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144 ウェイク・ダウン・ウェイク

「うがああああああーーーーーーーーーっ!!」



 獣のような唸りとともに、列をなして殴りかかってくる三匹の猿。

 尖兵が振り上げていた右の拳が、ボクに向かって放たれる。



 ……グオンッ!



 唸るパンチが耳のすぐそばを通り過ぎていく。

 音だけ聞いているとすごい迫力。威力もそれなりにありそうだ。


 だが、当たらなければ意味はない……!


 ボクの傍らに、ボクの倍くらいありそうな太い腕が残っている。

 これはまさに、絶好のカウンターチャンス……!


 『xカウンター』のスキルによって、ボクは反射的に左フックを放っていた。



 ……グシャアッ!



 頬に拳がめり込む。

 いかつい顔が、赤ちゃんをあやしている最中のようにユーモラスに変形する。


 額に張り付いていた汗が剥がれ、飛沫となって飛び散る。

 歪んだ唇から、黄色く汚れた歯が飛び出し……水滴にまざって飛んでいく。


 それを追いかけるようにして、先頭の雷猿は真横に吹っ飛んでいった。

 横断歩道をわたっている最中、突っ込んできた暴走車に轢かれたみたいなすごい勢いで。



「……で、でたぁぁぁぁぁっ!!」



「雷猿の幻の必殺技、『ウェイク・ダウン・ウェイク』!」



「なんだそりゃ!? 初めて聞いたぞ!?」



「三人が一丸となって突っ込んでいって、強烈なパンチを食らわせるんだ!」



「最初のひとりがまず、鼻っ柱に右ストレートを叩き込む! 顔がクシャクシャにめりこむほどのヤベぇストレートをな!」



「そして、この百発百中のパンチは……くらったヤツを気絶させちまうんだ!」



 観客席にいる雷猿ファンが熱心に解説してくれているけど、その『最初のひとり』はもういない。

 すでにボクの前には、ふたり目が鬼の形相で挑み掛かってきているところだった。


 今度は左ストレートだったので、さっきとは逆方向にかわし……右フックを頬に叩き込んだ。



 ……グワッシャアッ!!



 最初の雷猿のやられっぷりを、鏡面反転したような光景が繰り広げられる。

 間違い探しレベルでソックリだったけど、抜けた歯は2本に増えていた。



「そしてふたり目だ! ふたり目も顔面に、今度は左ストレートをお見舞いするんだ! 相手はすでに気絶してっから、もちろんコイツも百発百中!」



「二発も同じ場所に、ヤベぇパンチを食らったら……ソイツはどうなると思う?」



「どうなるんだよ? 気絶から目覚めるってわけか?」



「そう……! そして気付くんだ! 自分の顔が引っ込んだまま、元に戻らなくなってることにな……!」



 その頃ボクは、最後の雷猿の相手をしていた。


 3人目も顔面めがけてのストレートなのかなと思ったけど、最後はボディブローだった。


 ボクは前に出て、ヤツの顔にラリアットをかますみたいにすれ違いながら、殴り抜ける。



 ……ドグワッ……シャァァァァッ!!



 *マークみたいに、顔が中心にむかってすぼまった。


 直後、ワイヤーで引っ張られるような勢いで、身体をくの字に曲げながら吹っ飛んでいく。

 花吹雪のように、口から放射状に歯を撒き散らしながら。



「一発目のパンチで気絶、二発目のパンチで目が覚め、三発目でまた気を失う……!」



「しかもやられたヤツは顔をメチャクチャにされたうえに、前歯をぜんぶへし折られちまうって話だぜ!」


「や……やべえ……! ヤバ過ぎるだろ! そんな恐ろしい技があるってのかよ!?」



「……ああ! アレをやられたヤツは、ひとたまりもねぇ! その威力にビビっちまって、二度と雷猿と戦おうとは思わないんだ!」



「あんなちっこいガキが食らったら、最初の一発目で死んじまうじゃねぇのか!? 歯ぁぜんぶ吹っ飛ばされてよ!」



「あの若さで歯抜けになっちまうとは……あーあ、かわいそうにな!」



「だが、それも俺たちの雷猿を怒らせた罰だ! クソ生意気なガキは、きちんと躾けてやらねぇとな! そうだよな、雷猿……あれ?」



 熱心に話し込んでいた評論家気取りの観客たちも、瓦礫に囲まれた広場にボクだけが立っていることに、ようやく気づいたようだ。



「……なにがあったんだ? 『ウェイク・ダウン・ウェイク』をくらったはずのガキが、なんでまだ立ってるんだ?」



「雷猿は……? ああっ、見てみろよ!? まわりでブッ倒れてるぞ!?」



「しかも、ノビちまってる……! ちょっと目を離したスキに、なにが起こったってんだよ……!」



「おい、お前はずっと見てたんだろ!? 石像みてぇに固まってねぇで、何があったのか教えろよっ!?」



「……す、すげ……!」



「あん? 雷猿がスゲぇのは、当たり前だろうが!」



「違うよ! あのガキだよっ! 雷猿のパンチはすげえ速さだったってのに、あのガキはそれ以上だった!」



「そ、そうだ! そうだった! 目にもとまらぬ速さのカウンターパンチを叩き込んでいったんだ!」



「なんだって!? いくらあのガキがすばしっこいからって、そんなワケあるか! 衛兵には通用しても、雷猿に通用するわけがねぇ! たとえあったとしても、偶然だ偶然!」



「いや……あれは偶然なんかじゃねぇ……狙ってやってた……!」



「ああ、俺もそう思う……! あのガキ、まるで年下の子供の遊び相手をするみてぇに、涼しい顔で雷猿たちをいなしてやがった……!」



「ああっ!? あのガキ! ノビてる雷猿に近づいていってるぞ!?」



「きっと、トドメを刺す気なんだ……!」



「くそおっ、マジかよっ!? 雷猿が、あんなガキにやられちまうってのかよ!?」



 ボクはいちばん近くにいた雷猿の元へとしゃがみこんでいた。


 中指に人差し指を添えて、閉じたピースみたいな2本指をつくる。

 その先っちょで、雷猿の潰れた顔……ひん曲がった鷲鼻の下にある、溝をぐっと押した。


 ここは『点穴』でいうところの『人中(じんちゅう)』。

 刺激すると、気付けの効果があるんだ。


 「ひぐっ!?」と悪夢から目覚めるように、飛び起きる雷猿。

 元気そうだったのでそのまま放っといて、残りのふたりにも同じことをしてあげた。


 川が流れるような、静かなるざわめきを耳にしながら。



「な、なんだ……あのガキ……?」



「なに、やってんだ……?」



「てっきり、馬乗りになって殴りつけるのかと思ってたのに……」



「攻撃をせずに、雷猿たちを起こしてる……?」



「トドメを刺すどころか、助けてやってるのか……?」



「なに考えてんだ……あのガキは……?」



「もしかして、正々堂々と勝負しようとしているとか……?」



「そ、そんなわけあるか! あんなガキがするかよ、そんなこと!」




「あっ! 雷猿が立ち上がったぞっ!」



「い、いけーっ! 雷猿! 今度こそ……ああっ!?」



「こ、今度はワンパンで、三人まとめて……!」



「雷猿、またノビちまったぞ!?」



「こ、今度こそ、今度こそ、終わりだあっ!?」



「ああっ!? ま、また……! あのガキ、またあの変なやつ、やりやがった!」



 二度目の気付けをうけた雷猿たちは、立ち上がろうとはしなかった。


 「ま、待て、お前の勝ちだ。だ、だからもう、やめよう」と降参する素振りを見せていたけど、背後にいたヤツが襲いかかってきたので、ボクは背負投げで思いっきり固い地面にたたきつけてやった。


 「ぎゃああああーーーーっ!? 背骨が、背骨がぁぁぁぁぁーっ!?」とのたうちまわる雷猿。



「う、嘘だろ……俺はいま、夢でも見てんのか……?」



「あの無敗で、無敵で、最強の盗賊……雷猿が、命乞いをするだなんて……!」



「しかもそのスキに、背後から襲いかかるだなんて……!」



「そのうえあっさり反撃されて、ノビてやがる……!」



「ウェイク・ダウン・ウェイクをやっているのは、雷猿じゃねぇ……! あのガキのほうじゃねぇか……!」




「あのザマ……! 伝説の盗賊どころか、いままで雷猿たちに負けてきた、三下の盗賊どもとおんなじじゃねぇか!」



「ああっ!? またやられた!」



「だっ……ダメだ! なにをやっても、簡単に返り討ちじゃねぇか……!」



「あ、あのガキ、なんて強さだ……! 強すぎるなんてもんじゃねぇ……! 」



「雷猿はそこらへんの戦士よりずっと強ぇはずなのに、それなのに子供扱いだなんて……!」



「そんな生易しいもんじゃねぇ! もうサンドバッグ……! ただの殴られ放題の、血袋だ……!」



 ……ボクは淡々と、手を変え品を変え向かってくる彼らを捌いた。


 最初は獲物に襲いかかる野獣のようだった彼らも、顔が風船のように腫れ上がり、指の骨が何本か折れて拳が作れなくなり、足元に血だまりを作るくらいにフラフラになる頃には、小動物のように怯えだした。


 そしてついに、その時がやってくる。


 ボクが彼らのに前ツカツカと歩いていって、サッと拳を振り上げただけで、



「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」



 と絶叫しながら腰を抜かし、這い逃げていったんだ……!

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