマニーに頭を下げてるのかなと思ったけど、明らかにボクのほうを向いている。


 実はこれはムサシの新技で、このあとボクはまっぷたつにされちゃうんじゃ……!?


 ボクは混乱するあまり、悪いほう、悪いほうへと考えが及んでいた。


 すると、ムサシはパッと顔をあげる。

 さっきまでは(いわお)のように厳しかった表情が、ウソのようにほころんでいた。



「ご無沙汰しております、師匠! いやあ、本当に懐かしい!」



「えっ」



 言葉を失うボク。

 ムサシはしゃがみこんだまま、ごっつい両手でボクの手を包み込んでくる。


 その手が野球のグローブみたいに大きかったので、ボクは手を握りつぶされるんじゃないかと気が気じゃなかった。


 そう……そうなんだ。

 ムサシは手がでっかいんだ。


 多刀流を極めたムサシは、最終的には8本もの刀を同時に操るようになるんだけど……それは指と指のあいだに、柄をはさみこむようにして持っていたんだ。


 例えるなら、ボクらは給食のときにふざけて、指と指の間に箸を挟んで、爪みたいにするんだけど……ムサシはそれを刀でやっちゃうんだ……!


 ムサシの手はごつごつしてて、硬かった。でも、あったかかった。

 それでボクの警戒心は、だいぶほぐれる。



「あの……ムサシ……師匠って、ボクのこと? 人違いなんじゃ……?」



 ボクは恐る恐る尋ねたんだけど、豪快に笑い飛ばされてしまった。



「がっはっはっはっはっはっ! 会っていきなりの冗談……! 相変わらずですなぁ、アンノウン師匠!」



「えっ」



 そしてボクはまた、言葉を失う。


 なんで……なんであのムサシが……『第5世界』では知らぬ者がいないといわれた剣豪ムサシが……ボクの名前を知ってるの……?


 もう、何がなんだかさっぱりで……ボクはただただ立ち尽くすばかりだった。

 ムサシは背後のモンスター軍団に気づく。



「おっ、ワシが呼ばれたのは、あやつらを倒すためですな! アンノウン師匠が手こずるということは、かなりの手練れ……腕が鳴りますなぁ! では、ひさしぶりに……ともにひと暴れしましょうぞ!」



 ムサシはそう言うなり、ぐんと立ち上がる。

 大きな身体が動くと、まるで山が動いたみたいだった。


 口をあんぐり開けたまま見上げるボクに、ムサシは背を向ける。


 モンスター軍団は、英霊召喚の間は警戒して近づいてこなかったんだけど……出てきたのがオジサンひとりだとわかると、進軍を再開していた。

 もう数メートル先まで迫ってきている。


 ザッ! ザッ! ザッ! ザッ!

 幾重にも連なった足音が、ドラムを叩いているかのような重低音を響かせる。


 足元から突き上げてくるような音と振動に、ボクの心臓も弾む。

 ムサシとの出会いで、ひととき忘れていた脅威が蘇ってくる。


 ボク、ウサギ、マニーは自然と身体を寄せ合っていた。

 これだけの大軍相手にも、動じないムサシ。


 その大きな背中は、実に頼もしい……でも、いくら伝説の剣豪でも、これだけのモンスターをいちどに相手にするのは無理なんじゃ……!?


 ボクの不安をよそに、ムサシは準備運動をするように首をコキコキ鳴らしていた。

 その後、背中にバッテンの形で担ぐ、ふたつの刀……その柄に、おもむろに手をかける。



「さぁて、では参ろうか……!」



 力もちの大人でも、両手で担いでやっと持てそうな巨大な斬馬刀。

 それをムサシは、ススキの枝でも振るうみたいに、軽々と抜刀したんだ……!



「……ふんぬっ!!」



 ……ドッ……!!



 刹那、突風がおこる。



「うわああっ!?」「うおおっ!?」「ひぃやぁ」



 見えない壁のようなものが身体にぶつかってきて、ボクとマニーとウサギはひっくり返ってしまった。


 これは、剣圧……!

 剣の達人ともなると、剣を振るっただけで衝撃波のようなものを起こせるんだ……!


 彼の背後にいるボクらですら、ここまでの衝撃を受けるなんて……!

 正面にいるモンスターたちは、ひとたまりもないはず……!



 ……ガッ……キィィィィィィィィィィィィィーーーーーーーーーーーンッ!!!



 すぐ目の前で、ジェット戦闘機が飛び立ったような、耳をつんざく金属音が轟く。


 巨大な死神のカマが、横に薙ぎ払われたように……すべてのものが、ふたつに分かれている。

 空間に一本の筋が走り、横にずれている。割れた眼鏡ごしに世界を見ているようだった。


 モンスターたちは自分がまっぷたつになったもの理解できていない様子で、宙を舞っている。



 ……ドゴッ……ズゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーンッ!!!



 少し遅れて、遥か遠くにある対面の壁が……爆弾でも仕掛けられているみたいに一斉にえぐれた。


 モンスター軍団を一刀両断するだけでは飽き足らず、剣圧は壁まで達したんだ……!


 す……すさまじい破壊力……!

 戦闘能力1万といわれるモンスター軍団を、たったのひと太刀で全滅させてしまった……!


 大量破壊兵器のような一撃を放ったムサシ。しかし、その顔はなんだかすぐれない。

 「おかしいな?」みたいな表情で、首筋をボリボリ掻いていた。



「おや……? いまのは牽制のつもりだったのに、あっさり逝きおった……。アンノウン師匠が手こずるモンスターというから、さぞや手練揃いかと思っておったのだが……」



 霧散したモンスターによって、黒煙に覆われたら部屋を眺めながら……ムサシは刀をおさめる。

 踵をかえすと、スタスタとこちらにやってきて、倒れているボクらに手を差し伸べてくれた。



「む、ムサシ……や、やっぱり、伝説の剣豪と呼ばれているだけあって、強いね……」



 ボクは助け起こされながらそう言うと、ムサシはまた天を仰いで大笑いした。



「がっはっはっはっはっ! こりゃいい! 俺をいまだに赤子のように捻るアンノウン師匠が、この俺を強い、とは……! こりゃ傑作だ! がーっはっはっはっはっ!」



 そういえば……とボクは思い出していた。


 『降臨術』の『英霊召喚』は、異世界の英雄の魂を呼び出すことができるんだけど……その魂たちは、呼び出す術者のことを認めていないと召喚に応じないって……!


 ということは……ボクはムサシの言うように、かつてはムサシの師匠だったの……!?


 いやいやいや、そんなことがあるわけない。

 たしかにヒマさえあれば、剣の道に生きるボクがムサシをあっさりやっつけちゃうっていう妄想を、よくやってたけど……。


 いくらなんでもそれが現実だったなんて……あるわけないよ……。


 何ひとつ理解できずにいるまま、謎ばかりが増えていく。

 そうこうしているうちに、ムサシの身体がうっすらと透けはじめていることに気づいた。


 あっ、そうか……!

 『降臨術』の効果は呼び出した対象がやられちゃうか、時間がくると切れてしまうんだ……!


 ボクは『英霊降臨』に1ポイントしか振ってないから、ムサシがいられる時間も短いんだ……!


 それはムサシ自身も気づいたようだ。



「おっと、せっかく師匠と久しぶりに会えたというのに、もう戻らなくてはならんのか……」



 ムサシは残念そうにすると、またボクの手をぎゅっと握りしめてくる。



「この小さな手も、これで握りおさめか……! 出会ったばかりの頃、俺と力くらべをして、片手でねじ伏せられたこの手……! そして剣の道に迷った俺を、多刀流という方向に導いてくれた、この手……! この手から繰り出される太刀筋に憧れて、俺はがむしゃらになったんだ……!」



 瞳を潤ませ、熱く語りだすムサシ。

 ボクがポカンとしていたので、急に照れたように手を離す。



「お……オホン! 久しぶりに会えたせいか、つい余計なことまで口走ってしまった……! 今のは忘れてくれ、師匠! ……ではな!」



 ムサシは気まずそうに、また背を向ける。


 ボクはなんだかいたたまれない気持ちになって、手を伸ばした。

 しかし、もう感触はない。陽炎のような身体に向かって叫ぶ。



「あ……ありがとう、ムサシ! きっとまた会えるから……! その時はいっぱいおしゃべりしよう!」



 こちらを見ようともせず、手をあげてくれるムサシ。


 モンスターたちの黒煙とともに、まるでさっきまでの出来事が夢であったかのように消え去っていく。


 でも、夢じゃない……!

 それだけは、確信できる……!


 だってボクらの目の前には、おびただしい数のドロップアイテムが落ちていたし……ボク自身、ムサシの一撃で3レベルもアップしていたんだ……!

■□■□パラメーター□■□■(現在の階数:3階)

挿絵(By みてみん)


□■□■スキルツリー■□■□


今回は割り振ったポイントはありません。

未使用ポイントが7あります。


括弧内の数値は、すでに割り振っているポイントです。


●サイキック

 ニュートラル

  (4) LV1  … テレキネシス

  (1) LV2  … クロスレイ

  (1) LV3  … テレパシー

 ダークサイド

  (1) LV1  … ダークチョーカー

  (0) LV2  … エナジードレイン

  (0) LV3  … マインドコントロール


●潜在能力

 必殺技

  (1) LV1  … 波動弾

  (1) LV2  … 烈蹴斬

  (1) LV3  … 龍昇撃

 打撃必殺技

  (1) LV1  … xカウンター

  (1) LV2  … 爆裂拳

  (0) LV3  … 点穴


●超感覚

 モーメント

  (1) LV1  … 思考

  (0) LV2  … 記憶

  (0) LV3  … 直感

 パーフェクト

  (0) LV1  … 味覚

  (0) LV2  … 音感

  (0) LV3  … 声帯


●降臨術

 妖精降臨

  (1) LV1  … 戦闘妖精

  (1) LV2  … 補助妖精

  (1) LV3  … 生産妖精

 英霊降臨

  (1) LV1  … 戦闘英霊

  (0) LV2  … 補助英霊

  (0) LV3  … 生産英霊


●リバイバー

 カオツルテクト

  (0) LV1  … 蝸

  (0) LV2  … 蛞

  (0) LV3  … 蛭


●料理

 見習い

  (1) LV1  … 下ごしらえ

  (1) LV2  … 焼く・炒める

  (1) LV3  … 茹でる・煮る

 コック

  (1) LV1  … 盛り付け

  (1) LV2  … 揚げる・漬ける

  (0) LV3  … 燻す・焙煎


●錬金術

 風錬

  (1) LV1  … 抽出

  (0) LV2  … 風薬

  (0) LV3  … 旋風

 火錬

  (1) LV1  … 変形

  (0) LV2  … 火薬

  (0) LV3  … 噴火

 地錬

  (1) LV1  … 隆起

  (0) LV2  … 地薬

  (0) LV3  … 地震

 水錬

  (1) LV1  … 陥没

  (0) LV2  … 水薬

  (0) LV3  … 奔流


●彩魔法

 灰

  (0) LV1  … フリントストーン

  (0) LV2  … プラシーボ

  (0) LV3  … ウイッシュ

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