113 森羅三猿チャレンジ
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いつもより盛り上がったらしい開会式を終えたあと、ボクらはステージから降りた。
ここから先は不正防止のためか、さっきまでいた大部屋じゃなくて、それぞれのチームに分かれた小さな控室に通される。
そこでボクたちは、『森羅三猿チャレンジ』のルール説明を受けた。
盗賊にとって必要不可欠な要素で構成された、7つの種目で競いあう。
各種目の順位によって得点が与えられ、最後の種目を終えた時点の合計点で勝者が決まる。
優勝したチームには盗賊にとって最高の称号である、『森羅三猿』の称号とともに盾が贈られるそうだ。
といってもこのチャレンジが始まって以来、ずっと『雷猿』が優勝を続けており、彼ら以外に盾を手にした者はいないという。
これはサルから聞いた話なんだけど、雷猿たちはその身体能力の高さもさることながら、とても運がいいらしい。
各種目の間には、ボーナスが得られる運試しがあるそうなんだけど、それで毎回奇跡を起こしており、『女神に愛された猿』の二つ名があるほど。
『運試し』と聞いてボクはちょっと引っかかってしまった。
なぜならば、ボクはなにをやってもダメなヤツだったけど、運にもどこまでも見放されてきたからだ。
ふたつのクジですら毎回ハズレを引く始末。
何度やってもボクが選ぶほうはハズレだから、選んだのとは逆のを選んでみたけどハズレる始末。
そういうアタリとハズレを選ぶようなものだったら、サイキックの『クロスレイ』で透視しちゃえばいいんだけど……それはもう運とは呼べない。
そうだ、運で思い出した。
ボクは開会式の時からずっと気になっていた、このカジノでの賭け方についてサルに尋ねた。
この『森羅三猿チャレンジ』では、指定したチームの順位を予想する単勝と、全体の順位を予想する複勝のふたつがある。
単勝の場合は1位から4位、どのチームが何位になるかを予想し、賭けることができる。
雷猿については、1位予想を当てたときの倍率が1.0に設定されている。
等倍の場合は、いくら賭けても当たったら10¥の戻りしかないらしい。
なので儲けるために雷猿の単勝に賭ける人はおらず、熱烈なファンが応援のために賭けるのがほとんどだそうだ。
ちなみにボクらの『アンノウン』チームのオッズは、
1位 200,000倍
2位 200倍
3位 2倍
4位 1倍
となっている。
サルによると、2位はかなりの高倍率、1位は異例中の異例の超高倍率だそうだ。
……ボクはふと思った。
これなら他のチームの人たちがボクらに賭けて、わざと負ければ大儲けできるんじゃ……? と。
しかしそれはサルから否定された。
ボクらに負けたらギルドの面目が丸つぶれだから、たとえ持ちかけられたとしてもウンとは言わないだろう、だって。
ちなみに、オッズのほうは参加選手のステータスを見て決めているらしい。
ということは……ボクらのチームと比較して、他のチームのステータスはかなり高いことになる。
ボクのステータスは読めなかったろうけど、たぶんボクの外見からかなり低いと判断されたんだろう。
賭けができるタイミングは、以下のふたつ。
1:開催前の総合順位予想
2:各種目の順位予想
1のほうは最初の種目が始まる前まで賭ける事が可能なんだけど、競技が始まった時点で締め切り。
オッズも最初に公開されたものから変わらない。
2のほうは、その種目が始まる直前まで賭けることができる。
賭けることができるのは次の種目に対しての予想のみで、それより先の競技に賭けることはできない。
またオッズは変動式で、それまでの競技の状況によって変わるらしい。
ボクは自分のチームに賭けようと思っていたので、控室を出てロビーの受付カウンターに行こうとしたんだけど、スタッフに止められてしまった。
開会式が終わったら、不正防止のため自由に外に出ることはできないらしい。
しょうがないのでスタッフにお願いする。自分に賭けられないかと拝み倒した。
またオーナーがやってくる程の騒ぎになったんだけど、オーナーは以下を条件に特別に許可してくれた。
『賭けるのは、自分のチームの総合順位のみで、また単勝1位予想のみ。掛け金は1千万¥以上でないと認めない』
完全なる一択だ。
たぶんボクが競技中に不正をすると思っているんだろう。
1位であれば買収による不正はできない。
なぜならば1位チーム最有力の雷猿のメンバーは、ボクの目の前にいるオーナーだからだ。
そしてオーナーにはさらなるメリットがある。
元々ボクは『1番になれなかったら1千万¥あげる』という約束でエントリーさせてもらったんだ。
ここでボクのお金を賭けさせておけば、持ち逃げされる心配もない。
……なんにしても、こっちの利害とも一致する。
ボクは喜んで、手持ちのお金をぜんぶ『アンノウンチーム 総合順位1位』のチケットに変えた。
とんでもない1点張りだったけど、マニーは何も言わなかった。
ボクがこういうムチャをするのは、もう見慣れているからだろう。
でもサルは木から落ちたみたいにビックリしていた。
「あ、アンノウン……!? このメンツで1千万も賭けるだなんて……正気ッスか!? 1千万といえば、『鉄の蹄』の報酬額と同じッスよ!?」
「うん。だから頑張ろうね、サル。勝ったら分けてあげるから」
「む……ムリムリ、無理ッスよ! 1位どころか、3位だって無理ッス! 相手はアッシらみたいな駆け出しと違って、プロ中のプロ……! ギルドのエースクラスなんッスよ!? アッシが心の師として仰ぐ雷猿さんたちに至っては、俊敏も器用さもアッシの倍……30もあるんッスからね!」
なんだ、ならボクの半分じゃないか……と言おうとしたけど、どうせ信じてもらえないと思って言わずにおいた。
それまでマニーはボクとサルのやりとりを黙って見てたんだけど、近づいてきてボクの頭をポンポン叩いた。
「……サル、アンノウンはこういうヤツなんだ。俺も何度も愚かだとは思ったが、その度に考えを改めさせられた。いまではアンノウンがそう言うなら、とまで思うようになった。だから騙されたと思って協力してやってくれないか」
「わ……わかったッス。もともとアッシは記念になればと思って参加したッスけど、胸を借りるつもりで一生懸命やるつもりだったッスから」
なんとなく話がまとまったところで、スタッフが呼びに来た。
「最初の種目が始まります! ルールはスタート地点で説明しますから、移動をお願いします!」
ボクらは開会式の時とは別の廊下を案内されて、競技場へと向かう。
今度は階段は登らず廊下のみで、出た先は競技場内にある街の入口だった。
さっきまで見おろしていた観客席が、今度はボクらを見おろしている。
スタート地点にはすでに他のチームが揃っていて、ボクらが着いた時点でルール説明となった。
最初の種目は『罠解除リレー』。
この街の入り口からスタートし、街の外周をぐるっと1周して次の走者にタスキを渡す。
ようは3周のリレーをしていちばん早くゴールしたチームの勝ちなんだけど、走るだけじゃない。
コースの途中にある宝箱の罠を、解除しつつ進まないといけないんだ。
宝箱を開けた時点で解除とみなされ、たとえ罠が解除されていたとしても宝箱を開けずに進んでしまうと失格となる。
だからこの競技は脚の速さだけでなく、宝箱の罠を解除する速さも重要になるんだ。
なお、宝箱には罠が仕掛けられているが、施錠はされていない。
だから罠に掛かってもいいなら、解除せずに開けてしまってもいいそうだ。
ただ罠のなかにはダメージを受けるものや、後々にも影響を残すようなものがある。
さらには引っかかると笑いものになってしまうようなのもあるらしい。
ボクは罠の解除なんてやったことがなかったので、戦々恐々としたけど……同じく経験がないはずのマニーは「脅してるだけだろ」と平気な顔をしていた。
ルールの説明のあと、ボクらは走る順番を決めた。
1番手はサル、2番手にマニー、3番手にボク、というふうになった。
そしていよいよ、『ラッキー・ツー』での戦いが、幕を開ける。
今度は3人でいっしょに戦えるから、ボクは心強い思いでいっぱいだった。