114 罠解除リレー
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『「森羅三猿チャレンジ」の第一種目、「罠解除リレー」が間もなく始まろうとしています! 各チーム、最初の走者がスタートラインに並び、今か今かと合図を待ち構えています!』
競技場の空からいきなり、反響するソプラノ声が降ってきた。
とんでもなく響き、とんでもなくよく通る声。
ボクはびっくりして、どこからしてるんだろうと大空を見回した。
「ハハッ、驚いたかアンノウン。あそこを見てみろ」
マニーが指さす方向を見上げると、そこはボクらがさっきまで立っていたステージだった。
今は女の人が立っていて、木でできた巨大な造花に囲まれている。
「あれは『神の泱声』と呼ばれる声を大きくする装置だ。管を通して伝った声が、原理はよくわからないが大きく加工され、花から出るという仕組みになっている。数年前に献上品が認められ、神から授かったものなんだそうだ。この街にひとつしか存在せず、大きなイベントのときなどに貸し出されるんだ」
「そんなモノ、あったんだ……!」
ボクは声が大きくなる装置の存在に驚いたというよりも、そんなモノがこの世界にあったことに驚いていた。
声を大きくする装置なら、他の世界にもいっぱいある。
メガホンとか、スピーカーとか……。
木と石ばかりのこの世界に、そんな便利なモノがあっただなんて……。
でも、神様からの授かりモノなのかぁ……。
それに、声を大きくする装置なのに女の人は大声を張り上げていて苦しそうだ。
「声を大きくする装置があるなら、ボリュームをあげればいいのに……」
「ボリューム? なにを言っているんだ? 『神の泱声』とはいえ、これほどの規模の観客たち全員に伝えるとなると、大声を出すしかなかろう。ちなみにだが、『神の泱声』は、ひとつのイベントの使用で、ひとりの女性しか使うことを許されていない。限りある声を持たせるために、必要最低限の所でしか使わないんだ。開会式のときに使われなかったのはそのためだな」
「そうなんだ……」
神様がくれたモノのわりに、意外と不便なんだな……とボクは思う。
気がつくと、第一走者たちはすでにスタートを切り、我先にと駆け出しているところだった。
『さあっ! 第一走者がいっせいにスタートしました! 今回は4チーム! 2位の栄冠を勝ち取るのはどのチームになるんでしょうか!?』
そのアナウンスに、なんとなく引っかかる。
2位の栄冠って……。
もう1位は『雷猿』だと言わんばかりじゃないか。
そんなにも彼らは凄いんだろうか。
ボクは小さくなっていく背中を、『イーグル』のスキルでズームして追いかけてみた。
『速い! 速い速いっ! 他のチームも奮闘していますが、雷猿が頭ひとつ抜けています! 走る速度もさることながら、罠の解除の速度が素晴らしい! 最初の宝箱の罠を、3分かからずに外してしまいました! 他のチームがまだ手間取っているのに比べると、とんでもないスピードであることがわかります!』
ボクは罠を解除したことがないから、それがどれほど凄いのかわからなかったけど……3分で『とんでもないスピード』なのか。
それならいきなり開けちゃって、罠を受けたほうが速いんじゃ……なんて思っていると、
『ああっ!? みっつめの宝箱に挑戦するエクスプローラーズの第一走者が、いきなりフタに手をかけましたっ! 雷猿に追いつくために、どうやら罠を解除せずに開ける作戦に出たようです!』
件のオジサンは、宝箱の前にしゃがみこみ、覚悟を決めたように頷いたあと、えいやっとフタを持ち上げた。
直後、その身体がくの字に曲がりながら吹っ飛んでいく。
『あああーっ!? 石が飛び出す罠だったようです! 腹部に重い一撃が加わり、エクスプローラーズの第一走者、ダウンっ! その間に他のチームが追い抜いていきます! せっかく2位だったのに、最下位となってしまいましたぁーっ!』
「投石の罠……!? ということは、あの宝箱は『太陽の塔』から持ってきたものなのか……!? 盛り上げるためとはいえ、なんというムチャなことを……!」
マニーは手をひさしのようにして遠くを見つめながら、怒りを隠しきれない様子で言った。
……そうだったんだ……。
イザとなったら全部引っかかっちゃえばいいやと思ったんだけど、それはできないみたいだ。
我がチームのサルはというと、さっきまでは最下位だったんだけど、エクスプローラーズがダウンしたおかげで3位になっていた。
走る速度も罠を解除する速度も、大人たちに比べると遅いけど、本人は一生懸命。
そしてどことなく楽しそうに見えた。
たぶん憧れの大舞台で、憧れのスターたちと同じ空間にいるのが嬉しくてたまらないんだろう。
「おぉい、チンタラやってんじゃねぇぞ、ガキ!」
「そーだそーだ! どーせ雷猿には勝てねぇし、お前らのチームには誰も賭けてねぇんだから、せいぜい楽しませろや!」
「エクスプローラーズみたいに、罠を解除せずに宝箱を開けちまえよ! それも全
部な! そしたら英雄になれるぜ!
「そうそう! 道化という名の英雄にな! ギャハハハハハハハハ!」
サルに向かって飛ぶ容赦ないヤジ。
最初は気にしていない様子だったんだけど、あまりのしつこさに心を乱されてしまったのか、宝箱のフタがいきなり閉じる罠に引っかかってしまった。
手首を固く閉じる貝殻のように挟まれ、なんとか引き抜こうと悶絶するサル。
「あっはっはっはっはっ! あんな単純な罠に引っかかりやがった!」
「俺たちの期待に応えてくれたんだなっ! いいぞーっ! クソガキーっ!」
「あーあ、ああなったら、しばらくは取れねぇんだ!」
「ハハハ! いくらやっても無駄無駄! 俺の仲間があの罠にひっかかった時、数人がかかりで外そうとしたけどダメだったんだ! あんなガキがひとりで外せるわけがねぇ!」
「せっかくラッキーで3位になったのに、残念でちゅねぇ! ギャハハハハハハハ!」
半泣きになりながらもがくサルを、嘲笑が包む。
……人が一生懸命やってるのに、笑うなんて……!
……ボクは爆発しそうな怒りをぐっ、とこらえながら、拳を握りしめた。
直後、雷が鳴っても決して離さなそうなほどに頑なだった宝箱の口が、パカンと開く。
手を引き抜こうとしていたサルは、勢いあまって尻もちをついていた。
一瞬だけキツネにつままれたような表情をしていたものの、すぐに我に返って立ち上がり、競技に復帰する。
「なんだよなんだよ!? あの罠って、あんなにあっさり外れるのかよ!?」
「いや、そんなワケはねぇ! 一度引っかかったらしばらくは離してくれねぇのに!」
「チッ! それじゃ、運が良かったってわけか!」
「つまんねぇの! 戻ってもう一回引っかかりやがれ!」
サルに訪れた幸運に、観客たちのブーイングが止まらない。
ボクは心の中で舌を出していた。
……サルがマジメにやってるから、手出しをするつもりはなかったんだけど……つい、やっちゃった……!
そう。ボクが『テレキネシス』のスキルで、宝箱のフタを開けたんだ。
大人たちが数人がかりでも外せないものらしいけど、レベル4ある『テレキネシス』なら簡単……!
そのあとサルは落ち着きを取り戻したのか、失敗することなく罠を外していき、3位でマニーにタスキを手渡した。