116 追い上げ開始!
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★『…マジで消すよ? 俺の愧術がチートすぎて、クラスのヤツらを一方的に縛ったり消したりします!』
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女の子を緊縛して奴隷にする、嫌なヤツを消す、お金を出す…これ全て、異世界最強の、愧術…!
★『チートゴーレムに引きこもった俺は、急に美少女たちから懐かれはじめました。キスしながら一緒に風呂やベッドに入るって聞かないんです!』
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引きこもれば引きこもるほど、チヤホヤされる…チートゴーレムのお話!
『アンノウンチーム、もはや最下位は確定的だと思われていたのですが、信じられないことに3位のエクスプローラーズに追いついてしまいました!』
アナウンスを聞いたエクスプローラーズのアンカーが、ぎょっと振り返る。
『必勝』と書かれたハチマキの下の瞳が、キツネに出くわしたウサギのようにクワッと瞠目した。
だけど、ボクは脇目もふらずにその横を走り抜ける。
悪いけど、いまの獲物はウサギじゃない……!
もっともっと大きくて、もっともっと速い……世界一の猿なんだっ……!
……ビシュンッ……!
名も知らぬオジサンのハチマキを風で揺らしながら、次なる宝箱へ手をかける。
フタの上からキッと睨みつけ『クロスレイ』を発動。
ガラス作りのように透けた中身には、無数のワイヤーが張り巡らされていた。
木目に添わせた手をぐっと握りしめ、『ダークチョーカー』を発動。
ワイヤーはピーンと引き伸ばされ、限界まで張り詰めた。
さらに力を込めると、ギターの弦が切れるような不協和音とともに弾け飛ぶ。
これで罠は作動しないはず、とフタの両脇を持って押しあげる。
箱の中は水色の液体で満たされていて、千切れたワイヤーが海藻のように浮いていた。
罠を解除せずに開けると、ワイヤーによって勢いよく底板があがり、水色の液体が飛び出す仕掛けになっていたんだろう。
この液体を浴びるとどうなるか想像もつかない。
いつものボクだったら指を浸けたりして確かめるんだけど、今はそれどころじゃない。
誘惑を断ち切って、再び風になる。
……シュゥゥゥンッ……!
気がつくと、前には雷猿の背中があるだけだった。
いつの間にか盗賊ギルドチームのアンカーも追い抜いてしまったらしい。
『チームアンノウン、ついに、ついについに2位に躍り出ましたっ! 罠を一切解除しないという荒業! しかも、ひとつも作動させないという大幸運! 1位の雷猿とはまだ距離がありますが、この勢いを維持できれば追い抜きも不可能ではなさそうです!』
「ま……マジかよっ!? こんなこと、あってもいいのかよっ!?」
「ひとつも罠が作動しないなんて、おかしいだろっ!?」
アナウンスと観客は、罠が作動しないのはボクの運がすごくいいからだと思っている。
そんなことはない……!
だってボクは外したのにもかかわらず、罠に引っかかっちゃうほど運が悪いんだから……!
いまも何らかの偶然で、外したはずの罠が何かの間違いで作動してしまわないか……ドキドキしながら箱を開けてるんだから……!
しかしボクのことをよく知らないまわりの大人たちに、この恐々とした思いが伝わるわけもない。
観客たちはとうとう立ち上がってブーイングを飛ばしてきた。
「おいガキっ! 馬鹿にしてんじゃねぇぞっ! 宝箱がそんな故障だらけだなんて、ありえねぇんだよっ!」
「わかったぞ! カジノのヤツに金を渡して、壊れた宝箱ばっかり回してもらったんだろう!?」
「そうだ! そうに違いねぇ! あのガキ、インチキしてやがるんだ!」
「もしかして、カジノのヤツらとグルになって、雷猿を負かそうとしてるんじゃねぇか!?」
「えっ? で、でも……カジノとグルになってるなら、あのオッズは……」
「ゴチャゴチャうるせえっ! くそっ、俺たちの雷猿を負かそうったって、そうはいかねえぞ! おいっ、やっちまおうぜ!」
「おおっ!!」
観客たちはどんどんヒートアップして、とうとうボクに向かって石を投げ始めたんだ。
ボクは驚いた。石を投げられたこともそうだったんだけど、それ以上になぜ、すぐに投げられるような石が客席にあるのかと……!
そしてまさかとは思ったんだけど、誰も止めようとはしない。
上から見ているはずのアナウンスどころか、観客席のいちばん前にはカジノのスタッフがいるのに、見て見ぬフリをしていたんだ……!
さらにボクは見逃さなかった。
100メートルほど先にいる雷猿のアンカーが、ボクのほうを振り返りながら、ニヤリと笑ったのを……!
アナウンスも、スタッフも、観客も……みんな雷猿の味方なのかっ……!?
ボクはようやく気づいた。
オーナーが、マスクをかぶっていたことを……!
雷猿はこうやって観客たちの支持を得るために、正体を隠していたんだ……!
オーナーが常勝無敗となれば、ここまでの支持は得られない……!
だってこの『罠解除レース』に限って言えば、『ケルパー』みたいな全てがオープンの勝負と違って、インチキし放題だから……!
雷猿はカジノ側とは無関係を装って、ヒーロー像を創り上げていたんだ……!
雷猿のことを教えてくれたサル自身がそうであったように、彼らには熱狂的なファンが大勢いるらしい。
そんなファンの足元に石なんてあったら、ヒーローを負かそうとするヤツに投げるのは無理もないことだ。
観客の気持ちまで利用するだなんて……!
許せない……! 許せないぞっ……!
ボクは負けてたまるもんかと、さらに奮い立つ。
罠を見通す視界を、構造を解析する脳を、引きちぎる力を……そして獲物に襲いかかる豹のような脚を、クロックアップさせる……!
『あああっ!? アンノウンのアンカー、ここにきて更にスピードアップしました!? あれだけの追い上げをしておきながら、まだラストスパートの余力を残していたようです!!』
「わああっ!? なんだなんだなんだ!? なんだぁぁぁっ!?」
「はっ、はぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーっ!?!?」
「クソッ! いったい何者なんだよっ!? あのガキっ!?!?」
「ノータイムで宝箱を開けてやがる! もうインチキを隠すことすらしやがらねぇ!」
「で、でも、アレって本当にインチキなのか?」
「なんだよっ!? インチキに決まってるじゃねーか! あんなに躊躇なく開けられるってことは、中の罠が作動しないって知ってるからだろうが!」
「い、いや、たしかにそうなんだが……あの脚の速さはどう解釈すればいいんだ? あの化物じみた速さはどうインチキなんだよ?」
「し……知るかよそんなこと! とにかくあのガキはインチキ野郎なんだ! いーから石を投げろっ!」
ボクのいる一帯だけ異常気象にでも見舞われたかのように、灰色の雹が振ってくる。
よけるのは造作もないことだったけど、なぜか胸はチクチクと傷んだ。
「くそおっ! ちょこまかと避けやがって! ちっとも当たらねぇじゃねぇか!」
「ちっともどころじゃねぇ! あのガキ、1発もくらってねぇぞ!」
「それどころか、石を投げてるこっちを見もしやがらねぇ!」
「それなのになんで当たらねぇんだよっ!? 身体じゅうに目がついてやがんのかっ!?」
「あとちょっとで当たりそうなんだが……! ええいっ、チクショーっ!」
「い、いや、違う……! あとちょっとなんかんじゃない……! あのガキは、わざとギリギリで避けてるんだ……!」
「なんだとぉ!?」
「本当だ! よく見てみろ! ちょうど石ひとつぶんだけ動いてかわしてやがる!」
「俺たちの投げる石なんざ、余裕でかわせるって言いたいのかよ……!?」
「くそおっ、ナメやがってぇ!」
『ミュータント』のスキル『イーグル』には動体視力を向上させる効果がある……!
だから今のボクにとっては弾丸ですら、海をゆったりと漂う魚……!
飛んでくる石なんて、ふわふわ浮かぶシャボン玉同然なんだ……!
いくら罵られても、いくら妨害を受けても、差は着実に縮まっていく。
しかし、雷猿の背中まであと50メートルと迫ったところで……突如異変が起こった。
『ああああーーーっとぉ! アンノウンの幸運に触発されたのか、ついに出ましたぁーっ! アンノウンを上回る、雷猿の「女神の豪運」がぁーっ!!』
そしてボクは、我が目を疑う。
奇跡を目にしたという意味ではなくて、そこまでやるか……! という意味で。
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