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138 徹底抗戦

関連小説の紹介 ※本作の最後に、小説へのリンクがあります。


★『歩くハーレム…キモいと陰口をたたかれるオッサンでしたが、ちょっと本気を出したらそう呼ばれるようになりました!』


https://ncode.syosetu.com/n5703ex/

『……先程の白兵合戦は、協議の結果やり直しとなりました。再度の競技に際し、オッズの変更はありません……』



 花の香りのように漂ってくるお姉さんのアナウンスを聴きながら、ボクは路地裏の片隅にいた。


 結局、『白兵合戦』もやり直しになっちゃったんだけど、ボクにとっては予想済みのことだったので、さしたるショックもなかった。


 そんなことよりも……控室でマニーの教えてくれた作戦が、ボクにとっては何よりも力になったんだ。


 サクラをなんとかして、観客たちの目を覚まさせる方法……それは、



「……アンノウン、お前がしていたことを、ひたすら続けることだ……!」



 マニーの声が、ボクの頭の中で響いた。



「ボクがしていたことを、続ける?」



「そうだ。お前はその常人離れした技能(スキル)で、どの競技も圧倒的な大差をつけて勝利している。今後の競技でもそれを続けて、皆の心を掴むんだ」



「それは、ボクもそうしてるつもりなんだけど……サクラがいるんじゃ、いくらやっても無駄なんじゃ……?」



「……お前は、あるサクラの心を大きく動かしたじゃないか」



「えっ? ボクがサクラの心を動かした……?」



「そう。すでに取って代わられてしまったが、この『森羅三猿チャレンジ』において、最も影響力の大きかったサクラを味方につけたじゃないか……!」



『……オッズの変更はありませんが、競技に使用する街の範囲とスタート地点、そしてルールが変更となります。まず、競技範囲は……』



 マニーとお姉さんの声が入れ替わるようにして、ボクの脳裏に染み込んでくる。


 ……そう、この競技において、最も影響力のあるサクラ……!

 それは、実況のお姉さん……!


 『投石合戦』のやり直しで、ボクが絶望的な状況をあっさりひっくり返した途端、実況のお姉さんがショックのあまりボクを応援しだしたんだ。


 お姉さんは、頭をかきむしりながら叫んでいた。

 「あの子のすることに驚いちゃダメだって言われてるのに……!」って。


 あの一言は、自分がサクラであることを白状しているようなものだ。


 彼女はけっきょく、カジノのスタッフによって強制降板させられちゃったけど……ボクの洗脳解除のやり方は間違っていなかったんだ……!

 圧倒的な力を見せつけてやれば、たとえサクラであっても味方をしてくれる……!


 そのことを、マニーはボクに教えてくれたんだ……!


 ボクはちょっと不安になってたけど、マニーのおかげで目が覚めた。

 しかも、マニーはボクの肩を掴んで、こうも言ってくれたんだ。



「徹底的にやるんだ。アンノウン……! やり直すのがバカバカしくなるくらい、サクラが異議を挟む余地もなくなるくらい、完膚なきまでに雷猿を叩きのめしてやるんだ……!」



 ボクは、彼女のアドバイスに従うことにした。


 この再度の『白兵合戦』で、頭に石をぶつけて気絶させる以上のことをやって、雷猿たちをやっつけてやるんだ……!


 となると、変更されたルール内容が気になってくるんだけど……やり直しに際し、以下の2点が変更になった。


 使う競技場は街全体ではなく、街の裏路地の一区画。

 その裏路地は大きな通りに囲まれてるんだけど、そこに出てしまったらリングアウトとみなされ、失格となる。


 また、塀を乗り越えるのはOKだけど、屋根の上にはあがってはいけない。


 ……ようは、この『白兵合戦』で期待される戦い方……物陰に隠れ、背後から忍び寄って奇襲するというのをやらせたいんだろう。


 そしてその戦い方であれば、雷猿はボクに勝てると思っているんだろう。


 自分たちが勝てるようにルール変更する……それがヤツらのやり方なんだ。

 でも……どんなことをしたって、ボクには絶対に勝てないってことを、思い知らせてやるぞっ……!


 ボクは改めて決意を固めながら、チビた刃先の木剣を握りしめる。



『それでは白兵合戦、スタートです』



 そして、音もなく走り出した。


 路地はどこも、大人がやっとすれ違えるくらい狭かったから、『セフェノミア』は使わない。

 かわりに『忍術』の『音無し』のスキルを全開にする。


 これは忍者にとっての基本中の基本である、音をたてない行動が可能になるんだ。


 地を蹴る音も、衣擦れの音も、息遣いすらも消えうせたボクの身体。

 聴力を鋭敏にする『ドルフィン』のスキルがなければ、音で察知するのは不可能なほどの静音化。


 並の人間では、いくら耳を澄ましたところで、絶対に捉えることはできない……!


 さらに『クロスレイ』のスキルも併用。

 これで壁を透視すれば、曲がり角で待ち伏せているヤツや、木箱の陰で息を潜めているヤツも、手にとるようにわかる……!


 ちょうど塀の向こうに、3人ひと組となった盗賊ギルドのヤツらを発見した。

 全方位を用心深く見回し、這うような姿勢の低さで、物陰を選ぶように素早く移動している。


 ボクは台所をチョロチョロしているネズミを冷蔵庫から見下ろす、ネコのような気分になっていた。


 当人たちはこれなら見つからない、これなら奇襲を受けないと思っているようだけど……こっちからは丸見え……!

 いつでも飛びかかって食べてください、って言ってるようなものなのに……!


 ボクは背面飛びで塀の屋根を転がり、上空から襲いかかる。

 降りざまにまとめて三人分、首を掻っ切った。



 ……ヒュッ! シャッ!



 無音で着地しながら、ボクは「しまった」と反省する。


 ああ、風切り音がしちゃった……まだまだ修行が足りないな……。


 目の前には、首筋に走った違和感を、手で押さえている大人たち。

 ふと、ひとりが気づいた。



「……あっ、おい!? お前、斬られてるぞ!?」



「えっ? 何だって? ああっ!? そういうお前こそ!」



「ええっ!? もしかして全員、やられちまったのか!?」



「ばかな!? 誰もいないはずなのに……いたぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!?!?」



 ボクが傍らにいることにようやく気づき、揃って腰を抜かしている。


 いつまで経ってもアナウンスがないので、櫓のほうを見上げてみると……旗をあげるはずの審判スタッフと、バッチリ目が合った。

 ボクより少し年上そうなお兄さんは、なにが起こったのかわからない様子で、目をまん丸にしている。



「……あの、勝負ついたんだけど……」



 とボクが促してようやく、ハッと我に返って旗をあげてくれた。

 それに気づいたのか、実況のお姉さんが『あっ』と声をあげる。



『いま、旗があがりました。盗賊ギルドがアンノウンチームを倒したようです』



 ボクが「ええっ!?」と抗議の声をあげると、お兄さんはわたわたと旗を持ち替えていた。



『あ、間違いだったようです。アンノウンチームが盗賊ギルドを倒したようです』



 ……ちなみに旗は2種類あげるんだ。

 左手が倒したチームの旗で、右手が倒されたチームの旗。


 審判のお兄さんは慌てるあまり、持つ旗の左右を間違っちゃったようだ。


 観客席はドォッ! と湧いていたんだけど、誤審とわかるとすぐに消沈した。



「……なんだよなんだよぉ! ぬか喜びさせやがってぇ!」



「やっとあのガキがやられたのかと思ったのによぉ!」



「でも、あのガキがあっさりやられちゃつまらねぇよなぁ!」



「そうそう! やっぱり雷猿にやってもらわねぇと!」



「おおーいっ! たのむぞ雷猿―っ! あのクソガキをボッコボコにしてやってくれーっ!」



 ……今回、ボクは最初に盗賊ギルドをやった。

 次は、エクスプローラーズをやるつもりだ。


 いつも最初に狙っている雷猿を、今回は最後に残すことにした。


 なぜならば、もちろん……ヤツらをボッコボコにするため……!

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