152 第三関門
……ガリッ!
靴の先を我ながら器用に動かして、足元に描いたもの、それは……。
錬金術の陣っ……!
……ギュルンッ!
細くて長い渦巻きがおこり、ヘドロを舞い上げて細長い筋となった。
それが流水の源となる。
ボクは目の前で起こったわずかなに力に身を任せるようにして、水中を漂う。
最初は促すような弱さだったのに、それがだんだんと、押すような強さへと変わる。
そして濁流のような勢いで、お堀の水が流れはじめる。
どんよりと滞っていた水を、かきまぜ、流れを持たせるスキル……。
そう、『錬金術』の『水錬』のレベル3スキル、『奔流』……!
これを使ってお堀を流れるプールに変えてやれば、マニーもサルも体力を消耗せずに周回できる……!
たとえ雷猿に捕まっても、いっしょに押し流しちゃえば関係ないもんね……!
……ザザザザザザッ!
そうこうしてるうちに、流れはかなりのスピードになってきた。
水面にうかびあがってみると、波よりも歓声に飲み込まれそうになる。
「おいおいおい! なんで水が流れてんだよっ!?」
「もしかして、川と繋がってるのか!? 水門でもあって、それが急に開いたとか……」
「そんなの、聞いたことねえぞっ!? だいいち、今までそんなことなかっただろ!」
「ああっ!? 見ろよ! みんな流されてる!」
「ガキどもも、盗賊ギルドも、エクスプローラーズも……それに、雷猿まで!?」
「あっ! アンノウンが水からあがったぞ! 仲間のガキどもを、引っ張りあげてやがる!」
「もう4周したのかよ!? いくらなんでも速すぎじゃねぇか!?」
「いや、流されたおかげで、あっという間だったんだ!」
「マジかよっ! 偶然とはいえ、あんなので泳いだことになんのかよっ!」
ブーイングが飛び交うなか、ボクは第三関門である屋根へと再びあがった。
さ、さすがにちょっと、疲れてきたかな……。
でも、休んでなんかいられない。
妨害チームたちがお堀からあがってくる前に、できるだけ距離を稼いでおかないと。
次は、大通りからうじゃうじゃとあがってくる衛兵たちと戦いながら、屋根の上を進まないといけない。
もう、手加減なんてしてる余裕はない。
ぐわあっと押し寄せてくる人の波を、
「 龍ッ! 昇ッ! 撃ィッ!! 」
……どばぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーんっ!!
まとめて舞い上げながら、宙を舞う。
「なっ!? なんだあの技っ!?」
「何十人も一気に吹っ飛ばしやがった!?」
「す、すげえ……! なんか、見ていて気持ちいいな!」
「あ、ああ……! 衛兵どもが紙くずみてぇだ!」
「い……いいぞーっ! アンノウーンっ!!」
ボクは声援に応える間もなく、衛兵が使っていた木刀を空中でキャッチする。
『龍昇撃』は振り終えたあとがスキだらけになるんだけど、マニーとサルが地点を守ってくれていた。
「……ありがとう、マニーっ、サル! 一気に突っ切るから、ボクのあとについてきて!」
「今度はなにをするつもりだ、アンノウンっ!?」
説明しているヒマはない。
だってこうしている間にも、行く手はどんどん塞がれているんだ。
屋根が抜け落ちないのが不思議なくらいの、おびただしい数大人たちによって……!
「いくよ……! 不動っ……峰巒剣ぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!!」
ドッ……!
ちょうど飛びかかってきていたオジサンのどてっ腹に、木刀の先がブッ刺さる。
身体をくの字に曲げて飛んでいくオジサンを追いかけるように、ボクは人波への突撃を開始する。
ドドドドドドドドドッ……!
折り重なり、吹っ飛び、ドミノ倒しになり、屋根からバラバラと落ちていく人々。
……『不動峰巒剣』。
『不動の型』から派生する剣術だ。
一直線に進み、その軌道上にいる相手を刺突する技……!
たとえ木刀であっても、その威力はかなりのもの……!
そしてそれは、誰にも止められない……!
……ドッ! ドッ! ドオッ!
たとえ、ボクより大きな大人であっても……!
……ドシュッ!
たとえ、巨兵と呼ばれた力自慢であっても……!
……ドシュッ! ドシュッ! ドシュゥゥゥッ……!
そう、たとえ伝説の盗賊と呼ばれた男たちであっても……!
「ぐわっ!?」「ぎゃあっ!?」「ばかなっ!?」
サルも木から落ちるように屋根から転げ落ち、大通りに置かれた木箱に叩きつけられる雷猿たち。
『不動峰巒剣』の前では、『レイジングブル』の体当たりだってなぎ倒される。
普通の人間がいくら向かってきたところで、跳ね飛ばされるだけなんだ。
ボクは今、除雪車……!
雪崩のように向かってくる衛兵たちを取り除いて道を切り開く、除雪車なんだ……!
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」
「すっ……! すすすすすっ! すげえっ!? すげえすげえすげえっ!? すげえよっ!?」
「あのうじゃうじゃいる中を、かき分けて進むなんて……!?」
「あのガキ……マジで……マジでいったい何者なんだっ!?」
「や……やべぇぇぇぇぇぇぇっ!? あ……アンノウン! なんてヤツだ……!」
「お……俺たちはとんでもない思い違いをしてたのかもしれねぇ……!」
「そ、そうだ……! アンノウンは……本当はとんでもねぇヤツなんだ……!」
「お、おいっ!? お前ら正気か!? おかしいだろっ! インチキに決まってる! あんなガキが……!」
「おかしいのはお前のほうだっ! アンノウンの凄さを、いい加減認めろよ!」
「そうだそうだ! アレを見てろよ! 雷猿なんて、とっくにノビてんじゃねぇか!」
「俺……決めた! 次のレース、全額アンノウンに賭けるぜ!」
「お……俺も! 俺もだ! 雷猿なんて時代遅れだ! 今はアンノウンだぜ!」
「いいぞぉーっ! やっちまぇぇぇーーーっアンノウーンっ!」
「負けるな! 俺たちがついてるぞーっ!」
ボクは向かってくる衛兵たちを、えい、えいと押し返していた。
でももう正直、ヘトヘトだ。全身が鉛になったみたいに重い。
ボクを支えてくれているのは、みんなの声援だった。
ここで踏ん張れば、観客の洗脳は一気に解けるはず……!
逆に途中でへばることがあったら、元の木阿弥……!
だからなんとしても、リタイヤせずにゴールしなきゃならないんだ……!
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」
残った気合を振り絞り、ボクは屋根伝いに街の外へと転がり出た。
ついに最後の関門……『壁のぼり』へとさしかかる。
しかしここで立ちふさがる、絶望……!
『謎の壁』を目の当たりにしたボクは、へなへなと崩れ落ちた。
□■□■スキルツリー■□■□
今回は『奔流』に1ポイントを割り振りました。
未使用ポイントが1あります。
括弧内の数値は、すでに割り振っているポイントです。
●錬金術
風錬
(1) LV1 … 抽出
(1) LV2 … 風薬
(0) LV3 … 旋風
火錬
(1) LV1 … 変形
(1) LV2 … 火薬
(1) LV3 … 噴火
地錬
(1) LV1 … 隆起
(0) LV2 … 地薬
(0) LV3 … 地震
水錬
(1) LV1 … 陥没
(1) LV2 … 水薬
(1) LV3 … 奔流