118 罠解除リレー、決着…!
関連小説の紹介 ※本作の最後に、小説へのリンクがあります。
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引きこもれば引きこもるほど、チヤホヤされる…チートゴーレムのお話!
ビックバンのような爆発のあと……ボクの前から、世界がひとつひとつ消え去っていく。
まずは小惑星帯のように周囲を漂っていた石たちが消え、それを放っていた人々も客席ごと消え失せた。
つぎに前を疾走していた雷猿が、街の外周ごと姿を消す。
なにもかもが水に溶けるように消え、遮るものがなくなったあとに残ったのは……どこまでも続く湖。
見覚えのある風景……。
これは『ゾーン』か……。
残っていたのは、ボクの足元からまっすぐ伸びるコースのライン。
コース上には宝箱が点々と置かれている。
目で追っていくと、ゴールテープがあって……その向こうには、蜃気楼のような人影が。
……マニー?
全身全霊を燃やし尽くすように、激しく揺らめくそれを、ボクは求めようとした。
あ、でも、その前に……まずは足元にある宝箱を、なんとかしなきゃ……。
自分でも驚くほどに落ち着いている。
ボクはしゃがみこんで、宝箱に手をかけた。
いつものように、『クロスレイ』で中身を透視。
ふと、いつもと違うことに気づく。
ボクがいま取り掛かっている宝箱だけじゃない……行く手にポツポツとある宝箱が、すべて透けていたんだ。
『クロスレイ』は目の焦点を合わせたものだけが透けるのに……。
こうやって視界に入れているだけで透けるなんて、はじめてだ……。
まあいいや、と思って手元の宝箱に注意を戻す。
この箱もワイヤー式だ。
『ダークチョーカー』で切ってやれば、すぐに無効化……。
プツンッ!
しかし、弾けた音はひとつだけじゃなかった。
……プツンッ! ……ブツンッ! ……ブツッ! ……プスッ……!
顔をあげると、行く手にある他の宝箱のワイヤーまで……ドミノ倒しのように連鎖でちぎれているところだった。
……あれ? なんで離れた場所のワイヤーまで、いっしょに切れてるんだろう……?
ボクは立ち上がって、ゴール手前にある宝箱を『イーグル』のスキルで拡大してみる。
ちょうどアップになった瞬間、音が聞こえてきそうなくらいに勢いよく弾け飛んでいるところだった。
1回の『ダークチョーカー』で、ぜんぶのワイヤーが切れちゃった……。
ってことは、もしかして……。
半信半疑ではあったけど、試すくらいの気持ちで足元のフタめがけて『テレキネシス』をかけてみる。
すると、重い扉のようにゆっくりと開いた。
ここまでは、いつもの効果とおんなじだ。
ひとつ先の宝箱を注視すると、フタが震えているところだった。
年寄りのミミックみたいに、これまたのんびり開こうとしている。
……知らなかった……!
原理はよくわからないけど、『ゾーン』の中ではスキルの効果が拡大するのか……!
でも、これならあとは勝手に開いてくれそうだし、楽でいいや……!
手間がだいぶ省けたので嬉しくなり、ボクはスキップで走り出す。
あとはゴールするだけなんだけど……。
いいのかな、このままゴールしちゃって……。
ふと、モヤモヤしたオーラの横を通り過ぎ、ボクは足を止めた。
あ、たぶんこれは、雷猿だ……!
あの全力疾走も、こんなにゆっくりに見えるだなんて……!
ナメクジが這うような動きで、両手両足どころか、顔までも振り乱している雷猿。
身体から白い粒みたいなのを撒き散らしているけど、たぶん汗だろう。
さっきまでのボクみたいに、すごい汗の量だ。
それにしても『ゾーン』で誰かを間近に見ることなんてなかったから、なんだか興味深い。
へぇー、人のオーラってこんなになっているのか……なんて観察しているうちに、ある考えが浮かんできた。
……ちょっとくらいなら、イタズラしてもいいよね。
ボクはテレキネシスを使って、雷猿の足元を少しだけ、ほんの少しだけ盛り上げておいた。
これでよし、っと。
じゃあ、そろそろゴールしようかな。
ボクがスキップを再開すると、ちょうどゴール間近の宝箱が開いている最中だった。
そのままゴールテープを切ると、
「うおわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」
いつもの時間とともに、いきなり大音響が戻ってきたので思わず飛び上がってしまった。
一拍おいてから、
「ふぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!?!?」
肝をつぶしたような悲鳴が背後からぶつかってくる。
振り返ると、ボクが盛り上げた地面で躓いた雷猿が、ヘッドスライディングのような体勢で宙を舞っているところだった。
……ずっ、しゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーっ!!
顔面をモロに地面にこすりつけながら、土煙をあげつつ滑り込んでくる。
ゴールまではあと一歩なんだけど、大の字でうつ伏せになったまま、ピクピクと痙攣するばかりで立ち上がろうとしない。
全力疾走で躓くと、こうなっちゃうんだ……ちょっと、やりすぎちゃったかな……?
さらに一拍遅れて、上から横から絶叫が降ってくる。
『なっななななななななっ!?!? ななななっ、なななななななななぁぁぁぁぁーーーっ!? なんということでしょうっ!! しっ、しししし、しんじられませんっ!! なにもかもが、信じられませんっ!!』
「な、なにが……なにが起こったってんだ……?」
「あ、あのガキ、変な走り方をしてたよな……!?」
「あ、ああ……! まるでスキップしてるみてぇだった……!」
「それなのに、とんでもねぇ速さで、あっという間に雷猿に追いついちまって……!」
「そ、それだけじゃねぇぞっ! あのガキが宝箱を通り過ぎたあとは、触れてもいねぇのに勝手にどんどん開いて……!」
「それで……それでついに……雷猿を抜きやがったんだ……!
「あ、あんなガキが……俺たちの雷猿を追い抜いて、1位でゴールだと……!?」
止まらないざわめきの中、ゴールにふたりのオジサンたちが押しのけあうようにして駆け込んでくる。
誰かと思ったら、ライバルチームのアンカーだった。
ボクがゴールした瞬間ほどじゃなかったけど、再び観客席は熱を取り戻す。
「ああああーーーっ!? み、見ろよっ!」
「アンノウンだけじゃねぇ……! 盗賊ギルドもエクスプローラーズも、雷猿を抜いてゴールしやがった……!」
「雷猿は、まだ、ゴール前でノビたまんまだ……!」
「あ、あの雷猿が、あの雷猿が……! 常勝無敗の雷猿が……!」
「2位どころか、最下位になっちまうだなんて……!」
「し、信じられねぇ……! 俺たちは、夢でも見てんのか……!?」
「な……なんなんだよっ!? なんなんだよ今回の『森羅三猿チャレンジ』はよぉーっ!?」
「ふざけんじゃねぇぞっ! 金返しやがれっ!!」
観客席から次々と投げ捨てられた紙切れが、春の嵐のような風に乗って、かりそめの街の中を吹き抜けていく。
ボクの手元にもひらひらと舞い降りてきたので、手にとってみると……。
それはこの『罠解除レース』において、アンノウンチームの4位予想に100万¥も賭けたハズレチケットだった。