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148 地獄へ

 『街中耐久』の流れはこうだ。


 南門のそばにある家の屋根からスタート。


 第一関門、設置されたターゲットをすべて投石で倒す。


 第二関門、街の真ん中、十字路のまわりにあるお堀を泳ぐ


 第三関門、屋根の上で、衛兵たちと戦いながら進む


 第四関門、街の北門から外に出て、垂直の壁を登りきればゴール


 各関門の間には、家屋の二階を使った休憩所があって、そこに入っている間は他チームからの妨害を受けない。

 外からも見えない作りになっているので、そこで次の関門への作戦を立てたりすることができるようだ。


 盗賊ギルドの人たちがやっているのを見た限りでは、競技の印象としては『屋根の上でするトライアスロン』みたいなカンジだった。

 しかしトライアスロンと違うのは、他チームからの妨害が入ること。


 特に雷猿たちは伝説の盗賊と呼ばれるだけあって、妨害も強力なようだった。

 ステージからだと距離があるので大変だったけど、ボクは『テレキネシス』を駆使して、何度も途中リタイヤしそうになる盗賊ギルドたちを助けた。


 ちなみに最後の第四関門は、ボルダリングみたいに手がかりを使って垂直の壁を登るんだけど、それがかなりの高さがある。

 大きな3階建ての建物……このカジノの屋根に登るくらいの高さをあがらないといけないんだ。



『第一走者、盗賊ギルドチームのタイムは45分54秒です』



 実況のお姉さんがゴール地点のスタッフが掲げているタイムを読み上げると、ステージの上にある着順を表すボードの上に、暫定1位として盗賊ギルドのネームプレートが付けられた。


 この世界では、大きな砂時計を使ってタイムを計る。

 ガラス製ではなくて木製なので、けっこうアバウトみたいなんだよね。


 それはさておき……次の走者はエクスプローラーズ。

 汗びっしょりになった面々がステージに戻ってきて、女神の選択でもらった封筒の開示と、妨害チームの指定を行う。


 エクスプローラーズの引いた内容は、盗賊ギルドと同じだった。



通常コース

 武器は女神の剣

 木のターゲット

 川を2周

 手がかりのある壁

 最大4人までの衛兵

 3箇所の休憩所

 2チームからの妨害



 そして、選んだ妨害チームは……『盗賊ギルド』と『雷猿』……!


 ボクが盗賊ギルドをこっそり助けてあげたのが良かったのか、ボクを妨害者に選ぶよりも、雷猿のほうがゴールできる確率が高いだろうとふんだようだ。


 二度も妨害者に選ばれた屈辱に、雷猿たちは地団駄を踏んで悔しがっていた。


 ボクはまたしても『テレキネシス』を使って、エクスプローラーズを手助けした。

 雷猿たちは、今度こそはリタイヤさせてやると息巻いていたけど、それは徒労に終わる。


 ちなみにタイムは43分02秒。

 早めに加勢をした分だけ、タイムが縮まったようだ。


 でも……こんな遠距離からの『テレキネシス』は初めてだったので、ボクはだいぶ疲れてしまった。


 そしていよいよ……第三走者である、ボクらの番がやってくる。

 ステージの上で、ボクがニセ女神様からもらった封筒を開ける際には、他のチームとは明らかに違う緊張感が漂っていた。


 まるで稀代のエースを取り合う、ドラフト会議のように……。



地獄コース

 武器はなし

 謎のターゲット

 川を4周

 謎の壁

 無限の衛兵

 休憩所なし

 全チームからの妨害


 さらに……各人10キロの石を携えての競技



 ……ウォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!?!?



 亡者のような唸り声が、地の底から響く。



「じ……地獄コースだってぇ!?」



「あんなの初めて見たぞ!?」



「いままで一番ひどかったのは『辛いコース』だったが……それよりヤベぇじゃねぇか!」



「川を4周!? 2周でどんなヤツでも死にそうになるってのに、その倍だとぉ!?」



「しかも全チームの妨害だなんて……盗賊ギルド、エクスプローラーズ、雷猿……ぜんぶで9人から邪魔されるってことか!?」



「そのうえ、無限の衛兵って……いくら倒しても無限に出てくるってことだろ!? そんなの、絶対にゴールできねぇじゃねぇか!?」



「しかも、休憩所なしときてらぁ! 休まずブッ続けでやらなきゃならないだなんて、死ぬぞ!?」



「それに、謎のターゲットに、謎の壁って……いったい何なんだよっ!?」



「いやいやいやいや! そんなことよりも、最後のヤツだよ! なんだよ、『10キロの石』って……! 泳いでる最中に沈んじまうだろうが!」



「こ……これはもう、競技じゃねぇ……! ただの拷問だ……!」



「さすがに、あのガキどもも抗議してやがる……!」



「そりゃそうだろ! マジの地獄……! 殺されに行くようなもんだからな!」



 ボクらの挑むコースがあまりに酷かったので、同情してくれる観客たち。

 たしかにマニーとサルは猛然とスタッフに抗議していたんだけど、ボクはそうじゃなくて、ふたりをなだめる方に回っていた。



「ふざけるな! 10キロの石を担いで競技しろだと!? 奴隷じゃあるまいし……いますぐ撤回しろっ!」



「そうッス! いくらなんでも10キロなんて、最初の屋根すらまともに飛び移れないッス!」



「……まあまあ、ふたりとも落ち着いて。10キロの石が気になってるんだったら、ボクがふたりの分も担ぐからさ」



 すると、ふたりからものすごい形相で睨まれてしまった。



「……正気か!? アンノウンっ!?」「いくらなんでも無茶ッス!?」



「うん。だってそのくらいのハンデがないと、ボクらが絶対に1位になっちゃうでしょ?」



 ボクはわざと、雷猿たちに聞こえるくらいの大きな声で言った。

 彼らのこめかみのあたりの包帯が、ピクピクと震えているのがわかる。


 ボクの提案を受けたスタッフは「オーナーに確認します!」と言って引っ込んでいった。

 「オーナーなら、そこにいるじゃない」と雷猿たちを指さしてやろうかと思ったが、それはやめておく。


 少しして、息を切らしながら戻ってきたスタッフの言葉に、マニーはさらに激昂することになる。



「はぁ、はぁ、はぁ……ひとりが石を背負う場合、40キロにするなら認める、だそうです……!」



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 ボクはスタート地点に向かって、のしのしと歩いていた。


 それは比喩なんかじゃなくて、踏みしめてるみたいに足がずっしりと重い。

 石の詰まった袋を身体じゅうに巻いているせいで、体重が倍ちかく増えちゃったせいだろう。


 背後からはマニーとサルが、神妙な面持ちでついてくる。

 サルは『神羅三猿チャレンジ』の間、ずっとボクを心配してくれていたけど、マニーまで気にかけてくれるのは珍しい。


 いや、もっと珍しかったのは……観客たちの間にまで、今までとは違う空気が広がっていたことだ。



「お、おい……見ろよ……!」



「なんであのガキが、ひとりで石を持ってんだ……?」



「それも、あんなにたくさん……!」



「噂じゃ、各人に10キロだったのを、ひとりで背負うってカジノ側と交渉したらしいぜ!」



「ええっ!? それじゃあのガキは、いま30キロの重しを付けてるってのかよ!?」



「いや、それが……ひとりで背負う場合、40キロなら認める、と言われたらしい……」



「よ……40キロ!?」



「40キロっていったら、あのガキと同じくらいあるんじゃねぇか!?」



「自分と同じ体重くらいの石を持って、『街中耐久』に挑むだなんて……!」



「む、ムチャだ……! ムチャにもほどがあるっ……!」



「し、しかも地獄コースに挑むだなんて……! 死ぬ……! 絶対に死ぬぞっ! あのガキっ!」



「お……おいっ! やめとけ! お前が凄いヤツだってのはわかっているが、いくらなんでも無謀すぎる!」



「そうだそうだ! 今ならまだ間に合うっ! やめとけーっ!」



 ……気遣ってくれてる……?


 今までだったら、ボクが傷つく様を……ボクの血をなによりも見たがっていた、観客たちが……。


 今まででいちばんハードで、いちばん流血しそうな競技に向かうボクを、止めてくれているだなんて……。


 そう思うと、ボクの足取りは重いのに、気持ちは軽くなった。

 なんだか変な感覚だったけど、嬉しかった。


 だって……観客(みんな)の気持ちが、確かにボクに傾いているって、わかったから……!

今はやりの追放モノを書いてみました!


★『駄犬』と呼ばれパーティも職場も追放されたオッサン、『金狼』となって勇者一族に牙を剥く!


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※このすぐ下に、小説へのリンクがあります


追放されたオッサンが、冒険者として、商売人として、勇者一族を見返す話です!

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『駄犬』と呼ばれパーティも職場も追放されたオッサン、『金狼』となって勇者一族に牙を剥く!!
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