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147 街に吹く神風

 ボク、マニー、サルはみすぼらしい椅子に腰掛け、眼下に広がる街を眺めおろす。

 街では今まさに、幻の競技といわれた『街中耐久』が始まろうとしていた。



『……それでは「街中耐久」を開始します。第一走者である盗賊ギルドはスタートしてください』



 あんまりスタートの合図っぽくない実況お姉さんの掛け声とともに、南門のそばにある家屋の屋根からスタートを切る盗賊ギルドのメンバーたち。


 この競技は、屋根から始まるのか……とボクは思った。

 いままであれだけルールで「登っちゃダメ」って言われてたから、違和感がすごい。


 ボクの浮かない顔に気づいたのか、隣に座っているサルが教えてくれた。



「まずは屋根の上で、ところどころに積まれている石を使って、木のターゲットを狙うんッス」



 彼の言葉どおり、屋根の上には積石が点在している。

 盗賊ギルドのメンバーはその石を拾い上げて、離れた所にある人型の木の板めがけて投げつけていた。



「第一関門では、10箇所ある木のターゲットをぜんぶ壊す必要があるんッス。当てるだけじゃダメで、完全に板を倒すか、一部でも欠けさせないといけないんッス」



 頭とかに当たると1発で倒せるようだが、他の所に当てると何度かぶつけないと倒れないようだった。

 マトの近くの見張り台には審判がいて、倒されたと判定したら旗をあげている。


 力いっぱい投げられた石が、たまに人型の腕とかを吹っ飛ばすことがあったんだけど、その時は倒れていなくても旗があがった。


 別方向からも石が飛んできていたので、その方角を目で追ってみる。

 盗賊ギルドたちがいる屋根の上から、大通りを挟んだ反対側の屋根には雷猿とエクスプローラーズがひとりずついて、石を投げつけていた。



「ああやって、他のチームが妨害してくるッス。この競技は4つ関門があるんッスけど、邪魔する側はそれぞれの関門に人員を配分するッス。2チームの妨害だと6人いることになるッスから、第1から第3までにそれぞれ2人ずつ配置するのがセオリーっスね。んで第4関門では全員で邪魔をするんッス」



 「ふうん……」とボクは生返事を返しながら、第1関門の行く末を見守る。


 妨害チームから投げられた石をかいくぐりつつ、ターゲットを倒さないといけないのはなかなか大変そうだ。



「……ねえサル、あれって反撃しちゃダメなの?」



「してもいいッスけど、意味がないッス。あの距離で石を投げてもよけられるだろうし、当たったところで気絶するほどの強さにははらないッス」



「当てたところでポイントになるわけでもないから、無視がいちばんというわけか」



 話題に加わってきたマニーに、「その通りッス」と応じるサル。


 たしかに競技側と妨害側には距離があるので、当たったところで大事に至ることはなさそうだ。

 だけど、雷猿たちは伝説の盗賊と呼ばれているだけあって、投げる石の威力もかなりのもののようだった。


 ガツン! とこめかみに食らった盗賊ギルドの男はたまらずよろめき、額から血を流している。


 その度に、観客席からは歓喜が弾けた。



「いいぞーっ! 雷猿っ!」



「雷猿を妨害者に選ぶだなんて、バカなことをするからだ!」



「雷猿を敵にまわして、この街中耐久を完走できると思うなよ!」



「この競技に限っては、どの関門でリタイヤするかのオッズもあるんだ!」



「持ってせいぜい第2関門までだな! 俺ぁ第2関門リタイヤに賭けたぜ!」



「いやあ、この調子じゃあ第1関門も怪しいんじゃねぇか!? 見ろよ! もうフラフラじゃねぇか!」



 観客たちの言うとおり、盗賊ギルドのメンバーは頭に石を受けすぎたのか脳震盪を起こしたかのようにフラついていた。



「ううっ……さすがは雷猿ッス……! この第1関門の妨害で、あそこまでダメージを与えるだなんて、普通は無理なんッス……! まさか第1関門でリタイヤが出るかもしれないだなんて、めったにない事ッス……!」



 サルは雷猿の投石の強烈さに舌を巻いている。

 自分のチームのことではないので、ボクはずっと他人事のように観戦してたんだけど……途中で、あながちそうでもないことに気づいた。


 他のチームにリタイヤされるのは、マズいかもしれない……!

 だって、今の順位は、



 1位 120ポイント 雷猿

 2位 90ポイント アンノウン

 3位 50ポイント エクスプローラーズ

 4位 40ポイント 盗賊ギルド



 となっている。

 ボクらと雷猿の差は、30ポイント。


 各競技でもらえるポイントは、1位で30、2位で20、3位で10、4位は0だ。


 ボクらのチームはこの競技でも1位を狙うのは当然として、もし他のチームがリタイヤしてしまったら、雷猿が2位になってしまう可能性がある。


 すると、ボクらと雷猿チームの差は10ポイントしか埋まらない。


 追いつくどころか、20ポイントも差がついたままだ……!

 その状態で最終競技に挑むのは、危険かもしれない……!


 理想なのは、この『街中耐久』でボクらが1位、雷猿たちが4位になることだ。

 そうすれば同点1位になって、最終競技に挑むにはちょうどよくなる……!


 となれば……やるしかないっ!


 意を決したボクは、椅子から前のめりになった。

 いままではボンヤリと見ていたけど、マニーみたいに眉間にシワを寄せるほどに真剣に街の様子を見つめる。


 ……歓声がヤジに変わるのに、それほど時間はかからなかった。



「おいおい! どうしたんだよ雷猿っ! 急に石が当たらなくなっちまったじゃねぇか!」



「まるで盗賊ギルドのヤツらをよけるみてぇにそれていきやがる!」



「なんだよなんだよ! 俺ぁアイツらが泡を吹いてブッ倒れる様が見てぇんだ!」



「遊んでねぇで、さっさと決めちまえ雷猿っ!」



「そうだそうだ! やれーっ! やっちまえーっ!」



「やっちまえ! やっちまえ!! やっちまえっ!!!」



 コロシアムでの敗者に、処刑を望むかのような観客たち。

 狂気に満ちた「やっちまえ」コールに、雷猿は処刑人のような余裕を……浮かべてはいなかった。


 むしろ焦燥にかられるように、額に脂汗を浮かべながら、腕をしならせるように石を投げ続けている。

 渾身の一投も、標的の寸前で大きなカーブを描いてあさっての方角に飛んでいく。


 その間に盗賊ギルドのメンバーは復活し、再び標的めがけて石を投げはじめた。

 まだ意識が定かではないのか、力ない一投であった。


 マトにまで届かないほどのそれは、落ちかける寸前に伸び上がる。

 手から放たれた時以上の勢いを得て、板に風穴を開けるほどの剛速球となった。


 飛び散るベニヤ板のように、「やっちまえ」コールも急速に霧散する。



「なっ、なんだありゃ!?」



「途中ですげえ勢いになりやがったぞ!? 突風でも吹いたのか!?」



「突風っていうか、ありゃ神風だぜ!?」



「ああ、まさに神風だ……! 急に百発百中になりやがった! ぜんぜん外してねぇぞ!?」



「ああっ!? あっという間にマトを全部倒しちまいやがった!?」



 投げた自分でも信じられないかのように、立ち尽くす盗賊ギルドの面々。

 その脇を、しゅんとした石が通り過ぎていく。



『盗賊ギルド、第1関門のマトをすべて倒しました。リタイヤも危ぶまれましたが、復活を遂げたようです』



 アナウンスによって現実だと知り、屋根を伝って第2関門へと向かう背中を、ボクはフゥとため息とともに見送っていた。

今はやりの追放モノを書いてみました!


★『駄犬』と呼ばれパーティも職場も追放されたオッサン、『金狼』となって勇者一族に牙を剥く!


https://ncode.syosetu.com/n2902ey/

※このすぐ下に、小説へのリンクがあります


追放されたオッサンが、冒険者として、商売人として、勇者一族を見返す話です!

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