137 白兵合戦、決着…!
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ボクの身体を、鉄鎖のようにがんじがらめにしていた疲労が弾け飛ぶ。
とっさにゴロゴロと転がり逃げると、ちょうど頭があったところに、折り重なるようにして木刀が叩きつけられる。
……ガツンッ!
惑星を小突く音が、地面を通してボクの頭蓋に響く。
……あ、あぶなかった……!
逃げるのがあと少し遅れていたら、スイカ割りのスイカみたいに頭をカチ割られてるところだった……!
ボクは『点穴』でいうところの『中丹田』という経穴を刺激していた。
胸の下のところにある小さな窪みなんだけど、これをひとさし指を添えた中指で刺激してやると、内力が活性化される。
これを『経脈潮流』といって、一時的ではあるけれども疲労を無視して身体が動かせるようになるんだ。
でも、効果はいつまで続くかわからない……!
そして効果が切れてしまうと、さらなる疲労に襲われる……!
今度こそ本当に、指一本動かせなくなるんだ……!
幸いなことに、ボクを襲ったエクスプローラーズのメンバーは、攻撃を躱されたことにまだ気づいていない。
それどころか観客たちも、一斉に立ち上がろうとしているところだった。
みんな「やった……!」みたいな表情で。
ボクが身体を起こし、膝立ちになった瞬間……時の潮流も元の速さを取り戻す。
「うっ……お……お……お……おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーっ!!!!!」
街を守っていた防波堤がついに決壊したかのように、歓声の激流が、家々の間をぬって押し寄せてくる。
「や……やった、やったやったぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっ!! ……あ?」
「あ……あのガキが、あのガキがついにやられやがった……!! ぞ……!?」
「ざまあみやがれっ! これがこのカジノの……!! ……えっ? あれ?」
しかし……その流れはすぐに断たれてしまった。
積み藁の防波堤の先には実は、鉄の壁があって……見かけ倒しの波を途中で阻むかのように……!
「よ……よけた……だとっ!?」
「ば……ばかなっ!? あのガキは街中を走りまわって、虫の息だったじゃねぇか……!
「それなのに、それなのになんで、まだあんな超人みたいな動きができるんだよっ……!?」
「すっ、すげえ……! まるで、まるで消えたみたいだった……!」
その時ボクはすでに、空振りがまだ信じられないような、3人の大人たちの背後に回り込んでいた。
「惜しかったね」
健闘を讃えてあげながら、ちびたナイフを一閃させる。
細い筆が走ったような跡が、横一列になっている彼らのうなじに走った。
そこで張り詰めていた気持ちが切れちゃったのか、ボクはその場でぺったりと尻もちをついてしまう。
『……白兵合戦、決着しました。1位はアンノウンチーム、2位はチームエクスプローラーズ、3位は盗賊ギルド、4位は雷猿となります』
街はあいかわらず荒波のような怒声にもまれていたけど、新実況お姉さんのさざ波のような心地よい声があったので、あまり気にならなかった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ボクはマニーとサルの手によって控室に担ぎ込まれ、ベンチの上で横になっていた。
サルが冷たいおしぼりを持ってきてくれたので、目の上に乗せると気持ちよかった。
「まったく……相変わらずムチャをするな。あれだけ全力疾走すれば、途中でバテて当たり前だ」
せっかくいい気分だったのに、冷水をぶっかけるような声でボクを叱るマニー。
隣りにいたサルは、ハハ、と苦笑いする。
「白兵合戦ってのは、本来は裏路地に入って隠れて、敵の背後を取り合う競技なんッスよ? あんな往来の真ん中で斬り合う競技じゃないッス」
「しかも一方的に斬り捨てたとなると、たぶん……やり直しだろうな」
なおも呆れたようなマニーの一言に、ボクは飛び起きてしまった。
「ええっ!? そんなぁ! 裏路地に入ったらインチキされるだろうと思ったから、観客が見てる前でやっつけたのに……!」
「なんだ、それであんなに急いでたのか。でも、考えてもみろ。先の投石合戦でも、本来とは違う勝ち方をしたから仕切り直しになったのだろう。苦しい言い訳ではあるが、仕組みを作る側はキッカケがあればなんとでも言える。それが嫌なら、空気を読んだ勝ち方をするのだな。共通認識にあるような勝ち方をすれば、文句はつけられん」
「そ、そっかぁ~」
マニーの言葉はボクにはちょっと難しかったけど、言われてみればその通りかもしれない。
ボクはよく「空気が読めない」ってよく言われるんだけど、その悪いクセが出ちゃったようだ。
もうちょっと競技の雰囲気というか、セオリーみたいなのを見てからやったほうが良かったのかな……。
もしかしたらそのほうが、観客のウケも良かったりして……。
「だが、今回ばかりはアンノウンの空気の読めなさが、いい方向に働いているかもしれんな」
それは、意外な一言だった。
「えっ、それって、どういう……?」
「雷猿一辺倒だった観客が、アンノウンに傾きつつあるようなんだ」
「あ……マニーも気づいてたんだ……」
「俺が気づかないとでも思ったか。いつもならサクラを使って抑制しているようだが、お前があまりにも常識外れな勝ち方を続けるものだから、押さえきれなくなっているようだ。だからすぐにわかった」
「えっ? サクラ? 馬肉のこと?」
「お前はなにを言っているんだ? サクラというのは客を煽るための、客のフリをした関係者のことさ。このカジノでいうなら、率先して雷猿を応援しているようなヤツらのことだな。彼らは雷猿以外を応援する者が出ないように、観客たちを煽っているんだ」
ボクのなかに、霹靂のような衝撃が走る。
そ……そんなのがいたなんて、知らなかった……!
頑ななまでに雷猿を支持する観客を見ても、盲信的なファンがいるもんだなぁ、くらいにしか思っていなかった。
でも……それならいくらボクが勝ってみせても、狂信じみたほどに雷猿を応援しているのも納得がいく。
だって関係者ってことは、カジノのオーナーである雷猿に雇われた人間なんだから、ボクがいくらすごいことをしてみせても、手のひらを返すことなんて絶対にない……!
カジノのスタッフはサクラでもおかしくないから用心してたけど、まさか観客にまで紛れ込ませていただなんて……!
ボクは衝撃のあまり、思ったことを改めて口にしていた。
「そ……そんなのがいたなんて、知らなかった……!」
「なんだ、知らなかったのか。このカジノは雷猿という伝説の盗賊で客を呼んでいるんだ。おそらく観客の賭けもそれでコントロールしているだろうな。だから、雷猿が負けるようなことがあれば難癖をつけてくるんだ。向こうも多額の金が掛かってるんだから必死だろう。あまりに理不尽だと観客からブーイングが起こるだろうが、それはサクラで鎮火しているんだ」
ボクはショックの連続だった。そして後悔していた。
「もっと早くマニーに相談しておけばよかった」と……!
マニーは貴族だけあって、この世界の仕組みのことをよく知っている。
サクラのことがわかっていたら、もっといいやり方があったかもしれないのに……!
ボクはマニーにすがりついた。
「ま、マニー! ボクはこの『森羅三猿チャレンジ』で優勝するために、観客を味方につけたいと思ってるんだ! そしたら、カジノ側の不正もなくなるんじゃないか、って思って……!」
こうするといつもだったら「気持ち悪い」と押し返してくるんだけど、なぜか今は受け入れてくれた。
それどころか、ボクの頭をよしよしと撫でて、「そうだろうな」と頷き返してくれる。
急にやさしくされたので、ボクは涙が出そうになった。
「でも観客にサクラがいるんだったら、なかなかボクを応援してくれるようにはならないよね……!? どうしたらいいのかな……!?」
慈しむようにボクを見つめていたマニーの頬が緩む。
そして、いつもの「フッ」ではなく、「ニコッ」と微笑んでくれたんだ……!
「なんだ、そんなことに悩んでいたのか……だったら簡単だ……!」