127 空に弾むダンゴムシ
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これでボクは3階建ての家くらいの門を飛びこえたんだけど、着地で腰を痛めてしまった。
10メートル以上の高さから落ちるのは初めてじゃない。
校舎の3階の窓から落とされたことなら何度かあるしね。
あの時ほどひどいケガじゃないけど……腰が虫歯になったみたいにジンジン疼く。
そうだ、こんな時こそ白魔法……! 『キュア』を使うんだ……!
で、でも……! ムリだっ! そんなヒマ、あるわけないっ!
ゾンビみたいにまとわりついてくる衛兵たちをいなすので、精いっぱい……!
とてもじゃないけど、祈りを捧げてる余裕なんてないっ……!
アイアンクローのように伸びてきた手を、身をかがめてかわす。
腰を曲げた瞬間、ズキンとした痛みがたちのぼったので、歯を食いしばりながら顔を傾ける。
上下の動きではなく左右の動きで回避しようとしたんだけど、一瞬判断が遅れた。
節くれだった親指がすぐ横をかすめていき、汚れた爪先がチッと頬を引っ掻いていく。
それは肉体的にはダメージゼロだったんだけど、少しショックだった。
いままでは余裕でよけられていたものが、ギリギリになってる……!
ゴールまではあと半分くらいあるのに、このままではヤバいかもしれない……!
ボクの頭のなかに灯った赤色灯が、危険を訴えるかのように激しく回転をはじめる。
そして脳がフル回転。思考回路がオーバーヒートするようにカッと熱くなり、額に玉の汗が浮かびあがった。
『超感覚』スキルが教えてくれているんだ……!
今までのやり方では、腰に負担をかけると……!
無理をすると痛みがさらに増していき、とうとう耐えられなくなって、捕まるのは時間の問題だと……!
ボクは名案が浮かぶまでスウェーによる回避に切り替える。
左右の動きだけだと、どうしても抜けられない隙間の場合は大回りしなくちゃいけなくなるので、ペースダウンは避けられない。
そのぶん移動距離もあがり、スタミナの消費も増大する……!
ボクはもう汗びっしょりだった。
拭うヒマもないから、汗が目に入らないようにとスウェーを大きくする。
水に濡れた犬が身体を震わせるように、汗が迸った。
……ゴールまであと少しだっていうのに……!
このままじゃ1位どころか、ゴールできるかどうかも危うい……!
考えろ、考えろ、考えるんだっ……!
新しいやり方を……!
だんだん息があがってくる。頭もクラクラしてきた。
頭と足、どっちもフル稼働させてるから、身体の中で血の奪い合いが起こっているんだ。
い……いよいよ、本当にヤバいかもしれないっ……!
衛兵たちの野太い声が、熱にうなされている時の夢みたいにまわりで響いていた。
「……おい、ガキの動きが鈍ってきたぞ!」
「あと少しだっ! どんどん追いたてろっ! 休ませるんじゃねぇぞっ!」
「このまま逃げ切らせてたまるかっ! こんなナメたやり方で抜けられでもしたら、たとえこのガキの1位を阻止したとしても、ボスにどやされるぞっ!」
「なぁに、バケモノみてぇなガキだったが、もうじき終わりだっ! これだけの数に囲まれて、逃げおおせるわけがねえっ!」
……紗のかかった視界のなかで、メリーゴーラウンドのように……みんなが回っている。
みんなは本当に遊園地にいるかのように笑っているんだけど、口は裂けて吊り上がり、瞳は狂犬のようだった。
ああ……学校にいた時は、こんな感じでしょっちゅう囲まれて、殴る蹴るされてたなぁ……。
こうなった時のみんなは、まるで別人のように怖くなるんだ。
ボクが「痛い」って叫んでいるのにやめてくれなくて、それどころかよりいっそう激しく踏みにじってくる。
ダンゴムシみたいに身体を丸めても、残酷な子供みたいにそれをこじ開けようとするんだ。
さんざんやられてきたから、ボクは知っていた。
ダンゴムシみたいになっても、なんの解決にもならないことに。
でも、そうするしかないんだよね……。
だって……それ以外できないから……。
……気がつくとボクは、自然と膝をついていた。
『あああああああーーーーーっとぉ!? アンノウンチームのリーダー! ついに限界が来たようです! 膝から崩れ落ちました!』
わんわんと鳴る大空を、すっぽりと黒い影が覆う。
見上げると、深手を追った獲物に飛びかかる猟犬のような、大人たちがいた。
「もらったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!」
「今までさんざん好き勝手やりやがって! 借りはぜんぶ返してやるぜ!」
「もう観客が見てようが構わねぇ! ブッ殺してやろうぜ!」
「おらぁ! 大人をナメたらどうなるか、たっぷり教えてやるぜぇ!」
あの頃のボクが、叫んでいた。
『……やめて、やめてよぉ! ボク、なんにも悪いことしてないのに……!』
……もしかして、変わっていないのかなぁ。
いまのボクは、多くの技能が使えるようになった。
でも、みんなは変わらない。ボクを嫌って、いじめようとするんだ。
……やっぱりボクって、ダメなヤツなのかなぁ……。
だとしたら、ダンゴムシのままのほうが、いいかもしれない……。
だってずっとガマンするだけでいいんだから。
雨とおんなじで、いつかは止んでくれるし……。
いよいよボクは覚悟を決め、この雨雲が通り過ぎるのを待つことにした。
……だけど、
……ズドッ……!
とつぜん、一陣の風が抜けていったかと思うと、
ガッシャァァァァァァァァーーーンッ!!
すべての雲が吹き飛ばされ、澄み切った青空が一気に広がった。
「!?」
ボクは何が起こったのか、すぐにはわからなかった。
妖精の鱗粉のように残る、金色の光を目でたどる。
すると、そこには……衛兵たちに伸し掛かっている、マニーがいたんだ……!
「立てっ、アンノウン! 俺が押さえているうちに、早く行くんだ!」
「ま、マニ……!」
ボクはまた、自然と立ち上がっていた。
「来るなっ! 俺を助けてどうする!? 誰かが捕まりそうになっても助けないって、競技が始まる前に約束したじゃないか!」
「で、でも……! マニーだってボクを……!」
「うるさいっ! いい格好をしようとしたクセに、勝手にあきらめようとしたのが気に入らなかっただけだ! お前はキャルルとルルン、そしてサルを助けるって決めたんじゃなかったのか!? 男なら……たとえどんなに難しいことでも、決めたんだったら最後までやり通せっ! この俺がいるうちは……途中であきらめるなんて、絶対に許さんぞっ!!」
彼女の叱責は、ビンタのように強烈だった。
ボクはニトロを注入されたみたいに、全身にかつてないほどの力が湧いてくるのを感じていた。
成し遂げようとしていたことの大事さを、思い出したからじゃない……!
あの時と同じじゃないってことに、気付いたんだ……!
たとえボロボロになっても、ダンゴムシになるだけじゃないってことに……!
こうやって、助けてくれる仲間がいるじゃないか……!
だったら……ボクはもう、ダンゴムシになんかならない……!
丸まるだけの力が残っているなら、ぜんぶ足掻くことに使ってやるっ……!
雨が過ぎ去るまで隠れているヒマがあるなら、雨に打たれても向かっていって……雲を突っ切ってやるっ……!
ボクの心はすでに、暗雲を抜けていた。
邪魔するもののいない澄みきった世界のなかで、さんさんとした輝きを浴びながら、黒い雲海を見下ろしていたんだ……!
もう、いてもたってもいられずに走り出した。
『ああっ!? 仲間に助けられたアンノウンチームのリーダー! 再びゴールを目指して駆け出しました!』
ボクが見出した、新たなるルート。
それは脇の間でも、股の下でもなかった。
『そして再び衛兵たちの中を、すり抜け……ませんっ!? えっ!? えっ!? ええっ!? ええええええーーーっ!?!?』
入道雲のようなもうもうとしたざわめきが、驚愕という名の雷鳴を帯びる。
足元の感触も相まって、ボクはひつじ雲の上を駆ける雷様のような気分になっていた。
『あ……頭の上っ!? 大勢いる衛兵の上に乗り……頭の上を走っています!! そ、そんなの……アリなのぉぉぉぉぉーーーーーーっ!?!?』