11 最強必殺技、放ちます!
ボクはグレムリンロワーの群れに突っ込んでいく。
まずは手近なヤツを狙おうとしたんだけど、あとずさって距離をとられてしまった。
「シャアアアアーーーッ!」
そして号令一下、取り囲まれてしまう。
「ああーっ! 囲まれたぁーっ!!」
観客の、悲鳴とも歓声ともつかぬ声が、ボクの鼓膜を揺らす。
「ああっ、もう終わりだ! 逃げ場を完全に塞がれちまった!」
「あいつバカだ! 複数のモンスターを相手にするときは、なるべく囲まれないようにするのが基本なのに!」
「わざわざ突っ込んでって、自分から囲まれにいきやがったよ!」
「ああ……これじゃ、一瞬で終わっちまうぞ!」
「なんだよぉ! それじゃぜんぜん面白くねぇじゃねぇーか!」
「わんわん大泣きしながら、『助けてぇ~!』って命乞いするところが見たかったのに!」
「死ぬときまで空気読めないなんて、マジサイテー」
「でもアイツらしい、ゴミみたいな死に方じゃね?」
さんざんな言われようだ。
最初に戦ったグレムリンロワーは突っ込んできたので、今度のも突っ込んでくるかと思ったのに……囲まれたのは予想外だった。
予想は外れたけど……でも……ボクにとっては逆に好都合……!
ウサギがターゲットにされるよりは、ぜんぜんいい……!
「グルワッシャアアーーーーーーーーーーッ!」
号令一下、八方向から一斉に飛びかかってくるグレムリンロワー。
かなり統率のとれた動き……!
でもでも……それもボクにとっては好都合なんだっ……!
ボクはチャンスとばかりに腰を沈め、練気の構えをとる。
間を置かず、即座に高く飛び上がった。
そして空中で……脚にためた気を、気合ととともに一気に放出するっ……!
「 烈 蹴 斬 ッッッ……!!」
……シュパァァァァァァーーーーーーーーンッ!!
空を斬り裂く音とともに、回し蹴りが炸裂。
真円の形をした衝撃波が、高速回転しながら丸ノコのように広がった。
グレムリンロワーたちの首筋に、蹴りの軌跡が一閃すると、
ズババババババババッ……!!
半魚人のような頭部が、シャンパンの栓のように次々と吹っ飛んでいく。
バシュゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーーーンッ!!
続けざまに、8匹分の黒い霧が部屋中に蔓延した。
身体じゅうのエネルギーを脚に集め、蹴りに乗せて鋭い刃のようにして放つ……!
それが『第95世界』の必殺技のひとつ、『烈蹴斬』……!
大勢の敵に囲まれたときに有効なんだけど、まさか8匹ぜんぶ一網打尽にできるとは……!
ボクが蹴り足を戻すと、浮いていた身体が地面に向かって落下をはじめる。
するとタイミングをはかっていたかのように、憤怒が足元からわきあがってきた。
「ブモォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」
視線を落とすと、それまで土蹴りをしていたレイジングブルが、ここぞとばかりに突っ込んでくるのが見えた。
ドドドドドドドドドドドドッ……!!
蹄を獰猛に踏みしめる音が、地鳴りのように部屋を揺らす。
そうか……!
ヤツはボクが無防備になる、着地の瞬間を狙って突っ込んでこようとしてるんだ……!
「いやあぁあぁあぁあ~」
反対側から盾をかまえたウサギが、迎え撃つようにとたとたと走ってくるのが見えた。
きっとボクの着地を守ろうとしてくれてるんだろう。
だけど……全然間に合いそうにない……!
それに彼女のちいさな身体では、レイジングブルの体当たりはとても受け止められそうもない……!
最悪……ボクは角で串刺し、ウサギはダンプトラックに轢かれるみたいに跳ね飛ばされる……!
このままじゃ……ふたりともやられちゃうよ……!
よしっ……こうなったら、アレだ……!
アレをやるしかないっ……!
ボクは覚悟を決め、右の拳をぐっと握りしめる。
レイジングブルとウサギの間に、割って入るようにボクは着地した。
着地の勢いで腰が沈むのを利用して、練気の構えをとる。
「ブモォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」
汽笛のような怒声とともに、蒸気機関車さながらのプレッシャーが目前に迫る。
ボクはさらに姿勢を低くして、角の下に潜り込んだ。
頭のてっぺんをかすめていく、パイルバンカーのような切っ先。
い……今だっ……!
ボクは、ためにためていた右拳で、天を突く……!
そのまま全身を、カエル飛びのように、一気に伸び上がらせた……!
「 龍 ッッッ……!!」
……ドガアァァァァァァッッッ!!
突き上げた拳が、レイジングブルのアゴにクリーンヒットする。
裂帛の気合いとともに、拳を力いっぱい押し上げた。
「 昇 ッッッ……!!」
……グググググググググッッッ!!
目を血走らせていたレイジングブルの牛顔が、万力で潰されるように醜く歪んでいく。
目玉は飛び出さんばかりに押し出され、歯は粉々に砕け散っていく。
ボクは最後の気合とともに、一気に拳を振り抜いた。
「 撃 ィィィィィィッ……!!!」
スドォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!
ボクは拳を掲げたまま、天高く舞い上がる。
首の骨が外れたかのように、大きくのけぞっていたレイジングブルも……きりもみしながらキリキリと宙を舞っていた。
これが、『龍昇撃』……!
拳にためた気を、天に昇る龍のように放出する技……!
発動直後が最も威力が高く、その瞬間にヒットさせることができれば、どんな相手だって一方的に打ち負かすほどのストッピングパワーを発揮する。
『第95世界』のなかでも、絶大な威力をほこる必殺技のひとつなんだ……!
極限状態からの大逆転に、ボクの脳からはアドレナリンが出まくっていたのか……世界がまるで、スローモーションのようにゆっくりと動いていた。
みんなは、UFOでも目撃しているかのように、ポカンと口を開けたまま……ボクを見上げていた。
ウサギは花火でも見るかのように「わぁ……!」と嬉しそうに口を開けていた。
『龍昇撃』が頂点に達した瞬間、いつも通りの時間が戻ってくる。
……ズダァァァァァァァァンッ!!
きりもみしていたレイジングブルは、何度もバウンドしながら床に叩きつけられていた。
少し遅れて、ボクがスタッと着地するなり、
バシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーッ!!
炭素ガスような黒い突風となり、消え去っていった。
その後は、戦闘中の喧騒がウソのように静まり返り……あたりは沈黙に包まれる。
ボクが「ふぅ」とひと息ついた以外には、何の音もしない。
沈黙を打ち破ったのは、なんとも緊張感のないクラスメイトの一言だった。
「……え、えーっと……なんだったんだ?」
「なんか、よくわかんねぇうちに……グレムリンロワーがやられて……」
「なんか、よくわかんねぇうちに……レイジングブルがやられた……」
「いや、そんなわけねぇだろ……なんでよくわかんねぇうちに、あんなバカ強いモンスターがやられるんだよ……」
「見間違えじゃなけりゃ、あの、アンノウンがやったんだよな……?」
「いや、見間違いだろ……あの勉強もスポーツも、何もかもドベのアンノウンが、バカでへなちょこのアンノウンが……」
「そのうえ空気も読めないアンノウンが……」
「俺たち全員がかかっても敵わないようなモンスターを、たったひとりでやっつけちまうなんて……」
「それも、二撃なんて……マジ、ありえない……」
クラスメイトは、誰一人として腑に落ちていないようだ。
やがて、
「……おいっ!! てめぇら、ボンヤリしてんじゃねぇ!! 次の部屋に行くぞ!!」
レツの一喝を受けて、ぞろぞろと連れ立って部屋を出ていく。
去り際にレツは、ボクを恐ろしい形相で睨んでいった。
■□■□パラメーター□■□■(現在の階数:2階)
□■□■スキルツリー■□■□
今回は割り振ったポイントはありません。
未使用ポイントはありません。
括弧内の数値は、すでに割り振っているポイントです。
●潜在能力
必殺技
(1) LV1 … 波動弾
(1) LV2 … 烈蹴斬
(1) LV3 … 龍昇撃
選択:打撃必殺技
(0) LV1 … xカウンター
(0) LV2 … 爆裂拳
(0) LV3 … 点穴
選択:投げ必殺技
(0) LV1 … 当て身投げ
(0) LV2 … イズナ落とし
(0) LV3 … 真空投げ
●料理
見習い
(1) LV1 … 下ごしらえ
(1) LV2 … 焼く・炒める
(1) LV3 … 茹でる・煮る
コック
(0) LV1 … 盛り付け
(0) LV2 … 揚げる・漬ける
(0) LV3 … 燻す・焙煎
●錬金術
風錬
(1) LV1 … 抽出
(0) LV2 … 風薬
(0) LV3 … 旋風
火錬
(1) LV1 … 変形
(0) LV2 … 火薬
(0) LV3 … 噴火
地錬
(0) LV1 … 隆起
(0) LV2 … 地薬
(0) LV3 … 地震
水錬
(0) LV1 … 陥没
(0) LV2 … 水薬
(0) LV3 … 奔流
●サイキック
ニュートラル
(1) LV1 … テレキネシス
(0) LV2 … クロスレイ
(0) LV3 … テレパシー
●彩魔法
灰
(0) LV1 … フリントストーン
(0) LV2 … プラシーボ
(0) LV3 … ウイッシュ