33 死神アンノウン
「あ……アンノウンが……!」
「せ……戦闘能力250のモンスターを倒しやがった……!」
「お……俺の戦闘能力の、4倍以上あるモンスターを……!」
「そ……それも……ひとり……で……!?」
「それけじゃねぇぞ……まるで格下みたいに一方的にヤッちまった……!」
「あんなデカいモンスターに、マウントを取っても意味ねぇと思ったのに……!」
「まるでゴンがよくやるみたいに、ボッコボコにしやがった……!」
「い、いや……ゴンのマウントパンチより、ずっとズゴかったぞ……!」
「う、うん……! だって、ぜんぜんパンチが見えなかったよ!?」
「も……もしかして、自分がずっとやられてたのを、やり返してたのか……!?」
「それにしちゃ、やり過ぎだろ! 何倍返しだよ!?」
「きっと、たまりにたまってたのが、爆発しちゃったんだよ!」
「アンノウンのヤツ……何をされても怒らねぇヘタレだと思ったのに……本当に……キレちまったのか……?」
「ね、ねぇ……ヤバくない? キレたらあんなになっちゃうなんて……! ウチら、知らなかったよ!」
「そ、そりゃ、俺たちだってそうだよ! 何されてもヘラヘラしているアンノウンが、キレたらあんな鬼みたいになるなんて……!」
冬山で遭難したみたいに、身体を寄せ合い、ざわめくクラスメイトたち。
ボクはそれよりも、ウサギがどうしているかのほうが気になっていた。
「ひぃやぁぁぁ~」
金網のリングに閉じ込められているウサギは、1匹のグレムリンロワー相手に逃げ惑っていた。
武器である剣を落としてしまったようで、もはや防戦一方のようだ。
グレムリンロワーは子鹿をからかうハイエナのように、ウサギを追い立てて楽しんでいる。
モンスターという生き物は、格下だと思った相手をなぶり殺しにしようとする性質があり、ウサギは今まさにその洗礼を受けているようだった。
ボクの背後にある金網ごしに、大人たちの残念そうな声が聞こえてくる。
「あらら……あっちの女の子……たしか、ウサギちゃんだったっけ? 戦闘はまるでダメのようだな……」
「あのガキ……い、いや、アンノウン……いや、アンノウン君に続いて2位だったから、見どころがあるかと思ったんだが……」
「グレムリンロワー程度におちょくられるようじゃ、ダメダメだな……」
「うーん、ステータスどおり『家事手伝い』……一生家に閉じこもって、こき使われるのがお似合いの子だな!」
「だなぁ……見てみろよ、剣は手放したってのに、スケッチブックだけは大事そうに抱えて……普通は逆だろ!」
「そんなたいしたモノが描いてあるわけじゃねぇだろうに……命がけで守って……計算問題はできても、生きるための知恵はだいぶ遅れてるようだな!」
「まったく……期待させるだけさせといて、アレかよ……時間の無駄だったな!」
ミノタウロスロワーを倒したあと、ボクの身体はクールダウンを始めていたけど……再び燃料が注がれるのを感じていた。
この感覚……! 強敵を前にした時と、明らかに違う……!?
ウサギがギャルグループに絡まれていた時に感じたのに、近い……!
ミノタウロスロワーと戦っていた時のボクの身体は熱く、例えるなら真っ赤な炎がメラメラと燃え上がっていた。
だけど今は……違う……!
黒い……ただただ黒い……! まるで地獄の業火のようなどす黒い炎が、身体の芯を焦がしていたんだ……!
消したい……! 消さなければ……!
すべてをメチャクチャにしてでも、この炎は消さなくちゃならない……!
ボクは、禁断症状にも似た焦りを覚える。
禁煙している人がいつのまにかタバコに手を伸ばすように……意識が勝手にスキルウインドウを開いていた。
背後の大人たちの声が、急にわざとらしいほど大きくなる。
「あのドジッ子に比べて……その点、アンノウン君は素晴らしかったなぁ!」
「だ……だな! 私は最初から、彼は只者ではないと思っていたよ!」
「だから、彼の本当の実力を引き出したくて、ちょっと強めのモンスターをあてがったんだが……」
「彼は見事、期待に応えてくれた……! きっと我々の想いが通じたに違いない……!」
「そうだなぁ、彼こそが『冒険者ギルド』をしょって立つ、未来のエースだ……!」
「ああ、彼は百年にひとり……いや千年にひとりの逸材に違いない……!」
「まさしくそうだな! アンノウン君に比べたら、他のは全部ゴミといっていい!」
「特にウサギとかいうチビは、ああやって見世物になるのがお似合い……! ええっ!?」
大人たちは、一様に驚愕する。
ウサギをいじめていたグレムリンロワーが、首を掴まれたニワトリのように宙に浮いていたからだ。
ボクは、ヤツに向かって手をかざしていた。
その手をゆっくりと上にあげると……連動して、手品のように床から離れていくグレムリンロワー。
「キュッ……!? ギュギュギュッ!? ギュゥゥゥゥゥ……!?」
グレムリンロワーは目を白黒させ、間違って首を吊った人みたいにもがいている。
ボクは、かざした手を爪立て……見えない空き缶を握りつぶすように、ググググと力を込めた。
「ギイッ……!? ギギギギギギギッ!? ギィィィィィッ……!?」
さらに激しくのたうつグレムリンロワー。
錆びたカラクリ人形が無理矢理動かされているような、ギスギスした悲鳴が聞こえてくる。
目の前のモンスターが急に発作を起こしたので、このあと爆発するんじゃないかとウサギは勘違いしたようだ。
金網の隅っこまで逃げ、しがみついて怯えている。
ボクの背後にいる大人たちは、信じられないことが次から次へと起こっているせいか、すっかり冷静な判断力を失っていた。
「な……なんだ……!? なにが……なにが起こってるんだ……!?」
「グレムリンロワーが、まるで見えない手で首を絞められてるみたいに、苦しんでいる……!? だ……誰かが魔法でも使っているのか!?」
「遠くから首を締めるなんて魔法、あってたまるかよ……! もしあったとしたら、そんなのを使えるのは、神様だけ……! 一方的に死を与えることが許される、死神だけだ……!」
……ボクは、その想いに応える。
そう……ボクは決めたんだ……。
仲間のためなら、みんなから恐れられ、忌み嫌われる……化け物にだってなってやる、って……。
だったら……一方的に死を与える、死神にだってなってやる……!
決意とともに、かざした手をグイッ! と一気に握りしめると、
……ビキィィィッ!!
首がへし折れるような音が届いた。
グレムリンロワーの首が、支えを失ってだらんと垂れた瞬間、
……バシュゥゥゥゥ……!
空中で、煙となって散っていった。
ボクが使ったのは、『サイキック』のスキルのひとつ……『ダークチョーカー』。
これは、『テレキネシス』の進化系のスキル。
普通の念動力は、持ち上げたり押したりすることができるんだけど……それに加えて『掴む』こともできるようになるんだ。
サイキックの発達した『第7世界』では、『ダークサイド』のスキルとされている。
マフィアやギャングのボスなどが好み、無能な部下や気に入らない相手を粛清するために使うからだ。
別にスキル自体が悪いわけじゃない。
使っている人間が悪いだけなんだ。
でも『ダークサイド』のスキルは使えば使うほど、心が悪に染まっていくと言われている。
だけど、かまうもんか……!
ウサギのため……マニーのためなら……ボクは喜んで、悪になってやる……!
ボクは、湧き上がってきた黒い感情が、ようやく静まっていることに気づいた。
大人たちのほうに視線を移す。
ボクと目が合ったとたん、ビクッ! と肩を震わせる大人たち。
「あの……モンスターは倒したんだから、次の部屋への扉を開けてよ」
「あっ……ああ! おいっ、何やってる!? アンノウン君の扉を開けるんだ!」
「はっ……はいぃ!」
飛び込み台から返事が降ってきた途端、
ガシャアンッ!
長いこと閉じ込められていた金網の扉が、勢いよく開いた。
「さ……さあ、どうぞ!」
大人たちは媚びるように中腰になって、先を促す。
でもボクはまだ進まず、ウサギのほうを一瞥した。
「……あと、ウサギのほうも開けてください」
「そっ……そうだったな! う、うっかりしてたよ! おおいっ、何やってんだよっ!? ウサギちゃんの扉も開けないかっ!」
「はっ……はひぃ! す、すいませぇん!」
謝罪とともに、ウサギのいる金網の扉も開く。
ボクとウサギが揃って部屋を出ようとしていると、背後から威勢のいい声が躍り込んできた。
「さあっ、こっからが俺様の本領発揮だぜぇ! なーんか賑やかだったから、きっとスゲェモンスターが出るんだろ!? 腕がなるぜぇ! おい、何もいねぇじゃねぇか!? モンスターはどうした!? 俺様が一発でブッ倒してやっからよぉ、さっさとしろよ!」
計算問題を終え、ようやく金網の部屋に入ってきたばかりのゴン。
場を包むシラけたような空気に、彼はただただ困惑していた。
■□■□パラメーター□■□■(現在の階数:3階)
□■□■スキルツリー■□■□
今回は『ダークチョーカー』に1ポイントを割り振りました。
未使用ポイントが1あります。
括弧内の数値は、すでに割り振っているポイントです。
●サイキック
ニュートラル
(4) LV1 … テレキネシス
(1) LV2 … クロスレイ
(1) LV3 … テレパシー
ダークサイド
(1) LV1 … ダークチョーカー
(0) LV2 … エナジードレイン
(0) LV3 … マインドコントロール
●潜在能力
必殺技
(1) LV1 … 波動弾
(1) LV2 … 烈蹴斬
(1) LV3 … 龍昇撃
打撃必殺技
(1) LV1 … xカウンター
(1) LV2 … 爆裂拳
(0) LV3 … 点穴
●超感覚
モーメント
(1) LV1 … 思考
(0) LV2 … 記憶
(0) LV3 … 直感
パーフェクト
(0) LV1 … 味覚
(0) LV2 … 音感
(0) LV3 … 声帯
●降臨術
妖精降臨
(1) LV1 … 戦闘妖精
(1) LV2 … 補助妖精
(1) LV3 … 生産妖精
英霊降臨
(1) LV1 … 戦闘英霊
(0) LV2 … 補助英霊
(0) LV3 … 生産英霊
●リバイバー
カオツルテクト
(0) LV1 … 蝸
(0) LV2 … 蛞
(0) LV3 … 蛭
●料理
見習い
(1) LV1 … 下ごしらえ
(1) LV2 … 焼く・炒める
(1) LV3 … 茹でる・煮る
コック
(1) LV1 … 盛り付け
(1) LV2 … 揚げる・漬ける
(0) LV3 … 燻す・焙煎
●錬金術
風錬
(1) LV1 … 抽出
(0) LV2 … 風薬
(0) LV3 … 旋風
火錬
(1) LV1 … 変形
(0) LV2 … 火薬
(0) LV3 … 噴火
地錬
(1) LV1 … 隆起
(0) LV2 … 地薬
(0) LV3 … 地震
水錬
(1) LV1 … 陥没
(0) LV2 … 水薬
(0) LV3 … 奔流
●彩魔法
灰
(0) LV1 … フリントストーン
(0) LV2 … プラシーボ
(0) LV3 … ウイッシュ




