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126 着地は下手な昆虫

関連小説の紹介 ※本作の最後に、小説へのリンクがあります。


★『…マジで消すよ? 俺の愧術がチートすぎて、クラスのヤツらを一方的に縛ったり消したりします!』


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女の子を緊縛して奴隷にする、嫌なヤツを消す、お金を出す…これ全て、異世界最強の、愧術…!



★『ゲーマーおっさん、ゴーレムに引きこもる…でもソレ、実はスーパーロボットですよ!?』


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引きこもれば引きこもるほど、チヤホヤされる…チートゴーレムのお話!

 ボクの世界はいま、回っていた。


 まず身体を丸めたところで、それまで進んできた通りが見える。

 衛兵ルックの大人たちが、南に向かって伸びる道を埋め尽くしていた。


 誰もが本来の職務を忘れ、まるで花火大会に来た客みたいに、人だかりとなって大空を見上げている。

 その人波は長く長く続き、さっき巨兵を投げ飛ばした南大橋までもを埋め尽くしていた。


 しかしその先の街並みはうってかわってゴーストタウンのように静か。

 あたりも静まり返っているので、余計寂しく見える。


 スタート地点の南門も、ここからだとだいぶ小さく見える。

 門から左右にのびる外壁の向こうには、階段状に居並ぶ豆粒のような大人たち。


 椅子があるはずだろうに誰もが突っ立っていて、まっすぐ……つまりボクがいる方角を凝視している。


 胎児のように丸めた身体を空中前転させている途中、足元が目に入った。


 升席みたいに四角く縁取られた屋根の中には、出荷される大根のように詰め込まれた、大きく育った大人たち。


 首が疲れないのかなと思うほどに、真上に顔を向けたまま、ぽかあんとしている。


 ボクは、さらに回転する。


 ゆっくりと、規則正しく。

 柱時計でいちばん最後に動く、大きな歯車みたいに。


 すると抱えた膝の向こうにあった視界が開け、尾を引く雲が飛び回る青空が広がった。

 この競技場を中心に渦を巻くようにして、高く高くひろがっている。


 そういえば、こんな形をしたお菓子があったような……。

 もちろん、この世界にはないものなんだけど……なんて言うんだっけ?


 そうだ、わた菓子だ……!


 かわいいものが好きなウサギや、甘いものが好きなマニーに作ってあげたら喜ぶかもしれない。

 たぶん、錬金術を使えば作れるだろうから、今度試してみよう。


 回転は、いよいよ佳境へと入る。


 神様のように高い高い台の上から見下ろすお姉さん、そして大空に穴を開けんばかりに突き立つ尖塔。

 そしてゴールテープの貼られた北門と、この先ボクに前に立ちはだかってくるであろう北の通りを埋め尽くす大人たち。


 それらを順番に眺めながら、ボクはふたたび街へと舞い戻った。



 ……スタァァァァァーーーーーンッ!



 三点着地をキメると、足元から砂塵がぶわあっと広がった。

 そのままクラウチングスタートのような体勢で、土蹴りとともに飛び出していく。


 首を捻って背後をチラリと確認すると、門を閉じ終えた雷猿が、まるで夢の真っ只中にいるような顔つきでボクを見送ってくれた。


 彼が門を閉じてくれたおかげで、後ろから衛兵が追いかけてくるまでには少し時間がかかるはずだ。

 あの門が再び開くまでに、できるだけ距離を稼いでおかなくちゃ……!


 ボクは『セフェノミア』のスキルを解放。

 ゴールである北門までの大通りを塞ぐ、新手をくぐり抜けていく。


 ボクがやって来たというのに、衛兵たちは動こうとすらしなかった。

 まるでパチンコ台の釘みたいに、まるでそこにいるのが仕事であるかのように、突っ立ったまま動かない。


 ボクが目の前を通り過ぎていくのを、誰もが口をだらしなく開けたまま、右から左へと流すように見ているのだ。


 もしかして、まだ信じられないのかもしれない。

 あの難所を、ボクがひとっ飛びで乗り越えてきたことが。


 十字路にある門が雷猿の手によって閉じられ、そのまま突っ込んだら袋のネズミになってしまうと思ったボクは、『シフォナプテラ』のスキルを使った。


 『シフォナプテラ』というのは、この世でいちばん跳躍力のある生き物……。

 自分の身長の150倍以上もジャンプできる……そう、ノミのことだ……!


 といってもスキルポイントを1ポイントかけただけじゃ、そこまでの力は得られない。

 いつかは得る時が来るかもしれないけど、その前に着地の方法を考えておかなくちゃいけない。


 跳躍力を得たからといって、その着地の衝撃に耐えられるかは別問題なんだ。

 ちなみにノミ自身も着地は下手で、地面に叩きつけられるようにして着地するらしい。


 まぁ、そんな話はおいといて……1ポイントかけただけでも、人間離れしたジャンプができるようになった……!

 十字路にあるふたつの門を、中にいる人ごと飛び越えられるだなんて……!


 ……でも、この手はそう何度も使えそうにない。

 うまく着地したつもりだったんだけど、勢いを殺しきれなかったのか、腰がグキッってなっちゃった。


 実をいうと今も、腰骨がズレてるみたいに痛い……!

 でもゴールまであと少しだから、なんとかガマンして……!



「う……うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?!?」



 ずっと静かだった観客席が、時限爆弾が爆発したみたいに激しく鳴動した。



「ええええっ!? み、見たか!? 見たかよ!? アレ!?」



「お前もか! お前も見たか!? じゃ、じゃあアレは、夢じゃないってことか!」



「あ、あのガキ……も、門を飛び越えやがった……!?」



「あの門って……そんなに低いのか?」



「そんなわけあるかよっ! デカブツどもが入ってるだろうが! あいつら、2メートルはあるんだぞっ!?」



「そんなヤツらが門の屋根にすら手が届かないってことは、ええっと……あの門の高さは何メートルあるんだ!?」



 「12メートルだよ」とボクは走りながらひとりごちる。



「と、とにかくとんでもねぇ高さだっ! そんなのをふたつまとめて飛び越えちまうだなんて……アリかよっ!?」



「あのガキは……本当になんなんだっ!? 化物かっ!?」



「い、いや……! 落ち着けみんな! 絶対なにか仕掛けがあるはずだ!」



「そ、そうだそうだ! あれはインチキなんだ! でなきゃ、説明がつかねぇ!」



「じゃあ、どんなカラクリがあるってんだよ!? あのガキは俺たちに見せつけるように門を飛び越えてみせたんだぞ!? 何か仕掛けをしようったって、大通りは丸見えだからできねぇ! しかも飛び上がった時はまわりには誰もいなかったから、グルになってるヤツもいねぇんだ!」



「や、やっぱり……! 巨兵を投げ飛ばしたのは、インチキじゃなかったんだ……!」



「なんだ、まだ言いやがるのか、テメェ!」



「だってそうだろう!? 見えねぇ場所でやったならともかく、俺たちに逃げも隠れもせずにやってのけたんだぞっ! やっぱりあのガキは只者じゃねえんだ!」



「も、もしかして……この競技も……アンノウンチームが、1位になっちまうのか……!?」



「そ、そうなるともう、偶然とかじゃねえぞ!? あの絶対無敵の雷猿に、二度も土をつけさせたヤツだなんて……今までにはいなかった……!」



「……たった千(エンダー)だけだけど、アンノウンチームの1位に賭けといてよかった……!」



「えっと、この競技でアンノウンチームが1位になると、200倍だから……20万¥じゃねぇか!?」



「くそっ! 俺も100¥でもいいから買っとくんだった!」



「……おいっ、お前ら、いい加減にしろっ! 目を覚ませ! あのガキが1位になるなんてことはなぁ、絶対にねえんだ!」



「な、なんでだよっ!?」



「相手はあの雷猿だぞ! 個別の競技であれば一度は負けることがあっても、二度負けたことは絶対にねぇ……! そしていつも圧倒的な差をつけて優勝するじゃねぇか……!」



「そうだ! 俺たちの雷猿は、いつも奇跡を見せてくれた……! 今回もまたやってくれるに違いねぇぜ! あんなガキのインチキとは違う、ホンモノの奇跡を……!」



「あの生意気なガキに吠え面をかかせられるのは、雷猿だけだ! 俺たちの想いが届くように……よおし、雷猿コールだ!」



 まるで示し合わせたかのように、あちこちで沸き起こる雷猿コール。

 それは大きなうねりとなって、ボクを押しつぶそうとする。


 しかもその声に衛兵たちが正気に戻り、ついにボクを捕まえようとしてきたんだ。


 いままで以上に奮起しながら飛びかかってくる大人たちを、いままでのようにいなしながら、ボクは気づいていた。


 かがみこみ、そして伸び上がるたび……腰を打ち据えられるような痛みが走ることに……!

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