129 理不尽な判定
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『こっ、これはこれはこれこれは、これはぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ!?!? またしても、またしてもぉぉぉぉーーーーーっ!! 信じられません! 信じられませんんっ!! 夢です、これはきっと夢に違いありませんっ!! そっ、そうじゃなきゃ……ありえなぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーいっ!?!?』
もはや実況とは呼べない悲鳴と、またしても紙切れとなったハズレチケットが風に乗って降り注ぐ。
そんな中、ボクはすべてを出し切ったアスリートのように四つん這いになっていた。
ぜいぜいと舌を出して空気を貪っていると、なんだか自分が犬になったような気分になる。
まわりからは、どう見られていようがどうでもよかった。
だって……今のボクには腰に巻き付いたゴールテープすら、外す余裕もなかったから。
ボクは第2競技である『街中競争』において、セオリー無視といわれる大通りを突っ切る作戦を強行した。
それは、大勢の衛兵を相手にしなくちゃならなくて、大変だったけど……ボクはやりきったんだ……。
ついに、走りきったんだ……!
まだ残りの競技があるというのに、全力を出し切ってまで……!
でも後悔はない。むしろ嬉しかった。
……だってボクひとりじゃなくて、ボクを助けてくれる仲間とともに掴んだ勝利だったから……!
『雷猿はゴール前で転倒したまま、まだ動きませんっ! ああっとぉ!? ここでエクスプローラーズ、盗賊ギルドもゴールしました! またしても、またしても雷猿が4位……!? この『森羅三猿チャレンジ』始まって以来の大番狂わせが、2競技続けて起こってしまいましたぁぁぁぁぁーーーーーっ!?!?』
お姉さんの裏声と、背後からドカドカと飛び込んでくる複数の足音。
どうやら、着順が決定したらしい。
ボクは疲れきっていたので、後ろを見る気もおこらなかった。
不意に脇のあたりに何かが入ってきて、ボクの身体はひょいと持ち上げられた。
誰かがボクに肩を貸してくれたようだ。
そんな他人事みたいに感じてしまうほど、ボクの身体は抜け殻になっている。
力なく顔をあげると、玉の汗を浮かべる長い鼻下が、ニカッと笑んだ。
「お疲れ様ッス、アンノウン!」
サルだ。彼も無事、ゴールできたようだ。
「ああ、サル……お疲れ様……マニーは?」
「マニーもちょうどゴールしたとこッスよ。ほら、あそこに」
サルの示す方を見ると、手枷をかけられているマニーが歩いて南門をくぐっているところだった。
ゴールするなり近くにいるスタッフをつかまえ、クレームをつけるように手枷を外してもらっている。
マニーは手首をさすりながら、不機嫌そうにボクたちに合流した。
ボクとサルは続けて声をかける。
「お疲れ様ッス、マニー!」「マニー、大丈夫だった?」
すると彼女は、ヒステリックに眉根を寄せながら睨み返してきた。
「まったく、あの衛兵どもときたら……! アンノウンを捕まえ損ねた恨みを、俺で晴らすみたいに取り押さえてきて……! しかも競技だというのに、手枷までされたんだぞ!? この俺が手枷をされるだなんて……! まったく、誰だと思っているんだ……!? まったく、まったく……! なんだって俺が、こんな目にあわなくてはいけないんだ……!」
「まぁまぁマニー、でもそのおかげでアンノウンが1位でゴールできたんッスから、いいじゃないッスか」
「当たり前だ! 俺をこんな目にあわせておいて、1位じゃなかったら許さなかったところだ! アンノウン、自分で言い出したのならもっとしっかりしろ!」
出来の悪い家臣を怒鳴りつける、男勝りのお姫様みたいなマニー。
でもボクはその時、心地よい疲労感に包まれていて、ぽやあんとしていた。
本当は謝らなくちゃいけなかったんだろうけど……目をまっすぐ見つめながら、ついお礼を言っちゃったんだ。
「……ありがとう、マニー」
すると怒りに染まっていた彼女の顔は、とうとう耳まで赤くなってしまい……視線をプイと外されてしまった。
「くっ……! クレープ、忘れるなよ……!」
そそくさとボクらの前から離れ、控室に戻ろうとするマニー。
その背中を見送りながら、ボクは自分の空気の読めなさを悔いた。
ああ……しまった……やっちゃった……。
マニーをさらに怒らせちゃったみたいだ……。
あとでちゃんと謝っておこう……。
いや、マニーの場合は謝ると逆効果っぽいから、それよりも今夜のクレープに、腕によりをかけてあげよう……。
でも……この時ボクは予想だにしていなかった。
彼女がさらに激怒する大発表が、これからなされることに……!
『……ただ今の競技におきまして、アンノウンチームの不正行為が確認されました。よって、着順変更となります……!』
霹靂のように鳴り渡るアナウンスに、どよめく場内。
……不正行為……!? 着順変更……!?
ボクは虚を突かれ、固まってしまった。
『不正と判断されたアンノウンチームの行為は2点。まず、巨兵を投げ飛ばしたこと。本競技は、衛兵に取り押さえられる前であれば、抵抗することは認められています。巨兵を投げ飛ばす行為も、抵抗と判断されました。しかしながら、投げ飛ばした先には他チームがおり、巻き込んでしまいました。これは、他チームに石などを投げる行為と同等……ルール違反となる、「他チームへの妨害」と判断されました』
「なにっ!?」と天に向かって吠えるマニー。
客席からも、大嵐を予感させる森のような、不穏なざわめきが起こる。
実況のお姉さんは、言っている自分でも理不尽さを感じているのか、抑え込むような声で続けた。
『つぎに、街の十字路にある門を跳躍して飛び越えたこと。本競技は街のなかであれば家屋の出入りは自由とされていますが、屋根に登る行為はルール違反とされています。アンノウンチームのリーダーの跳躍は屋根より高かったため、登ったのと同等の行為と判断されました。以上の2点によりアンノウンチームは失格とみなされ、着順変更となります』
一方的な宣告の後、上空のステージにある着順が一方的に置き換えられる。
1位 アンノウン
2位 エクスプローラーズ
3位 盗賊ギルド
4位 雷猿
だったはずのものが、
1位 雷猿
2位 エクスプローラーズ
3位 盗賊ギルド
4位 アンノウン
になってしまった……!
壊れたダムの真ん中にいるかのように、まわりで狂喜が決壊した。
「やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!!」
「雷猿が、雷猿が1位に返り咲いたぞぉぉぉーーーーーっ!!」
「ちょ、ちょっと待ってくれよぉ!? 俺、チケット捨てちまったよぉ!?」
「もうそんなのどうでもいいだろ! 雷猿が、雷猿が勝ったんだから!」
「そうだそうだ! 雷猿が4位だなんて、あってたまるかよっ!」
「やっぱり雷猿は1位じゃなくちゃ、しっくりこねぇよなぁ!」
「うん! 神様はちゃんと見てるんだなぁ! たとえどうあっても、最後には正義が勝つんだ!」
「ざまあみやがれっ、クソガキー! これが、大人の世界ってやつだぁ!」
ボクを支えていた身体が、しゅるりと抜け落ちる。
歓声に打ちのめされるように、サルはがっくりとヒザをついた。
「そ、そんな……せっかく1位になったッスのに……」
マニーは両手を広げ、豪雨に打たれるように天に向かって叫び返していた。
「おいっ! ふざけるな! 俺は認めないぞ! そんな判斷があってたまるか!」
ふとボクの様子に気づくと、怒り肩で戻ってくる。
「アンノウン! お前もなんとか言ったらどうなんだ!? こんな理不尽なことを、黙って受け入れるというのか!?」
ボクが「今はね」とだけ答えると、とてもじゃないが信じられないような顔をするマニー。
……ボクはこの怒号飛び交うなか、『ドルフィン』のスキルでハッキリと聞いていたんだ。
いままでは敵意100%だった観客たちが、20%ほど、ボクに味方してくれていることに……!