18 女の子と、宿に泊まることに…
「お察しのとおり……そう、俺は自分を偽っている……! いまの俺は、貴族の息子なんかじゃない……! キミらと同じ、タダの庶民だ……!」
ずっこけたままのボクを見下ろしながら、マニーは続ける。
「成人の儀式を期に、俺は家を出たんだ……! 持ち出したのは、この服のみ……! だから俺はもう、たったの10万¥すら払えない、ただの庶民……! 抜群のルックスを誇る、ただの庶民なんだ……!」
マニーは苦悩した様子で、前髪をかきあげた。
ボクが想像していたのとは、まるで違う告白。
それはそれで気になったので、ボクは身体を起こしながら尋ねてみる。
「なんで家を出たの?」
するとマニーは、ボクとウサギに目配せしながら答えた。
「……貴族の役目ってなんだかわかるか?」
「えーっと、威張ること?」『キレイなお洋服を着ること?』
ボクとウサギはひとさし指を下唇に当て、んーと、と考えたあと答えを出した。
でも一笑に付されてしまう。
「フッ……まあそれもあるかもしれないが、一番の役目は領地の『献上品』を納めることだ」
貴族というのは必ず領地を持っている。
そこではいろんな産業が行われおり、できあがったものの一部が女神への『献上品』として『太陽の塔』に納められるんだ。
「庶民たちを働かせ、献上品を作らせるのが貴族の役目なんだが、献上品は毎年決められた量を納める必要がある。たとえば農業が不作だった年は、他の産業のヤツらに頑張らせて、埋め合わせをしなくちゃならない。その尻たたきも貴族がやるんだ」
焚き火を見つめながら続けるマニー。
瞳の奥には、燃えるような炎が映っていた。
「もし献上品の量が足りなかったら、どうなるかわかるか? その分、『太陽の塔』からの日照が減るんだ……! ただでさえ不作だったところに、追い打ちをかけるように……!」
パチンと焚き火が弾け、マニーの顔が明るく照らされる。
「だから庶民たちは必死になって、献上品をかき集める……! 盗品だろうとおかまいなしさ……! 毒抜きをしていないものには厳重な管理責任があるが、それは表向きの話……! 献上品の横取りを防ぐためでもあるんだ……!」
マニーは炎と一体化したように、声を荒げた。
「俺は子供の頃、教わった……! 太陽だけは別け隔てがないと……! 金持ちにも貧乏人にも、誰しも平等に降り注ぐ、と……! でも……これが平等か!? これが……別け隔てがないというのか!?」
いつもはクールなマニーが、いつになく熱く語っている。
ボクは、彼……いや、彼女の想いになんとなくではあるが、共感していた。
「……マニーは、献上品の量にかかわらず太陽を照らしてほしいと、女神様に直訴に行こうとしてるんだね。貴族の子であるマニーがそんなことをすると、領地の人たちに迷惑がかかるから、家を出てまで……」
するとマニーは興奮さめやらぬ様子で、肩をぜいぜいと上下させながら頷いた。
なだめるようなウサギから、水の入ったコップを渡されて一気に飲み干す。
「ぷはあっ……。ああ、女神への直訴は父にも反対されていたんだ。そもそも塔に行くことすら猛反対されていたからね。だから俺は、家を出た。どのみち跡取りは弟に決まっていたから、俺がいなくても家は問題ないんだ」
そう語るマニーはなんだか、やけっぱちになっているようにも見える。
ボクはマニーがなぜ男装してるのか、ずっと疑問だったんだけど……その答えを得たような気がした。
きっと最初に生まれたマニーは、女の子なのに跡取りにならなくてはいけなくて、親から男の子として育てられてきたんだろう。
でも弟ができたので、跡取りの座を奪われ……家でも居場所がなくなってしまったんだろう。
ボクはマニーの、さらなる一面を見た気がした。
マニーは貴族の息子ということをカサに着て、キザで嫌味に振る舞うだけのヤツかと思ってたのに……ボクと同じように、この世界に不満を感じていただなんて……。
なんだか……他人とは思えなくなってきた。
「マニー、だったらボクらと一緒に行こうよ。前にも言ったけど、ボクらも塔のてっぺんを目指してるんだ」
「そういえば、そんなことを言っていたな……ふたりはなぜ、塔の頂上を目指してるんだ?」
ボクはマニーに、てっぺんを目指している理由を話した。
ウサギは恥ずかしそうにしていたので、ボクがかわりに説明してあげる。
いつもは小馬鹿にしたように「フッ」って笑うマニーだったけど……この時ばかりは笑わなかった。
「……ホンモノの太陽、か……。アンノウン、やっぱりキミはおかしなヤツだな。そんなもの、あるわけはないと思うが……」
「ボクはあると思ってる……絶対に! 献上品なんかには左右されない、本当に別け隔てなく降り注ぐ太陽が……!」
『わたしも、あると思う……!』
スケッチブックをこれでもかと突き出して、賛同してくれるウサギ。
そんなボクらに対し、マニーは頭を悩ませるように額に手を当てていた。
「やれやれ……レディまでもがそんなことを言うとは……完全にアンノウンに毒されているようだ。そして俺も……そうなりつつあるようだ」
マニーは肩をすくめたあと、チラとボクを見る。
「ホンモノの太陽……あったら素晴らしいだろうな……。アンノウン、その話……もう少しだけ聞かせてくれないか」
そう言いながら、白魚のような指を固めた拳を突き出してくるマニー。
ボクは乾杯をするように、拳を軽く突き合わせた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
それからしばらくおしゃべりをして、あたりもすっかり暗くなってきたので……ボクらは宿に泊まることにした。
ボクひとりなら道端で寝ることも考えるんだけど、女の子がふたりもいるのでそういうわけにはいかない。
大きな通りに面した宿に入ってみると、一階は酒場だった。
宴もたけなわ。多くの冒険者たちが赤い顔をして酒を酌み交わしあっていて、かなり賑やかだ。
酔っ払いだらけのテーブルをぬって、宿の受付カウンターへと向かう。
「雑魚寝の部屋ならひとり一千¥。個室なら二千¥。風呂ありなら三千¥だよ」
そっけなく対応してくれたオジサンに、マニーが真っ先に言った。
「風呂ありの個室に決まってるだろう!」
「あいよ。なら三人で9千¥だな」
しかし……ぜんぶの手持ちをあわせても、7千¥ちょっとしかない。
重ね合わせたボクとウサギの手にある全財産……それを覗き込んでいたマニーは、呆れた様子で前髪をかきあげた。
「なんだなんだ、7千¥しかないのか!? ならふたりしか泊まれないじゃないか!」
「ボクらにばっかり出させて……そう言うマニーは持ってないの?」
「俺はもう貴族じゃない……庶民だから、一文無しだ」
「一文無しなら庶民以下じゃないか……なら、マニーは雑魚寝の部屋に泊まりなよ。一千¥なら出してあげるから。ボクとウサギはお風呂のついた個室に泊まるよ」
「そっ……そんなこと、許されるわけがないだろう! 俺が雑魚寝の部屋なんて……! アンノウン、キミが雑魚寝をすればいいんだ!」
「そんなぁ! 半分はボクが稼いだのに、なんでボクが雑魚寝なのさ!? まだ二千¥の個室みっつのほうがいいよ!」
『お風呂に入りたい……』
「その通り! 二千¥の個室には浴室がないんだろう!? 今日一日冒険をしてたくさん汗をかいたんだ! 風呂なしなどありえないだろう!」
「もうっ、マニー! 少しは遠慮してよ!」
「俺はもうキミらの仲間なんだろう!? ならば仲間としての権利は主張させてもらう!」
侃侃諤諤なボクら。
見かねたオジサンが、途中で口を挟んできた。
「……個室は本来はひとり用だが、特別にふたりまでなら寝てもいいよ。ひとりは床になっちまうがな。そっちの兄ちゃんふたりが同じ部屋で、お嬢ちゃんが別室。風呂付きの部屋で、あわせて6千¥だ」
「それはならんっ! 俺がアンノウンと同じ部屋で寝るなんて、ありえんっ!」
断固拒否するマニーに、オジサンは不思議そうだ。
「なんでだよ? 同じベッドで寝るわけじゃなし、男同士なら別にいいじゃねぇか」
マニーが拒否する理由は今のところ、ボクにしかわからない。
なんたって……マニーは女の子なんだ。
「ともかく……ならんのだ! そうだ、俺とウサギが一緒の部屋になればいい!」
それなら確かに性別で分けられるから、問題解決なんだけど……事情をしらないウサギは、血の気が引いたように顔を青くしていた。
『そ……それは……! 男の子といっしょのお部屋だなんて……!』
ウサギはチラッとボクのほうを見たあと、
『アンノウンくんとなら、いいけど……』
顔を隠すようにして、スケッチブックを向けてくる。
「アンノウンとウサギが同室!? ダメだダメだ! そんなふしだらなこと、許されるわけがないだろう!」
マニーは案外潔癖だった。
ハタから見てると言ってることがメチャクチャにしか聞こえないが、彼女が女の子だと考えると筋が通っている。
しかし彼女が男の子だと思っているウサギとオジサンは、すっかり混乱しているようだ。
「兄ちゃん、いったい何なんだよ……じゃあ、こうしたらどうだ? 三人部屋にするんだ。男ふたりに女ひとりになっちまうけど、大きな風呂つきで7千¥だ。予算も足りるし、風呂にも入れる。ふしだらになるのが嫌なんだったら、ずっと兄ちゃんが目を光らせてるといい」
オジサンからの新たな提案に、ボクはギョッとなった。
それは男ふたりに女ひとりじゃなくて、男ひとりに女ふたりになっちゃうよ……!
そ、それはちょっと……と思ったんだけど、それよりも早くマニーが動く。
「くっ……広い浴室だと……!? やむをえん……! ご主人、その部屋をひとつもらおうか……!」
黄金の髪を翻しながら、いつのまにかひったくっていた紙幣を……バァンとカウンターに叩きつけていたんだ……!
■□■□パラメーター□■□■(現在の階数:3階)
□■□■スキルツリー■□■□
今回は割り振ったポイントはありません。
未使用ポイントが6あります。
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●料理
見習い
(1) LV1 … 下ごしらえ
(1) LV2 … 焼く・炒める
(1) LV3 … 茹でる・煮る
コック
(1) LV1 … 盛り付け
(1) LV2 … 揚げる・漬ける
(0) LV3 … 燻す・焙煎
●サイキック
ニュートラル
(1) LV1 … テレキネシス
(1) LV2 … クロスレイ
(1) LV3 … テレパシー
選択:ライトサイド
(0) LV1 … テレポート
(0) LV2 … タイムストップ
(0) LV3 … プリサイエンス
選択:ダークサイド
(0) LV1 … ダークチョーカー
(0) LV2 … エナジードレイン
(0) LV3 … マインドコントロール
●錬金術
風錬
(1) LV1 … 抽出
(0) LV2 … 風薬
(0) LV3 … 旋風
火錬
(1) LV1 … 変形
(0) LV2 … 火薬
(0) LV3 … 噴火
地錬
(1) LV1 … 隆起
(0) LV2 … 地薬
(0) LV3 … 地震
水錬
(1) LV1 … 陥没
(0) LV2 … 水薬
(0) LV3 … 奔流
●潜在能力
必殺技
(1) LV1 … 波動弾
(1) LV2 … 烈蹴斬
(1) LV3 … 龍昇撃
選択:打撃必殺技
(0) LV1 … xカウンター
(0) LV2 … 爆裂拳
(0) LV3 … 点穴
選択:投げ必殺技
(0) LV1 … 当て身投げ
(0) LV2 … イズナ落とし
(0) LV3 … 真空投げ
●彩魔法
灰
(0) LV1 … フリントストーン
(0) LV2 … プラシーボ
(0) LV3 … ウイッシュ