128 街中競争、決着…!
関連小説の紹介 ※本作の最後に、小説へのリンクがあります。
★『…マジで消すよ? 俺の愧術がチートすぎて、クラスのヤツらを一方的に縛ったり消したりします!』
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女の子を緊縛して奴隷にする、嫌なヤツを消す、お金を出す…これ全て、異世界最強の、愧術…!
★『ゲーマーおっさん、ゴーレムに引きこもる…でもソレ、実はスーパーロボットですよ!?』
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引きこもれば引きこもるほど、チヤホヤされる…チートゴーレムのお話!
『あっあっあっあっあっ!? アンノウンチームのリーダー、あっあっあああ頭の上を走っておりますっ!? あああ、あっという間に、あああーーーっ!?!?』
ボクの新たな突破方法が衝撃的すぎたのか、実況のお姉さんの声がとうとう張り裂け、ジェットエンジンみたいなキンキン声になっちゃった。
それはハウリングにも似た不快さでカジノじゅうに響き渡っていたけど、だれひとりとして耳を塞ごうとしていない。
観客席は戦闘機が低空飛行したあとの海のように大きく割れ、うねっていたんだ。
「おおーいっ!? 走ってる!? 走ってるぞっ!?」
「マジかよっ!? 衛兵どもの頭の上を、飛び石がわりにするだなんて……!」
「す、すげえっ!? どうやったらあんな芸当ができるんだよっ!?」
「あっはっはっはっはっ! 見ろよ、衛兵どものあの顔!」
「ガキに頭を踏んづけられて、ムキになってやがるんだ!」
「顔まで真っ赤にして、必死になって手を伸ばしてるってのに、ぜんぜん捕まえられてねえぞ!」
「ぎゃははははははは! まるでタコだ! ゆでられたタコどもが踊ってるみてぇだ!」
「ホンモノの衛兵じゃないのはわかってるけど、なんか胸がスーッとするな!」
「……おい!? お前らどうしたんだよっ!? あのガキは雷猿の敵なんだぞ!?」
「いや、それは確かにそうなんだがよ、あまりにすごかったから、つい……」
「衛兵といやあ、俺たち盗賊の敵じゃねぇか! ソイツらの頭を踏んでると思うと、おかしくって……!」
「だよなあ! もしかしたら雷猿でもあんな芸当は無理なんじゃねぇか!?」
「なに言ってんだ! あのガキはインチキしてるに決まってるだろ!」
「まぁまぁ、いいじゃねぇか、どうせ雷猿には勝てっこないんだから」
「でもよう、もうじきゴールだぜ? 雷猿はいまどこにいるんだろうな?」
どこにいたって、かまうものか……! とボクは心の中で叫ぶ。
新ルートを見出したボクのスピードは、地上ですり抜けをやる従来のものに比べて、数倍にあがっていた。
これはボクにとっては、池の上の飛び石を伝っていくようなもの。
足をつく先を前もって把握しておき、そこに向かって飛び移っていくだけ。
回り込まなくていいぶん距離も短くなり、屈まなくていいぶん、腰の負担も少ない……!
これなら、ゴールまで一気に行けるぞっ……!
大人たちは伸び上がり、懸命に手を伸ばして捕まえようとしてくるけど……そんな亡者みたいなゆったりした動きに捉えられるほど、ボクはノロマじゃない。
さらに上から見て気付いたんだけど、このゴール付近の大通りは、満員電車のように衛兵たちでぎゅうぎゅう詰めになっていた。
おそらくボクのすり抜け作戦を予想して、増員されたんだろう。
……危なかった……!
もし腰を痛めてなかったら、ボクはそのまま突っ込んでいたに違いない。
そして後戻りもできなくなって、今ごろは寿司詰めの大人たちに押しつぶされていた事だろう。
衛兵たちの、数にモノをいわせた作戦は、完全にアダとなっている……!
人数がもっと少なければ、ボクの飛び先を予測して空間が作れ、落ちてきたところを捕まえられたのに……!
いくらボクでも空中で飛び先は変えられないから、足場がなければ落ちるしかない。
でも、ネズミ一匹通れないぎゅうぎゅう詰めの今では、ただの歩きやすい道……!
豪邸の門から、家の玄関まで点々と置かれた、来客を導く庭石でしかないんだ……!
招かれざる客から、最上級の来賓と化したボクの前は、開かれた門戸があるのみ。
門柱に張られたゴールテープが、『イーグル』のスキルなしでもハッキリと見えるほどになった……!
あと少し……! あと少しっ……! 距離にして、100メートル……!
今のボクなら、10秒きっかりで辿り着ける……!
この競技も、もらった……! ボクが、ボクが1位でゴールだ……!
……そう思った瞬間、例の感覚が、ボクを包んだ。
すべての音が消え去り、すべての人は消え去り、あたりは何もない湖だけとなる。
ボクの身体が、まるで魂だけになったみたいにフワッと軽くなった。
普段は自分の肉体が重いだなんて思ったことはないけど、この時ばかりは、重い鎧から解放されたような気分になるんだ。
つま先がふわりと水面に触れるたび、やわらかな波紋が広がる。
苦しみも、痛みも、悩みも、悲しみも、すべてが足元の水に溶けるように消えていく。
ふと頭の中に、柱時計が浮かんだ。
ボクが生まれるよりずっと前……ずっとずっと前から、休むことなく時を刻み続けてきたような古びた時計。
鈍色の振り子が、催眠術の五円玉のように……行ったり来たりしている。
一秒ごとに、カチリ、カチリと規則正しい音が聴こえてくるかのようだ。
10……9……8……。
この『ゾーン』……。
入るたびにイメージが具体的になっているような気がする。
7……6……5……。
でも……なんでだろう?
この『ゾーン』は、いままではボクがすごく集中している時にしか起こらなかったのに……。
4……3……2……。
今回はもうゴール目前で、身体はキツいけど心は逆にリラックスしているくらいなのに……。
なんて疑問に思いながらゴールのある方角を眺めていると、ある気配に気付いた。
脇から飛び出し、今まさにゴールに向かおうとしている、何者かのオーラを……!
ボクは、目を凝らした。そして心臓が跳ね上がった。
……あれは……雷猿っ!?
あそこは……路地裏のはずだ……!
裏路地を抜けてきた雷猿が、ゴールしようとしているんだ……!
でもなんで、ボクより先に……!?
3人とも、十字路の門を締めていたはずなのに……!?
衛兵の頭の上を走るボクを、裏路地から追い抜くだなんて……!?
や、やっぱり……! 雷猿は、只者じゃない……!?
ボクと同じ、この世界にはない技能の使い手……!?
しかし不思議なのは、門を飛び越えたボクを見たとき、本当にビックリしていたことだ。
ボクを追い抜けるスキルを持っているなら、門を飛び越えるくらい、同じようにできるはず……。
ようは、なんてことはないはずなのに……。
なんであんなに大げさに驚いていたんだろう?
って、いまはそんなことはどうでもいい!
このままじゃ、雷猿のほうが先にゴールしちゃう!
なんとかして、止めないと……!
これ以上、点差をつけられるわけにはいかない……!
ボクは、ゴールまであと5メートルという所まで迫った陽炎に向かって、バッと手をかざした。
『ダークチョーカー』……!
ちょっとズルいけど、ゴメンねっ……!
グワッ! と指を曲げ、なにもない空間を握りしめる。
ゴール前の存在の揺らぎが、さらに大きくなる。
風を受けた煙のように、かき消されそうなほどになびく。
数瞬の後、ボクは再び肉体という名の檻に閉じ込められた。
「うおわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」
デジャブのようなサラウンドと重低音に、鼓膜を突き破られそうになる。
まるで巨人の叩く太鼓の上に乗せられ、ドンドコドンドコ跳ねさせられているような錯覚に囚われた。
「ふぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!?!?」
これまたどこかで聞き覚えのある悲鳴が、前方からする。
ゴール前の雷猿が空中を泳いだあと、ずしゃぁぁぁぁぁーーーっ! と顔からモロにヘッドスライディングをしていた。
『あああああああーーーーーっとぉ!? 雷猿が、雷猿がゴール前で足を取られ、転倒してしまいましたっ!? ああっ、その間に……! アンノウンチームのリーダーが今、ゴールに向かってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーっ!?!?』