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04 女の子ために、さらに装備を作ります

 最初の戦闘を終えたボクは、すっかり緊張も和らいで塔の奥へとずんずん進んでいた。


 のっぺりした灰色の壁に囲まれた塔内は、どこにいても代わり映えがしない。

 道も一本なので、あんまり探索している感じもない。


 あれっきりモンスターとも遭遇していない……先行したクラスメイトたちがぜんぶ倒しちゃったのかな?


 物足りない気持ちで歩いていると、曲がり角の向こうから、



「ひやぁあぁ~」



 妙に弱々しく、くぐもった悲鳴が聞こえてきた。


 地を蹴るようにして角から飛び出してみると、そこには石の全身鎧を身にまとった小柄な誰かが、ゴブリンロワーに押し倒されているところだった。


 ボクは無防備なゴブリンロワーの背中に駆け寄り、剣を突き立てる。

 すると、あっさり霧散した。


 もう敵はいなくなったというのに石鎧の子は、



「いやぁあぁ~」



 いまだ死にかけの虫みたいに、じたばたもがいている。



「落ち着いて、もうやっつけたから怖がらなくてもいいよ」



 助け起こしてあげると、その子はぺたんと女の子座りをした。

 石の兜を脱ごうと、またじたばたしだしたので、脱がすのを手伝ってあげる。


 スッポンと抜けた兜から、おかっぱ頭が出てきた。

 切り揃えられたぱっつんの前髪を、目が隠れるほどに伸ばした女の子……ボクと同じ孤児院で育ったウサギだ。

挿絵(By みてみん)

 兜で蒸れたせいか、顔は風呂上がりみたいに上気している。

 「大丈夫?」と声をかけてあげると、彼女のただでさえ赤い耳が、みるみるうちに真紅に染まっていくのが見えた。



「あうっ……あのあのあの……あのっ……あり……あり……ありっ……」



「あ、無理してしゃべらなくてもいいよ。はい、どうぞ」



 ボクは彼女の足元に落ちていたスケッチブックを拾い上げ、渡してあげた。

 受け取るなり、サラサラと鉛筆を走らせるウサギ。



『助けてくれてありがとう』



 向けられたスケッチブックには、そう書かれていた。


 ウサギは孤児院ではひとりぼっちで……って、ボクもひとりぼっちだけど、彼女はいつも隅っこのほうでひとり絵を描いてるんだ。


 人と話すのが苦手なようで、スケッチブックを使った筆談をするんだけど、院長さんからは「ちゃんと声を出しなさい」っていつも怒られている。


 ボクは彼女とは同じ孤児院で、クラスメイトという……ふたつの共通点はあるものの、こうして話すのは初めてかもしれない。


 ボクは彼女の全身を、改めて見回した。



「それにしてもすごい鎧だね。これ、どうしたの?」



『市場で勧められたの』



 『勧められた』なんてマイルドに書いているものの、たぶん違うだろうとボクは予想する。

 彼女は断れなさそうだから、言われるがままに買わされちゃったんだろう。



「でも、すごく重そうだよ……? まともに動けるの?」



『ううん……すごく重くて……それでみんなからも置いてかれちゃって……』



「ああ、それでへばってるところをゴブリンロワーに襲われたんだね」



 ウサギはこくりと頷いて立ち上がろうとしたんだけど、鎧の背中側が砕けていることに気づき、ショックを受けていた。



「ああ……石は重いわりに、衝撃に弱いからね……」



『た……高かったのに……』



 ずーんとうなだれるウサギ。


 押し売りにあい、みんなからは置いてきぼりにされ、ゴブリンロワーに襲われ、買ったばかりの鎧は壊され……踏んだり蹴ったりじゃないか。


 落ち込む彼女を見ていると、ボクはなんだか他人事じゃないような気がしてきた。



「じゃあ……ボクが新しい鎧を作ってあげるよ。そんな石のより、ずっといいヤツを」



 きょとんと見上げるウサギを尻目に、ボクは『抽出』の陣を描く。

 床から飛び出してきた鉄に、「わぁ」と両手をバンザイして驚いていた。


 彼女は前髪で目が隠れてるから、感情がわかりにくいかと思ったけど……身振り手振りが大きいから、誰よりも感情豊かかもしれない。

 なんだか着ぐるみを見てるみたいなんだ。


 抽出した鉄を使って、鎧を作ろうとしたんだけど……ボクは陣を描く寸前でいいことを思いついた。



「そうだ、ウサギって絵が得意なんだよね? ウサギが着てみたい鎧をスケッチブックに描いてみてくれないかな?」



 「?」と不思議そうにするウサギに、「いいからいいから」と描くようにすすめる。

 半信半疑ながらも、スケッチブックに向かうウサギ。


 やはり絵を描くのは好きなんだろう。いちど鉛筆を握ったら一心不乱に線を引いている。

 いきなり鎧を描いてと言われたのに、まるですでに考えてあったみたいに手が止まらない。


 少しして、仕上がったようなので覗き込もうとしたんだけど……ウサギはスケッチブックをサッと胸に抱いて隠してしまった。



「あの……見せてもらわないと鎧は作れないよ? だから見せて」



『……笑わない?』



「うん、笑わない」



『……絶対?』



「うん、絶対に笑わない! だから見せてよ、ねっ!?」



 頼み込んでようやく、ウサギはスケッチブックをよこしてくれる。



「……うわぁ……! かっこいい!」



 見るなり、ボクは思わず驚嘆の声をあげてしまった。


 戦女神(ヴァルキリー)が着ているような、見事な細工の施された鎧。

 鎧といえば無骨なイメージだけど、まるでドレスみたいに華やかだ。


 黒い鉛筆だけで描かれているのに、シルバーに輝いているのがわかる……デザインの良さもさることながら、すごい画力だ……!



「すごい……! ウサギってこんなに絵がうまかったんだね! すごいなぁ、うらやましいなぁ……!」



 想像していたよりずっと上手だったので、ボクは感動すら覚えていた。

 ウサギは羨望の眼差しを受け、なんだか戸惑っているようだった。



『うらやましい……?』



「うん、だって自分の頭の中にあるものを、こんなにちゃんと描き出せるなんて……! いいなぁ、いいなぁ……ボクは絵が下手だから、すっごくうらやましいよ……!」



 ボクは自分が想像しているいろんな異世界のことを、絵に描いてみようとチャレンジしたことが何度もある。

 だけど絶望的に絵が下手だったので、どの異世界も描いても……ぜんぶ地獄みたいになっちゃうんだよね。


 107枚の地獄絵図を前に途方に暮れることは、ボクにとっては珍しいことじゃなかった。


 だから……自分のイメージを言葉以外のもので伝えることができる、ウサギのことが心底うらやましいんだ。


 しかし当のウサギは威張ることもなく、スケッチブックで顔を隠している。



「あれ、どうしたの?」



『絵をほめられたの、はじめて……』



「そうなんだ、こんなすごい絵なのに?」



『絵なんてうまくても、何の役にも立たないって、みんなは……』



「ああ……そっか。こっちの世界じゃそうだろうね」



 ボクは肩を落とした。


 絵画や音楽などの、いわゆる『芸術』ってやつはハラの足しにならない。

 だから『役立たずなモノ』としている異世界も、珍しくはない。


 危険な表現手法だとして弾圧の対象にしている世界もあるくらいなんだけど、この『第108世界』は価値を理解できる人間が少ないから、軽んじられているんだ。


 価値がわからないからって役立たず呼ばわりするなんて、なんてもったいなんだろう……!

 思い通りの絵を描けるってのは、それだけで素晴らしい才能なのに……この世界では宝の持ち腐れでしかないんだ……!


 でも、『錬金術』にとって絵は大事だ。

 『変形』を使うときに、よりしっかりしたイメージを持つことができるから。


 ボクはさっそく、ウサギの絵を元に鎧を作ってみることにした。


 抽出した鉄に、鎧の『変形陣』をかけると……ウネウネと形を変えはじめる。

 ただのカタマリがクレイアニメーションのように動き、みるみるうちに絵に近づいていく。


 その様に、ウサギは腰を抜かすほどびっくりしていた。



「よし……できた!」



 【鉄の鎧】(戦闘力+16)


 完成した鎧は、『変形』のスキルが足りなかったせいか、ウサギのイラストに比べてだいぶショボくなってしまった。

 細かいディテールなんかは全部省かれちゃってるし、色も輝く銀色とは程遠い鈍色。


 でも……ボクが最初に作った鎧よりは、ぜんぜん見た目がいい。



『戦闘力……+16!? こんなすごい鎧、初めて見た……!』



 ウサギはその能力の高さに、口をぱくぱくさせて驚いている。



「イラスト通りにはいかなかったけど、その石の鎧よりはいいでしょ? それに鉄板を薄めにしてあるから、ずっと軽いよ。さ、着てみて」



 ボクが促すと、ウサギはおずおずと鎧を受け取る。

 しかし、固まったままだ。



「……着替えないの?」



『むこう、向いてて……』



 中には服を着てるはずだろうに、なにが恥ずかしいんだろう? と思いつつも、ボクは背中を向ける。


 ごとごと、がちゃがちゃ、んしょんしょ、と賑やかな着替えのあと……ちょんちょんと背中をつつかれた。


 振り向くと、そこには鎧を身に着け……だいぶスマートになったウサギが、はにかむように立っていた。



「うん……いいね! 似合うよ!」



 ボクは素直な感想を述べる。

 動くのにもひと苦労していた、石像みたいな全身鎧に比べたら……スッキリしててずっといい……!


 ただ、胸のところだけはアンバランス。

 ウサギが描いた鎧のデザインは、ボインな女性が着るみたいに胸のあたりが盛り上がっていたんだ。


 でも……ウサギはそんなにグラマーじゃないので、中は空洞になってるはず。

 でもでも……鎧の胸部がボインと盛り上がっているだけで、中身がカラだとわかっていてもつい、目を奪われてしまう。


 ボクの視線に気づいたのか、ウサギは恥ずかしそうにスケッチブックで胸を隠した。


 そのスケッチブックには、



『ありがとう』



 と書かれていた。

■□■□パラメーター□■□■(現在の階数:1階)

挿絵(By みてみん)


□■□■スキルツリー■□■□


今回は割り振ったポイントはありません。

未使用ポイントが2あります。


括弧内の数値は、すでに割り振っているポイントです。


●錬金術

 風錬

  (1) LV1  … 抽出

  (0) LV2  … 風薬

  (0) LV3  … 旋風

 火錬

  (1) LV1  … 変形

  (0) LV2  … 火薬

  (0) LV3  … 噴火

 地錬

  (0) LV1  … 隆起

  (0) LV2  … 地薬

  (0) LV3  … 地震

 水錬

  (0) LV1  … 陥没

  (0) LV2  … 水薬

  (0) LV3  … 奔流


●サイキック

 ニュートラル

  (1) LV1  … テレキネシス

  (0) LV2  … クロスレイ

  (0) LV3  … テレパシー


●彩魔法

 灰

  (0) LV1  … フリントストーン

  (0) LV2  … プラシーボ

  (0) LV3  … ウイッシュ


●潜在能力

 必殺技

  (0) LV1  … 波動弾

  (0) LV2  … 烈蹴斬

  (0) LV3  … 龍昇撃

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