03 錬金術で、誰も持っていない装備を作ります
ボクは市場を出たあと、憩いの広場みたいなのを見つけたので、その隅っこのほうで作業を始める。
市場にある、石の武器たちを見ていて思い出したんだ。
ボクには『錬金術』のスキルがあることを。
武器がすべて石であるように、この『第108世界』には『鉄』というものが存在しない。
いや、あるにはあるらしいんだけど、『神の鉱石』と呼ばれていてすごく貴重なんだ。
聞くところによると、『太陽の塔』の中では鉄を使った柱などを見ることができるらしい。
そんな、神様だけがひとり占めしてる素材、『鉄』……!
しかし『錬金術』を使えば、地面から取り出すことができるんだ……!
というわけでさっそく、『錬金術』の『抽出』に1ポイントを振ってみた。
錬金術を使うには、その力を使うための陣を描かなくちゃいけない。
ボクはピッとひとさし指をたてて、地面にむかって空中に『陣』を描く。
『陣』っていうのは錬金術の力を使うために必要なもので、簡単にいえば魔法陣みたいなもの。
ボクは学校の授業中、ノートに何度も何度も練習していたので、もうソラで描けるんだ。
錬金術が大いなる力として存在する『第27世界』では、万物は ○ と △ でできていると信じられている。
だから陣も○と△を組み合わせたものだ。ちなみに □ は △ をふたつ組み合わせて描く。
そうして鉄の『抽出陣』が完成すると……陣は緑色の光を放ちながら、地面に吸い込まれていった。
そして、
ズズズズズズズ……ボコンッ!
モグラのように土をかきわけながら、黒い固まりが顔を出す。
まるで星が産卵したみたいにポコンと飛びだし、地面にゴロリと転がった。
ところどころ角ばってて、ほんのり黒光りしている『鉄』。
でもこのままだとただの堅い石なので、加工しなきゃ。
加工についても『錬金術』の『変形』があれば可能。
これは物質を好きな形に変えることができるんだ。
ボクはさらに『錬金術』の『変形』に1ポイントを振る。
えーっと、まずは何に変形させよう……?
よし、武器にしよう。カッコイイ剣がいいかな。
足元に転がっている鉄に向かって、空中に陣を描く。
剣の『変形陣』が完成すると、鉄に向かって吸い込まれていく。
グググググググ……グニャア……!
力を加えられて平らになったあと、剣の形っぽく整えられていく。
といっても無理して変形させている感じではなく、溶かした鉄を鋳型に流し込むように、すんなりと形を変えていった。
「で……できた……!」
まさかこんなにカンタンに、剣が作れちゃうだなんて……!
ボクは心臓が高鳴るのを感じながら、剣を拾い上げる。
【鉄の剣】(戦闘力+12)
おおっ!? ゴンの持っていた石のハンマーより強いぞ……!
それにあっちは両手武器だけど、こっちは片手武器……!
ずっと取り回しもいい……!
ボクは嬉しくなって、初めての剣をビュンビュンと振り回してみる。
木の枝にガツンとぶつけて力を込めると、へし折るように切り落とせた。
切れ味も、なかなかだ……!
少なくとも石器のナイフとかよりはずっといい……!
見た目はなんだか朴訥で、想像してたほどのカッコよさはないけど……まぁ、いいよね。
次にボクは、広場のゴミ捨て場に積まれていた木切れを集めた。
その姿を偶然、クラスメイトの女子に見られて、
「見て、アンノウンのやつ、ゴミあさりしてる……!」
「えっ、やだ、キモーい!」
「でもさ、不思議と違和感なくない?」
「言えてるー! キャハハハハハハハ!」
思いっきり笑われてしまった。
いつもだったら恥ずかしくて逃げ出してるところだけど、この時ばかりはぜんぜん気にならなかった。
だって、早く錬金術の続きがしたかったから。
木切れを集め終えたボクは、それを『変形』させて木の鞘を作る。
これで、剣を腰に下げて持ち運べるようになったぞ……!
武器はこれでいいとして、次は……そうだ、鎧と盾を作ろう。
鉄をさらに抽出して、鎧と盾に変形させた。
【鉄の鎧】(戦闘力+16)
【鉄の盾】(戦闘力+8)
うーん、性能は文句ナシなんだけど……見た目は相変わらずイマイチだなぁ……。
でもまぁいいか、と思って鎧と盾を身に着けた。
これでよし……!
冒険の準備が整ったぞ……!
ボクは鉄の装備をかちゃかちゃと鳴らしながら、『太陽の塔』へと向かった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
塔の門番のオジサンに、身分証を渡す。
オジサンは身分証の表と裏をしっかりと確かめたあと、次はボクに視線を移した。
そして表情を曇らせる。
ボクが見たこともない材質の装備を身に着けているうえに、ステータスウインドウがグチャグチャなので、かなり怪しんでいるようだ。
オジサンに頭のてっぺんから足のつま先まで、ジロジロとねめつけられる。
もしかして、このまま牢屋に連れて行かれるんじゃ……とボクは悪いこともしてないのに不安になってしまった。
オジサンはウーム、と唸ったあと、
「……俺は、これまでいろんな入塔者を見てきたが、キミみたいな変わり者は初めてだ。でも、悪いことをする度胸がありそうには見えないし……いいだろう、入りなさい」
「あ……ありがとう」
ボクは身分証を返してもらって、そそくさと塔の入口へと足を運んだ。
扉自体が建物といってもいいくらいの、巨大な両開きの扉。
全開ではなく、隙間と呼べるくらいしか開いてないんだけど……ものすごくデカいから、少し開いているだけでもかなりの広さだ。
ボクが両手をめいっぱい左右に伸ばして、30……いや50人分くらいはあるだろうか。
中から吹きつけてくるひんやりした風を浴びながら、ボクはついに『太陽の塔』へと足を踏み入れた。
室内のはずなのに、どんなスポーツでもできそうなくらいに広く、天井も高い。
最初はその桁違いのスケールに「うわぁ……!」ってなっちゃったけど、例によってくすんだ色だったので、すぐに飽きてしまった。
入口の先は大広間になっていて、たくさんの冒険者たちがいる。
みんなはエレベーター待ちをしていて、降りてきたエレベーターから吐き出された人に入れ替わるようにして吸い込まれていく。
授業で習ったとおり『太陽の塔』の各階には大広間があって、そこにはネズミの住み処みたいにたくさんのエレベーターがある。
エレベーターは上の階に行くためのもので、ひとつに最大10人まで乗れるらしい。
塔は最初、階段であがっていかなきゃならないんだけど、各階にあるスタンプを身分証に押すことにより、次からはエレベーターで一気にそこまであがれるようになるんだ。
1階から3階は「観光階」なんて呼ばれているくらいで、強いモンスターもお宝もないので、本職の冒険者はみんなエレベーターで飛ばしていく。
だから1階から3階を冒険するのは、成人したばかり……ボクと同じ13歳のヤツしかいないんだ。
ボクは、ボクよりもずっと強そうな歳上の冒険者たちの姿を眺めながら、先へ先へと進んでいく。
大広間を抜けると、急に人気がなくなり寂しくなった。
背後の喧騒よりも、ボクの足音のほうが大きくなっていく。
『ここから先は、モンスターが出現することがあります』という注意書きの看板が、ボクの緊張をさらに煽りたてる。
ここから先は……街での常識や安全が一切通用しない、危険で未知なる領域ということか……!
ちょっと怖いけど、今さら引き返すわけにはいかない。
だって……ここからボクの冒険が、ついにはじまるんだから……!
夢に見ない日は一度だってなかった。
モンスターと剣を交え、ばったばったとなぎ倒し、お宝を手にする日々を……!
心の通じ合う仲間とともに旅をして、時には笑い、時には励ましあって……強大なる敵に打ち勝っていく……!
仲間の女の子といつかは恋に落ち、えーっと、キャンプでイチャイチャ、なんてこともあるかもしれない……!
そして最後には、仲間たちとともに塔のてっぺんにたどり着き……ホンモノの太陽を拝むんだ……!
あと……女神様がいたら、ついでにボクの名前も修正してもらおう……!
行くぞ……行ってやる……!
身体の震えが止まらないけど、ボクは行くんだ……!
何をやってもうまくいかず、みんなにバカにされてきた人生を、大きく変えるために……!
「……ギャアッ!」
なんて考えているうちに、さっそく出た……! モンスターだ……!
黄土色の肌に、腰巻き一丁、地獄の餓鬼みたいな見た目……!
【ゴブリンロワー】(戦闘力:30)
塔の中ではモンスターはどこにでも出現する。
どこからともなく黒い霧が現れ、ほおっておくと霧がひとつになってモンスターが生み出されるんだ。
これを『ポップ』という。
ちなみに黒い霧の時点で団扇かなにかで仰いで散らしてやると、モンスターは出現しないらしい。
各階の大広間にはモンスターを追い払う専用の見張りの人がいて、霧が出るたび散らしているからモンスターは出ないんだって。
……なんてことを考える余裕があるくらい、ゴブリンロワーとの戦闘は楽勝だった。
ジャレつく子供みたいに飛びかかってきたところを、盾で受け止めて剣で薙ぎ払う。
「ギャアッ!?」
……バシュゥゥゥッ!
斬り払ったとたん、ゴブリンロワーは悲鳴とともに黒い霧と化し、消えていった。
か……勝った……!?
思っていたよりずっとあっさり勝てたので、拍子抜けしてしまう。
もしかして幻とかで、本体は別にいるのか……!? とあたりを見回してみたけど、シーンとしていた。
ゴブリンロワーがいた床には、なにかが転がっている。
【ゴブリンロワーの胃石】
ああ、ドロップアイテムか……。
モンスターの部位は、塔の外に持ち出せば売れる。
この『第108世界』の通貨である¥へと換金できるんだ。
いちいち外に出るのが面倒な場合な、大広間にいる商人に売ることもできるんだけど、買い取り価格は外に比べて安くなってしまう。
ゴブリンロワーの胃の中にあった石なんて、どこで売ってもたいした値段にはなりそうもないけど……無一文なので贅沢を言ってられる立場じゃない。
ボクは汚れた石を拾い上げると、腰の布袋にしまった。
■□■□パラメーター□■□■(現在の階数:1階)
□■□■スキルツリー■□■□
今回は『抽出』と『変形』に1ポイントずつ割り振りました。
未使用ポイントが2あります。
括弧内の数値は、すでに割り振っているポイントです。
●錬金術
風錬
(1) LV1 … 抽出
(0) LV2 … 風薬
(0) LV3 … 旋風
火錬
(1) LV1 … 変形
(0) LV2 … 火薬
(0) LV3 … 噴火
地錬
(0) LV1 … 隆起
(0) LV2 … 地薬
(0) LV3 … 地震
水錬
(0) LV1 … 陥没
(0) LV2 … 水薬
(0) LV3 … 奔流
●サイキック
ニュートラル
(1) LV1 … テレキネシス
(0) LV2 … クロスレイ
(0) LV3 … テレパシー
●彩魔法
灰
(0) LV1 … フリントストーン
(0) LV2 … プラシーボ
(0) LV3 … ウイッシュ
●潜在能力
必殺技
(0) LV1 … 波動弾
(0) LV2 … 烈蹴斬
(0) LV3 … 龍昇撃