表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
143/152

143 徹底、開始…!

関連小説の紹介 ※本作の最後に、小説へのリンクがあります。


★『歩くハーレム…キモいと陰口をたたかれるオッサンでしたが、ちょっと本気を出したらそう呼ばれるようになりました!』


https://ncode.syosetu.com/n5703ex/

 雷を怖がる子供のように、頭を押さえて蹲る3匹の猿たち。

 どの頭も、タンコブだらけでデコボコになっている。


 這いつくばる伝説の盗賊たちに、観客たちもショックを隠しきれない。



「ら、雷猿が、揃って膝をつくだなんて……!」



「今まであったか!? こんなこと!?」



「いやっ、は、初めてだ……! しかも、あんなガキにやられるだなんて……!



「完全に、一方的だったぞ!? あの雷猿が、手も足も出ないだなんて……!」



「い、いやっ、そんなはずはねぇ! 雷猿はきっと手加減してるんだ!」



「そ、そうだな! そうに違いねぇ! でなきゃ、説明がつかねぇ!」



「おおいっ! 雷猿っ! 遊びは終わりだっ! 本気でやってくれっ!」



「そうだっ! あのガキに、本物の盗賊ってヤツを、見せてやってくれっ!」



 声援を受け、地獄の底から這い上がるように、立ち上がる雷猿たち。

 腰にさしていた木刀……『女神の長剣』を引き抜く。


 そしてそれを肩に担ぐように構えたあと、あいている片手をパーの形にしてボクに向かって突き出した。

 まるで、歌舞伎の見栄を切るかのように。


 「待ってました!」とばかりに沸く観客席。



「で、出たあっ! 雷神剣の構え!」



「な、なんだそれ?」



「お前、知らねぇのかよ!? ああやって剣を肩に担いで、敵から見えないようにするんだ!」



「そうそう! そっから振り下ろされる一撃は、誰もかわせねぇ! どっから打ち込まれたのかもわからずに、頭をカチ割られちまうんだ!」



「繰り出される太刀筋が迅雷のごとき速さだから、ついた名前が雷神剣ってワケだ……!」



「俺たちの雷猿が、やっと本気になってくれたようだぜ……!」



 ボクは観客たちの説明を聞いてやっと、雷猿たちの変な構えの意味を理解する。


 あの今にも畑を耕しそうな構えで、そんなに速い剣が振れるもんなのかなぁ……


 まぁ、見た目はどうあれ、要は『居合い』みたいなもんだろう。

 敵に刃を見せず、一気に勝負を決めるやり方だ。


 でも、そういうことなら……同じ土俵で相手をしてあげたほうがいいかな。


 ボクはすぐ近くにある瓦礫の山から、1メートルくらいの長さの木材を拾い上げた。

 構えることはせず、腰に携える。



「見ろよ、あのガキ! 剣で雷猿とやりあうつもりだぜ!」



「しかも、今にも折れそうな、細くてしょぼい木切れだぞ! もっと太いヤツを取ればいいのに……あんなんじゃ痛くねぇだろうし、受太刀すらできねぇぞ!」



「それに、取っただけで構えてねぇ……! 腰に下げただけだぞ!?」



「この状況で、なに悠長なことやってんだ!?」



「きっと、剣の使い方ってのを知らねぇんだろうぜ!」



 ヤジを背にしながら、ボクは三匹の暴れ猿と対峙する。

 彼らはいつもの三角の包囲網で、じり、じり、と距離をせばめてきていた。


 ボクは、心の中で苦笑する。


 ……うーん、それにしても、スキだらけだ……。

 どこでも好きな所に打ち込み放題。まるで練習用のカカシみたいだ。


 でも、グッと我慢した。

 だって『雷神剣』というヤツを、まずはこの目で見てみたかったから。


 構えは変だけど、名前からするに、もしかしたらすごい技なのかもしれない。


 そう思ってボクは油断せず、全神経を集中した。

 より集中するために瞼を閉じ、視界を遮断する。


 もし彼らの居合が達人クラスを超えていて、神業クラスだったとしたら、見てからじゃよけられない。

 だから、気配を察するんだ。抜刀の前に先んじて漏れる、わずかな殺気を……!


 あれほど賑やかだった場内が、水を打ったように静まり返っていた。


 勝負は一瞬だと、誰もが理解しているんだ。

 おしゃべりなんてしてたら世紀の一瞬を見逃してしまうと、誰もが思っているんだ。


 張り詰めた緊張に、あたりの空気まで引き締まる。

 ささやくような風にまざって、誰かの、ごくり……! と喉を鳴らす音が聴こえてきた。


 この時のボクは、まだ知らなかった。

 数秒後、度肝を抜かれることになるだなんて……!


 まさか、まさかまさか……!

 雷猿たちが、あんなとんでもないことをしてくるだなんて……!



「きえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーい!!!」



 ボクはビックリして、目を見開いてしまった。

 そして見てしまったんだ……お魚くわえたドロボウ猫を追い回す魚屋のように、向かってくる雷猿たちを……!


 ……ええっ!? 居合いなのに、斬る前に声を出すのっ!?

 それじゃまるで、時代劇のやられ役じゃないか……!



「これで終わりだっ、死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーいっ!!!」



 ……今確かに「これで終わりだ死ね」って言ってた。

 そんな長台詞のあと出す居合いなんて、聞いたことないよ……!



「 雷! 神!! 剣ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーんっ!!!」



 そしてまだ終わりじゃなかった! まさかの技名まで!

 しかもたっぷり、溜めを作って……!


 ……あっ、もしかしてこれ、フェイント?

 抜刀すると見せかけて、かわした先を斬りつけるとか?


 しかし居合いというには非常にゆったりとした木刀が、ボクに向かって振り下ろされているところだった。

 ボクは少しがっかりした気持ちで、ひらりと身体を翻す。



 ……スカッ!



 むなしく空を切る雷神剣。


 ……ざわっ! と木立がざわめくような音とともに、客席が波打つ。

 ウェーブのように、一斉に立ち上がる観客たち。



「なっ、なにぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」



「あ、あの剣を、かわしやがった……!?」



「ら、雷神剣を、見切るだなんて……そんな……!?」



「嘘だろっ!? 後ろからも打ち込んでるんだぞっ!?」



「それも、踊るみてぇにヒラリとかわしやがった!」



「ぐ、偶然だろっ!? そうに違いねぇっ!」



 ボクはもういいや、と思って抜刀する。



 ……ゴス! ガス! ゴツッ!



 一瞬三撃。


 驚愕のまま固まっていた雷猿たちが、鼻の穴の中に爆竹を突っ込まれ……それが爆ぜたみたいな衝撃とともにのけぞる。

 一拍おいて、



 ……ドッ!



 と鼻血が噴出する。


 木切れを振りきり、残心のポーズをとるボクの足元に、折り重なるようにして倒れた。



「ぐっ……!? ぐわああああーーーーーっ!?」



「は、鼻が、鼻がぁぁぁぁぁぁーーーっ!」



「折れた!? 折れたぁっ!? いでぇ、いでぇよぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっ!?」



 鼻を押さえたまま、のたうちまわるイタズラ猿たち。


 ボクの回避の話題で持ちきりだった客席は、新たな燃料にさらに激しく沸き立つ。



「えっ……ええええええええええええええええええええええええええええっ!?!?!?」



「なっ……なんだっ!?」



「な、なにが、起こったんだ……!?」



「あのガキ、いつのまにあの木切れを抜いてたんだ!?」



「いや、ぜんぜん見えなかった! 気がついたら振り終えてて……雷猿たちの鼻が、ひん曲がってたんだ!」



「ま、まさかあのガキがやったのか!?」



「そんなわけねえだろっ! 3人分の鼻を一瞬でへし折るだなんて、人間技じゃねぇよっ!」



「ら……雷猿っ! ま、負けるなっ! 立てっ! 立ってくれぇ!」



「そ、そうだっ! この競技は女神の武器で斬られない限り、負けはねぇんだっ! 立てっ! 立つんだぁ!」



「雷猿! 雷猿! 雷猿! 雷猿っ! らいぇぇぇぇぇぇぇーーーーーんっ!!」



 雷猿コールに突き上げられるようにして立ち上がる、血まみれの猿たち。



「うっ……ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーっ!!」



 今度は素手で向かってきたので、ボクは木切れを放り捨てる。



 ……ドスッ! ドスッ! ドスッ!



 大振りのパンチをかいくぐり、カウンターのボディーブローを叩き込んだ。



「ぐっ……!? ぐえええええっ!?」



 怪鳥のような呻きと胃液を撒き散らし、再び崩れ落ちる。


 こんな調子で、今回は徹底的にやるつもりだったけど……実はひとつだけ自制していることがあるんだ。


 それは、ダウン攻撃。倒れて無防備になっているところには攻撃しないということ。

 だってそれをやっちゃうと、完全にイジメになっちゃうから……。


 と、決めてたんだけど、



「ぐおおおっ! あ、兄者! ワシが押さえているうちに、早くっ!」



 足元で苦しんでいた雷猿のひとりが、ボクの足首を掴んできたので、



 ……ガスッ……!



 その時だけは容赦なく、顔面にサッカーボールキックを叩き込んでやった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
★新作小説
『駄犬』と呼ばれパーティも職場も追放されたオッサン、『金狼』となって勇者一族に牙を剥く!!
追放されたオッサンが、冒険者として、商売人として、勇者一族を見返す話です!


★クリックして、この小説を応援していただけると助かります!
小説家になろう 勝手にランキング
ツギクルバナー cont_access.php?citi_cont_id=369162275&s script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ