124 やりすぎアンノウン
関連小説の紹介 ※本作の最後に、小説へのリンクがあります。
★『…マジで消すよ? 俺の愧術がチートすぎて、クラスのヤツらを一方的に縛ったり消したりします!』
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女の子を緊縛して奴隷にする、嫌なヤツを消す、お金を出す…これ全て、異世界最強の、愧術…!
★『ゲーマーおっさん、ゴーレムに引きこもる…でもソレ、実はスーパーロボットですよ!?』
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引きこもれば引きこもるほど、チヤホヤされる…チートゴーレムのお話!
ボクは、なだらかに盛り上がるアーチめがけて加速する。
街にある『南大橋』は20メートルの幅があるんだけど、この競技場に再現されたものは4メートル……5分の1スケールだ。
橋のサイズが目測だけで正確にわかるのは、『超感覚』スキルのおかげ。
『瞬間分析』でいま接近している橋のサイズを測り、『絶対記憶』によりホンモノの橋を思い出し、計算する……。
それをほぼ無意識のうちに、ボクはやってのけていた。
木でできた丘のてっぺんには、塗り壁のように立ちふさがる大柄な衛兵。
ふてぶてしい表情で、「軽く捻り潰してやるか」と首の骨を鳴らしている。
ボクは真っ先に、ゴンより大きいなぁ、なんて思ってしまった。
ヤツとの距離が詰まるにつれ、みなぎるような高さも、周囲のヤジも大きくなっていく。
『アンノウンチームのリーダー! ルートを横道に変えずに、大橋へと向かっております! どうやら「巨兵」に立ち向かうようです! いまだかつて彼に立ち向かって無事だった者は……と言いますか、立ち向かった者すらいませんでした!』
「おい、デカブツ! やっちまえーっ!」
「いつもは俺たち盗賊の敵だが、今だけは応援するぞーっ!」
「そうだそうだ! 相手がガキだからって、遠慮することはねえ!」
「そのナメくさったガキをケチョンケチョンにして、川に叩き込んでやってくれーっ!」
……相変わらず、ボクの味方はどこにもいない。
だけど彼らをあっと言わせることができたら、その「価値観」もひっくり返せるはず。
そのためには、ちょっと手荒になっちゃうけど……ゴメンっ!
ボクは心の中で謝りながら身をかがめ、「巨兵」の懐へと潜り込んでいく。
マンモスの腹を石槍で突かんとする、原始人のように……!
『おおっ!? アンノウンチームのリーダー、ここでも得意の股下くぐりを……!』
「……バカめ! お前の手口はこっからさんざん見てたから、ぜんぶお見通しなんだよっ! 踏み潰してくれるわ!」
がばあと振り上げられる、丸太のような脚。
続けざまに杭打機のように振り降ろされるブーツの裏を、ボクは腕で受け止めていた。
……ガシィィィッ!
それはさながら、仏像に踏み潰される邪鬼のように見えたかもしれない。
「や……やった……!」
観客たちはガッツポーズとともに、一斉に立ち上がる。
『ああっ!? アンノウンチームのリーダー! とうとう動きを捉えられてしまいました! 「巨兵」の全体重で、今まさに、踏み潰されようと……!』
「象に踏まれたアリンコみてえに、ペチャンコにしてやるっ……!」
ソプラノの嬉し声と、バリトンの厳つ声……ふたつの音色が、頭上からのしかかってくる。
『「あっ……えっ? ええっ!? えええええええええええええええええええええええええーーーーーーーーーっ!?!?」』
そのふたつが重なり、不思議なハーモニーを奏でた。
「巨兵」が……いまだかつて立ち向かう者すらいなかった、この街の最強の番兵が、大空を舞う。
ストンピング攻撃を受け止めたボクは、ヤツの股ぐらに手を突っ込んで、「40」ある筋力を全力で解放……思いっきり持ち上げてやった。
そして、『テレキネシス』のスキルもプラス……!
『体力』と『理力』……ふたつの力で、ヤツを高く、そして遠くに投げ飛ばしたんだ……!
それは自分でやっておきながら、常識ではありえない光景になっていた。
さながら、邪鬼が逆らって、四天王を倒してしまったような……!
さながら、たった一匹のアリが、象の身体を巣穴へと引きずり込んでいくような……!
2メートルの巨体が、引っこ抜かれたかのようにスポーンと飛び上がり、屋根よりも高い位置でもがく。
橋からはずれ、川へと向かって放物線を描く様は……もはや「巨兵」というよりも、台風に飛ばされたカカシであった。
……しまった……!
ちょっと、やりすぎちゃった……!
本当は、欄干をちょうど乗り越えられるくらいの高さで放り投げ、すぐ下の川に落ちてもらうつもりだったんだけど……まるで砲丸投げ……いや、遠投みたいに飛んでっちゃった。
いまだ誰もが唖然としている静寂のなかで、ボクは小さくなっていく「巨兵」を見送っていたんだけど……その行き先に、息を呑んでしまった。
下りに入った放物線。
そのルートには、川ごしの裏道どうしを繋ぐ小さな橋があって……最悪のタイミングで、雷猿たちが渡っているところだったんだ……!
「あ……! あぶないっ!」
ボクはとっさに叫んだんだけど、もう遅かった。
いくら伝説の盗賊たちでも、さすがに橋の横から大男が飛んでくるだなんて夢にも思わなかったんだろう。
よける間もなく、3人とも巻き込まれてしまい……。
……ドガアッ! バキバキバキィッ……!
鈍い体当たりの音のあと、ウエハースのように真っ二つになる橋。
いまボクが立っている大橋と違い、小さな橋だから作りも脆かったんだろう。
「「「「ふぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!?!?」」」」
混迷を極めた悲鳴をあげながら、4つの悲鳴と人影が、水面を割った。
雨のように降りしきる木片が、あたりにいくつもの波紋を投げかける。
瞬転、機雷が爆発したような高い水しぶきがあがり、天を衝いた。
……どっぱぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーん!
川が氾濫するように波打つ。
ボクは橋の手すりから身を乗り出して様子を見守ってたんだけど、すぐ下まで木片が押し流されてきていた。
しばらくして、ぷはあっ! と4つの顔が水面から飛び出す。
誰が誰だかわからないけど、雷猿たちと、さっきまでここにいた「巨兵」……!
よかった、みんな無事だった……!
顔を出すなり雷猿たちは巨兵を責めていたんだけど、彼はもはや威圧感の欠片もなく、言いつけるようにボクのいる方角を指さしていた。
3匹の猿の顔が一斉にこちらを向いたので、ボクはやまびこのように叫んだ。
「……ごめーん! わざとじゃないんだーっ! そんなに遠くまで飛んでいくだなんてーっ! ぜんぜん思わなかったしーっ! ……あっ!?」
謝罪は途中で中断せざるをえなくなった。
なぜならば視界の隅で、迫りくる衛兵たちを捉えたからだ。
「ほんとにごめんね! じゃ、ボクはこれで!」
しゅたっ! と手を挙げたあと、ボクは床板を蹴る。
山なりになっている橋を一気に飛び降り、再び北に向かって走り出した。
『え、えーっと……いまだになにが起こったのか、よく、わかっていないのですが……ともかくアンノウンチームのリーダーが、いま、南大橋を突破いたしました……』
「な、なあ……今の、なんだったんだ……?」
「あ、あのガキが、踏み潰されたと思ったら……なぜかはわからんが、デカブツが飛び上がってて……そのまま、川に落ちちまったんだよな……」
「あのちっこいガキが、あのデカブツをブン投げたってことか?」
「まさか! いくらなんでも無理だろ! 体格差がありすぎる!」
「そ、そうだ! あのデカブツがわざと飛び上がったんだ!」
「ええっ!? なんだって、そんなことを?」
「雷猿を巻き込んでただろ! 偶然を装って、雷猿を妨害しようとしてたんだ!」
「……なるほど、それなら辻褄があう! あのガキとデカブツが、グルになってやがったんだ!」
「チクショウ、そういうことか……! このカジノのヤツらは雷猿の連勝を、なにがなんでも食い止めたいんだ……!」
「で、でもよ……変じゃねえか?」
「なにがだよっ!?」
「あのデカブツ、かなりの距離を飛んでたぜ……? あんなに飛べるヤツがいるのかよ……? それに偶然を装うにしちゃ、タイミングが奇跡的すぎるし……やってることも派手すぎじゃねぇか……?」
「そんなことまで知るかよ! でも、あのガキがデカブツを投げ飛ばしたって考えるよりは、納得がいくだろうが!」
「いや、俺はどっちかっていうと、あのガキが投げ飛ばしたって考えるほうが、自然だと思うんだ……」
「ハァ!? 何言ってんだお前!? 気は確かか!?」
「だってよぉ、あのガキの身体能力、見ただろ? あれだけの衛兵に襲われながら、髪の毛一本掴ませなかったんだぜ……?」
「まさかお前……あのガキに賭けたのか?」
「実をいうと、そうなんだ……1位になったら20倍だろ? だから、1枚だけ買ってみたんだ……」