136 速攻のアンノウン
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『装備を整えた各チームが、クジ引きで決まったスタート地点の門へと移動しています。北門が雷猿、東門がエクスプローラーズ、西門が盗賊ギルド、そして南門がアンノウンチームです』
新実況お姉さんの声が、しっとりと降り注ぐ。
それはまるで夏の霧雨みたいで、傘もささずに浴びていたくなるような心地のいい声だった。
第4競技の『白兵合戦』は接近戦なのに、街の外側の門に別れてスタートする。
戦士みたいに堂々と斬り合うんじゃなくて、背後からこっそり忍び寄って奇襲するような戦い方が想定されているんだろう。
でも、それだったら事前に予測していたとおりだったので、もってこいだ。
飛び道具じゃないから一瞬で決着をつけることはできないけど、それほど時間もかからないだろう。
ボクはマニーとサルに見守られながら、南門のスタート地点に立っていた。
遠方をよく見ると、十字路にある門は開けっ放しになっていて、遥か遠くにある北門までもを見通せた。
『イーグル』のスキルでズームしてみると……飛び跳ねたり屈伸したり、柔軟体操をしている雷猿たちが見える。
まずは、彼らだ……!
スタートと同時に、倒すっ……!
どのみち全滅させるつもりでいるので、距離的にいちばん遠い雷猿からやるのは非効率なんだけど、でも……。
観客の大半は、いまだに雷猿を応援している……!
その洗脳を解除するためには、真っ先に倒して最下位にしてやるしかないんだ……!
「今度こそやってくれーっ、雷猿―っ!」
「期待してるぞーっ! 前の競技じゃ、またあのクソガキのよくわからねぇインチキで、何がなんだかわからねぇうちに終わっちまったから……次こそはやられんじゃねぇぞーっ!」
「さっきのおかえしだ! 木刀で斬りつけるんじゃなくて、ブン殴って泣かしちまえ!」
「いや、そんなんじゃ手ぬるい! 木刀で頭カチ割ってやれぇーっ!」
「おおっ! 血だ! 涙なんかじゃなく、あのガキが血を流すところを見なきゃ、俺たちはおさまんねぇぞぉーっ!」
「いやもう、いっそのこと殺しちまえ! 俺たちが許すぞーっ!」
「それがいい! それしかねぇ! あのクソガキの血を、街じゅうにブチまけてやれーっ!
「そうだそうだ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ!」
観客たちはとうとう、「殺せ」を連呼しながらダンダンと足を踏み鳴らし始めてしまった。
……前の競技でボクが1位になったから、雷猿大好きな大人たちが相当殺気だっちゃってるようだ。
こうなったら……最初から全力でやるしかないっ……!
信者たちを黙らせるには、圧倒的な差を見せつけて、神を倒すしかないんだっ……!
『全チーム、準備が整ったようです。それでは第4競技、白兵合戦……スタートです』
……ドッ!
スタート時でもテンションが変わらない、お姉さんの合図と同時に、ボクはカタパルトから撃ち出されたように身体を発射させていた。
ボクは心の中で叫びながら、ニトロのスイッチを入れる。
……『セフェノミア』、全開っ……!
ビュォォォォォォォォォォォォォ……!
空気を切り裂き、切り開いていく音が耳朶を揺らす。
街並みが、水に浸けた水彩画のように歪み、流れ、溶けていく。
あっという間に南大橋にさしかかった。
アーチ状の木橋を、ジャンプ台を越える車のように飛び上がり、空を駆ける。
集中線のように放射状にぶれる視界の中でも、ターゲットの大人たちと、その背後にある観客席の大人たちは、ハッキリと視認できる。
アゴが外れそうなほどに、ぽっかりと空いた口が塞がらない雷猿たち。
その背後には、同じくあんぐりした顔で、祭りの屋台にならぶお面みたいな観客たち。
「はっ……!? はぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?!?!」
ドップラー効果のような叫びが通り過ぎていくなか、ボクはすでに駆け抜けていた。
……ズザァァァァァァァァァァァァーーーーーッ!!
門のそばでドリフトするように身体を滑らせ、左へと方向転換する。
街を囲む壁沿いの道に沿って、さらに走り続けた。
背後から、キツネにつままれたような声が聞こえる。
「な、なんだったんだ、あの、ガキ……」
「始まったとたん、とんでもねぇ速さでやってきて……どっかいきやがった……」
「……あっ!? 兄者!? 首筋に、塗料の跡が……!?」
「そういうお前こそ、首筋に紫色の線が入っているぞ……!」
「えっ……!? ああっ、本当だっ!?」
「まっ、まさか……あのガキが!?」
「ええっ!? 通りすがりに、ワシらの首を掻っ切っていったというのか!?」
「そっ、そんなバカなっ!?」
ボクは背後の驚愕を引き離しながら、目の前の驚愕に迫っていた。
車に轢かれる寸前みたいな顔で、ボクを見る大人たち3人組。
彼らの頸動脈のあたりに、イタズラ書きをして通り過ぎる。
『……北門の雷猿チーム、アンノウンチームの攻撃によって、全滅したようです。……あっ、その間に、西門にいる盗賊ギルドチームも全滅させたようです。最後に東門にいるエクスプローラーズに向かっています』
新実況お姉さんは、こんな時でも落ち着いていた。
ボクの活躍を、原稿でも読み上げるかのように淡々と知らせている。
『アンノウンチーム、かなりの速さで2チームを全滅させました。これは過去、雷猿が打ち立てた最短記録を大幅に塗り替えそうです。このままの速さで、残るエクスプローラーズも倒せるのでしょうか?』
ボクはお姉さんの期待に応えたかった。でも……身体のほうがそろそろ限界だった。
『セフェノミア』は全力疾走しているのと同じだから、この距離ともなると……さ、さすがにキツい……!
「ハアッ、ハアッ、ハアッ……! ……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーっ!」
とうとう限界がきて、ボクはもう一歩も動けなくなってしまった。
よろめいたあと膝から崩れ落ち、身体を捻って仰向けにバッタリと倒れこむ。
大通りのど真ん中で大の字になって寝ていると、ドブ川の土手に吹く、生ぬるい風のようなどよめきが流れ込んできた。
「お、おい、あのガキ、倒れやがったぞ……!」
「雷猿と盗賊ギルドをあっという間にやって、エクスプローラーズまであと一歩ってところだってのに……!」
「いや、盗賊ギルドはともかく、雷猿はやられてねぇだろ……! あのガキがやったところ、見たのか?」
「ほんの一瞬だったけど、通りすがりに首を掻っ切ってるのが見えた気がするが……」
「それは見間違いだって! あのガキは何もしちゃいねぇ! ただバカみてぇに走り回ってただけだ!」
「そうかぁ? でも、何のために? それに、雷猿の首筋についてる跡はなんなんだよ!?」
「そっ……そんなの知るかよ! 最初からついてたんじゃねぇの!?」
「最初からなんて、そんなワケあるかよ!」
「なんだとぉ!? じゃあテメーは、俺たちの雷猿があんなガキにやられたっていうのかよ!?」
「おいっ、お前ら! ケンカしてんじゃねぇよ! そんなことより……いよいよあのガキがやられるかもしれねぇぞ!」
「あっ!? エクスプローラーズのヤツらが、倒れてるガキに迫ってる……!」
……ボクはたぶん、東門まであと少しというところで力尽きちゃったんだろう。
じり、じり、じり、とすり足で近づいてくる足音が、みっつ聴こえてくる。
間違いない、エクスプローラーズだ……!
動けなくなっているところを攻撃するつもりなんだ……!
ボクは肩と胸を激しく上下させて、身体を動かすために必要な酸素をぜいぜいと貪る。
は、早く……! 早くしないと……!
このままじゃ、寝返りも打てない……!
そ、そうだ! こんな時こそ、アレだ……!
アレをやれば、反撃できるだけの力を一時的に取り戻せるはず……!
ボクが底をついた気力を振り絞って、震える指をなんとか持ち上げたのと、
「死ねやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーっ!!!」
3つの影が雄叫びとともに空に踊ったのは、ほぼ同時だった。