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117 勝ち目のない戦い

関連小説の紹介 ※本作の最後に、小説へのリンクがあります。


★『…マジで消すよ? 俺の愧術がチートすぎて、クラスのヤツらを一方的に縛ったり消したりします!』


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女の子を緊縛して奴隷にする、嫌なヤツを消す、お金を出す…これ全て、異世界最強の、愧術…!



★『ゲーマーおっさん、ゴーレムに引きこもる…でもソレ、実はスーパーロボットですよ!?』


https://ncode.syosetu.com/n0930eq/


引きこもれば引きこもるほど、チヤホヤされる…チートゴーレムのお話!

『追いあげられた雷猿(ブリッツエイプ)ほど恐ろしいものはありませんっ! 御覧くださいっ! 「女神の豪運」の前に宝箱も為す術がないようです! 罠が作動しておりませんっ!』



 あと50メートルというところまで雷猿を追い上げたんだけど、ボクが近づいてきているとわかった途端、ヤツは急に罠を解除せずに宝箱を開けはじめたんだ……!


 なにもせずにダイレクトにフタを開けているというのに、罠はひとつも作動しない。


 どうして急に……!? と思ったんだけど、その答えはすぐに出た。

 雷猿のコースにある宝箱は、もともと罠が解除された状態のものが並べられていたんだと……!


 ボクは追撃を続けながら『クロスレイ』と『ズーム』のスキルでヤツのコースにある宝箱を透視してみた。

 すると案の定、中の罠はぜんぶワイヤーが切られていて、機能しない状態だったんだ……!


 きっと今までは解除するフリをしていたんだろう。

 でもボクが追い上げてきたから、なりふり構わなくなっちゃったんだ。


 それなら観客も疑問に思うはずなんだけど、想像していたのは真逆の反応だった。



「おい、雷猿の宝箱……解除せずに開けても、罠がぜんぜん作動してねえぞっ!?」



「知らねえのかよっ! アレがこのカジノの名物のひとつ、雷猿の『女神の豪運』だよっ!」



「雷猿は追い上げられると、いつも勝利の女神が味方するんだ! そして絶対に負けない!」



「そ、そうなのか……! さすがは『女神に愛された猿』……!」



「でも、何度見てもすげえよな! いくら運が良くたって、あそこまでためらわずに開けられるだなんてよ!」



「だよなぁ、俺だったら『もしかしたら罠が作動するかも』って怖くなって、とてもじゃねぇけどできねぇよ!」



「それをやってのけるから、ずっとチャンピオンでいられるんだ! ここ一番というときの運の良さ、そして肝の座りよう……! さすが俺たちの雷猿だぜっ!」



 雷猿を見つめたまま石を投げつけてくる観客たちに、ボクはやるせない気持ちになった。


 ボクの場合はインチキだってさんざん言ってたのに……!


 たぶん……雷猿はこのくらいのインチキならいつもやっているんだろう。

 それをみんなが『豪運』だの何だのって騒いでいるだけ……!


 こうなったら……何がなんでも負けられないっ……!

 あまりムチャをすると、この後の競技に影響が出るかもしれないけど……かまうもんかっ!


 半ば意地になったボクは、さらに脚の筋肉を奮わせた。

 観客は雷猿の奇跡に目を奪われていて、だれもボクのスピードアップには気づいていない。


 好都合とばかりに、罠解除もさらに加速させる。

 『クロスレイ』による透視に、『瞬間分析モーメント・アナライズ』で内部構造を一瞬で分析、そのまま『ダークチョーカー』で断ち切るっ……!


 そして蹴散らす勢いでの『セフェノミア』で、次の標的へ……!


 ケルパー勝負の時にもやった、複数スキルの同時使用。

 しかし今回は座ったままじゃなくて、休む間もない無酸素運動の真っ最中……!


 息苦しさが、焦燥感となってこみあげてくる。

 肌がヒリヒリしてきて、口の中に苦いものが広がる……!


 まさに、命を削って力に変えているような感覚……!

 だけど、やめるわけにはいかないんだっ……!



『雷猿のゴールまで、あと200メートル! 勝利の女神はやはり……あ、あぁぁぁぁぁぁぁーーーっと!? し、信じられませんっ! アンノウンチーム、アンノウンチームがぁっ!? すぐ、すぐ間近にぃぃぃぃーーーっ!?!?』



 風鳴りにも似た絶叫と、花吹雪のような石つぶてがボクを包む。

 大げさな動きで振り返った雷猿のアンカーは、舌を引っこ抜かれている最中みたいな表情で仰天する。


 ボクは心の中で引導をつきつけた。


 ゴールまで、あと200メートル……!

 しかし、差はあと10メートルっ……!


 このままいけば、お前はボクの背中を見るっ……!

 そしていままでインチキで飾っていた白星を……黒く塗りつぶすことになるんだっ……!


 いままで敗れていった者たちの無念を、思い知れっ……!


 そして、ボクは目撃する。

 もはや『運』などという言葉では、片付けられないモノを……!



『あっ、あっ、ああああーーーっ!?!? ら、雷猿、宝箱を開けていませんっ!? よ、横を通り過ぎるだけで、勝手にフタが開いていますっ!?』



 雷猿はスタコラサッサと疾走……!

 宝箱にはしゃがみこむことすらせず、横を通過……!


 するとそれだけで、手品のようにひとりでにフタが開いたんだ……!


 これはもう『罠解除レース』じゃない……! ただの徒競走……!


 そして風鳴りは、嵐へと変わる。



「うおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?!?!?」



「す、すげえすげえすげえすげえ! すげえぇぇぇぇぇぇぇーーーっ!?」



「罠を発動させないだけじゃなく、横を通り過ぎるだけで開けちまうだなんて……!」



「もはや愛されるどころじゃねぇよ……! 女神は雷猿にゾッコンなんだ……!」



「か、かなわねぇ……! あの人にはかなわねぇよ、絶対っ……!」



「まさにこのカジノで、ナンバーワンになるために生まれてきたようなお人だ……!」



「あのクソガキがいくらインチキしたところで、無駄なんだ……!」



「そうだそうだ! どうやってるかは知らねぇが、あんなガキが雷猿を倒そうなんざ……十年、いや百年早ぇんだよっ!」



「もう雷猿の1位は決まったようなもんだな! いくぞ、みんなっ!」



「おおーっ!!」



 観客たちは手にしていた石を放り捨て、脚を踏み鳴らす。

 場外を揺らす地鳴りとともに、(とき)の大歓声をあげはじめた。



「雷猿! 雷猿! 雷猿! 雷猿! 雷猿! 雷猿! 雷猿! 雷猿! 雷猿! 雷猿! 雷猿! 雷猿! 雷猿! 雷猿! 雷猿! 雷猿! 雷猿! 雷猿! 雷猿! 雷猿! 雷猿! 雷猿! 雷猿! 雷猿! 雷猿! 雷猿! 雷猿! 雷猿! 雷猿! 雷猿! 雷猿! 雷猿! 雷猿! 雷猿! 雷猿! 雷猿!」



 とめどないアウェイの洗礼……ボクは完全に飲み込まれてしまった。


 このカジノの観客はみんな、雷猿の味方……!

 雷猿が勝つことを、これほどまでに望んでいるだなんて……!


 でもインチキする相手になんて、負けたくないっ……!

 ゴールドと同じように、インチキを暴いてやるまでは、負けられないんだっ……!


 けど、けどっ……!


 いくらなんでも、全力疾走している相手に、宝箱の罠を解除しながら追いつくなんて、ムチャだ……!


 無理な運動で軋んでいく身体。

 酸素が足りず、朦朧とする意識。


 ボクの心にヒビが入るのに、そう時間はかからなかった。


 これが粉々に砕け散ってしまったら、ボクはもう二度と立ち上がれない。

 優勝どころか、次の競技にすら参加できないだろう。


 だけど、だけど、だけど……もう、どうしようも……。


 心が空虚になっていく。

 そして、いよいよ最後の時を迎えようとしていたときに……遠雷のような悲鳴がかすかに耳に届いた。


 雷猿コールのなかでも、ハッキリと聞き取れた、それは……。



「……がんばれっ! 負けるなっ……! アンノウンっ……!」



 ハッ! と顔をあげたボクの前にあったもの、それは……!


 あとは直線を残すのみとなったコースのゴール先で、両手を広げるマニーの姿だった……!



「どうしたっ、アンノウンっ……! お前の力はそんなものじゃないだろうっ……! いくつものホンモノの奇跡を見せてくれたお前が、こんなニセモノの奇跡に負けるわけがないんだっ! キスだろうがなんだろうがしてやるっ……! こんな唇くらい、いくらでもくれてやるっ……! だから、だから……勝て……! 勝って! アンノウン……! アンノウゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーンッ!!!」



 ……ドッ、ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!



 ひび割れていたはずの、ボクの心。

 それが、とうとう折れ……るどころじゃなかった。


 ボクの横っ面を張り倒すみたいな衝撃で、大爆発したんだ……!

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