02 異世界のスキル
宙に浮かぶステータスウインドウを、ボクは未知なる存在のように見つめていた。
『彩魔法』はわかる。この『第108世界』の魔法のことだ。
石が火打ち石になるよう祈る、『フリントストーン』。
病気やケガの治りをよくするために祈る、『プラシーボ』。
女神に願いを届けるために祈る、『ウイッシュ』。
正直これらのスキルは、ボクに言わせると魔法なんかじゃない。
ただの『おまじない』だ。
ボクはこのしょぼいスキルに対して、ずっと不満を抱いていた。
だってちっとも『魔法』っぽくないから。
そしていつからか、もっと『魔法』っぽいスキルを妄想するようになったんだ。
ボクは、ボクがいるこの『第108世界』以外にもたくさんの『異世界』があると信じている。
その別世界では魔術や化学がずっとずっと発展してて……『超能力』や『錬金術』みたいなすごいスキルがバンバン飛び交ってるんだ。
そんな頭の中だけだと思っていた、夢のようなスキルが……ボクのステータスウインドウの中にあるだなんて……!
信じられない気持ちでいっぱいだ。でも誰に言っても信じてもらえないだろう。
だって他の人から見たら、このウインドウは □ と ■ の羅列でしかないからだ。
いくら言葉を尽くして説明しても、ボクの頭が完全におかしくなったと思われるだけだ……!
ああっ、もどかしい……! いったいどうすればいいんだ……!?
ボクは頭を抱えそうになったけど、すぐに思い直した。
でも、待てよ……!?
もしこのスキルがホンモノなんだったら、ボクはすごい力を手にいれたことになるぞ……!
改めてステータスウインドウを見てみると、スキルポイントが5あった。
あれ……?
たしかレベル1の場合だと、最初に持ってるスキルポイントは1のはずなんだけど……それはまぁいいか。
このスキルポイントを欲しいスキルに割り振ると、そのスキルが使えるようになる。
同じスキルに多くのポイントを費やすと、スキル自体がどんどんパワーアップしていくんだ。
ボクは半信半疑ながらも、スキルにポイントを振ってみることにした。
『彩魔法』には目もくれず、まず『超能力』にある『テレキネシス』に1ポイント付けてみる。
瞬間、ボクの身体がほわほわした光に包まれる。
これで……『テレキネシス』が使えるようになったのかな?
『テレキネシス』は超自然能力が発達した、『第7世界』の能力。
別名『念動力』と呼ばれ、手を使わずに遠くにあるものを動かしたりできるんだ。
ボクは土手から立ちあがって、河原にみっちりと敷き詰められた石たちを眺めた。
その中から大きめの石を探しだし、睨みつける。
すると……石のステータスウインドウが開いた。
【河原の石】(戦闘力+1)
その戦闘力1の石に向かって、頭の中で「浮け……!」と念じてみると、
……ふわぁ
まるでタンポポの綿毛みたいに、重そうな石がフワフワと浮き上がったんだ……!
ボクは自分がやったことだというのに、目を剥いてしまった。
「うわあああっ!? ほ、ホントに……ホントに浮いちゃった……!」
怖くなって手を引っ込めると、浮いていた石はゴトンと河原に落ちる。
「ボクが……テレキネシスを使えるだなんて……!」
じっと手を見つめてみたけど、いつもとなんら変わりない、ボクの手だった。
しばらくは信じられなかったけど……ボクは戸惑いがだんだんと興奮へと変わっていくのを感じていた。
このスキルがあれば……ボクは誰にも負けない、最強の冒険者になれるかもしれない……!
普段からボクをバカにしているみんなを、見返すことができるぞ……!
いや、そんなことよりも……塔の頂上まで登りつめて、ホンモノの太陽が見れるかもしれない……!
ボクは顔をあげる。目の前には巨人のように見下ろしてくる『太陽の塔』。
手をかざしてひさしにして、ニセモノの太陽を睨みつけた。
【太陽】(戦闘力:不明)
よぉし、待ってろよ……! お前の正体、暴いてやるからな……!
ボクは、塔に挑みかかるように走り出した。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
この『第108』世界の中心にある、『太陽の塔』。
色と形は『巨大煙突』と形容するのがしっくりくる、ネズミ色の円筒状。
下から見上げると霞むほどの高さがあり、太さは外周を走っても、一周するのに何時間もかかるほどに大きい。
神様が作ったというのも納得できるほどの、無駄にでっかい建造物……この塔のてっぺんには神様が住んでいるという言い伝えもある。
中にはモンスターがウヨウヨいて危険なため、成人しないと入ることができない。
だけど、中には一生遊んで暮らせるほどのお宝があるらしい。
だから多くの冒険者たちが、一攫千金の夢を抱いてこの塔を訪れる。
それに成人の儀式を終えた若者も、必ず一度は塔に入るんだ。
職業がたとえ『農夫』であっても『商人』であっても……塔に入って冒険することはできる。
誰もが「もしかしたら」という淡い期待を胸に抱きながら、塔を探索し、モンスターと戦い……ある者はほんの少しのお宝を手に、ある者は変わり果てた姿で塔をあとにする。
ボクは途中で飛び出してきちゃったけど、成人の儀式ももう終わってるだろうから……クラスメイトたちもみんなこの塔を目指しているに違いない。
遅れてなるものかと、ボクは塔の入り口へと向かう。
入り口は遠目でもすぐにわかる、小山くらいの高さの両開きの扉。
ほんの少しだけ開け放たれているけど広さはかなりのもので、多くの人たちが列をなし、吸い込まれるように入塔している。
ちなみに入口と出口は別の場所なので、ここは入口専用だ。
塔の玄関口である広場では、大勢の人たちでごったがえしている。
中に入るために準備をする者、物売りをする者、物乞いをする者……様々だ。
ちょうど市場もあるので、ボクはここで装備を整えることにした。
木で作った簡素な屋台が立ち並ぶ市場を歩いていると、クラスメイトたちの姿もちらほら確認できた。
やっぱりみんなもここで装備を買って、塔に挑むつもりらしい。
店先には『一流の武器』や『最強の武器』と称されたハンマーや鎧が並んでいる。
そしてボクはまた苦い気持ちになった。
この『第108世界』への不満は、スキルだけじゃない。
武器や防具もショボいんだ。
いちばん強い素材といえば石なので、武器といえば石のハンマーや石のオノ。
鎧も木で出来てるやつか、石で出来てるヤツしかない。
そう。この世界は空や建物だけじゃなくて、武器や鎧まで灰色なんだ……!
他の異世界には金属というものがあって、切れ味鋭い『剣』や『斧』がある。
飛び道具だって投石だけじゃない。矢という鋭い棒を遠くに飛ばすための『弓』なんかがあるんだ……!
なんてことを考えながら歩いていると、通りの向こうから傍若無人そうな人影が現れた。
クラスメイトである、乱暴者のゴンとレツだ。
ふとっちょのゴンと、筋肉質のレツ。
ゴンは身体くらいある大きな【石のハンマー】(戦闘力+8)を抱えていて、レツのほうは【石のオノ】(戦闘力+4)を手で弄んでいた。
ふたりはボクの前に来るなり、乱暴に突き飛ばしてくる。
「おい、どけよアンノウン!」
「お前みたいな気持ち悪ぃヤツが、塔に来るんじゃねぇよ!」
倒れたところに、ツバを吐きかけられた。
くっ……!
いつもはやられっぱなしだけど、今日はそうはいかないぞ……!
ボクは去っていくレツの背中に手をかざす。
ヤツが手にしている石オノを『テレキネシス』で操って、ゴンの頭を小突いてやった。
「おい、なんだよテメェ!? 急に石オノで殴ったりしやがって!?」
「はあ? 知らねぇよ! 手が勝手に動いたんだよっ!」
「テメェ……買ったばかりの武器を、モンスターじゃなくて俺で試そうってハラかよ……いい度胸じゃねぇか!」
「ああん!? なんだテメェ! やんのか!?」
往来の真ん中で、ガンをつけあったあと、殴り合いを始めるゴンとレツ。
まわりの迷惑もかえりみず、武器をブンブン振り回している。
ふたりはケンカ上等のコンビなので、しょっちゅうまわりにケンカをふっかけてるんだけど……そんなにケンカしたいならふたりだけでやればいいのに、とボクは思っていた。
ちょうどその願いが叶ったところで、ボクは気分よく市場をあとにした。
※※※ 次回予告 ※※※
錬金術で、誰も見たことがないレア装備を作ります!
□■□■スキルツリー■□■□
今回は『テレキネシス』に1ポイントを割り振りました。
未使用ポイントが4あります。
括弧内の数値は、すでに割り振っているポイントです。
●サイキック
ニュートラル
(1) LV1 … テレキネシス
(0) LV2 … クロスレイ
(0) LV3 … テレパシー
●彩魔法
灰
(0) LV1 … フリントストーン
(0) LV2 … プラシーボ
(0) LV3 … ウイッシュ
●潜在能力
必殺技
(0) LV1 … 波動弾
(0) LV2 … 烈蹴斬
(0) LV3 … 龍昇撃
●錬金術
風錬
(0) LV1 … 抽出
(0) LV2 … 風薬
(0) LV3 … 旋風
火錬
(0) LV1 … 変形
(0) LV2 … 火薬
(0) LV3 … 噴火
地錬
(0) LV1 … 隆起
(0) LV2 … 地薬
(0) LV3 … 地震
水錬
(0) LV1 … 陥没
(0) LV2 … 水薬
(0) LV3 … 奔流