108 次なる標的
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ボクとゴールドのケルパー勝負は、誰もが予想しない決着の幕切れとなった。
目の前にシャンデリアが落ちてくるという大事故があったというのに、誰も悲鳴ひとつあげない。
いや……みんなヒザがガクガク震えてたから、あまりのことに声も出なかったんだろう。
不意に、早すぎた埋葬のように、ゴールドの手が伸びてきた。
ここでようやく周囲から「ひいっ!?」と悲鳴があがる。
ボクの足首を掴もうとしていた袖から、バラバラと駒がこぼれ落ちる。
力尽き、落とした駒の上にパタンと手が重なった。
「お、おい、見ろよ……! 駒が、ゴールドの袖から出てきたぞ……!?」
「なんで、袖から駒が出てくるんだよ……!?」
「そ、そういえば……! ゴールドは対局の時、ブラインドの駒を当てさせないことでも有名だった……!」
「も、もしかして……ゴールドはイカサマを……すり替えをやってたってのか……!?」
衝撃の光景に、観客たちの声は震えていた。
しかし誰もが目をそむけようとしない。
ひとりの観客が、何かを思い出したかのように「あーっ!」と叫んだ。
「そうだ! かなり昔の話だけど、このチャンピオン席でシャンデリアが落ちて、対戦相手が死ぬっていう事故があったはず……!」
「ああっ、俺も知ってる! チャンピオンが追い詰められた対局だったよな!」
「あと少しで詰むってときに、シャンデリアが落ちたんだ……! その時の対戦相手は、たしか……シルバー……!」
「シルバー!? シルバーはどこだっ!?」
ステージの上からカジノを見回す観客たち。
すると、カジノから抜き足差し足で出ていこうとする人影があった。
それは他ならぬ、シルバーだった……!
「ああっ!? 逃げようとしてるぞ!?」
「やっぱり……! このカジノのチャンピオンは、イカサマしてたんだ……!」
「しかもすり替えだけじゃなくて、相手にシャンデリアを落とそうとするだなんて……!」
「でも、少年はなんで助かったんだ?」
「そりゃ『女神の祝福』を受けたんだ! 女神様が守ってくれたんだろうさ!」
「そうか……! 悪はやっぱり滅びる運命にあるんだな……!」
「でも、少年がいなけりゃ、俺たちはこのカジノに踊らされ続けるところだった……!」
「ゴールドが死んじまった今、シルバーがこのカジノのオーナーのはずだっ!」
ここでいきなり、アリマが立ち上がって叫んだ。
「『ケルパー』は健全なる競技……! それに不正を持ち込んでいたなど、許されるはずもありません……! しかも子供たちの憧れであるチャンピオンが、率先して行うだなんて……! もってのほかですっ……! しっかりと罪を償わせようではありませんか……!」
ケルパー指導員の資格を持っているアリマは、この不正がなによりも許せなかったらしい。
聖堂主である彼女の一言は、絹の御旗のようにカジノの利用客に響いた。
途端、「おおーっ!」と一致団結する男たち。
猟銃の音を聴いたウサギのように飛び上がり、逃げ出すシルバー。
その後を追う、アリマを筆頭とした暴徒たち。
ドドドドと床を乱暴に軋ませ、一斉に外へと出ていった。
そして、残されたのは……ボクと仲間たち。そしてカジノの用心棒。
ボクは何時間かぶりに椅子から立ち上がる。
そして最後の手向けとして、ゴールドを押しつぶしているシャンデリアを取り除いた。
用心棒たちはまわりで見ているだけだったので、「ちゃんと弔ってあげて」と念押ししておく。
それから、ぐったりしているキャルルとルルンを抱えあげた。
両手いっぱいだったので、ベッドテーブルにある掛け金と盾はウサギに持ってもらう。
用心棒たちはウサギが盾を持っていくのを止めようとしたけど、ボクのひと睨みですごすごと引き下がっていった。
ステージを降りて、カジノの入り口近くにある休憩スペースへと向かう。
木のベンチの上には、眠れる森の美女のような、安らかなマニーがいた。
ボクが近づくと気がついて、うっすらと瞼を開く。
「ん? あ、ああ……アンノウンか」
「……おまたせ、マニー。終わったよ」
ウサギの掲げる盾を瞳に映したマニーは、いつものキザな笑みを浮かべた。
「フッ、そうか。まさか……ケルパー勝負で世界チャンピオンに勝つとはな……どういう手を使ったかは知らんが、まったく……たいしたやつだ」
呆れと感心がまざった様子で起き上がると、絹織物のような金色の髪をかきあげる。
そしてボクの両脇にいるギャルたちに不快な視線を注いだ。
「なんだ? アンノウン……まさかまた、彼女たちにキスをしたのか?」
「う、うん……。ちょっと、理由があって……」
ボクは素直に白状する。
てっきり「俺の唇を奪っておきながら、まだ足りなかったのか!」なんて怒られるかと思ったんだけど、マニーはフフンと鼻を鳴らした。
「しょうがないヤツだな……だが、俺はいま機嫌がいいんだ。特別に見逃してやろう」
『なにかいいことがあったの?』
ウサギがすかさず聞いてくれたので助かった。
「休んでいる間に、いい夢を見た。実をいうと最近、夢見が悪かったんだ。夢ごときではあるが……どうせ叶わぬのなら、悪夢よりも良い夢のほうがいいからな」
マニーはそう言いながら、ぐったりしているキャルルを引き取ってくれる。
「……いまならこの雌犬がすることも、許せそうな気がする」
いつもケンケンしているマニーが急に穏やかになったので、ボクとウサギは顔を見合わせてしまった。
そういえば……ボクがキスした時、ボクが何を語りかけてもマニーは夢だと信じて疑わなかった……。
ってことは……目覚めてもなお、あの出来事は完全に夢だと思っているのか……。
マニーは頑固なところがあるから、たぶんボクが言葉を尽くしても信じてもらえないだろう。
でもまあ、いっか……今はそれよりも、やらなきゃいけないことがあるし……そっちを優先しよう。
ボクはルルン、マニーはキャルルを抱え、ウサギに先導されるようにしていったん『キャルルルン』へと戻った。
姉妹をベッドに寝かせ、盾を金庫の中に入れてから、再び出かける。
目的地は、『ラッキー・ツー』……!
もちろん、次の盾をもらいに行くため……!
今朝は6人パーティだったのに、今は半分まで減っちゃったけど……なんとかなるだろう。
それよりも急がなくちゃ。今日じゅうにあとひとつは盾を取っておきたいから。
夕暮れに染まる大通りを早足で進んでいると、後ろにいたマニーとウサギが追いついてきて、同時にツンツン突つかれた。
『休まなくていいの?』
「ケルパー勝負は心身ともに疲れるものだ。世界チャンピオンふたりも相手にしたとなると相当なものだろう。本当に大丈夫か?」
「うん、ボクなら平気だよ」
ボクはなるべく明るい声で言った。
実をいうと、そんなに平気でもないんだけど……のんびりもしてられないんだ。
なぜならば、『ラッキー・ワン』の盾を取った以上、他のカジノにもその情報が伝わるはず。
次にウチのカジノにもやって来るだろうと、警戒される可能性があるからだ。
敵が強くなるぶんには別にいいんだけど、インチキが強化されるのはイヤなんだよね。
まぁ、いずれはそうなるのは避けられないだろうけど、その体制が整う前に少しでも多くの盾を取っておきたいと思ったんだ。
お目当ての『ラッキー・ツー』は『ラッキー・ワン』と同じ通りにあり、大きな十字路を挟んだ先に存在する。
途中、通りかかった『ラッキー・ワン』は閉店していて、外から中が見えないように木枠が降りていた。
十字路の前にさしかかったとき、地を揺らすような音が聴こえてくる。
そしてシルバーが目の前を横切ったかと思うと、そのあとにはアリマを先頭とした集団が、土煙をあげながらボクらの前を通りすぎていったんだ。