107 剥がれた金メッキ
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★『…マジで消すよ? 俺の愧術がチートすぎて、クラスのヤツらを一方的に縛ったり消したりします!』
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女の子を緊縛して奴隷にする、嫌なヤツを消す、お金を出す…これ全て、異世界最強の、愧術…!
★『チートゴーレムに引きこもった俺は、急に美少女たちから懐かれはじめました。キスしながら一緒に風呂やベッドに入るって聞かないんです!』
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引きこもれば引きこもるほど、チヤホヤされる…チートゴーレムのお話!
カジノ『ラッキー・ワン』……その広々としたフロアの中は、異様な熱気に支配されていた。
その熱源は最深部にある、高位なる者のみが座ることを許されるチャンピオンステージ。
インキュバスの虜になったようなふたりの少女の唇が、ボクを離さない。
切なそうな呻きとともに頬に押し当てられる、どこまでも柔らかいふくらみ。
台風に変わる直前の熱帯低気圧のような、観客たちの興奮。
いくつもの熱い層に包まれたボクは、いままでにないサイケデリックな汗を流す。
そして、振るう。
王のいない、まやかしの砦を崩す、破城槌の一撃を……!
……パシィィィィンッ……!
「す、すげえ……! て、『鉄の砦』が……!」
「崩れてる……! 明らかに崩れてるぞ……!」
「こ……ここまで攻め込んだヤツは、初めてじゃないのか……!?」
「しかも、ブラインド状態でだぞ!? 『鉄の砦』どころか『暗闇の砦』……! どこになにがあるのかもわからねぇってのに……!」
「なのにぜんぜん考えずに打ち込んでいくだなんて……! しかもそれが有効打になってるだなんて……! どんだけの度胸と読み、そして腕前なんだ……!?」
「いや、運だ……! 相当な強運なんだ……!」
「そうだ……『女神の祝福』だ……! 聖堂主さまは、まだ少年に祝福しているぞ……!」
「いつも落ち着いている聖堂主さまが、あんなにしがみついて……! それほどまでに、少年の勝利を願っているのか……!」
「間違いない……! 少年は、女神様まで味方につけたんだ……! でなければあの神がかった攻めは、考えられない……!」
「ケルパーの神に愛されたゴールドと、女神に愛された少年との戦いってわけか……!」
「となると……ひょっとするとひょっとするかもしれないぞ……!?」
「でも、少年の駒のほうも消耗が激しい……! ギリギリ届くかどうか……!?」
対局も終盤戦に突入した。
両手を鎖で繋ぎあい、裸のまま斬り合うような消耗戦。
一手が確実に相手の生命を削り、ひとつ誤れば即死に繋がるギリギリの攻防……!
決着に向かって、何かがひとつひとつ尽きていき、消えていく。
それはゴールドにも、ボクにも当然訪れた。
「も、もう、らめっ……しっ、しんじゃう……しんじゃうっ……!」
「んああっ、ゆっ……ゆるひて……もう、ゆるひてぇ……!」
キャルルとルルンが同時に限界を迎えた。
白目を剥いたかと思うと、取り憑かれたような痙攣をはじめたんだ。
涙と鼻水とヨダレでぐちゃぐちゃにした、あられもない顔を隠そうともしない。
開けっ放しの口からだらんと舌を垂らし、「あひっ、あひっ」と色声が止まらない。
姉妹のMPはすでに空っぽになっていた。
自動回復が間に合わないほどに、ボクが吸い尽くしてしまったんだ。
ふたりともよく見たら全身汗びっしょりで、雨に打たれた後みたいになっている。
ブラウスは張り付いてブラが透け、太ももなんかはお漏らししたみたいにしとどに濡れている。
本当だったら彼女たちも休ませてあげたいんだけど、今はその時間すら惜しい。
こうしている間にも、ボクのMPは音をたてるように削れていってるんだ。
もう、残りわずか……!
これが尽きてしまったら、せっかく掴んでいた勝利の風船を、空に放してしまうことになる……!
ボクは心を鬼にした。
「ありがとう、キャルル、ルルンっ……! それにごめん……! あと少し、あと少しで勝つから、このまま辛抱して……!」
ボクはせめてもの思いで、透けたブラをこれ以上見られないように、腕で覆い隠した。
そして、裂帛の気合とともにトドメの一手を打ち込む。
……バシィィィィーーーンッ!!
転瞬、狂乱が消え去る。
駒を打った音だけが、静寂の中に残響する。
呼吸どころか、瞬きすらない。
心臓すら止まってしまったかのような、音ひとつない空間。
その真空を破ったのは、
「「アンノウゥンさまぁぁ……チョーしゅきぃぃ……」」
場違いな姉妹の言葉だった。
そして色を取り戻す。
「き……決まった……!」
「つ……ついにやりやがった……!」
「少年が……ケルパーをやるのが今日はじめてだっていう、あの少年が……!」
「現世界チャンピオンと、旧世界チャンピオンを相手にして……!」
「絶対不落と言われた、『鉄の砦』を崩しやがった……!」
「か、完全に敵の喉元に食らいついてる……!」
「詰んだ……! 詰んだぞ……! どれが『心』だったとしても、もう逃げ場はない……!」
「残るのは、敗残兵のなかから、王を見つけ出すことのみ……!」
「まさか……まさかまさか、まさかあの、ゴールドが敗れるだなんて……!」
「で、でも、待て……! ゴールドは、この期に及んでもなぜ、あんなに落ち着いてるんだ……!?」
「そうだ……! 負ければこのカジノの盾を取られちまうんだぞ……!? なのになんで……!?」
「もしやまだ、ゴールドには秘策があるのか……!?」
それもボクも気になっていた。
ここまで追い詰められてもなお、ゴールドは眉ひとつ動かさない。
まるで感情をどこかに置き忘れてしまったかのように、まるでケルパーのマシーンになってしまったかのように……。
まるで『この勝負、絶対に負けはない』と言わんばかりに……!
それに、気になることはまだある。
ここまで崩されてもなお、ヤツはまだ袖に隠している『心』を盤上に戻していないんだ。
もしかして、まわりのオジサンが言ったように……まだなにか『秘策』があるのか……!?
……そしてボクは、その『秘策』に気づく。
普通の人間……いや、普通じゃない人間であっても、絶対に気づかないであろうソレを。
……これから起こることを知っているのは、この場ではゴールドとボクのみ。
いや、正確には……ゴールドが知っているのはニセモノの結末。
ホンモノの結末を知っているのは、ボクだけ。
なぜならば、ボクが歪めてしまったから。
……これも、スキルのおかげ。
三人もの女の子を抜け殻同然にして、MPを維持してきたおかげだ。
……ねぇ、ゴールド。
キミが仕掛けてくる攻めを、ボクはすべて受けとめてあげるつもりだったけど……こればっかりはそうはいかない。
ボクにはまだ、盾をかけて戦わなくちゃいけない相手がたくさん残ってるから……。
せめて、せめてもっと早く仕掛けてくれれば……ボクのMPが残っているうちにやってくれれば……なんとかできたかもしれないのに……。
……ごめん、ゴールド。
そして、さようなら……。
……。
…………。
………………。
巨大な塊が、ギロチンのようにボクの鼻先をかすめていく。
木片を、そして駒を飛散させながら、目の前のものがひしゃげていく。
きっとボクがそうなっていると思ってるんだろう。ゴールドは沈みながら、最後の最後に笑顔を見せていた。
そして、すべてが爆ぜる。
…………………………ドガッシャァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!
ボクの足元には、木のシャンデリア。
下敷きになったテーブルと椅子、そしてゴールド。
……ゴールドが最後までポーカーフェイスを貫いていた理由。
それはやはり、絶対に負けないという確信……とっておきの秘策から来る自信、そのものだった。
トドメの一撃を放ったあと、ボクは『ドルフィン』のスキルで天井の異音を察知する。
そしてゴールドの秘策を知ったんだ。
それは、天井のシャンデリアを相手に落とすというもの……!
詰む直前で相手を殺してしまえば、負けにはならない……という卑劣極まるもの……!
ボクはシャンデリアが落ちてくるまでのわずかな時間、必死に考えをめぐらせた。
どうすれば誰も傷つけないですむだろうかと。
でも……残り少ないMPでは、どうしようもなかった。
シャンデリアの軌道を、『テレキネシス』で少しずらすので精一杯だった。
しかもこの密集している場所だと、ずらしたところで誰かの上に落ちてしまう……!
だから……だからボクはみんなの生命をハカリにかけた。
誰の上に落とすか……誰を殺すのかを、決めたんだ……!