27 解き放たれた力
『力だめしの間』に戻ってみると、ボクの引いた5組のメンバーはすでにスタートラインについていた。
「遅えぞ、アンノウン!」
「さっさとしろよっ!」
「スタート前までドベでどうすんだよっ!」
観客のクラスメイトたちから怒鳴られて、ボクは慌ててスタートラインに並ぶ。
ボクのスタート地点はいちばん端っこだった。
ウサギも同じ5組だったんだけど、逆はじのレーンだと注意されて、名残惜しそうにボクから離れていく。
5組のメンバーは、ボクとウサギの他に、サルとゴンとブレン。
『冒険者ギルド』のスカウトであろう大人たちの視線を感じ、みんな張り切っているようだ。
「この組は、なかなかいいメンバーが揃っているな……!」
「まずサルという小柄な少年……『敏捷』さと『器用』さに秀でている。盗賊にピッタリじゃないか」
「うむ、きっと最初の中距離走ではダントツのトップを取るだろうな」
「そうだな。中距離走のタイムが良ければ、他は悪くてもスカウトの価値がありそうだ」
「つぎに、ゴンという大柄な少年……そのガタイの通り、飛び抜けた『筋力』と『強靭』さを持っているな……!」
「『精神』もじゅうぶんにある……! 身体だけじゃなく、心も強い証拠だ……! これは、相当な戦士になるぞ……!」
「体格にも恵まれてるが、『信心』も高いじゃないか……! プリーストとしてもアリかもしれないな……!」
「なんにしても、力の試練でいい成績を残しそうだな……! 速さのサルと、力のゴン……どっちが勝つか、見ものだな……!」
「3人目は、ブレンという細い少年……『精神』と『知力』に秀でている……!」
「おお、魔法使いになるために生まれてきたような少年じゃないか……!」
「きっと計算の試練では、彼がトップだろう。一気に逆転も考えられるな……!」
「速さのサルと、力のゴンに加えて、頭のブレンか……! この組は、どいつが勝ってもおかしくなさそうだ……!」
「4人目は……運悪く男だらけの組になっちまった、ウサギちゃんか……!」
「めぼしいのは、『器用』さだけか……うぅん……」
「身体も小さいし、なんだかキョドってる……気も小さそうだ……」
「スケッチブックなんかを大事そうに抱えて……絵なんか書いてんのか……」
「こりゃ、ダメダメだな……今回のガキの中はでは、いちばんのハズレ……下手すっと最下位かもしれねぇぞ……」
「あぁん? 見てみろよ、最後のガキ、急にこっちを睨んできたぞ」
「なんだなんだ、ウサギちゃんの彼氏か? ウサギちゃんの悪口は許しません、ってかぁ?」
「どれどれ、その5人目の彼のステータスは、っと……ええっ!? なんだこりゃ!?」
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「どうした……? うおっ!? なんだこのステータスウインドウ!?」
「グッチャグチャで、ぜんぜん読めねぇじゃねぇか!?」
「こんなステータスウインドウ、初めて見たぞ!?」
「な、なに、ビビってんじゃねぇよ。あんなガキのステータス、見るまでもねぇ」
「そ、そうだな……サル、ゴン、ブレンほどじゃねぇだろ」
「しっかし……こっちジロジロ見やがって……気持ち悪ぃヤツだなぁ……!」
「これでスカウトの価値がなかったら、あとで呼び出してシメてやろうぜ……!」
「そうだな……俺たち『冒険者ギルド』のメンバーに、ガンつけたヤツがどうなるか……たっぷり思い知らせてやるか……!」
「おおい、司会! こっちのチェックはもういいぞ! スタートしてくれ!」
スカウトたちのオッケーサインを受け、物見台のオジサンは親指を立てて応じた。
「よぉしっ! じゃあ、そろそろスタートといくぞっ!? 5組のみんな……準備はいいかっ?」
ボクらは一斉に、スタートの構えをとる。
ボクとゴンとブレンはスタンディングスタートだったけど、サルはクラウチングスタートの構えだった。
ウサギはよくわかってないみたいで、迷子のようにキョロキョロしている。
その姿を見て、ボクはギョッとなった。
ウサギ……そんなんじゃ本当にドベになっちゃうよ……!?
ボクはドベになることは慣れていたから、別によかった。
たとえ走っているときに転んで笑われても、なんともないと思っていた。
でも……ウサギが笑われるのだけは……大人たちの予想どおり、ドベになっちゃうのだけは嫌だった。
なんでかよくわからないけど……絶対に嫌なんだ……!
ボクは反射的にスキルウインドウを開き、『テレキネシス』にポイントを振っていた。
一気に3ポイントを費やし……気がつくと『テレキネシス』は4ポイントになっていたんだ……!
「よぉーい、スタートォッ!!」
スパァァァァァーーーンッ!!
乾いたヒザの音が鳴り渡った瞬間、ボクは飛び出していた。
「うおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーっ!?!?」
驚愕の声が、『力だめしの間』を揺らす。
「なっ……なんだなんだ!? なんだあれえっ!?」
「は……速ぇぇっ!? なんだあの速さはっ!?」
「クラスで一番の俊足のサルが、全然追いつけてねぇぞっ!?」
「スタートダッシュだけの偶然かと思ったら、そうじゃねぇ……! ぐんぐん突き放していってる……!」
「おい、サルの『俊敏』って13だろ!? アンノウンのヤツ、それよりも上だってのかよっ!?」
「それに……なんで二位がウサギなんだよっ!?」
「なんで!? なんでなんでなんでっ!? あの子、マラソンじゃいつも最下位なのに……なんでぇぇぇっ!?」
「しかも、走り方が変じゃね!?」
「なんか走ってるっていうより、滑ってるみたい!? 本人も信じられないみたいにアタフタしてるし!?」
「信じられねぇのはこっちだし!? なんであんなフザけた走り方で速いの!? キモいキモいキモいっ! マジありえない!?」
……ボクは走りながら真横を見る。
奥のレーンでは、並走したり少し遅れたりしているウサギがいた。
氷の上で背中を押されているみたいに、ツィーと滑っているウサギ。
何が起こっているのか理解できていないようで、おかっぱ頭を振り乱しながら、「はわわわわわぁ~」と手をバタバタさせていた。
ボクは心の中で謝罪する。
ゴメン、ウサギ……! ちょっとだけだから、ガマンして……!
ウサギがバカにされるのだけは、どうしてもガマンできなかったんだ……!
ボクはスタート直前に、『テレキネシス』のスキルにポイントを振って、大幅にパワーアップさせた。
それは、ウサギを持ち上げられるようにするためだったんだ。
1ポイントだと、たぶん持ち上げられなかっただろう。
仮に持ち上げられたとしても、スピードを持って動かすことはできなかったはず。
3ポイントもかけたおかげで、ウサギをとんでもないスピードで動かすことができたんだ……!
しかも嬉しいことに、かなり簡単に『テレキネシス』が発動できるようになった。
今までは対象に向かって手をかざし、全神経を集中させなくちゃいけなかったんだけど……今では対象を視界にとらえ、軽く念じるだけで、動かせるようになったんだ……!
おかげで走りながらでも使える。
まだまだ余裕のあるボクは、さらに首を捻って後続を確認した。
かなり離れたところに、サル、ブレン、ゴンと続いている。
三人とも、砂漠で蜃気楼でも追いかけているような表情だ。
いつもドベだったボクの背後にいるなんて、信じられないかもしれない。
自分自身、まだ実感できずにいるけど……これが今のボクなんだ……!
実をいうと、これでもまだ抑え目にして走っている。
全力を出せば、たぶんもっともっと速く走れる。
いまはウサギといっしょにゴールしたいから、しないけどね……!
ボクとウサギは3位以下を大きく引き離し、最初の関門であるレバーの並んだ部屋へと飛び込んだ。
■□■□パラメーター□■□■(現在の階数:3階)
□■□■スキルツリー■□■□
今回は『テレキネシス』に3ポイントを割り振りました。
未使用ポイントが1あります。
括弧内の数値は、すでに割り振っているポイントです。
●サイキック
ニュートラル
(4) LV1 … テレキネシス
(1) LV2 … クロスレイ
(1) LV3 … テレパシー
選択:ライトサイド
(0) LV1 … テレポート
(0) LV2 … タイムストップ
(0) LV3 … プリサイエンス
選択:ダークサイド
(0) LV1 … ダークチョーカー
(0) LV2 … エナジードレイン
(0) LV3 … マインドコントロール
●降臨術
妖精降臨
(1) LV1 … 戦闘妖精
(1) LV2 … 補助妖精
(1) LV3 … 生産妖精
英霊降臨
(1) LV1 … 戦闘英霊
(0) LV2 … 補助英霊
(0) LV3 … 生産英霊
●リバイバー
カオツルテクト
(0) LV1 … 蝸
(0) LV2 … 蛞
(0) LV3 … 蛭
●料理
見習い
(1) LV1 … 下ごしらえ
(1) LV2 … 焼く・炒める
(1) LV3 … 茹でる・煮る
コック
(1) LV1 … 盛り付け
(1) LV2 … 揚げる・漬ける
(0) LV3 … 燻す・焙煎
●錬金術
風錬
(1) LV1 … 抽出
(0) LV2 … 風薬
(0) LV3 … 旋風
火錬
(1) LV1 … 変形
(0) LV2 … 火薬
(0) LV3 … 噴火
地錬
(1) LV1 … 隆起
(0) LV2 … 地薬
(0) LV3 … 地震
水錬
(1) LV1 … 陥没
(0) LV2 … 水薬
(0) LV3 … 奔流
●潜在能力
必殺技
(1) LV1 … 波動弾
(1) LV2 … 烈蹴斬
(1) LV3 … 龍昇撃
選択:打撃必殺技
(0) LV1 … xカウンター
(0) LV2 … 爆裂拳
(0) LV3 … 点穴
選択:投げ必殺技
(0) LV1 … 当て身投げ
(0) LV2 … イズナ落とし
(0) LV3 … 真空投げ
●彩魔法
灰
(0) LV1 … フリントストーン
(0) LV2 … プラシーボ
(0) LV3 … ウイッシュ




