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37 究極の選択

 遥か向こうにある対面の壁が、シャッターのように持ち上がっていく。


 勿体つけるように、実にゆっくりと。

 壁が動き始めてだいぶ時間が経っているというのに、まだボクの膝下あたりの高さくらいまでしか開いていない。


 でも……奥にはさらに広大なスペースが広がっているのがわかった。

 なぜかというと、無数のモンスターの足が覗き……ひしめきあっているのが見えたからだ……!


 モンスターの足はどれも、かなり特徴的な外見をしている。

 だからたとえ全貌が見えなくても、壁の向こうに何が待ち構えているのかは大体わかる。


 ゴブリンロワー、レイジングチキン、レイジングシープ、グレムリンロワー。

 それに、レイジングボアやレイジングブルまで……!


 しかも、数えきれないほどいる……!

 まるで、軍隊みたいに……!


 まだ足しか見えていないというのに、クラスメイトたちは敵軍に追い詰められた農民のように身体を寄せ合っていた。



「な……なんだよ、あれっ!? モンスターだらけじゃねぇか!?」



「もしかして……あれがボスっ!?」



「てっきり強いのが1匹だけ出て来るもんだと思ってたのに……! まさかあんなに大勢のモンスターが出てくるだなんて……!」



「何匹いるんだ!? 数えきれねぇよっ!?」



「私たちだけであんな数、倒せるわけないよ!?」



「う……ウチらこのまま、殺されちゃうの……!?」



「ヤダヤダヤダっ! そ、そんなの絶対ヤダよぉっ!?」



 あまりの多勢に無勢さに、一致団結したはずのクラスメイトたちは再び取り乱していた。

 泣きそうな顔で逃げ場所を探す者、泣きながらしゃがみこむ者……みんなすっかり戦意を喪失している。


 ふと、空からノンキな声が振ってきた。



「おおーっ、こりゃ絶景だなぁー!」



「こんな大軍が出てくんの、久しぶりじゃねぇか?」



「あららぁ、これだけ数の差があると、ヤツらはきっと簡単には殺さねぇだろうなぁ」



「そうだなぁ、なぶり殺しだろうなぁ」



「前途のある若者が、切り刻まれながら殺されるだなんて……あーあ、残念だねぇ、悔しいねぇ、もったいないねぇ」



 遥か上空から、VIP席にいるように高みの見物を決め込んでいたのは……『冒険者ギルド』のスカウトの大人たちだった。


 わざとらしい台詞の数々にキッと顔をあげ、神を恨むように睨むクラスメイトたち。

 皆の気持ちを代表するように、ゴンが拳を振り上げて叫んだ。



「てめえらっ! ここのボスがこんなだってのを、知ってやがったな!?」



「ああ、もちろん、知ってたよぉ。ここのボスフロアはね、入った人数の多さに応じて、壁の向こうにモンスターが呼び出される仕組みになってるんだ。フロアに入った人間が多ければ多いほど、それだけモンスターが多く出て来るってわけだねぇ」



「だから我々『冒険者ギルド』は、このフロアには少人数で入るようにしてるんだ。特別に教えてあげるけど、ここは3人で入るのがベストなんだよねぇ。そうしたらモンスターも同じ3匹しか出てこないからね。ちなみにそれ以上で入ると、ねずみ算式に増えていくんだ」



「それをなんでもっと早く……入る前に言わねぇんだよっ!?」



「だってぇ、ギルドの人間じゃないヤツに教えるわけないじゃん」



 ボクの隣にいたマニーが、ギリッと歯噛みをしたかと思うと……鋭い声で囁きかけてきた。



「……見たか、アンノウン……これがアイツらのやり方だ……! きっと次は我々の弱みにつけこんだ、えげつない提案をしてくるに違いないぞ……!」



 その予感は見事に的中する。

 大人たちがニヤけ顔で取り出したのは……巻かれた縄ばしごだった。



「ああ、そうだ、今ならまだ間に合うから……こういうのはどうかなぁ? 『冒険者ギルド』に入るなら、コイツをかけてあげてもいいよぉ?」



 途端、クラスメイトたちは蜘蛛の糸にすがる亡者のように、我先にと手を伸ばしはじめた。



「はっ……入る! 入る入るっ!」



「『冒険者ギルド』に入ります……! だから、助けてくださいっ!」



「お願いです! ギルドでもなんでも入ります!」



「はい! 助けてくれたら何でもします! 下働きでもなんでも……!」



「わっ……私は『知力』が8もあるから、きっとギルドのお役に立てます!」



「それが何だってんだ! 俺は『筋力』が9あるぞ! 俺のほうが役に立ちますって!」



「なんでも……なんでもしますからぁ! 助けて! 助けてよぉ!」



 もはやなりふり構っていられないのか、とうとう神様にすがるかのように跪き、命乞いをはじめるクラスメイトたち。


 しかし大人たちの表情は、屠殺される家畜を見るように冷徹だった。

 豚は死ねと言わんばかりに、首を左右に振ったんだ……!



「いや……! お前らみたいなザコは、いらねぇんだよ……!」



「そう……! 私たちが取引を持ちかけているのは、アンノウン君だけなんだ……!」



 大人たちは審判を下す神のように、一斉にボクを見下ろす。



「アンノウン君、キミはとんでもなく強いようだけど……さすがにあの数のモンスターを倒すのは無理だろぉ?」



「パッと見だけど、あれだけのモンスターを相手にするなら……戦闘能力1万は必要なんじゃないかなぁ?」



「1万って、わかる? 軍隊で例えると、精鋭ぞろいの中隊が同じくらいだねぇ?」



「いくらガンバっても、軍隊に勝てるわけがないのは……頭のいいキミならわかるよねぇ?」



「だけど、我々ならなんとかしてあげられるよ……! 我ら『冒険者ギルド』の力を持ってすれば……!」



「なんたって我々は、長年に渡って塔を攻略してきたから、塔の構造を知り尽くしている……! 『冒険者ギルド』に入れば、その攻略ノウハウを教えてあげられるよ……!?」



「『冒険者ギルド』に入ってさえいれば……こんな風に、窮地に陥ることもなくなるんだ……!」




「多くの情報を持ち、さらに精鋭ぞろいでもある我々は……軍隊をも凌駕する……! その多いなる力の一員に、キミもなりたくはないかい……!?」



「さぁおいで、アンノウン君……! キミが一言『冒険者ギルド』に入る、と言ってくれれば……大いなる力が手に入り、そこにいるみんなも助かるんだ……!」



 クラスメイトたちの視線が、ボクに集中する。



「お……おい! アンノウン! い、いや、アンノウン君! 入れよ! 『冒険者ギルド』に!」



「アンノウン君が『冒険者ギルド』に入れば、縄ばしごをかけてくれるんでしょ!? なら迷うことないじゃない!」



「キミこそ、『冒険者ギルド』に入るのにふさわしい男だ! 今入らなくてどうするんだよ!?」



「あれ? アンタ、アンノウン君が冒険者ギルドに入るのが夢だって作文を発表した時、ぜってー無理って言って、作文をゴミ箱に捨ててなかったっけ?」



「バカっ! なんで今そんなこと言うんだよっ!? あれは冗談に決まってるだろ! とっ、とにかく、入ろうぜ! 冒険者ギルドに!」



「そうよ! 入りなさいよ! アンノウン君!」



「まったく……グズが、さっさと入れよ……こんな時でもKYなのかよ……」



「きっと自分だけスカウトされて、イイ気になってんじゃない?」



「ウチらがこんなに困ってるのに、勿体つけるなんて……サイッテー」



「あんな風に迷ってるフリして、気を引いてるんだよ……マジキモくね?」



 いつの間にかボクは、クラスメイトたちに囲まれていた。

 説得しようとする者、媚を売る者、言いつける者……そして、影で罵る者。


 ボクはうつむいたまま、その全てを聞いていた。



「アンノウン、このまま『冒険者ギルド』に入れば、ヤツらの思うツボだぞ! ここは断固として抵抗するんだ!」



 加入に唯一反対していたのは、マニーだけだった。

 ウサギはというと、クラスメイトたちに押しのけられ、輪のはずれにポツンと立っている。


 ギルドに「入って」とも「入らないで」とも言わず、無言で白紙のスケッチブックをボクに向けている。

 それはきっと……ボクの判断に任せる、という彼女なりの意思表示なんだろう。



「おいマニー! 抵抗しろだなんて、余計なこと言うんじゃねぇよ!」



「アンノウン君をそそのかすんじゃないわよ!」



「アンノウン君、マニーの言うことに惑わされちゃダメだ! キミは『冒険者ギルド』に入るのが夢だったんだろう?」



「そうよ! 悩むことなんてないじゃない! 今すぐ入りましょうよ! ねっ!? ねっ!?」



「わ、私、アンノウン君がギルドで活躍する姿、見てみたいなぁー!」



「あっ……わ、私もーっ! きっ、きっとカッコイイよねぇーっ!」



 ボクと同じ空気を吸うのも嫌だと言っていた女子たちが、ボクの手を握りしめていた。

 精一杯の愛想笑いを浮かべ、すがるような瞳をボクに向けている。



「おーい、そろそろ壁が開ききるぞぉー」



 天からの声に、一斉にシャッターのほうを見るボクたち。

 モンスターたちの身体は半分くらいまで見えていて、あと少しで全貌が現れそうだ。



「もうタイムオーバーだよぉ? もういい加減、気を引くのはやめたらぁ?」



「だよねぇ……いくら待っても、我々はなにも譲歩しないよぉ?」



「そろそろ言ったらどうだい? アンノウン君……? 『冒険者ギルドに入りますー!』って」



「『成人したばかりの子供なのに、生意気言ってすいませんでしたー! 喜んで冒険者ギルドに入りますから、命ばかりはおたすけをー!』って!」



 大人たちは優位な立場であることをいいことに、死にそうなボクらに向かって、からかうようなヤジを浴びせかけている。


 まるで奴隷への水責めを楽しむ、サディスティックな王様のように……!


 クラスメイトたちからは「入れ」コールが巻き起こっていた。



「入れ! 入れ! 入れ! 入れ! 入れ! 入れ! 入れ! 入れ! 入れ! 入れ! 入れ! 入れ! 入れ! 入れ! 入れ! 入れ! 入れ! 入れ! 入れ! 入れ! 入れ! 入れ! 入れ! 入れ! 入れ! 入れ! 入れ! 入れ! 入れ! 入れ! 入れ! 入れ! 入れ! 入れ! 入れ! 入れ! 入れ! 入れ! 入れ! 入れ!」



 リズムのよい声と手拍子が、ボクだけを責め立てる。

 彼らにとって……敵はモンスターでも、大人たちでもなかった。


 ボクはすべてを振り払うかのように、手をバッ! と掲げる。


 ボスフロアが、それまでの喧騒がウソのように静まり返った。

 ゴゴゴ……と壁がせりあがる音だけが、とめどなく響いている。


 そしてボクは、天を突くように立てていたその指を……決断するように、振り下ろしたんだ……!

■□■□パラメーター□■□■(現在の階数:3階)

挿絵(By みてみん)


□■□■スキルツリー■□■□


今回は割り振ったポイントはありません。

未使用ポイントが1あります。


括弧内の数値は、すでに割り振っているポイントです。


●サイキック

 ニュートラル

  (4) LV1  … テレキネシス

  (1) LV2  … クロスレイ

  (1) LV3  … テレパシー

 ダークサイド

  (1) LV1  … ダークチョーカー

  (0) LV2  … エナジードレイン

  (0) LV3  … マインドコントロール


●潜在能力

 必殺技

  (1) LV1  … 波動弾

  (1) LV2  … 烈蹴斬

  (1) LV3  … 龍昇撃

 打撃必殺技

  (1) LV1  … xカウンター

  (1) LV2  … 爆裂拳

  (0) LV3  … 点穴


●超感覚

 モーメント

  (1) LV1  … 思考

  (0) LV2  … 記憶

  (0) LV3  … 直感

 パーフェクト

  (0) LV1  … 味覚

  (0) LV2  … 音感

  (0) LV3  … 声帯


●降臨術

 妖精降臨

  (1) LV1  … 戦闘妖精

  (1) LV2  … 補助妖精

  (1) LV3  … 生産妖精

 英霊降臨

  (1) LV1  … 戦闘英霊

  (0) LV2  … 補助英霊

  (0) LV3  … 生産英霊


●リバイバー

 カオツルテクト

  (0) LV1  … 蝸

  (0) LV2  … 蛞

  (0) LV3  … 蛭


●料理

 見習い

  (1) LV1  … 下ごしらえ

  (1) LV2  … 焼く・炒める

  (1) LV3  … 茹でる・煮る

 コック

  (1) LV1  … 盛り付け

  (1) LV2  … 揚げる・漬ける

  (0) LV3  … 燻す・焙煎


●錬金術

 風錬

  (1) LV1  … 抽出

  (0) LV2  … 風薬

  (0) LV3  … 旋風

 火錬

  (1) LV1  … 変形

  (0) LV2  … 火薬

  (0) LV3  … 噴火

 地錬

  (1) LV1  … 隆起

  (0) LV2  … 地薬

  (0) LV3  … 地震

 水錬

  (1) LV1  … 陥没

  (0) LV2  … 水薬

  (0) LV3  … 奔流


●彩魔法

 灰

  (0) LV1  … フリントストーン

  (0) LV2  … プラシーボ

  (0) LV3  … ウイッシュ

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