39 冬の回想
……木枯らし吹く季節、ボクは木造の校舎の3階にいた。
クラスメイトたちはストーブのまわりに集まっていたんだけど、ボクだけは窓の外にぶら下がっていたんだ。
「……お……お願い……! レツ、開けて……! このままじゃ本当に、落ちちゃう……落ちちゃうぉ……!」
ほんのわずか開かれた、窓の隙間に指を突っ込んで……ボクはなんとか落ちないように持ちこたえていた。
ブラインドのように斜めになっている木枠の向こうには、窓辺に腰掛けるレツの姿が。
ボクの懇願は聞こえてるはずなのに、こっちを見ようともしていない。
「なぁ、アンノウンのヤツがどのくらい持つか、賭けねぇか?」
レツの呼びかけに、ストーブにいた一部の人間たちが集まってくる。
「いーねぇー! やるやる! 俺、3分!」
「アンノウンがそんなに持つかよぉ。コイツ、体育の懸垂ぜんぜんできなかっただろ? 俺は2分だな!」
「うーん、ここって3階っしょ? 落ちたら御臨終だから、必死なんじゃね? 4分……いや5分は持つっしょ!」
「アタシもそう思う! っていうか、そのくらい楽しませてくれなきゃ、意味なくね?」
クスクスと笑いながら、ボクを見下ろすクラスメイトたち。
ボクの視界は滲み、みんなの顔がまともに見れなくなっていた。
「お……願い……も、もう……許し……て……ホントに……落ち……ちゃう……」
涙にまみれた声を絞り出すと、白い息がたちのぼる。
かじかんだ手はもうすでに感触がなくなっていて、自分の身体の一部じゃないみたいだった。
もはやどのくらい握力が残っているかもわからない。
寒さと命の危機に震えるボクの哀願は、暖かい部屋の中にいるクラスメイトたちには全く届いていないようだ。
……人がこんなに苦しんでいるのに、なんでそんなに幸せそうな顔ができるんだろう。
ボクは怒りや悔しさ、寂しさや悲しさを通り越して……不思議な気持ちでいっぱいになっていた。
毎日いっしょにいる彼らだったけど、この時ばかりは文化の違う異国の人たち……いや、違う星の異星人のように見えていた。
「で、レツ君は何分に賭けるの?」
「俺か? ……俺は、1分だ」
「えーっ、1分? 1分ってもうすぐじゃん」
「ああ。……10、9、8、7、6……」
レツは何の前触れもなく、数を数えはじめる。
それはとても不気味な声で、まるで死刑執行のカウントダウンのように……一切の容赦を含んでいないことに、ボクは気づく。
「や……嫌っ! やめっ……やめてぇっ!」
「5、4、3、2、1……ゼロッ!」
直後、わずかに開いていた窓が、ギロチンのように降ってきた。
……ビシャンッ!
「ぎゃあっ!?」
肉切り包丁で指を切断されたみたいな、絶望的な痛みに襲われる。
それでもボクは落ちたくなくて必死で、とっさに爪を校舎の壁に突き立てた。
削れて白い筋が残る壁に、割れた爪からほとばしった血の跡が続く。
「い……痛い……! 痛いよぉっ……うぐぐぐっ……!!」
ボクはもう、何も考えられなかった。
目の前にある木の壁以外、何も目に入らない。
一心不乱に爪とぎする猫みたいに、懸命になって爪立てる。
ガリガリと削れる音のなかに、クラスメイトたちの笑い声が混ざった。
不意にボクの顔に、ツバが吐きかけられる。
もう数えきれないくらい受けてきた、その液体……凍るようなボクの身体は、その生暖かい感触を、かつてないほどに感じ取っていた。
「おい……何やってんだよ。1分だって言っただろ、さっさと落ちろよ」
その言葉とともにボクは強い力で突き飛ばされ、最後の抵抗は終わりを告げる。
「……うああああっ……!? あああああああああああああーーーーーーーっ!?!?」
……その後、ボクは花壇の中で仰向けになっていた。
消え入りそうな命を、この世界に繋ぎ止めるように……必死に空気を貪る。
すると、顔に花びらのような感触が降ってきた。
……雪だ。
灰色の、燃えカスみたいな雪だった。
漂うホタルみたいなそれは、ボクの肌に当たると、儚い命を終える。
「わぁ、見て! 雪だよ!」
「すげー! 初雪じゃね!?」
「積もるといいねー!」
「やだよー! 寒いだけじゃん!」
さっきまで、いくら泣いても喚いても開かなかった窓が、全開になっている。
窓から身を乗り出すようしているクラスメイトたちは、誰もボクのほうを見ようとはしなかった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「……はあっ!」
ボクはその走馬灯を振り払うように、空中で身体を翻す。
前のレベルアップで獲得したステータスポイントを、すべて『敏捷』に振る……!
これで『敏捷』は26になった……!
あの時のボクは5しかなかったけど、いまは違う……!
その5倍も、ボクは素早くなったんだ……!
背中を下にして落下していたボクは、猫のように身体を反転させた。
迫ってくる石の床に対し、衝撃を吸収するための三点着地をキメる。
……ズダァァァァンッ!
砂埃が舞い上がるなか、ボクはすぐに実感した。
あの時とは、ぜんぜん違う……!
どこも痛くない……! そして、ぜんぜん怖くなかった……!
ボクは顔をあげた。
あの時と違って、クラスメイト全員がボクの行く末を見守っている。
「え……ええっ!? アイツ、なんでこの高さから落ちて平気なんだよっ!?」
「ここって学校で言うと、ウチらのクラスくらいの高さだよね!?」
「フツーだと、無事じゃいられない高さなのに……なんか、クルンってなって……すごい受け身を取ったよね!?」
「すげー!? サルより身軽なんじゃねぇか!?」
「で、でも……ちょっと、カッコよかった、かも……。あ!? ウソウソ! じょ、ジョーダンに決まってんじゃん!」
マニーも一緒になって見とれていたけど、急に我にかえって声を荒げる。
「……おい! レツ! なんてことをするんだ!? アンノウンは俺たちを助けようとしたんだぞ!? それなのにお前は……!」
レツに詰め寄っていくマニー。
レツはさもうざったそうに、小指で耳の穴をほじっていた。
「あぁん? この石柱をアンノウンが出したとでも言いてぇのか? バカじゃねぇのか、お前……そうだ、お前もお仲間だったな、なら……いっしょに死ねやぁっ!」
「なっ、なにを……やめろっ!」
レツのケンカキックをくらったマニーが足を踏み外し、空から降ってくる。
ボクは慌てて着地点で待ち構え、マニーを抱きとめた。
……ガシイッ!
よ……よかった、受け止められた。
しかも、全然重く感じなかった……これも『筋力』が30あるおかげかもしれない。
なんてホッとひと息つくヒマもなく、次はウサギが降ってくる。
「アンタが死んだらそのチャラチャラした鎧、ウチがもらってあげるからねぇ~!」
手を振りながら見送っていたのは……ウサギのチェインメイルを狙っていたキャルルだ。
ボクはマニーを片手で抱えなおし、あいた片手でウサギを受け止める。
……これで、両手に花だ……! なんて思う余裕があるくらいに、軽くキャッチできた。
マニーは軽かったけど、ウサギはもっと軽い。
本当にウサギを抱っこしてるみたいだった。
「すっ、すまないアンノウン。そろそろ降ろしてくれないか」
『ありがとう……』
ボクは花束みたいな女の子たちを降ろしてあげる。
さっそく上に向かって怒鳴り返しているマニー。
ウサギはまだ落下の怖さが残っているのか、ボクにひしっとしがみついていた。
ひどい目にあわされたけど、誰も怪我しなかったのでひと安心……とはいきそうもなかった。
ボクらの目の前には、すでに行動を開始したモンスター軍団がいたからだ……!
モンスター軍団は、石柱がせり上がっている間は動かなかった。
呆気に取られていたのか、それとも石柱が倒れてくることを警戒していたのか……ともかく様子見の状態だった。
だけど、ボクらが下に落ちたとわかった途端……群れからはぐれた獲物を見つけた肉食獣のように、進軍を開始したんだ……!
■□■□パラメーター□■□■(現在の階数:3階)
□■□■スキルツリー■□■□
今回は割り振ったポイントはありません。
未使用ポイントが1あります。
括弧内の数値は、すでに割り振っているポイントです。
●サイキック
ニュートラル
(4) LV1 … テレキネシス
(1) LV2 … クロスレイ
(1) LV3 … テレパシー
ダークサイド
(1) LV1 … ダークチョーカー
(0) LV2 … エナジードレイン
(0) LV3 … マインドコントロール
●潜在能力
必殺技
(1) LV1 … 波動弾
(1) LV2 … 烈蹴斬
(1) LV3 … 龍昇撃
打撃必殺技
(1) LV1 … xカウンター
(1) LV2 … 爆裂拳
(0) LV3 … 点穴
●超感覚
モーメント
(1) LV1 … 思考
(0) LV2 … 記憶
(0) LV3 … 直感
パーフェクト
(0) LV1 … 味覚
(0) LV2 … 音感
(0) LV3 … 声帯
●降臨術
妖精降臨
(1) LV1 … 戦闘妖精
(1) LV2 … 補助妖精
(1) LV3 … 生産妖精
英霊降臨
(1) LV1 … 戦闘英霊
(0) LV2 … 補助英霊
(0) LV3 … 生産英霊
●リバイバー
カオツルテクト
(0) LV1 … 蝸
(0) LV2 … 蛞
(0) LV3 … 蛭
●料理
見習い
(1) LV1 … 下ごしらえ
(1) LV2 … 焼く・炒める
(1) LV3 … 茹でる・煮る
コック
(1) LV1 … 盛り付け
(1) LV2 … 揚げる・漬ける
(0) LV3 … 燻す・焙煎
●錬金術
風錬
(1) LV1 … 抽出
(0) LV2 … 風薬
(0) LV3 … 旋風
火錬
(1) LV1 … 変形
(0) LV2 … 火薬
(0) LV3 … 噴火
地錬
(1) LV1 … 隆起
(0) LV2 … 地薬
(0) LV3 … 地震
水錬
(1) LV1 … 陥没
(0) LV2 … 水薬
(0) LV3 … 奔流
●彩魔法
灰
(0) LV1 … フリントストーン
(0) LV2 … プラシーボ
(0) LV3 … ウイッシュ




