106 紙の砦
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何度目かのドタバタを終えたボクは、ケルパー勝負に戻る。
ゴールドは何も言わなかった、というか何も言えなかった。
だって『ダークチョーカー』でボクが唇をつまんだままだったから。
ゴールドはなおも不思議そうに唇を動かそうとしているけど、ままならない。
でも顔を振り回したり、唇を無理やり引っ張るような派手な動きはしない。
おそらく不審がられるのを警戒してるんだろう。
まさかこんなことに悪の超能力を使うことになるとは思いもしなかったけど……これで相手が大人しくなってくれるなら良しとしよう。
ボクはしらんぷりして駒を打ち込む。
ゴールドは何事もないように打ち返してくる。
そのへんのポーカーフェイスはさすがだ。
ボクは仕掛け人だからヤツのわずかな変化を察してるけど、そうじゃなければ全く気づかなかっただろう。
でも……正直なところ、ゴールドのケルパーの腕前はそれほどでもない。
もちろんシルバーよりは強いし、たしかにこの世界では一番なんだろうけど……『将棋』スキルを持つボクの敵じゃない。
……パシィン……!
改心の一撃が刺さる。
これでゴールドの『鉄の砦』以外の駒は全部取ってしまった。
「おおお……!」と感極まったような声が、さざ波のように寄ってくる。
「つ、ついにやった……!」
「ゴールドの猛攻を凌ぎながら、砦のまわりの駒を取り尽くしちまった……!」
「これで状況は、ゴールドとほぼ対等……! どっちが先に敵陣を陥落させるかの勝負になった……!」
「いや、まだゴールドのほうが有利だ……! なんたって、『鉄の砦』は手つかずなんだからな……!」
「そうだな、ここまではゴールドの他の対局でもあった局面だ。でも、問題はここから……! あの難攻不落の砦をどう攻めるかだ……!」
「いままで多くの打ち手が挑んでいって、誰も落とせなかった砦……! さすがの少年でも、無理だろうなぁ……!」
みんなは『鉄の砦』に恐れおののいているけど、ボクは攻めあぐねていたわけじゃない。
ボクに言わせれば、もはや『紙の砦』。
全駒できるだけの道筋はもうできあがっている。
ただし……相手がこれ以上インチキしなければ、の話だ。
唯一、心配なのはそこだけ……!
だからスキルの出し惜しみはしない……!
ちなみに、ボクがいま発動しているスキルは、
透視する『クロスレイ』
嗅覚アップの『エレファント』
聴覚アップの『ドルフィン』
視覚アップの『イーグル』
次の一手を考える『千手千眼』
考える補佐として『思考』
そしてゴールドの口を塞ぐ『ダークチョーカー』
あわせて7つものスキルの同時使用……!
だからMPの減りもただごとじゃない。
まるでカウントダウンするみたいな速さだ。
でも、ボクはやめない……!
なにがなんでも、ヤツの『心』を奪い取るまでは……!
ボクが密かに闘志を再燃させていると、後頭部がさらに深く沈み込んだ。
背後にいるアリマが、より力を込めてボクを抱きしめてきたんだ。
「が、がんばって、アンノウン君……! まさかアンノウン君が、こんなにケルパーが強かっただなんて、知らなかった……! ここまで盛り返したのであれば、もしかしたら勝てるかもしれないわ……! 辛いかもしれないけれど、あきらめないで……! あきらめずにいれば、万にひとつの奇跡が起こるかもしれないわ……! ああっ、神よ……! この迷える少年に、慈悲をお与えください……!」
ボクの後頭部はアリマの大きな胸の谷間にめりこんでいて、ヘッドレストみたいになっちゃってるんだけど、頭の上にさらなる気持ちいい感触が追加された。
「お、おお……! 見ろよ、アレ……!」
「せ、聖堂主さまが、少年にキスをしてる……!?」
「ええっ!? 聖堂主さまが、唇を与えるなんて……!」
「つむじへのキスは、『女神の祝福』……! 聖堂主さまが少年に、祝福を与えているんだ……!」
「でも『女神の祝福』っていやぁ、最大級の祝福じゃないか……!」
「そうだな、与えられるのは異教徒のヤツらと戦争する時の、国王くらいだぞ……!?」
「そんなすごい祝福が、あの少年に……!?」
「なんてこった……! ギャルだけじゃねぇ……ついに聖堂主様まで……!」
どうやらボクはいま、アリマのキスをつむじに受けているようなんだけど、正直よくわからない。
でも、なんだか気持ちいい……。
そして、嬉しかった。あの憧れのお姉さんだったアリマが、ボクのために何かしてくれるだなんて……!
『女神の祝福』なんてボクにとってはどうでもいい。
『アリマの祝福』のほうがよっぽど価値があるんだ。
……よぉしっ! なんだか元気がわいてきた……!
このまま一気に、『鉄の砦』を攻めつぶしてやるっ……!
あ、でも、その前に……。
ボクは左を向いた。
するとルルンが、待ってましたとばかりにボクにキス顔を近づけてくる。
そのまま挨拶を交わすように、唇を重ねた。
ちょうどMPが切れかかっていたので、今度はルルンで補給。
『エナジードレイン』は同じ対象から続けては取れないから、こうやって姉妹と交互にキスをすればいいんだ。
「う……うわぁ……! もうひとりのギャルとも、キスを……!」
「聖堂主様から祝福のキスを受けてるってのに、その最中にギャルとキスだなんて……!」
「それも、当たり前みたいに……!」
「俺たちが対局中に飲む、ワインみたいな感覚でキスしやがって……!」
「なんかもう本当に、ハーレム王にしか見えなくなってきた……!」
ボクはルルンとついばみ合いながら、片手間に駒を動かした。
「くううっ……! なんてやつだ……! 世界チャンピオンとの対局を、ついでみたいにやりやがって……!」
「適当に打ったように見えるが、いい一手だ……! くっ、悔しい……! 悔しいが、ケチの付け所がまるでないっ……!」
「なんで盤面もロクに見ず、考えもしてねぇのにあんなスゴイ手が打てるんだ……!?」
「あれでケルパーが今日初めてだなんて、絶対ウソだよ……!」
「いや、最初の頃はたしかに素人丸出しだった。駒の扱いや打ち筋もどこか覚束なかった」
「だよな。でもだんだん、なんかプロ顔負けみたいな気迫がついてきて……」
「そのあとは達観した仙人みたいになって……肩の力が抜けたっていうか……」
「まさか、あの少年は、このたった一局だけで、初心者からゴールドに並ぶ伝説の打ち手にまで成長したっていうのか……!?」
「いや、でも互角の相手にする打ち方じゃねぇよ……! あれはどう見たって、格下への打ち方……!」
「おいおい……! 世界チャンピオンを格下扱いするだなんて、大胆不敵にも程があるだろ……!」
……なんだか誤解されてるみたいなんだけど、ボクは決して手を抜いてるわけじゃない。
キスしてるのは余裕ぶってるわけじゃなくて、これでも必死にMP回復してるんだ。
ただ、だいぶケルパーにも慣れてきて、『ゾーン』に入らなくてもなんとかなるようにはなった。
ボクはキャルルとルルンの唇を貪りながら、ほぼノーウエイトで敵陣に駒を突っ込ませる。
少々取られたところで臆さず、どんどん持ち駒を投入。
おそらく今までの挑戦者も同じように果敢に攻めていたんだろうけど、誰もが予想外のインチキな反撃を受け、途中で力尽きてしまったに違いない。
だが、ボクは違う……! 勝利までの道筋は、すでに出来上がっている……!
自分の場の駒、相手の場の駒、自分の持ち駒、相手の持ち駒……そして、相手の袖の下の駒までもを計算に入れ、すり替えがあっても対応できるように、パターンをすでに組んであるんだ……!
これはもはや、砦の攻防ではない……!
一方的な『解体』……!
わずかに空いた穴が広がり、瓦解していくのにそう時間はかからなかった。
次回、ついにケルパー勝負が決着…!