120 女神の選択
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次の競技ならばまた競技場に行くのかと思ってたけど、ボクらは開会式をやったステージへと案内される。
ボクらが登壇したとたん、ものすごいブーイングが足元から突き上げてきた。
あの番狂わせ以来、すっかりみんなの敵になっちゃったみたいだ。
『さあっ、全チーム揃いました! まずは現時点での各チームのポイントを確認してみましょう!』
『神の泱声』に乗るアナウンスのお姉さんがすぐ隣にいるので、耳元で叫ばれているみたいにやかましい。
エコーに乗って、木でできたステージがビリビリと軋む。
お姉さんがステージの背後を指さしていたので見上げると……いつもはオッズ表があった場所が、各チームの獲得ポイントに変わっていた。
1位 30ポイント アンノウン
2位 20ポイント 盗賊ギルド
3位 10ポイント エクスプローラーズ
4位 00ポイント 雷猿
『現在、アンノウンチームが30ポイントでトップ! その後を盗賊ギルドとエクスプローラーズが追う形となっています! そしてなんとなんと、雷猿が4位……! これは長きこのカジノの歴史において、初めてのことです!』
「あぁ~!」と絶望を露わにしたような声が、客席から這い上がってくる。
盗賊ギルドとエクスプローラーズのメンバーは初めて雷猿に勝ったのか、だいぶ興奮気味だ。
その雷猿たちはというと……意外にも落ち着き払っている。
ただボクと目が合うたびに、聞こえないくらい小さく舌打ちしているようだけど。
『しかしっ! まだわかりません! 競技はまだまだ続きます! しかも、次は「女神の選択」……! このボーナスステージにおいて、いつも雷猿は奇跡を見せてくれました! 今回も我々をあっと言わせてくれるのでしょうかっ!?』
すると観客たちは「うおおおおーーーっ!!」と大盛り上がり。
奇跡が起こるのはもうわかりきっていて、その大きさに期待するかのようだ。
そもそもボクは『女神の選択』がよくわからなかったので、今度は何をするの? と
隣にいるサルに小声で尋ねた。
「各競技の合間にあるちょっとした運試しッス。これから女神がやってきて、各チームに紙をくれるッス。そこにはポイントの増減が書いてあったり、次の競技に影響を及ぼす指示が書いてあったりするッス」
……そうなんだ……とボクは少し憂鬱になる。
「運試し」という言葉に、ロクな思い出がないからだ。
しかし……その『女神の選択』は、運試しどころじゃなかった……!
ボクの想像を、遥かに超越するとんでもないものだったんだ……!
アナウンスとともに、ステージ上には色っぽい美女が現れる。
素肌にシーツみたいな布一枚で、肩どころか胸の谷間まで露わ、歩くだけで腰や素足のラインがチラチラ見え隠れしている。
もしかして……アレで女神に扮しているつもりなのかな?
あんまり女神っぽくないなぁと思っていると、隣にいたマニーも同意見だったようで、「ビッチめ……!」と小声で吐き捨てていた。
ニセ女神が肢体を見せつけるかのようにくねくねと踊ると、歓声が沸き起こる。
ステージ上をしゃなりしゃなりと端から端まで練り歩き、観客に向かって声援に応えたあと……さらに整列した各チームを品定めするように歩いた。
ニセ女神は盗賊ギルドのリーダーの前で足を止めると、懐から出した黄色い封筒を手渡す。
同じようにエクスプローラーズのリーダーにも緑色の封筒を渡していた。
そして次は、雷猿の元へと向かう。
ニセ女神は赤い封筒を、両手を握りしめるようにして進呈したあと……背伸びして、チュッとリーダーの頬にキスをした。
『おおっとぉー! 「女神のキス」が出ましたぁーっ! どうやら勝利の女神は雷猿に微笑むどころか、ハートまで捧げてしまったようですっ! これはすごい奇跡が期待できそうだぁーっ!』
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーっ!!」と煽りに煽られる観客たち。
ニセ女神は名残惜しそうに雷猿から離れ、最後にボクらのチームの前にやってくる。
そういえばボクがリーダーだったかと思い出し、封筒を受け取ろうと手を出した直後、
……パシンッ!
いきなりビンタされて、ボクは目が点になってしまった。
『おおっとぉー! 「女神の平手打ち」が出ましたぁーっ! これは珍しい! どうやらアンノウンチームは勝利の女神にすっかり嫌われてしまったようです!』
「どわっはっはっはっはっはっ! わーっはっはっはっはっはっ!!」
ボクは何が起こったのかまだ理解できず、爆笑の渦に包まれながら、ただただニセ女神の背中を見送っていた。
「な、なんで、知らない女の人からビンタされなくちゃいけないの……?」
あちゃあと顔を押さえているサルに、ボクはそれだけ訊ねるので精いっぱいだった。
「アンノウン、このカジノにいる女神は好き嫌いが激しいんッスよ……! 好かれれば良いボーナスが書かれた封筒がもらえるんッスけど、嫌われるとペナルティが書いた封筒が渡されるッス。でもそもそも封筒すらもらえないだなんて、こんなの初めて見たッス……!」
「そ、そうなんだ……」
当たり前のように言われたので、危うく納得しそうになっちゃったけど……。
い、いや、違う……! そういう問題じゃない……!
「運試し」っていうからてっきり、いくつかあるヤツの中から選ぶとか、そういうのかと思ってたのに……。
これじゃ完全にあのお姉さんの胸三寸じゃないか。胸は三十寸くらいはありそうだけど……!
あのお姉さんが女神なんかじゃなく、このカジノのスタッフだというのは明白だ。
ってことはオーナーである雷猿に、悪いことが書いた封筒なんて渡すわけがない……!
どこから突っ込んでいいのかわからないうちに、話はどんどん進んでいく。
『では、まずは盗賊ギルドとエクスプローラーズ、同時に封筒をお開けくださいっ! ……おおっとぉ! 盗賊ギルドは「ハズレ」! エクスプローラーズは「プラス10ポイント」ですっ! これにより、両者が並びましたぁーっ!!』
がっくり肩を落とす盗賊ギルドと、ガッツポーズをするエクスプローラーズの大人たち。
まるで準備してあったかのように、スコアボードのポイントが置き換えられた。
1位 30ポイント アンノウン
2位 20ポイント 盗賊ギルド
2位 20ポイント エクスプローラーズ
4位 00ポイント 雷猿
『そしてぇ、期待の雷猿です! 女神にキスまでされてしまった彼らにもたらされる祝福とは、いったいどのようなものなのでしょうかっ!? 期待が高まります! さあっ、封筒をお開けくださいっ!』
雷猿のリーダーは封筒から取り出した紙を、見もせずに天に高々と掲げた。
『ぷ、「プラス50ポイント」!? なっ、なんということでしょうっ!? すごい、すごすぎますっ! 逆転、逆転、大逆転っ……! 世紀の大逆転です! いままで雷猿の逆転は何度もありましたが、4位から1位に躍り出たのはこれが初めてですっ! チーム雷猿、またしても私たちに奇跡を見せつけてくれましたぁーっ!!』
アナウンサーのお姉さんは大興奮。
共鳴するように巻き起こる、怒涛の大叫喚。
それはボクがこのカジノに来て聞いた、いちばんの歓声だったんだけど……ボクの頭の中では空々しく響いていた。