150 第二関門
……ドッ……バッ……!!!
……カァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!!!
マグナム弾をくらったスイカのように、爆散するターゲット。
最寄りにいたマニーとサルは、呆気に取られたまま飛び散る破片をパラパラと受けている。
投石もやんだ。雷猿たち妨害チームも、雷を聞いた草食動物のように固まっている。
歴戦のツワモノたちがそんな状態だったから、観客たちは言わずもがな。
やがて誰からともなく口を開いた。
「こ……粉々に……なった……!?」
「い、いや……爆発だ! あ……あのガキの石を受けたターゲットが、爆発したんだ!」
「あのターゲットって、石でできてるんだろ!? な……なんで石に石をぶつけただけで、爆発するんだよっ!?」
「し、知らねぇよそんなこと! っていうか、それ以前に……石のターゲットだなんて、おかしいだろ!?」
「そ……そうだそうだ! 倒せるわけねえじゃねぇか、あんなの!」
「いまさらなに言ってんだお前ら!? あのガキはその石のターゲットを、倒すどころか爆発させたんだぞっ!?」
「あ、あのガキ……どこまでとんでもないことをやらかせば、気が済むんだ……!?」
……ボクは石のターゲットの『経脈』を『瞬間分析』で分析した。
毛細血管のように走る経脈には、その物質にさまざまな効果をもたらす『点穴』が存在する。
その点穴を、ボクは石で突いたんだ……!
物質を粉々に破壊する秘孔を……!
跡形もなくなれば、見てみぬフリをするような審判も、認めざるをえないと思ったんだ……!
ボクは皆が我を忘れている間に、両手で『指弾』を連射した。
大口径の二丁拳銃を撃ちまくるガンスリンガーのように、弾を撒き散らす。
屋根の上で、灰色のガラスにヒビが入りまくる。
……ドンッ!! ドンッ!! ドンッ!! ドンッ!!!
わずかな時間をおいて、灰色の花火が炸裂した。
……バカンッ!! バカンッ!! バカンッ!! バカァァァァァァーーーーーーーーーンッ!!!
一瞬にして、10個あるターゲットの半分が消失。
爆音に我に返った雷猿たちが、投石で邪魔をしてこうようとしたんだけど、
……サッ!
と指弾の構えを向けてやると、「ひいっ!?」と縮こまっていた。
そのスキに、ボクは2セット目の連射を行い、石版を全滅させる。
『アンノウンチーム、第一関門のすべてのターゲットを破壊しました』
ボクの活躍を見ても、実況のお姉さんは取り乱すことなく、淡々と状況を伝えていた。
……うーん、公平中立なのはいいんだけど、少しは驚いてほしいなぁ……。
ボクは贅沢な悩みを抱きながら、ドスドスと走り出す。
「行こう! マニー、サルっ!」
まだポカーンとしているふたりに声をかけると、尻に火がついたように走りだす。
「……もうお前がなにをしても、驚くつもりはなかったが……まさか石を爆発させるとはな……!」
「も、もう……アッシは、なんて言っていいのか……!」
「そんなことよりも、妨害チームが来るより先に、泳いじゃおう! ふたりとも、泳ぎは大丈夫だよね!?」
「ああ、任せとけ!」「アッシも得意っすよ!」
屋根を伝って街の中心部まで進むと、ふたりは屋根の上の飛び込み台から颯爽と身を踊らせた。
高い水しぶきを見送りながら、ボクは背後を確認する。
すると、必死の形相で追いかけてきている9人の男たち。
大通りを挟んだ向こうにある、妨害チーム用の飛び込み台をめざして走っている。
ボクらの『地獄コース』ではたしかこのお堀を4周しなきゃいけないから、相当大変だ……しかも、邪魔されながらとなると、体力の消耗もかなりのものになるだろう。
ひとりでも溺れたら失格になっちゃうから……ここは、先手を打つしかないっ!
ボクは短時間で作戦をまとめると、飛び込み台に乗った。
体重が80キロ以上もあるせいか、深く沈み込んだあと、ビヨーンと飛び上がる。
ちょっと楽しくなっちゃったけど、それどころじゃない。
どっぱーんと着水するなり、動きと呼吸を止める。
40キロもの重りをつけているので、どんどん沈んでいく。
とうとう底までついてしまった。
……さて、ここから一気にいこう。
もう、相手の出方を見るだなんて悠長なことはしない。
なにせマニーやサルが9人もの大人たちに襲われるかもしれないんだ。
スキルを駆使して、一気に決めないと……!
「……おい、あのガキ……飛び込んだっきり、浮いてこねえぞ?」
「そりゃそうだろ! だって、自分の体重と同じくらいの石を付けてるんだぞ!」
「ってことは、完全に沈んじまったってことか!?」
「そうに決まってるだろ! いくらあのガキでも、あれだけの重りをつけて泳ぐのは無理だったってことだ!」
「そっか……あのとんでもねぇガキでも、できないことってあるんだなぁ……」
「まったく、40キロの重りをひとりで担ぐなんて、ムチャすっから……」
「ちょっと強いからって、雷猿に勝てるって勘違いしてたんじゃねぇか?」
「クソ生意気なガキだったが、いざ死んだとなると、寂しいもんだな……」
「残ったガキどもじゃ、雷猿には絶対かなわねぇだろうな……」
「そうだな。ふたりともあっさり沈められちまって終わりだろうな」
「なんだよなんだよ……俺、アンノウンチームの完走に賭けてたのによ……」
「実を言うと、俺も……」
「おいおい、お前らどうしちまったんだよ!? ……って、俺もなんだけどな」
「くそっ……! あのガキなら堅いと思ったから、全財産ぶち込んだのに……!」
「おいっ! ガキ……いや、アンノウン! 沈んでんじゃねぇぞーっ!」
「そうだ! お前の力はそんなもんだったのかよっ!」
「おおーいっ! 浮いてきて……浮いてきてくれーっ! アンノウーンっ!」
……それは、小さな産声のようだった。
雷猿への声援でかき消され、『ドルフィン』のスキルを使ってようやく捉えられるほどの、小さな小さな声援。
いまはまだ頼りない、でも、確かにボクは聞いたんだ。
『アンノウン』コールを……!
ボクは嬉しくてたまらなかった。
思わず姿を表して、声援をくれた人たちに手を振り返したい気持ちでいっぱいになった。
……でも、ぐっとこらえる。
なぜならば、今は……大人たちの頭を踏んづけるのに、忙しかったから……!
「……なあ、雷猿たち、堀に飛び込んだはいいものの……なにやってんだ?」
「だよなぁ、あのガキはいなくなったんだから、さっさと競技チームに向かっていって、残ったガキどもを沈めちまえばいいのに……」
「なのになんで、溺れてるみたいに浮いたり沈んだりしてるんだ?」
「なんか、水の中から脚を引っ張られてるみたいじゃねぇか?」
「も、もしかして……! あのガキが水中から引っ張ってるのか!?」
……うーん、惜しい。半分正解で、半分ハズレ。
やってるのは、もちろんボクだけど……場所が違う。
水中から、脚を引っ張っている、じゃなくて……
水面から、頭を踏んづけている、でした……!
今はやりの追放モノを書いてみました!
★『駄犬』と呼ばれパーティも職場も追放されたオッサン、『金狼』となって勇者一族に牙を剥く!
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追放されたオッサンが、冒険者として、商売人として、勇者一族を見返す話です!
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