146 幻の最終競技
雷猿たちのステータスウインドウに書かれていた職業、それは、
職業:塔賊(盗賊として偽装中)
太陽の塔に巣食い、裏から社会を操る勢力、『塔賊』だった……!
盗賊として偽装中、と書いてあるということは、ボク以外の人間には盗賊に見えているんだ。
クラスメイトのレツや、『ラッキー・ワン』のオーナー、ゴールドも『塔賊』の一員だったけど、ふたりとも雷猿と同じように別の職業に偽装していた。
『塔賊』というのがどんな勢力なのかはよくわからないけど……いま言えるのは、ボクに比肩するくらいの能力があるかもしれないってことだ。
ゴールドは『マインドコントロール』に近い技を使って、ケルパーの対戦相手や観客の心を操っていた。
そして雷猿たちは、ボクが顔の形が変わるまで殴ってやったというのに、わずかな間で復活を遂げた……!
こ……これは……どうすればいいんだ!?
どうすればボクは……ヤツらに勝つことができるんだっ!?
心ここにあらずといったボクのまわりで、ステージ上の儀式は淡々と進んでいく。
1位 120ポイント 雷猿
2位 90ポイント アンノウン
3位 50ポイント エクスプローラーズ
4位 40ポイント 盗賊ギルド
『では、これまでの総合ポイントを確認してみましょう。前の競技でアンノウンチームが1位となり、雷猿チームとの差が30ポイントに縮まりました。残る競技はあとふたつ……アンノウンチームは追いつけるのでしょうか? それとも、雷猿チームがこのまま逃げ切るのでしょうか? それでは運命を左右する、「女神の選択」へとまいりましょう』
やれやれ、また例のインチキか……とボクはウンザリしながらニセ女神様から封筒を受け取る。
『封筒はまだ開けないようにしてください。次の競技は「街中耐久」ですので、流れとしては、総合順位が最下位のチームから順に封筒を開封、コースを確認したあと、競技へとまいりたいと思います』
『街中耐久』と聞いて、「うおおおおおおおおおおおーーーーーっ!!」と歓声が沸く。
「ま……街中耐久だってぇ!?」
「このカジノに塔ができてから、ずっとお蔵入りになってた競技じゃねぇか!」
「なあ、そんな競技初めて聞いたんだが……なんなんだ?」
「ああ、お前は最近このカジノに来たから知らねえだろうが、このカジノに塔ができる前まで、最終競技といえば街中耐久だったんだよ!」
「この競技場内に作られた街の中を、走ったり飛んだり泳いだりしながら、ゴールを目指すんだ!」
「他の競技と違うところは、全チームが一斉にスタートするんじゃなくて、1チームずつ別々にやって、ゴールまでのタイムが短いチームが勝ちになるんだ!」
「そう言うと他の競技に比べると楽そうに聞こえるが、そうじゃねえ! やらされることはハードだし、しかも、他のチームから妨害されちまうんだ!」
「『女神の選択』でコースが変わるんだが、普通のコースでもまともに走りきったやつはほとんどいねぇ……! それでいかにヤベぇかってのがわかるだろ!?」
「疲労と負傷がハンパねぇから、いつも最終競技だったんだが……まさかひとつ前に持ってくるだなんてよ!」
「こりゃあ……ひと波乱どころか、大波乱が起きそうだぜ……!」
……ヤジのおかげで、大まかなルールはわかった。
それに最下位から順番にやるそうだから、それを見ていれば細かいルールもわかるだろう。
『それでは盗賊ギルドから開始します。盗賊ギルドのリーダー、ステージの前に出て、封筒を開いてください』
強張った顔で、歩み出る盗賊ギルドのリーダー。
さっきまでは平然としてたのに、『街中耐久』と聞いて急に緊張したようだ。
ギルドのエースがあんなにカチコチになるだなんて……相当ハードな競技なのかなぁ……。
バッ! と掲げられた紙には、こう書かれていた。
通常コース
武器は女神の剣
木のターゲット
川を2周
手がかりのある壁
最大4人までの衛兵
3箇所の休憩所
2チームからの妨害
『盗賊ギルドが挑むのは、「通常コース」です。それでは、妨害に参加する相手チームを選んでください。選んだチームが、あなたたちの競技の邪魔を行います』
実況のお姉さんに促され、ステージの後ろに控えているボクらのほうに、ゆっくりと振り向く盗賊ギルドのリーダー。
迷う様子もなく、『エクスプローラーズ』の面々を指さした。
『妨害チームのひと組目は、エクスプローラーズを選びました。それでは、ふた組目を選んでください』
するとリーダーは急に、悩む素振りを見せはじめた。
雷猿とボクらのチーム、どちらに妨害されるほうが楽なのか、悩んでいるようだ。
震える拳をさまよわせたあと、ビシッ! と示したのは……伝説の盗賊たち……!
うおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーんっ!? と唸るような大歓声がステージを揺らす。
「ら……雷猿を、選びやがった……!!」
「正気か!? 雷猿に妨害されてぇだなんて……!!」
「いままで雷猿を選んだヤツなんていなかったぞ! 自殺行為でしかねぇからな!」
「いや、大昔に1チームだけいたんだ! ソイツらは再起不能にされちまったけどな!」
「盗賊ギルドのリーダーは、かなりのベテランだろ!? それを知ってるはずなのに、なぜ……!?」
「もしかして……あのガキにビビっちまったのか!?」
そこでボクは気づいた。
ボクよりずっと年上の盗賊ギルドリーダーが、一瞬だけだけど、ボクに怯えた視線を向けたのを。
……もしかして、さっきの競技で雷猿たちをひどい目にあわせたから、同じ目にあわされるんじゃないかって、恐れてるんだろうか……?
あれは雷猿限定のお仕置きのつもりだったんだけど……さすがに他のチームには、あそこまでやるつもりはない。
「でもよ……これは雷猿にとっちゃ、かなりの屈辱なんじゃねぇか!?」
「いままで鬼のように恐れられてて、誰も指名しなかったのに……」
「街中耐久では、いつもあのステージの上で高みの見物で……まるで王様みたいだったんだよな」
「それが、あんなガキに取って代わられるだなんて……相当ショックだろうなぁ」
雷猿たちは包帯でグルグル巻きだったので、表情はわからなかったけど……握りこぶしを固めて悔しさを滲ませていた。
『それでは、盗賊ギルドから街中耐久、スタートとなります。アンノウンチーム以外の方々は、競技場へと向かってください』
ガーゼごしの眼光でボクをひと睨みして、ステージをあとにする雷猿たち。
そのあとに手下のように、盗賊ギルドとエクスプローラーズが続く。
『アンノウンチームはこちらの椅子に座って、競技を観戦してください』
見ると、ステージの最前には王様が座るみたいな豪華な椅子が用意されていた。
傍らには、お酒や料理が並んだテーブルまである。
なるほど……!
妨害者に選ばれないってことは、強者……すなわち王者の証でもあるから、扱いがいいのか……!
ずっと不当な扱いに、眉間のシワが取れなかったマニーも、これには顔をほころばせていた。
が、
「……おい、その椅子は雷猿専用だって、オーナーが!」
「ええっ、他に椅子なんてないぞ!? 今まで他のチームが座ることなんてなかったし……!」
「いーから、そのへんから適当な椅子をもってこい!」
カジノのスタッフがわたわたと右往左往すると、背もたれすらないみすぼらしい椅子に差し替えられてしまった。
もちろん、料理も没収。
もう、このカジノ理不尽さには慣れっこのつもりだったけど……おあずけをくらったような気分になって、ボクはがっかりしてしまった。
今はやりの追放モノを書いてみました!
★『駄犬』と呼ばれパーティも職場も追放されたオッサン、『金狼』となって勇者一族に牙を剥く!
https://ncode.syosetu.com/n2902ey/
※このすぐ下に、小説へのリンクがあります
追放されたオッサンが、冒険者として、商売人として、勇者一族を見返す話です!
。