110 ラッキー・ツー
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引きこもれば引きこもるほど、チヤホヤされる…チートゴーレムのお話!
この街でも有数の規模を誇る娯楽施設、『ラッキー・ツー』。
大人たちにならって巨大な門をくぐると、広々としたホールが迎えてくれた。
同じカジノでも『ラッキー・ワン』とはだいぶ違う。
天井がとんでもなく高くて、人が大勢いて、異様な熱気に包まれている。
客層も同じ系列店とは思えないほど異なる。
『ラッキー・ワン』は貴族っぽい人が多かったんだけど、こっちはなんだかお金も気品もなさそうというか……ゴロツキっぽい人ばかりだ。
ほとんどの人がペンを手にしていて、小さい字がゴチャゴチャ書かれた羊皮紙を真剣な表情で睨みつけている。
紙とにらめっこをしていない人たちは、ところどころにいる木の踏み台に立っている人をこれまた真剣な表情で見上げ、叫ぶ声に耳を傾けていた。
「さあっ! 今日はスペシャルイベントだ! 勝つためのマル秘情報を教えてほしいか! さぁ、寄った寄った!」
「なんと今日のスペシャルイベントではチャンピオンが参戦するぞ! チャンピオンの活躍をいちばんいい席で見たくはないか!? 貴賓席のチケットあるよ!」
「今日のスペシャルイベント、参加チームは3チーム! もちろん1位はチャンピオンチームだろうが、単勝だとオッズは少ねぇ! そこで重要なのが2位予想! しかし今回はどいつもこいつも盾を狙ってる! その場合はいつも荒れるのがお決まりだ! だが俺ならピタリと2位を当ててみせるぜ! どうだ、聞きたいか!?」
ホール内を支配する独特な雰囲気に、ボクは入って早々圧倒されてしまった。
なんだか、朝の市場に迷い込んだみたいだ。
素人お断りというか、知らないと何がなんだかさっぱりわからない。
『ラッキー・ワン』の時は、いきなりチャンピオンを見つけられたんだけど……こう人が多いと、どこにいるのやら……。
あたりをキョロキョロ見回していると、受付カウンターのようなものが目に入った。
これだけ人が大勢いるのに、カウンターには誰も並んでいない。
ちょうどいいやと思い、人混みをかきわけ向かってみた。
「あの、このカジノの盾がほしいんだけど」
カウンターごしのお姉さんにそう尋ねると、
「はい、盾ですね。8000¥になります」
お姉さんはカウンターの下から、盾を取り出した。
それはデザイン的には『ラッキー・ワン』で手に入れた盾と同じだ。
紋章のような細工が施されていて、色は緑色。
でも……だいぶ小さくて、手のひらサイズだ。
それに、8000¥って……。
すると、背後から高らかな笑い声とともにマニーがやってきて、ボクの頭をポンポン叩きながら受付のお姉さんに言った。
「レディ、彼が欲しがっているのは土産用のレプリカじゃなくて、このカジノのチャンピオンが持っている本物の盾のほうなんだ」
お土産用の盾なんてあるんだ……。
どうりであっさり出てきたうえに、安いと思った。
いや、安いといっても、お土産としてはタダでもいらないけど……。
マニーが補足してくれたおかげで、お姉さんはボクの意図を理解してくれたようだ。
でも、愛想笑いが急に消えた。
「は、はぁ……。ということは、今回のスペシャルイベントの参加希望者ということですね? ですが、もう参加受付は締め切られているのですが……」
「ええっ、そうなの? 追加でもうひと組、頼めないかな?」
「そうおっしゃられましても……」
「そこをなんとか……! お願い! ねっ!?」
お姉さんは困っているようだったけど、ボクは食い下がった。
すると、またしても背後から高らかな笑い声がした。
それはマニーではなく、初めて聞く声。
振り向くと、覆面タキシードの男が立っていた。
「フハハハハハ! どうしたんだい坊や、なにかお困りのようだね!」
「お……オーナー!?」
お姉さんの驚く声で、この覆面男がカジノのオーナーなんだと知った。
タキシードに覆面なんて、すごく合わない組み合わせだ。
まるでハダカにマフラーだけ巻いているみたい。
でも、なんでそんな不自然な格好をしてるんだろう……?
ボクは反射的に『クロスレイ』で透視していた。
マスクの下にあったのは、彫りの深い骨ばった顔だった。
頬がこけるほどに痩せていて、目が窪んでいてガイコツのよう。
しかし、タキシードごしの身体は引き締まっていて筋骨隆々。
人間の最低限の脂肪すら削ぎ落としたみたいな身体だ。
歳のほうもかなり若そうだ。
もちろんボクよりは年上だけど、『ラッキー・ワン』のオーナーに比べたら、お父さんと息子くらい離れている。
まぁ、そんなことはいいとして……ボクはオーナーに参加交渉をした。
もう参加チームのオッズは決まっているので、いまから別のチームを追加するのは難しい……とのことだったんだけど、もしボクが一番になれなかったら一千万¥あげる、とルルンから借りたお金を出したら急変した。
オーナーはスタッフに指示を出し、ボクが参加できるようにしてくれたんだ。
しかし、すぐにもうひとつの問題が明らかになる。
今回は『森羅三猿チャレンジ』というスペシャルイベントで、三人ひと組のチームじゃないとエントリーできないらしい。
『森羅三猿チャレンジ』がなんなのか、そもそも何をやって競うのかもわからなかったけど、ボクは仲間を集める必要に迫られてしまった。
まずはマニーを拝み倒したんだけど、にべもない。
「なぜ俺が参加せねばならん!? 人前で競技をするなど、ピエロも同然ではないか! 俺は断固としてお断りだ!」
固く腕組みをして、フンとそっぽを向くマニー。
その意思は鉄のように硬く、なにを言っても「やらん!」の一点ばりだった。
こうなると、マニーはテコでも動かないんだ……と困っていると、ウサギがスケッチブックをボクに向けてくる。
そこに描かれていた料理を、ボクは交渉材料に使った。
今晩、とびっきり美味しいスペシャルクレープをごちそうするから、いっしょに参加してほしいと……!
するとマニーは腕組みを解き、その手でボクの襟首を掴んでゆさぶってきた。
「おいっ、何を言っている!? 今晩クレープを作るのは、ラッキー・ワンにいる時に約束したではないか! 男同士の約束を破るつもりかっ!?」
いや、男同士じゃないけど……と思ったけど、今はそんなことはどうでもいい。
あれほど硬かったガードが崩れたので、ボクはイケると確信した。
「もちろん作ってあげるよ『普通のクレープ』をね。あーあ、ボクといっしょに参加してくれたら、感謝の気持ちをこめて……それよりずっとずっとずーっと美味しい『スペシャルクレープ』を作ってあげようと思ったのに」
「くうっ……! 卑怯だぞ、アンノウンっ……!」
マニーはとうとう折れ、ボクと一緒に参加してくれることになった。
あんなに嫌がっていたのに……彼女のクレープ好きはかなりのもののようだ。
さて、あとひとり……残るはウサギなんだけど、彼女は地震を察したナマズのようにどこかに消えたあとだった。
きっと、次は自分が口説き落とされるとわかっていたんだろう。
しょうがない、こうなったら、そのへんにいる人でもスカウトして……と思っていたら、意外な人物から声をかけられた。
「へへ、お困りのようッスね」
「……サル……!?」
クラスメイト……いや、今や『ゴンギルド』のメンバーのサルだった。
サルはかつてボクがいたクラスで、一番すばしっこい男の子。
男子のなかでは背が低いほうだったんだけど、それをコンプレックスともせず、もっと小さくなりたいかのようにいつも猫背。
身体のわりに手が長くて、本当にサルみたいなんだ。
神出鬼没で立ち聞きが得意。
糸のようなキツネ目に隠した小さな瞳を、行ったり来たりさせていつも人の噂を探してる。
ボクは彼の興味をそそるようなことはなかったけど、しょっちゅう持ち物を奪われ、高い木の上とかに隠されてたんだよね。
「もしよかったら、アッシがチームに入ってもいいッスよ?」
「ホントに!?」
ボクは一も二もなく歓迎した。
これからなにをするのかわからないけど、彼の素早さは大きな武器になると思ったからだ。
しかしマニーは猛反対。
「正気かアンノウン!? キミはさんざんひどい目に遭わされてきたじゃないか!?」
たしかにそうだったけど、ボクはそれを理由に断る気にはならなかった。
たぶん……クラスメイトと一緒になにかができるのが、嬉しかったんだと思う。
しかしマニーは納得しなかった。
今度はサルの襟首に襲いかかったんだ。
「おいっ、サルっ! 今まであれほど嫌悪してきたアンノウンに擦り寄るだなんて……! 貴様、なにか企んでいるだろう!?」
「く、苦しい、苦しいッスよ、マニー! 鉄の蹄の、鉄の蹄のお返しをしたかったんッス!」
サルによると、ゴンギルドは明日食べるものも困るくらい貧乏していたらしい。
冒険者ギルドの嫌がらせも受け、メンバーは経済的、肉体的、精神的にも限界だったそうだ。
しかし……ボクからブルーゲイルの鉄の蹄をもらい、納品したおかげで多額の報酬が手に入った。
そのお金で食事もとれるようになり、ボロボロだった装備も買い換えられた。
ゴンギルドには設立当初のような活気が戻ってきて、ゴンが怒るから誰もが口には出さないけど、みんなボクに感謝しているらしい。
サルとしてはいつかお返しをしようと思っていたらしいんだけど、さきほど偶然、『ゴンギルド』の本拠地のある公園から、『ラッキー・ツー』に入っていくボクらを見かけ、それで後を追ったそうなんだ。
そして、今に至る。
……結局、ボクはマニーの反対を押し切って、サルを仲間に加えることに決めた。