122 セオリー無視作戦
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第2競技『街中競争』……!
そのスタートの合図にあわせ、両隣にいた雷猿が急に脚を伸ばしてストレッチを始めた……!
いや、そのフリをしているだけで……本来の目的は、スタートダッシュするボクらの出鼻を挫くため……!
きっと前の競技でヤツらのリーダーが転んだから、その腹いせをしたんだ……!
ボク、マニー、サルは……見事なまでに足を取られ、前のめりに宙に放り出される。
『イーグル』のスキルがなければ、ボクは何がなんだかわからないうちに地面に叩きつけられていただろう。
しかし大空を時速100キロ以上で飛び、人間の4倍の視力で獲物を捉え、急襲する鷲の動体反応があれば……。
ゆっくりと離れていく大人たちの背中、隣にいるマニーやサルの驚き、そして足元でニヤニヤ笑いを浮かべる雷猿たちまで、ハッキリと把握することができるんだ……!
「くっ……!」
ボクは呻きながら、脇にいるマニーとサルを抱き寄せた。
そして空中ででんぐり返しをするように、身体を思い切り丸める。
「……はあっ!」
吐いた息とともに身体をグリンと一回転させ、3人揃って地面にシュタッと着地した。
「行こう! マニー、サルっ!」
ボクはふたりの腰を抱え、勢いのまま走り出す。
マニーもサルも前につんのめりそうになっていたけど、なんとかついてきてくれた。
本当であれば、足をひっかけたヤツらを睨み返してやりたいところなんだけど……もう競技は始まっていて、すでに少し遅れているからそれどころじゃないんだ。
スタート地点で起こった一連の出来事は、あまりにも一瞬だったので誰も把握できなかったのか、みんなポカーンとしている。
当のマニーですら、
「なぁアンノウン……なにがどうなっているんだ?」
なんて尋ねてくる始末。
「あとで説明するから、今は競技に集中して! もう自分の脚で走れるよね!?」
それでようやく自分の置かれている立場に気づいたようだ。
「……あっ!? 腰に手を回すだなんて、何を考えているんだっ!? 俺は男に抱かれる趣味はないぞっ!? 離せっ!」
乱暴に突き飛ばされたので、マニーとサルの腰を手放す。
それでボクらは少し離れはしたものの、横一列になって街の門をくぐった。
『アンノウンチームがスタートと同時に前宙をするという、よくわからないパフォーマンスで始まりましたが、いま全チーム街の中に入りましたっ! 最後尾は雷猿のふたり! 彼らはスタートと同時に走り出すのではなく、ストレッチを始めたのです! 他の競技者へのハンデキャップのつもりなのでしょうか、さすが王者! 余裕たっぷりのようですっ!』
競技場内に作られた街は、モデルになったこの街と同じような構造をしている。
街の中心から十字路が伸びていて、それが大通りとなって東西南北の各外門に繋がっているんだ。
スタート地点は南門だったので、北門に向かって幅広の道がまっすぐに伸びている。
両隣には木造の家が立ち並び、碁盤の目のような脇道があるんだ。
ゴールは北門なので、脇目もふらずに大通りを突っ切るのが最短距離なんだけど……そう簡単にはいかない。
大通りにはたくさんの衛兵が待ち構えているうえに、途中に門や橋があるんだ。
ボクらに先行して街に入った他チームのメンバーは、蜘蛛の子を散らすように裏通りに逃げ込んでいく。
やはり入り組んだ道を利用して、見つからないように進むほうがいいのか……。
悩んでいると、サルが先行した。
とある家と家の隙間で立ち止まり、用事深く中を覗き込んだあと……こいこいと招いてくる。
「こっちッス! アッシらも路地裏に逃げ込むッスよ! この競技は、見つからないように隠れて移動する盗賊の技量が問われているんッス! だから大通りには、ありえないくらい衛兵が配置されてるんッス! 逃げ込むのが遅れれば遅れるほど、衛兵にマークされやすくなるッス!」
見回すと、たしかに大通りに残っている選手はボクらだけだった。
背後から遅れて街に入ったであろう、雷猿のふたりの姿ももうない。
前方には、灰色の制服に身を包んだ衛兵役のスタッフたちが大勢迫ってきている。
これはあくまで競技だし、ボクらはなにも悪いことはしていないんだけど……彼らの表情は真剣そのもの。
防犯訓練みたいな手加減は一切してくれなさそうだ。
そしてさらに気づく。
櫓の上で見下ろしている、衛兵の司令官らしきふたりの男が、ひそひそ囁きあっているのを。
もちろん聞き取れる距離ではなかった。
それに、こうしている間にも衛兵はどんどん迫ってきている。
しかし……それ以上に気になってしまったので、ボクは『ドルフィン』のスキルで無理矢理ヒソヒソ話を聴き取った。
「……おい、今日はどうしたってんだ? 下のヤツらのやる気が尋常じゃねぇぞ? いつもはもっと遊び半分なのに、今日は本物の凶悪犯でも捕まえられそうな勢いじゃねぇか?
「なんだ、お前はまだ聞いてなかったのか。今回はアンノウンチームだけを狙えって、オーナーから言われたんだ。他のチームは一切ほっといて、何が何でも捕まえろだって。だから見張り役の俺たちも、アンノウンチームだけを探して下のヤツらに指示するんだ。この競技でリタイヤさせることができたら、ボーナスが出るってよ」
「なるほど、そういうことだったのか! ボーナスが出るってんなら、俺も張り切らねぇとなぁ!」
「今回は、武器も使っていいそうだ。もちろん、客席からは見えない所だけだがな」
「ええっ、マジかよっ!? 武器使用オーケーなんて、久しぶりじゃねぇか! あのガキども、成人したとはいえまだ子供だろ? それなのに、病院送りにされちまうだなんて……あーあ、俺が下になりたかったぜ!」
話を終え、向き直った物見櫓の大人たちを、ボクは上目遣いで睨み返してやる。
ふたりとも「ヒッ!?」と悲鳴が聞こえてきそうなくらいに震え上がっていた。
不意に、脇のほうから声がすがりついてくる。
「おいっ、なにをボーッとしているんだ、アンノウン! 早く逃げるぞっ!」
「早くするッス! アンノウン! 早くしないと、追いつかれちゃうッスよ!」
マニーとサルが物陰からひょっこりと顔を出し、激しい手招きで呼んでいる。
しかし……ボクは振り切るようにして走り出した。
「……ごめん! ボクは大通りを行くよ! マニーとサルは、裏道からゴールを目指して!」
前方から飛びかかってくる大人たちを、スライディングしてかわす。
後方からは、「ええっ!?」とした驚愕。
『おおっとぉー!? アンノウンチームのリーダー、なんと大通りを進みはじめましたっ!? ムチャです! ムチャにも程があります! この競技の定石を完全に無視しています! 初参加なので理解していないのか、それとも、もう勝利をあきらめてしまったのでしょうかっ!?』
……勝利をあきらめたわけじゃない。
むしろ勝つために、この道を選んだんだ。
なぜならばマークされているとわかった以上、狭い裏路地に隠れるのは得策ではないから。
この街は裏道までホンモノと同じとは限らないし、いずれにしてもスタッフである衛兵のほうがよく構造を知っているだろう。
そうなると、より追い詰められやすくなり……なによりも囲まれたときに振り払うのが困難になる。
それに加えて、観客席から死角になった時点で、ヤツらは武器を使う……!
ボクらをリタイヤさせ、次の競技も参加できないくらいに、容赦ない攻撃をしてくるハズなんだ……!
ボクひとりであれば、それでもいい。
いくらでも受けて立ってやる。
でも……マニーやサルをそんな目に遭わせるわけにはいかない……!
ここでボクが囮になって戦えば、ふたりには追跡の手は及ばない……!
たとえ途中でボクが倒されても、ゴールを目指せるはずなんだ……!
ボクは波のように押し寄せてくる大人たちを、次々といなし、かわしていく。
身体と身体のわずかな隙間に割り込み、時にはしゃがんで股の間をくぐる。
「バカめ! 突っ込んできやがったぞ、捕まえろ!」
「ボーナス、もらったぁぁぁぁ!」
「飛んで火にいる夏の虫ってのは、まさにこのことだぜ!」
「大人しくしろよっ! そしたら少し痛い目にあうだけですむからよっ!」
鼻息荒く手を伸ばし、掴みかかってくる衛兵たち。
しかし……数秒後には誰もが雲を掴んだかのように、呆然と立ち尽くしていた。
「……あ、あれ?」
「……き、消えた……?」
「……さっきまで、目の前にいたはずなのに……?」
「……なんか、幻みてぇにどっかいっちまったぞ?」
ボクは『セフェノミア』のスキルを使って人混みの中を進んでいた。
勢いあまってぶつからないように、数十センチずつ小出しにして。
高速で視界から外れると、人並みの動体視力では移動したというより消えたように見える。
最初は何が起こったのかわからず思考停止するんだけど、正気に戻ったところで見える範囲……前方だけを探してしまうんだ。
ボクは彼らの背後にいて、どんどん遠ざかっているとも知らず。
もしやと思って振り返ったときには、もう遅い。
すでに人混みに紛れたあとで、目の前には呆然と立ち尽くす衛兵仲間がいるだけなんだ……!