34 賞金、200万!
ボクとウサギが踏み込んだ、『力だめしの間』の最後の部屋。
ふたつの宝箱があって、どちらか一方が当たりで、どちらか一方はハズレ。
どうやら『運』を試す試練のようだ。
当たりを引いた場合、現在のタイムが-5分され、ハズレを引いた場合は+5分されるらしい。
『クロスレイ』のスキルを使えば宝箱の中身を透視できて、当たりは簡単にわかるけど……もうこの力だめし自体にあまり興味はなかったし、それにMPもなかったので、運に任せて宝箱を選んでみた。
ピキィー!
からかうような音とともにバネ仕掛けで飛び出したのは、『ハズレ』の紙をぶら下げているゴブリンロワーの人形だった。
ああ、ハズレかぁ……。
ボクの『運』は1しかないから、無理もないかぁ。
でも、あまり残念には思わなかった。
いまさらボクのタイムがどうなろうと、どうでもよかったからだ。
ウサギの方はというと、同じく『ハズレ』のゴブリンロワーを引き当てたばかりのところだった。
「わぁ」と尻もちをついたあと、「あぁ、びっくりしたぁ……」と胸を押さえている。
ボクは彼女に手を差し伸べるかわりに、テレキネシスで立たせてあげた。
念動力を受けるウサギは最初は戸惑っていたけど、もうだいぶ慣れてしまったのか、親猫に咥えられた子猫のようにされるがままになっている。
ボクはそのままウサギを運んで、ふたり一緒にゴールした。
ボクのレーンにはスカウトの大人たちが待ち構えていて、拍手をしながら迎えてくれる。
「いやぁ~! アンノウン君! ゴールおめでとう!」
「ほら、タイムを見てごらん! ダントツの1位だよ!」
「しかも『新人冒険者』のランキングじゃなくて、『ベテラン冒険者』のランキングでぶっちぎり……! 2位以下を大きく引き離してのゴールだ!」
大人たちがうやうやしく示す先を見ると、『ベテラン冒険者』のランキングボードがあって……一番上にはボクの名前が掲示されていた。
今までは飾り付けなんて全然なかったのに、ボクの名前だけ金色のプレートになっていて、これでもかと花で彩られている。
全力で祝福ムードを醸し出そうとしてくれてるけど……正直ボクは、自分の名前なんてどこにあろうとどうでもよかった。
むしろウサギの名前が、ランキングボードのどこにもないことのほうが気になっていた。
「あれ……? ウサギは? ボクと同着なんだから、ウサギの名前がないとおかしいんじゃ……?」
すると大人たちは、シャキッ! と直立不動になったあと……蜂の巣をつついたように大騒ぎしはじめる。
「おっ……おい! 何やってんだっ!? あのメスガキ……い、いや、ウサギちゃんのプレートがないなんて……! さっさと用意しろよっ!」
「アンノウン君以外のプレートは、もういらないって言ったのお前だろ!?」
「いーからさっさと作れ! 大至急だっ!」
働き蜂のように散っていく大人たち。
ひとり残った角刈りのオジサンが、揉み手をしながらボクに近づいてくる。
「はじめまして、アンノウン君。私は『冒険者ギルド』のスカウトのチーフだ。ウサギちゃんのネームプレートについてはいま準備させてるから、もうちょっと待っててくれないかな? あ、そうだ……賞金もあるんだ。こんな所じゃなんだから、一緒に来てくれるかい? もちろん、ウサギちゃんも一緒に」
コワモテだけど、人の良さそうな笑顔を浮かべるオジサン。
ごつごつした手で示す先には……木の衝立で区切られた、応接室みたいな空間があった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ボクとウサギは応接室に通される。
ふかふかのソファーに腰かけると、目の前のテーブルにすぐさまお茶とビスケットが運ばれてきた。
「さ、どうぞ召し上げれ。『力だめしの間』での試練、お疲れ様でした。ここでゆっくり休んで、疲れを癒やすといい」
ニコニコ笑顔でお茶を勧めてくる、スカウトのチーフのオジサン。
人と話すのが苦手なウサギはうつむいたままだったので、ボクがかわりに話をした。
「あの……休憩は大丈夫。ボクたちは先に進まなきゃいけないから、もう行きたいんだけど……賞金があるならちょうだい」
「おやおや、そうかい? いろいろお話したかったのに、残念だなぁ……でもまぁしょうがないね、さっそく賞金を用意させよう」
オジサンがパチンと指を鳴らすと、今度はテーブルに札束と紙きれが運ばれてきた。
ふたつある札束はどちらも『10,000¥紙幣』で、100枚くらいはありそうだった。
「さぁ、これが『ベテラン冒険者』のランキングで1位になったときの賞金、100万¥だよ。今回はアンノウン君とウサギちゃんが同着だったから、特別に200万¥用意させてもらった」
ひゃ……100万¥……!?
ボクは思わず目を見張った。
うつむいていたウサギも、この時ばかりは顔をあげていた。
こ……こんなにたくさんのお金、生まれて初めて見た……!
こんな大金……本当にもらっちゃっていいの……!?
ゆ……夢じゃ……ない……よね……!?
ボクとウサギは、同じタイミングでお互いの顔を見合わせていた。
ウサギはスケッチブックを掲げており、
『ほっぺた、つねって……』
とある。
ボクは頷いて、ウサギのほっぺたをつまんだ。
さくらんぼを乗せてるみたいに赤く、マシュマロみたいにぷにっと柔らかい。
ボクばっかりつねるのは何だと思ったので、ウサギの手をボクの頬に導く。
うん、と頷きあったあと、力いっぱい引っ張りあった。
「いててててててて!」
『いたたたたたたた!』
ふたりして足をバタつかせ、痛みを感じていると、
「なっ? 夢じゃないだろ? 本当にこの200万¥が、キミたちのものになるんだ……! さぁ、この受取証にサインして!」
オジサンからペンを差し出された。
ボクは一も二もなくペンを受け取り、字がいっぱい書いてある紙の名前欄にサインしようとしたんだけど……直前でぐっ、と腕を掴まれる。
「どうしたの、ウサギ?」
受取証とにらめっこしていたウサギは、紙をボクに向け、ある一文を指さしていた。
そこには、
『この賞金は冒険者ギルド加入のための準備金となります。加入日より2年ごとの期限が設けられ、その2年の間にギルドを脱退または除名された場合、賞金の30倍の違約金を支払っていただきます。なおこの期限は2年ごとの自動更新となります』
とあった。
「えっ……これって……どういうこと?」
ちょっと見ただけでは意味がわかない、複雑な文章だった。
ボクはウサギに尋ねたんだけど、オジサンが割り込むように口を挟んでくる。
「あ……! それは気にしなくていいよ! 形式として書いてあるだけで、実際に請求することはないから! だから気にせずにサインしちゃって! ささっ!」
「いや……ボクが気になったのは、この受取証にサインすると、『冒険者ギルド』に加入したことになるのかな、って思って……」
するとオジサンは、さも意外そうな顔をした。
「それがなにか問題でも? アンノウン君はこの塔の頂上を目指してるんだろう? ってことは冒険者ってことだ。冒険者にとって憧れの『冒険者ギルド』に無試験で入れるんだから、いいことずくめじゃないか」
それは……たしかにそうだった。
ボクはたしかに冒険者を目指していて、『冒険者ギルド』にも憧れていた。
でも……それは成人の儀式を迎える前までのこと。
成人の儀式のステータスオープンのあと、異世界のスキルを使えるようになってから……この灰色の世界にあるものは、何ひとつ魅力を感じなくなったんだ。
「……俺は、断ったけどな」
ふと、衝立のほうから声がする。
顔を向けると、衝立に寄り掛かるようにして、マニーが立っていた。
「俺は、『新人冒険者』のランキングで1位を取った。賞金はその10分の1だったが、同じように受取証のサインを求められたよ。でも俺はしなかった」
オジサンはチッ、と舌打ちをしたかと思うと、
「おい、ガキ……邪魔なんだよ! 賞金を受け取らないって決めたんだったら、お前はもう用済みなんだよ! あっち行ってろ!」
まるで忌々しい野良犬でも追い払うように、手でシッシッとやりはじめる。
オジサンは実に迷惑そうだったけど、マニーはどこ吹く風だ。
「そうはいかない。そこのふたりは俺の連れでもあるんだ。アンノウン、レディ、そろそろ行かないか? 茶番はもうじゅうぶん楽しんだだろう?」
ボクとウサギは頷いて、同時にソファから立ち上がる。
オジサンは、慌ててボクを止めようとしてきた。
「ちょ……!? 待つんだ、アンノウン君! 『冒険者ギルド』は塔を冒険する者にとって、強力な後ろ盾となって……様々なサポートをしてくれるんだよ!? 加入して絶対に損はないものなんだ!」
オジサンは追いすがろうとしたんだけど、それよりも早くマニーが動いた。
ボクとウサギの手を取って、奪うように抱き寄せたんだ。
マニーの胸に飛び込むボクとウサギ。
固い鎧の肌触りの向こうに、ぽにょん、という弾力があった。
マニーはボクより背が高いので、密着すると彼女の首筋のあたりにボクの顔が来る。
いじらしい細さの首筋から、肌の匂いを感じた。
見上げると、凛としたマニーの顔。
りりしい表情にそぐわない、やわらかな身体と艶めかしい香り……あまりのギャップというか、あまりの相乗効果というか……ボクはたまらずクラクラしてしまった。
麗しい女騎士に助けられた村人みたいな気分になって……心音が聞こえるほどにドキドキしてしまう。
マニーはまるで、魔王からお姫様を取り戻したばかりの、男装の近衛隊長のようにオジサンを睨みつけていた。
「そんなにいい団体なのだったら、違約金など設ける必要はないだろう! 入ったら最後、ギルドの管理下におかれ、塔を自由に冒険することもできなくなる。そしてクエストと銘打った、塔での利権を独占するための汚れ仕事をひたすらやらされるだけ……! 俺は知っているぞ! 『冒険者ギルド』こそ、塔の未開地に挑もうとする若者たちにとって……一番の阻害となっていることを……!」
「このっ、ガキィ! 言わせておけば……っ!」
カッとなった魔王が襲いかかってきた。
ボクは夢見心地だったけど、鋭い声にハッと我に帰る。
両側から迫ってくる壁を押し返すように、ふたりを仲裁した。
「ちょ……やめて、ふたりとも! オジサンっ! ボクは『冒険者ギルド』には入らない! マニー! それでいいでしょ? だからもう、怒らせるようなこと言わないで!」
「へぇ……『冒険者ギルド』に入らないんだぁ……?」
ボクの思いに応えたのは……マニーもで、オジサンでも……ましてやウサギでもない、他の誰かだった。
みんなで一斉に声のほうを振り向くと……そこには、キャルルが立っていたんだ……!
■□■□パラメーター□■□■(現在の階数:3階)
□■□■スキルツリー■□■□
今回は割り振ったポイントはありません。
未使用ポイントが1あります。
括弧内の数値は、すでに割り振っているポイントです。
●サイキック
ニュートラル
(4) LV1 … テレキネシス
(1) LV2 … クロスレイ
(1) LV3 … テレパシー
ダークサイド
(1) LV1 … ダークチョーカー
(0) LV2 … エナジードレイン
(0) LV3 … マインドコントロール
●潜在能力
必殺技
(1) LV1 … 波動弾
(1) LV2 … 烈蹴斬
(1) LV3 … 龍昇撃
打撃必殺技
(1) LV1 … xカウンター
(1) LV2 … 爆裂拳
(0) LV3 … 点穴
●超感覚
モーメント
(1) LV1 … 思考
(0) LV2 … 記憶
(0) LV3 … 直感
パーフェクト
(0) LV1 … 味覚
(0) LV2 … 音感
(0) LV3 … 声帯
●降臨術
妖精降臨
(1) LV1 … 戦闘妖精
(1) LV2 … 補助妖精
(1) LV3 … 生産妖精
英霊降臨
(1) LV1 … 戦闘英霊
(0) LV2 … 補助英霊
(0) LV3 … 生産英霊
●リバイバー
カオツルテクト
(0) LV1 … 蝸
(0) LV2 … 蛞
(0) LV3 … 蛭
●料理
見習い
(1) LV1 … 下ごしらえ
(1) LV2 … 焼く・炒める
(1) LV3 … 茹でる・煮る
コック
(1) LV1 … 盛り付け
(1) LV2 … 揚げる・漬ける
(0) LV3 … 燻す・焙煎
●錬金術
風錬
(1) LV1 … 抽出
(0) LV2 … 風薬
(0) LV3 … 旋風
火錬
(1) LV1 … 変形
(0) LV2 … 火薬
(0) LV3 … 噴火
地錬
(1) LV1 … 隆起
(0) LV2 … 地薬
(0) LV3 … 地震
水錬
(1) LV1 … 陥没
(0) LV2 … 水薬
(0) LV3 … 奔流
●彩魔法
灰
(0) LV1 … フリントストーン
(0) LV2 … プラシーボ
(0) LV3 … ウイッシュ




