28 怪力アンノウン
簡素な木の衝立で仕切られた空間には、立て看板と5つのレバーが並んでいる。
やり方はマニーを応援しているときに見たから、看板は読まない。
ボクはすぐさまレバーに手をかけつつ、他の参加者も確認する。
ゴン、サル、ブレンはまだ部屋に入ってすらいない。
遠くにいるウサギは、ボクの様子を伺っていた。
親のまねっこをする子供のように、同じ位置のレバーを握りしめている。
よし、ここもふたりで、一気に切り抜けよう……!
ボクはウサギに目で合図を送りながら、ガシャン! とレバーを倒す。ウサギも同じように倒す。
最初のレバーは少し抵抗感があったけど、難なくクリアできた。
次のレバーはちょっと重い。片手に力を込め、一気に倒す。
ウサギも、よいしょ、よいしょと両手で押して、なんとか倒していた。
そして3つめのレバーにとりかかる。たしかここから重くなるんだ。
気合を入れてとりかかったんだけど、拍子抜けするくらい簡単に倒せてしまう。
ボクがあっさりとレバーを倒したので、観客たちが急にどよめきだした。
「お、おい……アンノウンのやつ、3つめのレバーを片手で倒しちまったぞ……!?」
「ウソだろ!? いままでのヤツらだと、全員両手を使ってたぞ!?」
「そうだよ! 俺は『筋力』が10あるのに、3つめのヤツは両手を使わないととてもじゃないが倒せなかったぞ!」
「そうだよな! クラスの腕相撲で女子にも勝てないアンノウンだと、あの重いレバーは両手でも無理だろ!」
「きっと壊れてんだよ! アンノウンの所だけ、弱くなってるんじゃないか?」
ボクはヤジを無視して、ウサギの様子を伺う。
うーん、うーん、とがんばってレバーを押しているけど、全然動かせていない。
そこに、後続のヤツらが部屋に飛び込んできた。
サル、ブレン、ゴンの順番だ。三人とも息を切らしながら、レバーに飛びついていく。
「追いついたぜ、アンノウン! 力なら負けねぇから、いっきにブチ抜いてやるぞぉ!」
力自慢のゴンが太い腕を見せつけながら、いっきにふたつのレバーを倒す。
3つめのレバーも片手でやろうとしてたんだけど、途中で無理だと気づいて両手持ちに変えていた。
「見ろよ! やっぱり、あのゴンですら3つめのレバーは両手でやってるぞ!」
「ゴンの『筋力』は15だろ!? クラスでいちばんどころか、大人よりも力持ちなのに……!」
「片手でやったアンノウンの筋力は、それ以上だっていうのか!?」
ヤジを聞いたゴンは「なんだとぉ!?」と顔を驚きに歪めている。
「アンノウンが片手なら……俺も片手でやってやらぁ! ぬぎぎぎぎぎっ!」
レバーを片手に持ち替え、歯を食いしばりはじめた。
勝手なライバル意識も、いまのボクにとってはどうでもいい。
それよりも、ウサギのほうが気になる……思い立ったボクは、ウサギが苦戦しているレバーに向けて、念を送った。
……ガチャンッ!
勢いよく倒れるレバー。ウサギは勢いあまってゴチンと頭をぶつけていた。
急にレバーが動いたので、キツネにつままれたみたいにキョトンとしている。
「……ウサギ! 早く! 次のレバーを倒すんだ!」
ボクの声に我に返り、4つめのレバーにとりかかるウサギ。
そのときすでにボクは、4つめのレバーを半分くらいまで倒していた。
ぐぐぐっ、と力を込め、残りの分も腕相撲をしているみたいに倒していく。
トドメを刺すように一気に押しきると、スカウトの大人たちまでもが「おおっ!?」と驚きの声をあげた。
「なんだ!? あのガキ……! 4つめのレバーまでもを片手で倒したぞ!?」
「おい、筋力設定はどうなってるんだ!?」
「1つめが3で、あとは3ずつあがっていくように設定してある!」
「ってことは、4つめは12か……! 倒した場合、『筋力』が12以上ってことになるが……」
「いや、片手で倒してるから、1.5倍……おそらく18以上あるぞ!」
「じゅ、18っ!? ゴンとかいう少年より3つも上じゃないか!」
「い、いや、それどころか……俺よりもあるぞっ!?」
「アイツ、成人したばっかのガキだろ!? そんなに『筋力』があるわけないだろ!?」
「で、でも、実際に4つめを片手で倒しちまってるし……!」
オタオタしはじめる大人たち。
「アンノウンが……! アンノウンが俺より力持ちなんて、あるわけねぇんだぁぁぁ! うおぉぉぉぉぉぉーっ!!」
命を削るような雄叫びをあげ、ようやく3つめのレバーを倒したゴン。
4つめのレバーも意地になって、片手でやろうとしている。
その間にボクは、『テレキネシス』を使ってウサギの4つめのレバーを倒す。
さて、最後の5つめのレバーだ。これは片手では辛そうだったので、両手を使う。
長いこと誰にも倒されていなかったのか、レバーはかなり硬かった。
今度こそ、本気でやらないとダメそうだ……!
ボクは腰を落とし、両手を突っ張ってとりかかる。
「うっ……うぅぅ~んっ!」
踏ん張りながら、ひたすらに押しまくると、
ギギギギギッ……!
軋むような音とともに、激しい手ごたえがあった。
こりゃ、なかなかの強敵……!
でも……今のボクだったら、なんとかできない相手じゃないぞ……!
ズリズリと足を滑らせながら押すと、まるで相撲をしているみたいに……レバーは抵抗しつつもゆっくりと後退していく。
しかし土俵際で、最後の粘りを見せてきた。徳俵に引っかかったみたいに動かなくなる。
くっ……! しぶとい……!
だけど……これで終わりだっ……!
「よぉい、しょっ……とぉ!!」
かけ声とともに、ひと思いに押し出す。
ガックンと、タガが外れたような感触のあと、
ドガッ……チャァァァァァンッ!!
レバーは鋼鉄の門番が倒れたかのような、重苦しい音とともに横になった。
「えっ……ええええええええええええええええええええええええええええええええええーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?!?」
世紀の大一番が決まったかのような大絶叫が轟いて、ボクはひっくり返りそうになった。
クラスメイトも、大人たちも、目を剥き、口をあんぐりさせている。
絶対ありえないような光景を目撃したかのような……そう、まるで一匹のアリンコが、巨象を倒した瞬間のような……到底信じられないような顔をしていた。
それっきり、言葉を失う観客たち。
「んぎぃぃぃぃ~! アンノウンなんかに、アンノウンなんかに、負けてたまるかよぉ~!」
静けさの中に響いていたのは、全身汗だくになって4つめのレバーと戦っているゴンの唸り声のみ。
レバーはピクリとも動いていなかった。
サルとブレンは4つ目のレバーには触れてもおらず、時間経過で動くのを待っている。
いちばん遠くにいるウサギは、ずっと5つ目のレバーにチャレンジしていた。
ポールダンスみたいにしがみついて、ぐるんぐるんしてるんだけど……微動だにさせられていない。
そして途中で疲れてしまったのか、
「ふにゃぁぁ~」
とレバーにもたれかかっていた。
ドガッ……チャァァァァァンッ!!
「ふわぁ」
ボクが念動力でレバーを倒した拍子に、バランスを崩し……やんちゃな子猫のようにコロンと床に転がるウサギ。
……ガララララッ!
ボクの前と、ウサギの前にある衝立が動き、次の部屋への道が開ける。
「よしっ、次の扉が開いた! 行こう! ウサギ!」
でんぐり返しの途中みたいな体勢で転がっているウサギを、念動力で起こしてあげたあと、ふたりして次の関門へと向かった。
そして立ちはだかる、計算問題が書かれた黒板。
今度はこの5つの問題を解かなくちゃいけない。
ボクは、苦いものがこみ上げてくるのを感じていた。
け……計算は、いちばん苦手なんだ……!
学校の勉強はどれも苦手なんだけど、特に算数はヤバい……!
右上に赤字で『0』と書かれた紙切れが、ボクの脳裏を走馬灯のように舞い散っていく。
不意に、紙の嵐のどまんなかに落雷が落ち、すべてを灰に変えてしまった。
雷に打たれたように、ビクンッ! となるボク。
灰色の紙吹雪が舞い散る頭の中では……新たなるスキルが天啓のように現れていたんだ……!
■□■□パラメーター□■□■(現在の階数:3階)
□■□■スキルツリー■□■□
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●超感覚
モーメント
(0) LV1 … 思考
(0) LV2 … 記憶
(0) LV3 … 直感
パーフェクト
(0) LV1 … 味覚
(0) LV2 … 音感
(0) LV3 … 声帯
●サイキック
ニュートラル
(4) LV1 … テレキネシス
(1) LV2 … クロスレイ
(1) LV3 … テレパシー
選択:ライトサイド
(0) LV1 … テレポート
(0) LV2 … タイムストップ
(0) LV3 … プリサイエンス
選択:ダークサイド
(0) LV1 … ダークチョーカー
(0) LV2 … エナジードレイン
(0) LV3 … マインドコントロール
●降臨術
妖精降臨
(1) LV1 … 戦闘妖精
(1) LV2 … 補助妖精
(1) LV3 … 生産妖精
英霊降臨
(1) LV1 … 戦闘英霊
(0) LV2 … 補助英霊
(0) LV3 … 生産英霊
●リバイバー
カオツルテクト
(0) LV1 … 蝸
(0) LV2 … 蛞
(0) LV3 … 蛭
●料理
見習い
(1) LV1 … 下ごしらえ
(1) LV2 … 焼く・炒める
(1) LV3 … 茹でる・煮る
コック
(1) LV1 … 盛り付け
(1) LV2 … 揚げる・漬ける
(0) LV3 … 燻す・焙煎
●錬金術
風錬
(1) LV1 … 抽出
(0) LV2 … 風薬
(0) LV3 … 旋風
火錬
(1) LV1 … 変形
(0) LV2 … 火薬
(0) LV3 … 噴火
地錬
(1) LV1 … 隆起
(0) LV2 … 地薬
(0) LV3 … 地震
水錬
(1) LV1 … 陥没
(0) LV2 … 水薬
(0) LV3 … 奔流
●潜在能力
必殺技
(1) LV1 … 波動弾
(1) LV2 … 烈蹴斬
(1) LV3 … 龍昇撃
選択:打撃必殺技
(0) LV1 … xカウンター
(0) LV2 … 爆裂拳
(0) LV3 … 点穴
選択:投げ必殺技
(0) LV1 … 当て身投げ
(0) LV2 … イズナ落とし
(0) LV3 … 真空投げ
●彩魔法
灰
(0) LV1 … フリントストーン
(0) LV2 … プラシーボ
(0) LV3 … ウイッシュ




